ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

GLOBAL INNOVATION REPORT

「国家グリーン製造体系」への貢献とカーボンニュートラルの実現へ

日立電梯(中国)グループにおける環境への取り組み

ハイライト

日立グループは「脱炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」の実現をめざす環境ビジョンの下,長期目標「日立環境イノベーション2050」を策定しており,ビルシステムビジネスユニットもこれらに準じた活動を展開している。

一方,地球環境の危機的状況を踏まえ,企業の環境活動に対するステークホルダーの要望は高まるばかりである。とりわけ中華人民共和国では,グリーン製造体系の構築が宣言されており,生産拠点の多くを中国に置くビルシステムビジネスユニットでは,この動向を先取りした環境活動を推進している。ここでは,中国国内でエレベーターの製造を手掛ける日立電梯(中国)有限公司の環境活動について紹介する。

目次

執筆者紹介

山本 修

  • 株式会社日立ビルシステム 安全衛生環境推進本部 環境推進センター 所属
  • 現在,ビルシステムビジネスユニットの環境経営取りまとめ業務に従事

谭 暹光

  • 日立電梯(中国)有限公司 品質保証総部 所属
  • 現在,日立電梯(中国)製品の品質保証業務および環境活動取りまとめ業務に従事

吴 静琳

  • 日立電梯(中国)有限公司 品質保証総部 所属
  • 現在,日立電梯(中国)製品の品質保証業務および通訳に従事

1. はじめに

ビルシステムビジネスユニットの環境活動は,主な生産拠点である日本の水戸事業所,中華人民共和国の日立電梯(中国)有限公司(以下,「日立電梯(中国)」と記す。)グループの工場(7拠点)を中心に,日立グループ環境ビジョンの「脱炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」を実現し,持続可能な社会を構築する環境経営を推進している(図1参照)。

こうした中,中国は2015年に「中国製造2025」を発布し,「製造強国」へのロードマップを示した。その施策の一つに,「国家グリーン製造体系」の構築がある。これに対し,日立電梯(中国)グループは計画的なエントリーを行い,2020年9月には完成品工場全6拠点が国家グリーン工場の認証を取得した。ここではその取り組みの内容と直近の動向,日立電梯(中国)グループがめざす姿について述べる。

図1│ビルシステムビジネスユニットの主要拠点図1│ビルシステムビジネスユニットの主要拠点

2. 日立電梯(中国)グループの環境活動

日立電梯(中国)は,1995年に設立され,エレベーター,エスカレーター,動く歩道,インテリジェントセキュリティシステムなどの研究開発,製造,販売,据付,保守,改修を行っている。中国国内の主要都市に70以上の支店を置き,広州(広州工場,エスカレーター工場,モータ工場,電気部品工場),天津,上海,成都に製造拠点を持つ。現在は年間生産能力が12万台を超える日立グループ最大の昇降機事業企業である。

2.1 国家グリーン製造体系の概要

「国家グリーン製造体系」は中国政府が製造業の競争力強化を目的に策定した「中国製造2025」のプロジェクトの一つである。

グリーン製造は,製品の機能,品質,コストを保証しながら,環境への影響と資源の利用効率を総合的に考慮した現代的な製造モデルである。技術の革新とシステムの最適化を通じ,設計,製造,物流,使用,回収,解体,再利用などのライフサイクル全体において,環境はもとより人々の健康と社会への影響を最小限に抑え,資源とエネルギーの利用率を最大化するとともに,企業の経済的利益と社会的利益を調和させ,最適化する。

国家グリーン製造体系とは,高効率でクリーン,低炭素,かつ循環型のグリーン製造体系を確立し,業界のベンチマークとなるようなグリーン製造の模範企業としてグローバル市場のリーダーをめざすものであり,「国家グリーン工場」,「グリーン設計製品」,「グリーン工業団地」,「グリーンサプライチェーン」の四つのカテゴリに分けられる1)

このうち,「国家グリーン工場」は,土地利用の集約化,原材料の無害化,生産のクリーン化,廃棄物の資源化,エネルギーの低炭素化を実現する工場であるとともに,グリーン製造の実施主体であり,製造プロセスのグリーン化に重点を置いている工場を指し,認定に際しては,「国家グリーン工場評価通則(GB/T 36132-2018)」の要求事項に基づき,第三者による評価と政府の工業・情報化部門による審査に合格する必要がある(表1参照)。

また「グリーンサプライチェーン」は,環境保護と省資源の考え方をサプライチェーン全体に浸透させる概念である。製品設計および原材料の調達,生産,輸送,保管,販売,使用,廃棄までのすべてのプロセスにおいて,企業の経済活動と環境保護を調和させ,上流と下流の企業の資源利用効率を向上させて環境パフォーマンスを改善するとともに,資源利用の効率化と環境負荷の最小化を図り,サプライチェーン企業のグリーン化を目標とするものである。認定に際しては,「グリーンサプライチェーン管理評価要求(GB/T 33635-2017)」に基づき,第三者による評価と政府の工業・情報化部門による審査に合格する必要がある(表2参照)。

