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日立評論

1. 充電時間を短縮し,ドライバーのQoLを向上するインバータ技術

[1]開発したインバータとパワーモジュール [1]開発したインバータとパワーモジュール

脱炭素社会に向けて,多様化するエネルギー消費形態に応じた最適なシステムやキーデバイスを提供し,消費が増大する電気エネルギーの高効率な利活用が求められている。特に人やモノの移動におけるCO2排出量を削減するには,EV(Electric Vehicle)の普及に欠かせない航続距離の拡大,充電時間の短縮や小型高効率化を牽引する駆動システムや充電インフラが必要である。短時間充電と小型高出力化の両立には,同一時間でエネルギー移動量を増やすべく,EVのシステム電圧を従来の約400 Vから800 Vへ高めることが課題となっている。

これに対して,世界に先駆けて充電時間を50%に低減しながらも高出力パワー密度(94.3 kVA/L)を実現する800 V対応EV向けインバータを開発した。

薄膜化した絶縁層を多層化し,中間導体を絶縁層間に設けることで,各絶縁層に2分の1の電圧が安定的に印加され,電界集中していたエリアに加わる電圧も半減されることから,絶縁信頼性を向上しながらも薄い絶縁層による放熱性の向上が可能となり,従来比2倍の絶縁耐性と低熱抵抗化の両立を実現した。

開発した技術は2019年から世界各国の自動車メーカーへ提供されており,今後はさらなる脱炭素社会の拡大に向けて,モビリティやライフなどの分野に開発技術を展開していく。

2. 小型CEシーケンサ DS3000の製品化

[2]小型DNAシーケンサDS3000 [2]小型DNAシーケンサDS3000

パーソナル用途向けのキャピラリ型DNA(Deoxyribonucleic Acid)シーケンサ事業拡大に向け,省スペース・操作性に優れた小型DNAシーケンサDS3000を開発した(株式会社日立ハイテク製,2020年9月1日販売開始)。従来機の半分程度の設置面積への小型化(従来比:幅6割×奥行8割)と,自社ブランドでのリリースを実現すべく,以下の3点の開発を進めた。

  1. 高粘性ポリマをむだなく容器から直接キャピラリに充填するポリマ注入機構
  2. 音響信号処理を応用した塩基配列読み取り技術
  3. 機械学習によるエラー率予測技術

本製品は,ダイレクトポリマ注入技術によるメンテナンスフリー化,LD(Laser Diode)光源を用いた長寿命化,ウェブサービス技術を用いたリモートモニタシステム(装置状態監視,条件設定)で他社製品との差別化を図っている。今後,国内外に本製品を展開し,DNAシーケンサ事業の拡大をめざす。

3. 全周囲ステレオカメラ

[3]全周囲ステレオカメラ [3]全周囲ステレオカメラ

自動車の自動運転は,レベル2〜3の先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)の普及が加速している。今後,レベル4〜5の完全自動運転の実用化に向けて,全周囲センシングが不可欠となる。

日立は,小型かつ低コストでありながら,全周囲の三次元センシングを一つの光学系で実現するステレオカメラ技術を開発した。本技術は,双曲面ミラーを上下に対向させ,一つのイメージセンサーで視差画像を検出することで全周囲の三次元センシングを実現する。本カメラ技術は自動運転のみならず,スマートファクトリーやスマートシティなど,空間の三次元情報を必要とするさまざまなアプリケーションへの適用も期待できる。三次元センシング技術を通して,QoL(Quality of Life)の高い安全・安心な社会の実現に貢献していく。

4. 政府出資プロジェクトHumanDriveおよびDENSEによる自動運転技術

自動運転は,モビリティの安全性の向上により社会に利益をもたらすことが期待されている。自律走行車の実現を促進するため,日立ヨーロッパ社は,HumanDriveプロジェクトおよびDENSE(Adverse Weather Environmental Sensing System)プロジェクトに参加し,先駆的なAI(Artificial Intelligence)技術を開発した。これは,現在の自動車から生成される大量のデータを融合し活用することによって,将来の自律走行車の快適性と安全性をさまざまな気象条件下で高める技術である。

この技術の新機軸は,数テラバイトに及ぶ人間の運転データから学習に適したデータを抽出し,学習を行うインテリジェントなデータ管理ツールを開発したことにある。このツールを用いることにより,AIモデルのバイアス(学習の偏り)を取り除くことが可能となり,人間と同様に道路環境を分析し安全な経路を生成可能とするAIモデルを構築することができた。

さらに,日立ヨーロッパ社はAI搭載ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)の試作品を設計し,DENSEのパートナー企業がこれを利用してAI機能を実行した。日立ヨーロッパ社は,テストコースで人間の運転者による介入をゼロにして行った試験で成功を収め,その運転制御は,単純なロボティクス制御よりもはるかに滑らかで自然であると搭乗者によって認められた。

