日立評論

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日立評論

1. 再生医療等製品のバリューチェーンを統合管理するプラットフォームの構築

再生医療では,患者から検体を採取し,製造,輸送を経て患者へ投与されるまでの間,複数のステークホルダーが存在し,厳格な品質管理と情報のトレーサビリティの確保が必要となる。日立は,IoTコンパスを活用し,複数のステークホルダーがモノや情報を引き継ぎながら業務実績を登録するワークフローシステムを開発した。

患者から採取された検体は,複数の工程で分岐して管理されるため,情報を管理するワークフローは合流分岐を繰り返す複雑な構成になる。これをデータの関係性を表現できるIoTコンパス上で情報を展開し,また,情報のアクセス制御を細かく設定できるようにすることで,再生医療の情報を安全・安心に管理することを可能にする。システムとしては,ワークフローを定義するデータモデルを変更すれば多様なシステムへの適用も可能になる。本システムは,製薬業界の再生医療向けデータ管理システムとして提供を予定している。

[1]IoTコンパスを活用したワークフローシステムの概要 [1]IoTコンパスを活用したワークフローシステムの概要

2. Collaboticsシミュレータによる協調型ロボットSI工程の仮想化

製造・物流など各種作業の自動化ニーズが高まる一方で,それらの作業内容は多様化しており,多種のロボットや機器を適切に連携・協調動作させて個別要求に応えるシステム統合(SI:System Integration)がますます重要になる。そこでは,提供価値の最大化とともに,設計・合意・開発・確認などの迅速化・分散リモート化・実機レス化などが求められる。

これらの観点に着目した統合シミュレーション環境「Collaboticsシミュレータ」を開発した。目的や用途に特化した複数のシミュレータを連携させ,データやパラメータ,分析結果の共有・見える化などを統合的に行えるようにすることで,物理現象,ロボットの個別動作と協調動作,経営への影響など,さまざまなレイヤでの分析や設計を俯瞰的に実施できるようにした。さらに,ボトルネック自動抽出やIoTデータ連携による最適化などを行うための,AI(Artificial Intelligence)アルゴリズムの組み入れも可能にした。

今回,本シミュレータを用い,三つの異なるロボットが協調する展示会システムの設計および連携機能の開発を完全分散環境で行った。最後の1日のみの現地実機統合作業だけで,手戻りなしに設計どおり動作するシステムを構築することができた。サイバー・フィジカル融合のコア技術として,高度な自動化システムの展開に寄与していく。

[2]Collaboticsシミュレータを用いた検討・設計・実装の例 [2]Collaboticsシミュレータを用いた検討・設計・実装の例

3. 熟練ノウハウのデジタル化による切削加工精度向上サービス

大国間の国際情勢や新型コロナウイルス感染症による生産拠点の再編により,場所や人に依存しないものづくりが求められている。これを実現するため,生産拠点の加工機や作業者に依存せず製品品質を安定させる必要がある。このため,熟練ノウハウをデジタル化し,加工機に入力する加工条件を自動で最適化するデジタルレシピ生成技術を開発した。特に主要な製造プロセスである切削加工を対象に,ウェブクラウドサービスとして「切削加工精度向上サービス」を提供している。

この技術は,加工機の「クセ」である機差を組み込んだ切削シミュレーションから工具たわみを高精度に予測し,加工誤差を補正するようにNC(Numerical Control)データを書き換える。これにより,熟練作業者がノウハウとして把握していた加工機の機差をデジタル化し,加工機や作業者に依存せず安定した高精度な切削加工を実現する。今後,塑性加工や射出成型についてもデジタルレシピ生成技術をサービス化していく。

(サービス提供開始時期:2020年4月)

本サービスは,株式会社日立ソリューションズから提供されるものである。

[3]切削加工精度向上サービスの概要 [3]切削加工精度向上サービスの概要

4. 業界最高レベルのエネルギー効率を実現した新型給油式スクリュー空気圧縮機

[4]新型給油式スクリュー空気圧縮機(22/37 kW) [4]新型給油式スクリュー空気圧縮機(22/37 kW)