ここでは,国家グリーン工場とグリーンサプライチェーンの認定取得に向けた日立電梯(中国)グループの取り組みを紹介する。

表1│『国家グリーン工場評価通則』(GB/T 36132-2018)の要求事項と評価指標表1│『国家グリーン工場評価通則』(GB/T 36132-2018)の要求事項と評価指標

表2│グリーンサプライチェーン管理評価要求と評価指標表2│グリーンサプライチェーン管理評価要求と評価指標

2.2 日立電梯(中国)グループにおけるグリーン製造の成果

日立電梯(中国)グループは長年にわたって経済効率の向上を図るとともに,環境と社会が調和する関係を最重要視し,「社会と環境のWin-Winな共生」の理念を堅持してきた。サプライチェーンの環境保護,省エネルギー,低炭素,排出削減などのグリーン活動に積極的に参画し,業界のリーディングカンパニーとして歩んでいる。

日立電梯(中国)は環境保護活動を発展させ,環境保護と生産性を両立しながら,継続的にクリーン生産の最適化,グリーン原材料の選定,製品の省エネルギー性向上,グリーン梱包の採用,据付工法の改善を実施してきた。また,グリーンサプライチェーン管理システムを構築し,工場の情報化とスマート化を推進することで,グリーン製造による生産システムを築いてきた。以下にその例を示す。

  1. 環境行動計画の策定
    省エネルギー,環境保護,低炭素と高効率化を重視し,ガバナンス,低炭素社会,高度循環社会,自然共生社会の四つの課題に対して環境行動計画を制定する。また,その時々の状況に合わせて省エネルギー設備投資計画を毎年策定し,管理者の認識を統一するとともに責任者を定め,環境保護とグリーン活動を重要課題として取り組んでいる。
  2. グリーン材料の運用
    製造工程で環境に配慮した材料を使用することにより,グリーン製品の管理と生産体系の確立を推進しており,有害な原材料や補材を削減するまたは切り替えるために努力を重ねている。近年は原材料と補材の選定において,塗装工程では電着工法の採用,油性塗料の水性塗料への切り替え,VOC(Volatile Organic Compounds)を含まない粉体塗装への切り替えなど,接着工程ではアルコール無洗浄工法の採用などの施策を実施し,原材料の低毒性または無害化を図り,生産におけるVOCと汚染物質の排出量を低減した。
  3. グリーン生産の適用
    製造工程で低エネルギー機器やグリーン製造工法などを適用することにより,製品のグリーン製造とグリーン生産を図っている。
    例えば,空調システムには低エネルギー消費のインバータ制御を適用し,かつ中央制御式を採用している。空気圧縮機やポンプにも,インバータ制御を適用している。
    また,水資源の再利用に重点を置き,既存の汚水処理システムに,中水リサイクルシステム,生産用純水精製過程で発生する排水のリサイクル, 景観用水濾過リサイクル装置などを設置・増強し,水の利用効率を高め,水道水の使用量を低減した。具体的な例として,上海工場では生産工程で使用した水の大部分を浄化処理し,生産ライン,トイレの洗浄,緑化および場内の景観用の池で再利用している(図2参照)。
    さらに,塗装ラインでは先進的な塗装工法技術を適用している。下地塗りでは電着工法を採用することにより,塗料の付着率を向上した。また,標準色の上塗りは粉体塗装工法に変更したことで,VOCの排出量を減らし,塗料かすを約70%削減した。
  4. 製品の環境配慮性の向上
    製品については,軽量化,有害物質の削減または代替,部品の効率的なリサイクルを推進している。また,ライフサイクルの観点から,原材料・部品調達,製造,流通,廃棄,リサイクルの段階に分けて製品の炭素排出量に配慮している。現在,エレベーターとエスカレーターの主要機種にて製品ライフサイクルアセスメントを実施しており,ドイツの認定機関TÜV(Technischer Überwachungsverein)によるエネルギー消費認証を受査し,Aランクを取得した。
    日立電梯(中国)の製品開発においては,エネルギー回生技術,EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立)技術,かごフレーム溶接レス技術,永久磁石同期モータ技術,群管理行先階予約技術などを適用し,省エネルギー,省スペース,効率向上などを推進していく。
  5. グリーン梱包の採用
    製品の梱包に対しても梱包材と工法の改善を行い,プロジェクト開始前の2014年と比較して木材使用量を20%削減し,プラスチックシートの使用量も削減した。コストを低減できたほか,梱包作業時間が短縮され,生産効率が上がった。改良後の梱包は,製品に対する保護性も確保され,梱包の品質も向上している(図3参照)。
  6. 製品据付工法の最適化
    昇降機の据付工法については,日立が施工効率と施工品質を上げるために独自に開発した足場レス工法に改善した。この工法の導入により,足場用パイプの輸送のための燃料なども削減された(図4参照)。
  7. グリーンサプライチェーンの管理
    日立電梯(中国)主導で取引先,物流業者,販売業者,エンドユーザーと連合を組み,原材料の選定,工法技術の改善,自動化省エネルギー機器の導入,グリーン物流,アフターサービス,製品回収方法の確立などを通じて,有害物質の代替と削減,解体可能設計,再製可能設計,再生可能材料の選定といった重要技術の適用を推進している。さらに,サプライチェーンプロセスで発生する廃棄物や副産物を資源化・無害化し,サプライヤに対する環境管理を強化した。例えば,社内に調達工程技術科を設置し,サプライヤに協力して省エネルギーに関わる潜在能力を開拓し,生産工法を改善した。「日立グループサプライチェーンCSR調達マニュアル」に基づき,サプライヤのCSR(Corporate Social Responsibility)現場審査を第三者認証機関に委託して実施している。また,社内規則である「調達総部取引先査定準則」,「環境汚染地図ブラックリスト査定指示書」によって,サプライヤの環境・社会責任に対する評価をルール化し,定期的に更新している。

