日立評論

高速車両の省エネルギー化と車体軽量化を実現する技術開発

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ハイライト

近年,さまざまな走行環境や運行用途に応じた新幹線車両が開発されており,高速走行に欠かせない車体軽量化や省エネルギー化の研究を進めるうえでの技術課題への取り組みが求められている。例えば,速度向上に伴う技術課題については,車内・車外騒音の抑制,走行振動抑制,省エネルギー化,小型軽量化,保守性の向上などのテーマが掲げられている。国内の長距離移動を担う新幹線車両において,これらの技術は必要不可欠な存在であり,定時性,快適性,利便性の面で大きな進歩を遂げている。

日立は,新幹線車両に採用されている最新技術として,先頭形状の最適化や車内騒音低減,省エネルギー化を図った主回路機器や乗り心地性能の向上など,安定した高速走行を支える技術を開発し,新幹線車両への適用を図っている。本稿では,最新の新幹線車両に採用されている技術について紹介する。

目次

執筆者紹介

奥 徳一郎Oku Tokuichirou

  • 日立製作所 鉄道ビジネスユニット 事業推進統括本部 車両システム事業推進本部 車両システム部 所属
  • 現在,新幹線車両の技術取りまとめに従事

1. はじめに

近年,エネルギー消費の少ない公共交通機関として,鉄道が注目されている。

日立は近郊車両,通勤車両,高速車両,モノレールにおいて,車両,主回路機器,分岐・桁装置などの設計製作を担っており,イタリアや英国の生産拠点とも連携して幅広い製品群を提供している。

本稿では,日本の新幹線車両における車体軽量化,省エネルギー主回路機器技術を中心に紹介する。

まず,車体軽量化についてはアルミ中空型材で構成したダブルスキン構造が特徴のA-Trainコンセプトをベースに,室内快適性や低騒音を実現するために開発された先頭形状や車内騒音低減技術について述べる。

また主回路機器については,新素材を適用したSiCパワーデバイスや新しい冷却システムを採用したインバータ,世界トップクラスの高効率IM(Induction Motor)など,新幹線車両に採用されている製品技術について述べる。さらに,台車の乗り心地性能の向上や車内騒音低減による快適な車内空間の創出と居住性の向上に関する技術も紹介する。

2. 新幹線車両に求められる技術

新幹線車両に共通する技術課題として,車内・車外騒音の抑制,走行振動抑制,省エネルギー化,小型軽量化,保守性の向上などがある。

これらの技術の進展が,定時性,快適性,利便性の向上に寄与している。ここでは,主に国内を代表する新幹線車両で採用されている最新技術を紹介する。

2.1 環境への配慮

図1|E5系新幹線の先頭車両形状図1|E5系新幹線の先頭車両形状E5系新幹線の先頭車両形状は,最高320 km/hに対応する。

図2|N700S系新幹線の先頭車両形状図2|N700S系新幹線の先頭車両形状N700S系新幹線の先頭車両(左)と先頭形状微気圧波解析の結果(右)を示す。

図3|新幹線車両の主回路機器の外観図3|新幹線車両の主回路機器の外観E7系・50/60 Hz C/I(Converter/Inverter)の主回路機器の外観を示す。

図4|新幹線車両の主回路機器図4|新幹線車両の主回路機器N700S系 C/I・MM(Main Motor)外観を示す。

日立は,環境への配慮の観点から,新幹線車両に搭載される主回路機器の省エネルギー化,先頭形状や車外騒音を含めた車両構造の工夫などに取り組んでいる。

  1. 車体構造
    新幹線車両にアルミダブルスキン構造を採用し,剛性や気密強度の確保を図った。トンネル通過時の気密荷重の繰り返しにも耐えられる強度設計とし,かつ比重の軽いアルミ素材を活用することにより,車体の軽量化を図っている。
  2. 先頭形状
    トンネル通過時に発生する微気圧波の影響を緩和し,室内快適性の向上とトンネル突入時の騒音低減を実現するため,微気圧波解析による三次元形状を考慮したシミュレーション技術を活用して,新幹線車両の車体断面変化率および先頭形状の最適化を図っている。
    E5系,E6系では,最高速度320 km/hに対応するため,全長15 mのロングノーズタイプを採用し,先頭形状の最適化を図った(図1参照)。
    N700S系では,デュアルスプリームウィング型と呼ばれる先頭形状を採用し,車体の平滑化や形状見直しにより,空力抵抗をN700A系と比較して低減した(図2参照)。
  3. 主回路機器
    主回路機器については,主回路の大容量化やSiC素子,高効率IMの採用により,駆動システムの省エネルギー化を図った。
    E5系では高速走行に必要となる300 kWの主電動機を駆動させるため,従来の主回路機器と比較して大容量化を図った。さらに,E7系は交流50 Hz区間と60 Hz区間の双方を走行するため,いずれの周波数にも対応した機器を搭載している(図3参照)。
    また,N700S系では,床下走行風冷却方式の採用や,図4に示す6極のIMを採用することで,N700A系と比較して消費電力量を約6%削減する見通しである。また,駆動システムの小型化,SiC素子の駆動システムの採用に伴う軽量化により,1編成当たり約10 tの重量低減を実現した。
  4. 車外騒音の低減
    車外騒音低減技術に関しては,これまでにも,車外騒音抑制のための車体形状平滑化,車両間の凹凸をなくすための全周ホロの活用,台車カバーのフルカバー化といった取り組みを行ってきた。
    今回,E5系やE6系では平滑取っ手の採用などによる車体形状の平滑化を図り,図5に示す吸音材付き側カバーを採用することで,車体下部から発生して地上側の防音壁で反射する騒音の低減を図った。屋根上機器については風切音の低減を目標とした碍子カバーや二面側壁の形状の工夫,低騒音パンタグラフ,パンタグラフ遮音板を採用することで,屋根上機器から発生する音の伝播を抑え,車外騒音のさらなる低減を図った。
    その結果,E5系およびE6系では,車内騒音レベルをE2系275 km/hの走行時と同等以下に抑えることができた。
  5. 高速走行時の工夫
    地震発生時に,既存車種と比較して短い距離で停止できるようにブレーキ性能の向上,減速度の向上を図っている。N700S系では,保安装置およびブレーキシステムの改良により,N700A系と比較して最高速度285 km/hにおける地震発生時のブレーキ距離を約5%短縮しており,安全性のさらなる向上に寄与している。