日立独自の衝突給油機構を搭載した,新型給油式スクリュー空気圧縮機(22/37 kW)を量産開始した。本製品は,潤滑油同士を衝突させて微粒化し,給油による圧縮空気の冷却を促進することで圧縮動力を低減する衝突給油構造を世界で初めて※)採用した。これにより,中国の省エネルギー規制においてGB1級に対応する世界トップクラスのエネルギー効率[比入力6.4 kW/(m3/min),従来機比約6%改善]を実現した。

さらに,定格運転速度の約1.5倍化に伴い,圧縮機の行程容積縮小やモータの高速小トルク化によって製品容積を約10%削減した。これらにより,製品自体の省エネルギー化に加え,分散設置による圧縮空気インフラ全体の最適運用を促進し,設置先工場設備におけるCO2排出量削減に貢献する。

今後,Sullair社とのコアコンポーネント共通化によるグローバル市場への製品展開を予定している。

(株式会社日立産機システム)

(生産開始時期:2019年12月)

※)
2020年10月現在,株式会社日立産機システム調べ。

5. ドイツ工学アカデミーとの協業でデジタル社会における人と機械の共生に関する白書を発行

人口減少に起因する労働力の多様化,IoTやAI技術による機械の多様化により,産業界では「人」と「機械」の多様化が進展している。持続的な経済成長につなげるために,人と機械が共に進化する世界の実現が求められている。

この課題について,ドイツIndustrie 4.0の提唱者の一人であるヘニング・カガーマン教授をリーダー,日立の研究開発グループの主管研究長 野中洋一を共同リーダーとするドイツ工学アカデミーacatechのプロジェクトを立ち上げ,日独産学の有識者による議論の結果を白書『Revitalizing Human-Machine Interaction for the Advancement of Society』として2019年9月に発行した。

本白書では,人と機械が相互に高めあう仕組みを実現するために,人と機械が共有するデジタル知識基盤の必要性を提言した。そして,このデジタル知識基盤を「Multiverse Mediation」と名付け,多様な人と機械が得手不得手を互いに補って全体を最適化する柔軟な生産システムについて日独の事例を提示した。

現在,人と機械の共生社会の実現に向けて,議論の枠組みを拡大して活動を推進している。

[5]人と機械の相互作用の変遷 [5]人と機械の相互作用の変遷

6. 遠隔ロボット制御の高効率化に向けた5G活用リアルタイムエッジAIフレームワーク

昨今ではシステムが多層化する傾向にあり,IoTシステムにおいては複数のテクノロジーと統合し,他のソリューションやパートナー/ベンダーのエコシステムと共存することが要求されている。日立アメリカ社は,こうした複数の事業分野にスケーラブルに適用可能なソリューションアーキテクチャを実現するため,5G(5th Generation)を活用したリアルタイムエッジAI/ロボティクス向けフレームワークを疎結合アプローチにて構築した。

このフレームワークの検証に向け,ジョージア工科大学との緊密な協力体制の下,熟練作業員とロボット間のリアルタイムかつインタラクティブなリモートコラボレーションシステムを構築した。このシステムのコア機能であるリアルタイムエッジAIは,専用の5Gネットワーク経由で転送される大容量のセンシングデータからだけでなく,直感的なHMI(Human Machine Interface)を介して収集されるリモート作業者からの指示データからもインサイトを抽出する。また,5Gの特性であるeMBB(Enhanced Mobile Broadband:高速大容量)により応答時間が大幅に短縮され,リモートの作業員のユーザビリティも向上する。本検証の結果,従来の手法に比べて作業時間が50〜70%短縮されることが明らかになった。これにより,今回構築したフレームワークは,製造業分野において次世代フレキシブルオートメーションを開拓しうるだけでなく,他事業分野へのスケーラブルな展開も可能であることが明らかになった。

