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1. 日立東大ラボ:エネルギープロジェクトフェーズ2

日立東大ラボは,2020年4月よりフェーズ2となる東京大学との新たな協創活動を開始した。その一つであるエネルギープロジェクトにおいては,2016年よりSociety 5.0を支えるエネルギーシステムの将来像に関わる提言を行っており,これまでに公開フォーラムなどを開催し,提言書にまとめ広く発信してきた。フェーズ2においては,気候変動への対応を含めた2050年の社会のあるべき姿のシナリオを策定し,その実現へ向けたエネルギーシステムビジョンの創出をめざしている。

その活動の一環として,2020年6月に東京大学・五神真総長を交えたオンライン総合討論(ラウンドテーブル)を開催し,エネルギーを取り巻く社会情勢,生活や情報社会との関わりといった,従来のエネルギー戦略ではあまり深堀されなかった事項とエネルギーの関連性について幅広く議論し,社会技術シナリオの方向性を明確化した。今後は公開フォーラム開催に加え,グローバル発信活動も強化推進する予定である。

[1]日立東大ラボの取り組み [1]日立東大ラボの取り組み

2. 日立京大ラボ:心理学に学ぶAI

人間の行動に起因するとされる社会課題に対し,これまで機構面や制度面でのアプローチが多く提唱されてきた。例えば環境問題において,前者はエコ製品の普及であり,後者は環境税の導入である。しかし,これらの対策ですべての社会課題を解決するには限界がある。そこで近年では,人の心に働きかけて節電などの協力行動を促す心理的アプローチが注目されている。一方,心理的アプローチの課題は,効果を発揮するためには問題ごとに専門的な分析や設計が必要であり,工数がかかることである。

これらの課題解決に向け,多数の心理実験のデータをAI(Artificial Intelligence)に学習させることで専門家の分析を代替する「心理学に学ぶAI」を開発した。このAIは,人へのさまざまな働きかけを幅広くシミュレートできるため,解決方法の倫理的な問題の有無の事前検討にも有効である。本技術を社会課題の解決に広く適用させることで,自発的に協力し合える社会の実現にも役立てていく。

[2]試作した分析ソフトウエアの画面 [2]試作した分析ソフトウエアの画面

3. 日立北大ラボ:課題先進地域で創生する地域社会創造プラットフォーム

日立北大ラボでは,北海道大学や他のステークホルダーと連携して,北海道における過疎化,少子高齢化などの社会課題解決に向けて,地域経済発展と利便性向上に寄与する地域社会創造プラットフォームを協創している。

岩見沢市の母子健康調査を通じて収集した健康・生活データから,子どもの成長発達に影響を与える因子の特定や,ソーシャルキャピタル・レセプト分析から可視化した地域特性に基づき,自治体と連携した健康施策提案が可能な健康データ網羅的解析基盤を開発した。さらには,森永乳業株式会社,北海道大学と共に,母子健康調査普及拡大につながる知的財産を創生し,母子が健康に暮らせる持続可能な社会の実現に向けてそれらを開放することに合意した。

今後,健康・農食・エネルギーが連携したまちづくりを通じて,地域間格差を解消する小型分散直流グリッドの開発や,本解析基盤を遠隔医療に発展させることで,地域経済活性化と個々人が健康で安心して暮らせる社会の実現をめざす。

[3]岩見沢市で構築した健康データ網羅解析基盤 [3]岩見沢市で構築した健康データ網羅解析基盤

4. 日立神戸ラボ:再生医療

再生医療は,有効な治療法がないとされてきた難病にも,細胞や組織を用いて根治の道をひらく革新的な医療である。再生医療用の細胞製造は従来,培養技術者の手作業により行われてきたが,細胞製造にかかるコスト,品質の安定性や安全性が課題であった。日立はこれらの課題を解決するため,完全閉鎖系細胞自動培養技術を開発し,商用製造向け細胞大量自動培養装置を製品化した。

現在,次世代技術としてインテリジェント自動培養の開発を行っている。これまでの培養装置では,作業者があらかじめ,手作業を前提に確立された培養工程を装置にプログラムして培養を行うのに対し,インテリジェント自動培養では,人工知能を搭載した装置自らが細胞状態を判断し,自動フィードバック制御を行い,最適な培養条件を維持しながら高品質の細胞を安定的かつ効率的に製造することをめざす。

このようなシステムを実現するためにはまず,リアルタイムに計測可能で細胞に対して非侵襲的な細胞状態の判断手法が必要となる。2019年に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED:Japan Agency for Medical Research and Development)から補助事業を受託し,細胞培養中に取得する細胞画像や,培養上清中に含まれる各種成分の網羅解析を行い,細胞状態を直接評価することが可能な判断指標の探索とその妥当性の評価を進めている。

なお,本稿で紹介した内容の一部は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)の基盤技術研究促進事業,日本医療研究開発機構(AMED)課題番号JP20be0404010において実施したものである。

[4]インテリジェント自動培養概念図 [4]インテリジェント自動培養概念図

5. 電子線ホログラフィーの高感度化による触媒電場観察

[5]原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡で観察した触媒粒子の電場 [5]原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡で観察した触媒粒子の電場

社会の基盤となる製品の機能革新には物性原理の解明が必要であり,機能を生み出す電磁場を微小領域で直接観察することができる電子線ホログラフィーは,有用な観察手法の一つである。ナノサイズ領域の微弱な電磁場や,時間変化する電磁場観察の実現に向けて高感度化が求められており,日立は九州大学,大阪大学と共同で,電子1個レベルの感度で電磁場を観察する技術を開発した1