(日立ヨーロッパ社)

[4]DENSEプロジェクトとHumanDriveプロジェクトの概要 [4]DENSEプロジェクトとHumanDriveプロジェクトの概要

5. 自動運転管制技術の実証のための清華大学との共同研究

2018年11月に清華大学と締結した「清華−日立未来創新連携計画」に基づき,日立(中国)研究開発有限公司は清華大学とモビリティ分野での共同研究を推進している。本共同研究では,安全かつ低コストの自動運転交通を道路インフラとの協調により実現するビジョンの下,これまで日立と清華大学が自動運転分野で培った経験を踏まえ,中国におけるインフラ協調自動運転の技術開発と実証を進めている。

インフラ協調自動運転システムでは,道路側に設置されたセンサー,自動運転車両,および管制センタが協調して,車両からの死角も含めて安全に走行可能な領域を算出し,管制センタからの指示で走行中の車両の速度や経路を制御することにより,自動運転の安全性を向上する。これにより,交差点などでの出会い頭の衝突事故の防止や,レベル4自動運転の実現コストの削減を図ることが可能となる。

本実証を通じて,中国市場における無人運転車両を活用した安全なモビリティサービスの早期実現をめざす。

[5]インフラ協調自動運転ソリューション [5]インフラ協調自動運転ソリューション

6. 脳卒中患者のQoL向上に向けたうつ関連症状の分析技術

高齢者が介護状態に陥る要因の第2位は脳卒中であり(第1位は認知症),脳卒中からの早期回復が,高齢者のQoL向上に重要な意味を持つ。しかし,脳卒中患者(112万人/年,日本)の20%〜40%は同時にうつ関連症状を有し,リハビリなどへの取り組みが困難になり,回復が遅れるという課題がある。

そこで日立製作所は,広島大学・日比野病院(広島県)と共同で,脳卒中の70%ほどを占める脳梗塞患者の複数のうつ関連指標を組み合わせ,データ駆動型分析により四つのクラスタに分類されることを見いだした。さらに,脳領域ごとの損傷割合のデータベースと照合し,うつ関連の脳領域推定技術を開発した。

本技術により,脳損傷からうつ関連症状を予測して適切なケアに導くことで,患者の早期回復へとつながる可能性がある。今後,本技術を発展させ,病院などでのリハビリに導入していくことで,脳梗塞患者の早期回復によるQoL向上に貢献していく。

[6]うつ関連の脳領域推定技術の詳細 [6]うつ関連の脳領域推定技術の詳細

7. ビジョン駆動型ソリューション開発戦略

[7]バックキャスティングによる商品開発 [7]バックキャスティングによる商品開発

生活者のライフスタイルや社会環境が大きく変化しつつある中,現状分析を起点にした「フォアキャスト」発想や小さな改善の積み重ねだけでは,顧客に選ばれる商品・サービスを生み出すことは難しい。そこで,人々の価値観の変化によって生まれるニーズの仮説から「バックキャスト」して次の商品・サービスの仕様や技術を導出する,ビジョン駆動型の開発プロセスを導入した。

まず,生活サービス分野を対象に将来の生活者の価値観変化に着目した未来洞察を実施し,複数の変化のきざしとしてまとめ,これを基に10年後の生活者にとって望ましい暮らしを実現するためのソリューションを描いた。さらに,昨今の新型コロナウイルス感染症による影響にも配慮して,暮らしの新常態(ニューノーマル)に適応する商品・サービスやデザインコンセプトの検討に取り組んでいる。

こうした取り組みを通じて,魅力ある価値を創出する「人々に寄り添うソリューションカンパニー」となることをめざしている。

(日立グローバルライフソリューションズ株式会社)

8. 利用から関与へ -アフターコロナの価値を探求するFuture Living Lab

[8]多摩未来協創会議のプロセス [8]多摩未来協創会議のプロセス

コロナ禍の2020年夏に,日立京大ラボから『BEYOND SMART LIFE 好奇心が駆動する社会』(日本経済新聞出版)を上梓した。ここでは,目の前の利便にとらわれずにワクワクを探求することが新しい価値観を生み,社会を豊かにすると述べている。Future Living Lab(FLL)はこれを実践する活動である。

ここでは新たな街のしくみを市民と協創する個々の活動に加えて,目標を共有するコミュニティの形成をめざしている。例えば多摩未来協創会議は,ダイアログ,モノローグ,ミートアップという三つの対話の場で企業や団体をつなぎ,東京の多摩地域に新しい活動を生み出すコミュニティである。また神奈川県三浦市では,地域の未来を農業やアートを通して考え,発信するコミュニティ「koyart」の立ち上げに参加した。FLLは,「利用から関与へ」というテーマを掲げ,個人の生活に利便をもたらすことから,人や地域の中に関与を生み出すことへと,インフラが担う機能を拡張させることを目標としている。

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