図5|新幹線車両の車外騒音対策図5|新幹線車両の車外騒音対策E5系吸音材付き側カバー(左),E5系遮音板(中央),E6系遮音板(右)を示す。

2.2 快適性の向上

図6|E6系新幹線車両の高速台車図6|E6系新幹線車両の高速台車走行安定性と在来線区間の横圧低減を両立した台車である。

快適性向上の観点から,台車の走行時の横圧低減や高速走行時の振動抑制など,車両の乗り心地性能の改善を図っている。また,各鉄道事業者の新幹線車両においても,インテリアのデザインを工夫している。

  1. 乗り心地性能
    高速走行時の安定性向上のため,台車のばね系やダンパなどの最適化を図った。
    E6系など在来線区間で課題となる横圧の低減をめざして,ヨーダンパの性能を可変とすることにより新幹線区間の走行安定性と在来線区間の横圧低減を両立している(図6参照)。これにより新幹線区間の高速運転と,在来線区間の小半径のカーブでの走行安定性を向上させることができた。
    これらの技術を適用することで,E5系,E6系では最高速度320 km/hでの走行時にも,車内における乗り心地レベルを80 dB以下に抑えることができた。
  2. 車内空間と居住性
    最新の新幹線車両では長時間の移動でも快適に過ごせるように,居住空間の快適性向上を図っている。構体と内装材の中間に吸音性の高い材料を配置し,車内静粛性の向上をはじめ,車体動揺防止制御装置や車体傾斜装置を採用することで,高速走行での左右動や曲線通過時の乗り心地を向上させている。
    また,長距離輸送における快適な空間を追求し,E5系で初めてグランクラス※)車両を導入した。室内の照明をすべてLED(Light-emitting Diode)とすることで,複数の間接照明や手元照明の組み合わせによる心地よい空間を生み出すとともに,シートにはバックシェルタイプの斬新なデザインを採用している(図7参照)。内装や車内静粛性にも工夫が凝らされており,車内騒音は最高速度320 km/hでの走行時でも70 dB以下に抑えられている。
※)
グランクラスは,東日本旅客鉄道株式会社の登録商標である。

図7|グランクラス車両の内観図7|グランクラス車両の内観内観(左)およびシート前面(中央),シート背面(右)を示す。

2.3 機器信頼性の向上

新幹線車両の高速化に向けて,走行性能の向上および高速走行時の信頼性確保を図った。また,主回路機器は必要な出力を確保しながら,既存車種と比較して機器の小型化や低騒音化,各機器で使用する構成部品の信頼性・耐久性の向上,メンテナンス性の向上を図っている。さらに,経過時間や走行距離などに基づきメンテナンスを実施するTBM(Time Based Maintenance)方式から,機器の稼働状態に応じてメンテナンスを行うCBM(Condition Based Maintenance)方式へ,メンテナンスの方法も変わりつつある。

2.4 バリアフリー対応

図8|新幹線車両の快適性向上図8|新幹線車両の快適性向上E7系新幹線車両内のLED(Light-emitting Diode)照明(左),点字銘板(中央),大型トイレ(右)を示す。

図9|新幹線車両のバリアフリー化図9|新幹線車両のバリアフリー化E7系・N700S系新幹線車両の車いすスペースを示す。

さらなるバリアフリー化に向け,身体障がい者対応設備の採用などを推進している。デッキ部に客室構成を示す点字銘板を掲示し,多くの新幹線車両で車いすに対応した多機能トイレを採用するなど,利便性の高いバリアフリーを意識した設備の採用を進めている(図8参照)。

  1. 客室照明へのLED採用
    省エネルギー化・保守コストの低減を目的として,客室天井の灯具にLED照明を採用している。これにより必要な照度を確保するための消費電力量を従来灯具と比較して抑えることができ,灯具そのものの寿命が向上することで省メンテナンス化にも寄与する。
  2. 全席にコンセントを設置
    普通車についても全席コンセント化に対応している。
  3. 温水洗浄機能付き便座
    すべての洋式トイレに温水洗浄機能付き便座を設置しており,トイレの快適性向上を図っている。また,非常通報装置のSOSボタンとトイレ洗浄ボタンの誤操作防止のため,標記を見やすくするなど,デザイン上の工夫も施されている。
  4. セキュリティ
    デッキ部および客室に防犯カメラを採用し,客室やトイレに非常通報装置を設置することで,セキュリティの向上を図っている。
  5. 車いす対応
    車いすスペースを設けることで,車いす利用者の利便性を向上している(図9参照)。N700S系では,2021年度投入編成以降で6スペース化されている。

3. おわりに

本稿では,新幹線車両に適用されている技術として,新幹線車両に必要不可欠な車体軽量化および省エネルギー化について述べた。

日立は,最新技術の適用を通じて新幹線車両のさらなる性能向上をめざし,今後も技術革新に向けた取り組みを続けていく。

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