開発した技術は,電子線ホログラフィーに情報科学的な解析手法を導入したもので,(1)ウェーブレット隠れマルコフモデル(WHMM:Wavelet Hidden Markov Model)による雑音除去,(2)大規模データの自動収集とAI・機械学習による画像解析(積算平均化処理の高機能化),などの情報科学的技術を開発・活用した。

開発された技術により,原子分解能・ホログラフィー電子顕微鏡2による触媒粒子の電場観察を実現した。触媒反応は水素利用やCO2燃料化に利用され,環境・エネルギー分野における社会課題を解決する重要な技術の一つである。本技術は触媒電場の局所解析を可能にするもので,触媒原理の解明により反応効率の向上と低コスト化を実現する革新触媒の開発に貢献することが期待される。

※1)
「戦略的創造研究推進事業(CREST)」の助成を受けて開発。
※2)
「最先端研究支援プログラム(FIRST:Funding Program for World Leading Innovative R&D on Science and Technology)」の助成を受けて開発。

6. ゼロエミッションエネルギーシステムを実現する水素プラットフォーム

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及によるゼロエミッション社会の実現に向けて,再生可能エネルギーのキャリアとして期待されている水素を活用したグリーンエネルギーシステムの開発を進めている。

具体的には,再生可能エネルギーの変動や余剰電力で高効率に水素を製造するための制御技術,水素から電気や熱を効率よく供給する燃料電池利用技術の開発に取り組んでいる。さらに,再生可能エネルギー大量導入時の系統安定化,街区の熱電供給,自動車や鉄道などモビリティといった各セクターを連携させ,再生可能エネルギー由来の水素を最大限生かすために,エネルギーの需要と供給を最適化させるための水素エネルギープラットフォームを構築していく。

このような水素利用グリーンエネルギーシステムおよび水素プラットフォームについて,産学官と連携した実証実験などを通じて,水素エネルギーシステムを国内外に提供していく。

[6]電気・熱・燃料を取り扱う水素プラットフォーム [6]電気・熱・燃料を取り扱う水素プラットフォーム

7. 幸せの見える化技術で新産業創生をめざす新会社「ハピネスプラネット」を設立

近年,デジタル技術の進化やグローバル化の拡大により,ビジネス環境が日々変化している。特に,新型コロナウイルス感染症拡大の影響で在宅勤務やリモートワークへと働き方が変化する中で,幸せと健康に対する関心が世界的に高まると同時に,社内のコミュニケーションや生産性,創造性の源泉となる幸福感を一層向上させることは,企業にとって重要な課題となっている。

この社会課題の解決に貢献するため,基礎研究所では,身体に身に着けた加速度センサーから人の幸福感を定量的に計測する技術の研究開発を進め,従業員の前向きな心を引き出すスマートフォンアプリ「Happiness Planet」を開発し,83社から約4,300人の参加によりその効果を実証してきた。さらに2020年7月に株式会社ハピネスプラネットを設立し,サービス提供を開始した。

今後は,企業マネジメント支援をはじめとして,まちづくり,介護・医療,住まい選びなどのさまざまな場面に幸福感計測技術を活用する,新たなハピネス&ウェルビーイング産業の創生を図っていく。

[7]Happiness Planetアプリケーション [7]Happiness Planetアプリケーション

8. ゼロエミッションに向けた水素・バイオ燃料対応エンジンシステム

ゼロエミッションに向けて,水素やバイオ燃料を高効率に利用できる水素混焼エンジンシステムを開発している。

本エンジンシステムは,水素,バイオエタノールやバイオガスなどのバイオ燃料を混合燃焼する,クリーンなエンジンシステムである。このシステムでは,酒かすや廃果実などの廃棄物から,発酵工程のみで製造可能な水を多く含んだ含水エタノール(エタノール濃度7〜12%程度)も燃料として利用することができる。

これらのさまざまな燃料を,AIを用いたエンジン制御技術とエンジン排熱を用いた燃料改質技術により高効率に発電に利用できることから,水素や既存燃料だけでなく,地域ごとに入手可能なバイオ燃料を選択することができる。さらに,排熱を回収して熱供給に利用することで,効率向上を実現することもできる。

本技術をコアに,再生可能エネルギー由来の水素や廃棄物から生成されるバイオ燃料などを組み合わせて高効率に利用し,ゼロエミッションとエネルギーコスト低減の両立をめざす。

[8]水素・バイオ燃料活用ゼロエミッションエネルギーシステム [8]水素・バイオ燃料活用ゼロエミッションエネルギーシステム

9. 大規模集積化量子コンピューティング

量子コンピュータは,従来のコンピュータでは解けない問題を解くことができる新概念コンピューティング技術として期待されている。一方,顧客が求める実用的な計算には,数百万以上の量子ビットの大規模集積化が課題となっていた。

今回,日立ケンブリッジラボを中心に行ってきた量子基礎物理と大規模半導体メモリ制御技術を融合し,半導体チップの上に多数のシリコン量子ドットを二次元状に配列して制御する,アレイ基本技術を開発した。提案アレイ構造を試作し動作検証を行ったところ,電子1個を閉じ込める箱となる「量子ドット」を,所望の位置に二次元アレイ状に形成できることを確認した。さらに従来構造に比べて,大規模量子ドットの安定動作につながる動作電圧マージンが一桁向上することを確認し,本提案構造のコンセプトの有用性を実証した。

今後,大型国家プロジェクト(ムーンショット型研究開発事業)などオープンイノベーションも利用し,ハード・ソフト一体となった開発を進め,量子コンピューティングシステムの早期社会実装をめざす。

なお,本成果の一部は東京工業大学との共同研究の結果,得られたものである。

[9]シリコン量子ビットアレイ基本技術 [9]シリコン量子ビットアレイ基本技術

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