7 持続可能な未来のためのモビリティを:人々の暮らしを支える鉄道とビルシステム:日立評論

日立評論

持続可能な未来のためのモビリティを

人々の暮らしを支える鉄道とビルシステム

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日立評論

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持続可能な未来のためのモビリティを

人々の暮らしを支える鉄道とビルシステム

ハイライト

気候変動や都市への人口集中といった社会課題の解決と,持続可能な社会の実現に向けた議論が世界中で活発化している。こうした中,CO2排出量の少ない移動手段である鉄道と,高層化するビル内における人々の移動を担う昇降機が改めて注目を集めている。アンドリュー・バー鉄道ビジネスユニットCEOと光冨 眞哉ビルシステムビジネスユニットCEOが,鉄道とビルシステムの各事業について,今後の展望を語った。

目次

COVID-19後の未来に向けて加速する鉄道システムの変革

アンドリュー・バーアンドリュー・バー
日立製作所 執行役常務
鉄道ビジネスユニット CEO

納入予定のワシトンメトロ向け車両納入予定のワシトンメトロ向け車両

日立のモビリティセクターは,常に未来を見据えています。今,世界で何が起きているのか,長期的なトレンドを把握し,それによって今後数十年で人々の移動がどのように変化するかを理解しようと努めています。そうすることで,将来必要となるソリューションを提供するために,今から準備を進めることができるのです。

しかし,そうした手法をもってしても,18か月前,COVID-19の世界的な大流行と,それによってもたらされる変化を予測できた人は,ほとんどいなかったと言っても過言ではありません。COVID-19は私たちの生活や移動,仕事などに,広範囲にわたって多大な影響を及ぼしました。こうした困難な状況の中でも,世界中のチームが仲間はもちろん,お客さまやサプライヤを守るべく,業務を取り巻く変化に適応し,取り組んでいることを誇りに思っています。

私たちは,多くの現場や製造拠点で,こうした変化に適応しながら業務に取り組んできました。それによって事業の中断を最小限に抑え,製造とプロジェクト進行を継続し,お客さまにとって必要不可欠な移動を提供し続けることができました。鉄道利用者数が回復するのには時間がかかるかもしれませんが,Hitachi Rail社の事業は引き続き堅調です。

コア市場のビジネスを強化し,新たな輸送ソリューションへの需要が高い地域で事業を拡大するという戦略は順調であり,米国と欧州で大型契約を獲得しています。

南北アメリカでの成功は,実績の面でも,ケイパビリティの成長という面でも,特に喜ばしいことです。

サンフランシスコの信号システムのアップグレードや,ワシントンメトロ向けの車両製造とそれに伴う新工場の設立を経て,日立は北米で2番目に大きなプレーヤーになります。これらのプロジェクトは今後,南北アメリカや中東,アジア太平洋といった成長市場で,車両,信号,ターンキーの事業を拡大していくうえで重要な実績となります。

38か国に約1万2,000人の従業員を抱えるHitachi Rail社では,グローバルに事業部門を統合することに引き続き重点を置いています。これにより,ビジネスパートナーにさまざまなモビリティサービスを提供できるだけでなく,コスト削減と製品の簡略化を推進し,高品質で信頼性の高いソリューションの提供に注力できます。これは私たち鉄道部門にとって,競争が激しく,再編が進むグローバル市場におけるビジネスの重要な基本です。

現在,Hitachi Rail社の売上構成比率は40%が車両製造,40%がS&T(Signal and Turnkey)ソリューション,20%がOS&M(Operation Service and Maintenance)となっていますが,今後数年の間にこれらの比率は変化すると見込んでいます。私たちは輸送システムの運用・構築・保守の面で豊富な経験を重ねており,OS&M事業はさらに拡大していくことが予想されます。

世界のモビリティ市場では,さまざまな場面で,私たちが予測した変化とそれに伴うビジネスの機会が,予想よりも早く訪れています。引っ越しをしたい,犬を飼いたい,ギターを習いたいなど,今まで思ってはいても実行に移せなかったことを多くの人がこのコロナ禍で実践したように,マクロのレベルでも同じことが起こりつつあります。日立にとっても戦略上のカギとなっているデジタル化,新技術の採用,そして持続可能性の向上について,世界の交通事業者や政府が意欲的に取り組んでいます。日立はお客さまの成功に向けて,今,そして将来にわたって必要となるソリューションを提供できるよう,持続可能でデジタルなコネクティビティの開拓に注力しています。