図2│上海工場に設置された景観用の池図2│上海工場に設置された景観用の池

図3│グリーン梱包の採用図3│グリーン梱包の採用

図4│足場レス工法図4│足場レス工法

2.3 国家グリーン製造体系の認定状況

「国家グリーン製造体系」が策定されて以来,日立電梯(中国)グループは積極的にその実現に取り組み,7拠点の工場のうち6拠点が「国家グリーン工場」の認定を取得し,残る1拠点についても現在,申請を進めている。また,日立電梯(中国)グループとして「グリーンサプライチェーン管理企業」の認定も取得し,業界のリーディングカンパニーのとしての立ち位置を確立した。

広州市に位置するモータ工場が日立電梯(中国)グループで初めて「国家グリーン工場」の認定を受けた当時,広東省で同認定を受けていたのはわずか27社であった2)。また,日立電梯(中国)グループが「グリーンサプライチェーン管理企業」の認定を受けた時点で,広東省で同認定を取得していた企業はさらに少ない11社であり3),日立電梯(中国)の取り組みの先進性が表れていると考える。

グリーン製造体系の各種認定を受けることによって,公的プロジェクトの優先調達,政策支援といった恩恵も得られる。認定企業であるということが信頼につながり,日立電梯(中国)の知名度とブランドイメージが向上し,製品の入札競争力が強化された。また,60〜100万元の補助金を獲得する機会も生まれている(図5参照)。

図5│「国家グリーン工場」認定証(左)と「グリーンサプライチェーン管理企業」認定証(右)図5│「国家グリーン工場」認定証(左)と「グリーンサプライチェーン管理企業」認定証(右)

2.4 今後の計画

図6│エスカレーター工場の太陽光発電設備図6│エスカレーター工場の太陽光発電設備

日立電梯(中国)では今後,日立グループの各事業所(ファクトリー・オフィス)から発生するCO2排出量を2030年度までに2010年度比で実質100%削減することをめざす「日立カーボンニュートラル2030」を実現するため,省エネルギープロジェクトならびに太陽光発電の導入を推進していく。

  1. 省エネルギープロジェクトによるCO2排出量削減
    日立電梯(中国)グループは,2011年から省エネルギープロジェクトを推進している。各種施策によるCO2削減量は4,788 tあり,基準年(2010年)の約16%に相当している。一方,生産台数が約5万台(2010年)から12万台(2020年)と2.4倍になっているが,生産効率の向上により,CO2の排出量は9%の増加に抑えることができた。
    今後の主な活動として,照明のLED(Light-emitting Diode)化とスマート化,老朽化エアコンの更新と制御のスマート化,老朽化トランスの更新,空気圧縮機およびポンプのインバータ化と制御の最適化,老朽化生産設備の更新,給湯器のタイマー制御,フォークリフトの電動化,そしてエネルギーオンライン監視システムの導入と管理の精細化を推進していく。
    現在までの成果を踏まえて,今後CO2排出量を約2,100 t(基準年の約7%に相当)削減する見込みである。さらに,2030年までにすべての省エネルギープロジェクトを合わせて基準年のCO2排出量の約24%に相当する量を削減する計画を策定している。
  2. 太陽光発電の導入
    エスカレーター工場では,2020年に第三者であるエネルギー建設投資会社に依頼して工場屋根に設備を設置し,自家消費用の電力の供給を受けるPPA(Power Purchase Agreement)方式で,太陽光発電設備を導入した(図6参照)。このため初期投資コストはゼロである一方で,年間発電量は2,200 MWhに上り,CO2排出量は年間1,166 t削減することができた。また,自家使用電気の割合は60%に達する。
    今後の計画として,2021年から2022年にかけて日立電梯(中国)グループの生産敷地内への太陽光発電設備の導入を推進する。これにより,1年当たり1万6,200 MWhの発電量と,8,586 tのCO2排出量削減を見込んでいる。これは,基準年のCO2排出量の30%に相当する計算である。

3. おわりに

工場を含めた自社の事業所のカーボンニュートラルを2030年までに達成する「日立カーボンニュートラル2030」の宣言を受け,日立電梯(中国)の各生産拠点では,最大限の省エネルギーと最大規模の太陽光発電設備の導入を軸に計画を取りまとめている。これらの活動を強力に推進し,カーボンニュートラルの早期達成を果たすことにより,脱炭素社会の実現に貢献していく。

Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。