(日立アメリカ社)

[6]5G活用リアルタイムエッジAIソリューションのフレームワークとロボット遠隔操作への応用 [6]5G活用リアルタイムエッジAIソリューションのフレームワークとロボット遠隔操作への応用

7. ネットワーク制御と深層学習処理をハードウェア実装した高速コントローラシステム

労働力不足の解決手段としてロボットのニーズが拡大する中,ロボットの動作制御を深層学習で獲得し,プログラミングレスでロボットを制御する取り組みが進んでいる。しかし,既存のロボットコントローラと深層学習制御を単純に組み合わせた場合,制御周期は数百ミリ秒オーダーが限界である。そのため実環境で起こりうる外部要因,例えば床面の振動やアームの衝突などを考慮して,ロボットを安全に動作させるために必要な数ミリ秒オーダーでの制御には適用が困難であった。

そこで,深層学習で獲得した制御を実行する小型エッジコントローラ,センサーやモータなどの入出力処理を行う小型I/O(Input/Output)コントローラ,これらをつなぐリアルタイムネットワークで構成された高速コントローラシステムを開発した。各コントローラ上のFPGA(Field Programmable Gate Array)内にハードウェア回路を実装することで高速処理を実現し,外部要因に対して5ミリ秒で応答できることを検証した。今後,このコントローラを搭載した実アプリケーションへの応用を進める。

[7]開発したコントローラシステムの構成 [7]開発したコントローラシステムの構成

8. 多品種製品工場における最適な製品配置と工程計画の立案・管理システム

非量産系の製造業では,製品サイズや製造工程で使用する作業スペースが異なり,一つの設備を複数の製品で使用する必要があるため,効率的なスペース確保および設備の使用順序を考慮した工程計画の立案が求められている。しかしながら,スペースや設備の使用は複雑かつ多様なパターンが存在するため,これまで熟練者が多大な工数を要して決定してきた。

そこで設備を使用するスケジュールを考慮しながらスペースへの製品配置を計画することにより,スペース不足による作業遅延をなくすアルゴリズムを構築し,最適な工程計画を自動で生成するスケジューリング技術を開発した。加えて,工場内のカメラで撮影した映像データと工程計画を比較することで,工場内の進捗状況を見える化し,計画遵守に向けた施策を検討することができる。

非量産系工場において過去に製造した作業データを用いて開発した技術を検証した結果,作業日数をおよそ20%短縮できることを確認した。

[8]工程計画立案・管理システム概要 [8]工程計画立案・管理システム概要

9. ホイスト初期位置調整制御技術

[9]ホイスト初期位置調整制御の概要 [9]ホイスト初期位置調整制御の概要

熟練作業者の高齢化やクレーンの需要拡大に伴う人手不足から,未習熟な作業者が増加している。未習熟な作業者は荷振れを抑える振れ止め操作に不慣れなため,衝突や挟まれなど事故のリスクが高く,作業時間が長くなる。そこで,安全性向上と作業時間短縮をめざし,吊荷が地面から離れる地切り時に生じる荷振れ(初期振れ)を抑制する初期位置調整制御技術を開発した。

地切り時に吊荷の真上から吊荷を吊り下げ移動させるトロリとの間に水平方向の位置ずれがあると,初期振れが発生する。開発した技術は,この位置ずれがないときにロープ長が最小になることを利用し,地切り前に巻き上げにより弛みをなくした緊張状態のロープ長を測定して,位置ずれを低減する方向へトロリを移動させる。また,ロープの緊張状態を検出するために,深層学習を用いてトロリにかかる吊荷荷重を推定する技術を開発した。これにより50 kg以下の精度で荷重が推定でき,緊張状態を高精度に判定できる。これらの技術により,手動では最大で約200 mmの初期振れが生じるが,これを100 mm以下に抑制可能となった。

今後,より高度な制御技術の開発に取り組み,さらなる安全性の向上を実現していく。

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