新型コロナウイルス感染症の拡大や,それに伴うワークスタイルの多様化に伴い,オフィスや商業施設においては快適で付加価値の高いビル空間への需要が高まっている。
これに対し,日立はステップ(踏み段)や欄干のデザインを変更するなど,機能性・意匠性を高めた新型エスカレーター「TXシリーズ」の日本市場向けモデルを開発した。同時にエスカレーターの除菌・抗菌や利用時のソーシャルディスタンシングのニーズの高まりに応えるべく,「TXシリーズ」をはじめとするエスカレーター用の感染症リスク軽減ソリューションを体系化し,新たにハンドレール(手すり)除菌装置などをラインアップに追加した。2021年4月には,日立ビルシステムのショールーム(日立ビルソリューション-ラボ)への実機の設置が完了し,顧客へのプロモーションに活用されている。本稿では,TXシリーズのエスカレーターの特長と,感染症リスク軽減ソリューションについて紹介する。
新型コロナウイルスの感染拡大を契機として,エスカレーターの除菌・抗菌,利用時のソーシャルディスタンシングへのニーズが高まっている。これを受け,日立は機能性・意匠性を高めた新型エスカレーター「TXシリーズ」の日本市場向けモデルを開発するとともに,「TXシリーズ」をはじめとするエスカレーター用の感染症リスク軽減ソリューション※1)を体系化し,運転中にハンドレール(手すり)の除菌を常時行うことができるハンドレール除菌装置などを新たにラインアップに追加して,2020年9月に販売を開始した。
「TXシリーズ」の日本市場向けモデルは,海外に展開している同シリーズの基本設計をベースとして日本市場向けに仕様とデザインの最適化を図った製品である。日本市場向けの従来機種「VXシリーズ」の特長である安全・安心機能や省エネルギー機能を継承するとともに,安全利用を喚起するステップの踏み面を縁取る黄色いデマケーションライン(枠線)や,欄干のデザインを変更するなど,機能性・意匠性の充実を図ったモデルとなる。
さらに,2021年4月には,株式会社日立ビルシステムのショールーム(日立ビルソリューション-ラボ)への実機の設置が完了し,顧客にハンドレール除菌装置を搭載した「TXシリーズ」を実際に紹介できる環境を整えた(図1参照)。
図1|日立ビルソリューション-ラボに設置した新型エスカレーター「TXシリーズ」左の写真において左側はS600TX[左欄干はEP(ステンレスパネル欄干),右欄干はEN(ガラスパネル欄干),スカートモール照明付き]である。また右側は,S1000TX-L(ガラスパネル欄干,欄干照明付き)である。
本章では,新型エスカレーター「TXシリーズ」の特長について述べる。本章で述べる製品仕様はいずれも,前述の施設に導入済みである。
図2|新デザインの「スミマル」ステップ安全利用を喚起するステップの踏み面を縁取る黄色いデマケーションラインについて,四隅を丸くすることで,利用者が意識することなく安全利用エリア内に足を置くように誘導するデザインを採用した。
新デザインのステップ「スミマル」は,安全利用を喚起するため,ステップの踏み面を縁取る黄色いデマケーションラインについて,四隅を丸くすることで,利用者が意識することなく安全利用エリア内に足を置くように誘導するデザインとした(図2参照)。
装飾を最小限にしたミニマルなデザインの欄干構成を採用した。ターミナル部(乗り場付近の欄干)の曲線を単一円形状とし,さらにインレット(ハンドレールの入り込み口)端部の樹脂をシンプルな形状として最小化を図り,ハンドレールを際立たせる意匠性の高い欄干としている。また,パネル材質がステンレスのEPタイプも,ガラスのLタイプ・ENタイプと同じ断面形状の構成とした。
図3|フレームレス欄干照明:Lタイプ(TX-L)フレームレスな欄干にスリムな照明を組み合わせ,点灯範囲を拡張することで,これまでにない新しい欄干照明を実現した。
エスカレーター利用時の安全性,安心感を高める機能,省エネルギー機能について,従来機種「VXシリーズ」に引き続き採用した。
ズボンの裾や靴などがスカートガードに接触しにくくする,日立独自仕様として開発したスカートモールの全域にわたり,LED照明を組み込んだ。スカートモールと一体化したスリムな照明は,これまでにない新しいスタイルの照明としてエスカレーターを演出する。また,足元照明としての機能も有しており,意匠性と機能性の両方を提供する(図4参照)。
図4|スカートモール照明日立独自の仕様として開発したスカートモールの全域にわたり,LED(Light-emitting Diode)照明を組み込んだ。スカートモールと一体化したスリムな照明は,これまでにない新しいスタイルの照明としてエスカレーターを演出する。
エスカレーター起動時に約3秒間の緩速度自動診断を行い,稼働情報の収集と機器の自動診断を実施する※3)。また,稼働中もインバータの負荷情報から利用者の有無を判断し,利用者がいない場合は自動診断を実施する。この際に得られた情報から,故障や破損が発生する予兆を事前に捉え,最適なメンテナンス時期の算出と予防保全を行う。
本章では,エスカレーターの除菌・抗菌や,利用時のソーシャルディスタンシングに役立てるべく既存のソリューション群を体系化した感染症リスク軽減ソリューション※1)について述べる。
エスカレーターを安全に利用するために重要なハンドレールを握る動作が,新型コロナウイルスの感染拡大によって敬遠される時代となった。これに対し,ハンドレールを清潔に保ち,安心してハンドレールを握ってもらうためのソリューションをラインアップした。
図5|ハンドレール除菌装置細菌やウイルスに対して除菌効果のあるUV-C(Ultraviolet-C:深紫外線)LEDにより,ハンドレール表面を除菌することで感染症リスク軽減に寄与する。
通勤時間帯の駅舎などにおいて見られる,エスカレーターの乗客の密集状態の発生を回避するべく,音声や視覚による注意喚起を行うソリューションをラインアップした。
「TXシリーズ」は,ステップや欄干など,機能性・意匠性の充実を図ったモデルである。昇降機はB2B(Business to Business)商品でありながら,納入後は一般の利用客によって使用され,B2B2C(Business to Business to Customer)の性質を持つ。そのため,実際に機器を購入する顧客へのショールームなどでの製品紹介に加え,オンラインなどのさまざまなチャネルを活用して「TXシリーズ」の優れた機能性・意匠性を周知することで,直接の顧客のみならず利用者の日立エスカレーターに対する認知度と好感度の底上げを図り,市場での存在感を高めていく。