日立グループは「脱炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」の実現をめざす環境ビジョンの下,長期目標「日立環境イノベーション2050」を策定しており,ビルシステムビジネスユニットもこれらに準じた活動を展開している。
一方,地球環境の危機的状況を踏まえ,企業の環境活動に対するステークホルダーの要望は高まるばかりである。とりわけ中華人民共和国では,グリーン製造体系の構築が宣言されており,生産拠点の多くを中国に置くビルシステムビジネスユニットでは,この動向を先取りした環境活動を推進している。ここでは,中国国内でエレベーターの製造を手掛ける日立電梯(中国)有限公司の環境活動について紹介する。
ビルシステムビジネスユニットの環境活動は,主な生産拠点である日本の水戸事業所,中華人民共和国の日立電梯(中国)有限公司(以下,「日立電梯(中国)」と記す。)グループの工場(7拠点)を中心に,日立グループ環境ビジョンの「脱炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」を実現し,持続可能な社会を構築する環境経営を推進している(図1参照)。
こうした中,中国は2015年に「中国製造2025」を発布し,「製造強国」へのロードマップを示した。その施策の一つに,「国家グリーン製造体系」の構築がある。これに対し,日立電梯(中国)グループは計画的なエントリーを行い,2020年9月には完成品工場全6拠点が国家グリーン工場の認証を取得した。ここではその取り組みの内容と直近の動向,日立電梯(中国)グループがめざす姿について述べる。
日立電梯(中国)は,1995年に設立され,エレベーター,エスカレーター,動く歩道,インテリジェントセキュリティシステムなどの研究開発,製造,販売,据付,保守,改修を行っている。中国国内の主要都市に70以上の支店を置き,広州(広州工場,エスカレーター工場,モータ工場,電気部品工場),天津,上海,成都に製造拠点を持つ。現在は年間生産能力が12万台を超える日立グループ最大の昇降機事業企業である。
「国家グリーン製造体系」は中国政府が製造業の競争力強化を目的に策定した「中国製造2025」のプロジェクトの一つである。
グリーン製造は,製品の機能,品質,コストを保証しながら,環境への影響と資源の利用効率を総合的に考慮した現代的な製造モデルである。技術の革新とシステムの最適化を通じ,設計,製造,物流,使用,回収,解体,再利用などのライフサイクル全体において,環境はもとより人々の健康と社会への影響を最小限に抑え,資源とエネルギーの利用率を最大化するとともに,企業の経済的利益と社会的利益を調和させ,最適化する。
国家グリーン製造体系とは,高効率でクリーン,低炭素,かつ循環型のグリーン製造体系を確立し,業界のベンチマークとなるようなグリーン製造の模範企業としてグローバル市場のリーダーをめざすものであり,「国家グリーン工場」,「グリーン設計製品」,「グリーン工業団地」,「グリーンサプライチェーン」の四つのカテゴリに分けられる1)。
このうち,「国家グリーン工場」は,土地利用の集約化,原材料の無害化,生産のクリーン化,廃棄物の資源化,エネルギーの低炭素化を実現する工場であるとともに,グリーン製造の実施主体であり,製造プロセスのグリーン化に重点を置いている工場を指し,認定に際しては,「国家グリーン工場評価通則(GB/T 36132-2018)」の要求事項に基づき,第三者による評価と政府の工業・情報化部門による審査に合格する必要がある(表1参照)。
また「グリーンサプライチェーン」は,環境保護と省資源の考え方をサプライチェーン全体に浸透させる概念である。製品設計および原材料の調達,生産,輸送,保管,販売,使用,廃棄までのすべてのプロセスにおいて,企業の経済活動と環境保護を調和させ,上流と下流の企業の資源利用効率を向上させて環境パフォーマンスを改善するとともに,資源利用の効率化と環境負荷の最小化を図り,サプライチェーン企業のグリーン化を目標とするものである。認定に際しては,「グリーンサプライチェーン管理評価要求(GB/T 33635-2017)」に基づき,第三者による評価と政府の工業・情報化部門による審査に合格する必要がある(表2参照)。
ここでは,国家グリーン工場とグリーンサプライチェーンの認定取得に向けた日立電梯(中国)グループの取り組みを紹介する。
表1│『国家グリーン工場評価通則』(GB/T 36132-2018)の要求事項と評価指標
日立電梯(中国)グループは長年にわたって経済効率の向上を図るとともに,環境と社会が調和する関係を最重要視し,「社会と環境のWin-Winな共生」の理念を堅持してきた。サプライチェーンの環境保護,省エネルギー,低炭素,排出削減などのグリーン活動に積極的に参画し,業界のリーディングカンパニーとして歩んでいる。
日立電梯(中国)は環境保護活動を発展させ,環境保護と生産性を両立しながら,継続的にクリーン生産の最適化,グリーン原材料の選定,製品の省エネルギー性向上,グリーン梱包の採用,据付工法の改善を実施してきた。また,グリーンサプライチェーン管理システムを構築し,工場の情報化とスマート化を推進することで,グリーン製造による生産システムを築いてきた。以下にその例を示す。
「国家グリーン製造体系」が策定されて以来,日立電梯(中国)グループは積極的にその実現に取り組み,7拠点の工場のうち6拠点が「国家グリーン工場」の認定を取得し,残る1拠点についても現在,申請を進めている。また,日立電梯(中国)グループとして「グリーンサプライチェーン管理企業」の認定も取得し,業界のリーディングカンパニーのとしての立ち位置を確立した。
広州市に位置するモータ工場が日立電梯(中国)グループで初めて「国家グリーン工場」の認定を受けた当時,広東省で同認定を受けていたのはわずか27社であった2)。また,日立電梯(中国)グループが「グリーンサプライチェーン管理企業」の認定を受けた時点で,広東省で同認定を取得していた企業はさらに少ない11社であり3),日立電梯(中国)の取り組みの先進性が表れていると考える。
グリーン製造体系の各種認定を受けることによって,公的プロジェクトの優先調達,政策支援といった恩恵も得られる。認定企業であるということが信頼につながり,日立電梯(中国)の知名度とブランドイメージが向上し,製品の入札競争力が強化された。また,60〜100万元の補助金を獲得する機会も生まれている(図5参照)。
図5│「国家グリーン工場」認定証(左)と「グリーンサプライチェーン管理企業」認定証(右)
日立電梯(中国)では今後,日立グループの各事業所(ファクトリー・オフィス)から発生するCO2排出量を2030年度までに2010年度比で実質100%削減することをめざす「日立カーボンニュートラル2030」を実現するため,省エネルギープロジェクトならびに太陽光発電の導入を推進していく。
工場を含めた自社の事業所のカーボンニュートラルを2030年までに達成する「日立カーボンニュートラル2030」の宣言を受け,日立電梯(中国)の各生産拠点では,最大限の省エネルギーと最大規模の太陽光発電設備の導入を軸に計画を取りまとめている。これらの活動を強力に推進し,カーボンニュートラルの早期達成を果たすことにより,脱炭素社会の実現に貢献していく。