日立評論

多様なビジネスモデルにまたがるグローバルな製品の管理・運用・メンテナンス

持続可能な環境の実現に向けたOS&Mの環境ソリューション

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日立評論

多様なビジネスモデルにまたがるグローバルな製品の管理・運用・メンテナンス

持続可能な環境の実現に向けたOS&Mの環境ソリューション

ハイライト

幅広いサービスのグローバルな展開に伴い,Hitachi Rail社のOS&M部門を取り巻く環境は複雑化している。世界各地の顧客やパートナー,地域ごとに異なる文化や規制といったさまざまな要因がビジネスに影響を及ぼす中で成長を遂げるためには,プロセスの標準化と地域に合わせた柔軟なアプローチに基づく迅速なOS&Mの遂行が求められる。

また,Hitachi Rail社のOS&Mの特長は,アセットマネジメントと技術開発双方への投資にある。本稿では,サステナビリティの実現に向けた環境ソリューションを含めた,Hitachi Rail社のOS&M部門の取り組みを紹介する。

目次

執筆者紹介

Edoardo La Ficara

  • Hitachi Rail STS S.p.A. 所属
  • 現在,COOとしてOS&M部門の統括業務に従事

Michele Budetta

  • Hitachi Rail S.p.A. 所属
  • 現在,副COOとして調達,品質管理およびメンテナンスエンジニアリングの統括業務に従事

Piero Marotta

  • Hitachi Rail STS S.p.A. 所属
  • 現在,O&Mプロジェクトの統括業務に従事

Gianluca Guido

  • Hitachi Rail STS S.p.A. 所属
  • 現在,営業,プロジェクト管理,入札および事業開発の統括業務に従事

1. はじめに

鉄道OS&M(Operation, Service and Maintenance)事業を取り巻く環境が複雑な様相を呈する中,Hitachi Rail社のOS&M部門は,技術とリソース,グローバルなプロセスを組み合わせ,OS&Mのコストと納期,品質を最適化するため,多次元的な取り組みを行っている。

OS&Mは日立の鉄道事業の基幹を担う部門であり,列車の従来のS&M(Service and Maintenance)から,駅のO&S(Operation and Service),チケッティング,信号装置の提供まで,幅広いサービスを提供している。こうしたサービスをグローバルに提供するうえでは,さまざまな地域の文化や規制,法律の範囲内で,多様な運用モデルを考慮する必要がある。サウジアラビア王国のリヤドメトロのプロジェクトは,こうした複雑さが浮き彫りとなる事例である。リヤドメトロは総延長距離176 kmに及ぶ世界最大級のメトロであり,85の駅で構成される。日立は6路線のうち4路線の50の駅と三つの車両基地のO&M(Operation and Maintenance)契約を担うFLOWコンソーシアム※)のリーダーである。このコンソーシアムでは,3,500人を超える従業員が三つの異なる交通システムをまたいで働いており,日立は大規模なコンソーシアムにおけるリソース管理,人員配置,ステークホルダーとの関係などに関連する,鉄道業界では極めて複雑なOS&M契約の責任者となっている。

※)
日立,Ferrovie dello Stato Italiane S.p.A.,Alstom Transport S.A.で構成されるコンソーシアム。

2. グローバルなOS&Mの課題

グローバルなビジネスを展開するうえでは,世界の各地域の拠点が責任者の下,地域ごとにオペレーションを遂行する分散型リーダーシップがカギとなるが,各拠点は拠点内のみならず,日々のレポートラインの外にいるメンバーとも,ビジネスの状況を共有しなければならない。分散型のリーダーシップに基づくオペレーションを行うためには,各拠点が地域におけるパフォーマンスや成果,リスクを継続的に可視化し,レポーティングを通じて地域ごとのOS&Mマネジメントの透明性を高める必要がある。そのためには,現在開発を進めているKPI(Key Performance Indicator)モニタリングシステム,ダッシュボードを用いたレポーティングシステムが有効である。

グローバルな組織としてのOS&M部門はまだ新しく,成長の基盤となるプラットフォームとして機能する経験や資産は少ない。そうした学びは,組織が成熟するにつれて経験に基づき蓄積されていくものである。そして成熟した組織で横断的に業務を遂行するにあたっては,サービスの向上と新しい市場の開拓,製品・技術のテストを,バランスを取りながら行う必要がある。日立の鉄道部門の将来に向けては,デジタルメカトロニクス分野の優れた人財をひきつけ,現状のビジネスを継続するために,ビジネスのケイパビリティを適切に割り当てる必要がある。

地理的な隔たりを越えて製品のメンテナンスを行うには,優れたアセットマネジメントと,マーケティング部門・営業部門などとの連携が必要であり,世界中のOS&M部門の従業員が使用可能な統合されたシステムソリューションが求められる。これを実現するべく,日立は適切なデジタルプロバイダーのM&A(Mergers and Acquisitions)を進めている。例えば2020年に新たに日立がM&Aを行ったPerpetuum Ltd.は,需要ベースのメンテナンス計画,メンテナンス時期を正確に把握するための予測モデリング能力を通じて,OS&Mデジタルサービスを強化する。OS&Mが新たなセグメントで顧客を開拓し,新しい製品やサービスのパイオニアとなるためには,データとデジタル技術の活用が不可欠である1)

2.1 複雑な事業を迅速に遂行するOS&Mシミュレータの活用

日立は,英国とイタリアの市場でOS&Mビジネスを統合し,今後は米国と中東にも拡大していく計画である。これを実現するためには,ビジネス活動のグローバルな標準化と,地域別の柔軟なアプローチが重要となる。これに対し,OS&M部門では,OS&Mシミュレータと呼ばれるフレキシブルなシミュレーションに基づくソリューションの導入を進めている(図1参照)。

OS&Mシミュレータの活用を通じて関連するKPIを予測し,顧客のニーズとグローバル市場のニーズの双方に迅速に対応することができる。また,このソリューションでビジネスのプロセス,アクティビティ,およびプロジェクトを分析し,改善すべき点を特定することができる。

本ソリューションは,日立製作所研究開発グループ制御イノベーションセンタと共同開発したものである(図2参照)。

このシミュレータは,FMECA(Failure Mode, Effects and Criticality Analysis)やRCM(Reliability Centered Maintenance)などの標準的な信頼性分析手法と,予知保全やCBM(Condition Based Maintenance)などの革新的な手法に基づき,標準化されたメンテナンスモデリングフレームワークに従ってメンテナンス業務をモデル化する。入力された大量のデータに含まれる情報は製品設計のプロセスで精製され,特定のパラメータに関連するKPIに焦点を当て,メンテナンスを最適化することができる。これは,入札や契約に関する決定をサポートする強力なツールである。

図1|OS&Mシミュレータの概要図1|OS&Mシミュレータの概要必要なインプットと,シミュレーションベースのソリューションから得られたアウトプットを示す。

図2|OS&Mシミュレータのアーキテクチャ図2|OS&MシミュレータのアーキテクチャOS&Mシミュレータは,シミュレーションデータに基づく評価を総合的なアプローチで周期的にフィードバックする。

2.2 持続可能性を実現する環境ソリューション

図3|環境への影響において保守が果たす役割図3|環境への影響において保守が果たす役割環境面における,設計・製造・使用および廃棄・リサイクルのプロセスを通じた保守の役割を示す。

鉄道OS&M事業の効率化は,製品のLCC(Life Cycle Cost)の削減ならびに環境負荷の低減につながる。Hitachi Rail社の製品・システムは,緻密なメンテナンス戦略に基づいてメンテナンスされているため,新しいメンテナンス計画を実施する際には,事前にシステム全体の状態を正しく評価しなければならない。

Hitachi Rail社は,Perpetuum社などの関連会社を含め全体で利用可能なデジタル技術を活用して,メンテナンス業務を改善することをめざしている。なお,メンテナンス業務におけるAI(Artificial Intelligence)とIoT(Internet of Things)の可能性は多くの企業が認めるところであるが,これらの技術に関する業界の知見は十分とは言えない。また,環境と経済を両立するソリューションを検討する際にそれらがどのような役割を果たすかは未知数である。

OS&M部門はこうしたギャップを埋めるため,LCA(Life Cycle Assessment)の考え方とLCCの考え方を組み合わせたSustainability for Maintenanceアプローチを活用している(図3参照)。

メンテナンス業務の環境フットプリントを明確にするため,日立は資源(水,エネルギー,材料),効率(エネルギー消費,汚染物質の排出),および廃棄物管理(副産物,部品の再利用)に焦点を当て,KPIを定めている2)。しかし,これらのKPIは以下に挙げる要因の影響を受ける可能性がある。

  1. 人的要因
    情報に基づいた意思決定を通じて,求められる環境フットプリントを削減する。人的ミスもまた,KPIに影響を与える要因として考えられる。
  2. 環境的要因
    バリューチェーンで発生する事象の直接的および間接的な影響によって,KPIは変動する。
  3. メンテナンス戦略
    環境に配慮したメンテナンス戦略には,構造/プロセスの変更,投資,および時間が必要である。これは,それらのメンテナンス戦略が常に実行可能なオプションとは見なされないことを意味する。
  4. 予定外のメンテナンス業務の発生
    計画外のメンテナンス業務は,むだとコンプライアンス違反の原因となり,KPIに影響する。

持続可能な環境の実現に向けたソリューションはさまざまであり,特にOS&Mビジネスを取り巻く複雑な状況において,万能なモデルは存在しない。これに対し,日立は従業員のマネジメントから環境イニシアチブにおけるスポンサーシップ,サステナビリティに関する教育,包括的なメンテナンス管理システム,効率的なスペアパーツ管理,アセットパフォーマンスの最大化まで,さまざまなソリューションを提供する。

3. おわりに

グローバルなビジネスオペレーションを遂行するうえで,日立の鉄道OS&M部門は多くの課題に直面している。今後,OS&M事業における持続可能性の重要度は一層高まるものと考える。

日立の鉄道OS&M部門は今後ますますの事業拡大と成長に向けて,事業を取り巻く複雑な環境に対応しつつ,最新の技術を採用しながら,高品質なサービスと製品を迅速に提供していく。

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