日立は,脱炭素化とIoT(Internet of Things),モビリティ関連製品を統合したソリューションを通じて,世界のグリーン・リカバリーを推進するべく,以下に挙げる三つの目標を掲げています。

第一に,インフラ,プロダクト,製造工程の自動化,メンテナンスなど,さまざまな分野でAIを活用する,デジタルレールのリーダーになること。次に,蓄電池車両や,航空機・自動車に代わる移動手段の提供を通じて,持続可能なモビリティのパイオニアとなること。そして,安全な移動と人流管理を通じてCOVID-19からの復興の推進力となることです。

鉄道事業部門内の取り組みはもちろん,M&A(Mergers and Acquisitions)や他の日立グループとの協創によって,多くの場面でイノベーションや新技術が生まれています。Lumadaのプラットフォームとも関連の深いGlobalLogic社のM&Aは,モビリティセクターのお客さまとともに革新的なソリューションとシナジーを創出する素晴らしい機会となるでしょう。

また,小規模ではあるものの,デジタル関連企業Perpetuum社のM&Aによって,同社の持つワイヤレスなセルフパワーセンサーのソリューションと,Hitachi Rail社のOS&Mの運用を組み合わせ,鉄道事業者のより安全で安定した,信頼性の高い操業を強力にサポートします。

2021年,日立は脱炭素ソリューションの進化に強い関心を持って取り組んでいます。日立がCOP26のプリンシパルパートナーとなったことは,脱炭素化への意欲とリーダーシップの表明でもあります。日本では既に2016年から蓄電池車両が運行されていますが,このたびイタリアで試験が行われた蓄電池トラムとトライモード蓄電池ハイブリッド車両も,素晴らしい新開発です。これらの車両は,ロンドンと英国南西部を結ぶ鉄道への蓄電池導入に追加する形で受注しました。さらに,日立ABBパワーグリッド社との連携により,お客さまに充電と充電池の統合的なソリューションを提供できるようになりました。最後に,日本において東日本旅客鉄道およびトヨタ自動車と共同開発するハイブリッド(燃料電池)試験車両では,CO2を排出しない別の代替燃料ソリューションも提供します。

CO2削減に向けた日立の取り組みにおける最大の推進力は,依然として航空機や自動車による移動から鉄道の利用へというモーダルシフトにあります。この取り組みと連動して,利用者に今の鉄道サービス,あるいは新しい鉄道サービスの利用を奨励することで,COVID-19後の利用者数の回復を支援していく所存です。インテリジェントな人流管理や,スマートな乗客情報システムの活用など,革新的なソリューションによって混雑を低減し,利用者の安心感を高めることで実現をめざします。

激動の18か月を経て,世界ではこれから何が起こるのでしょうか。デジタルでつながり,持続可能な輸送手段を採用したいというパートナー企業のニーズは,かつてないほどに高まっています。これは,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という,創業以来変わることのない日立の企業理念を示す好機となります。そしてこのビジョンの下,日立は順調に事業を調整し,未来に向かって進んでいきます。

ニューノーマル時代の新たな価値を提案するビルシステム事業

光冨 眞哉光冨 眞哉
日立製作所 執行役常務
ビルシステムビジネスユニット CEO

エレベーター試験塔「H1 TOWER」エレベーター試験塔「H1 TOWER」

標準型エレベーター新モデル「アーバンエース HF」標準型エレベーター新モデル「アーバンエース HF」

日立は,1920年代にエレベーターの研究開発を開始し,現在に至るまで,昇降機(エレベーター・エスカレーター)を中心とするビルシステム事業を展開しています。1968年に日本初の超高層ビルである霞が関ビルディングに,当時の国内最高速となる定格速度分速300mの高速エレベーターを納入するなど,製品開発力で市場を牽引するとともに,1950年代には海外輸出を開始し,グローバルにおける都市化の進展を支えてきました。2010年には,当時のエレベーター研究施設としては世界で最も高い地上高213.5mの「G1TOWER」を水戸事業所内に完成させ,2019年には,世界最高速※)となる定格速度分速1,260m/分の超高速エレベーターを中国の超高層複合ビル「広州周大福金融中心」に納入しています。

その中国では,1980年以降本格的に昇降機事業の展開を始め,1995年には広州に製造・販売・サービスを担う合弁会社を設立しました。その後,急速な経済成長とともに,世界の昇降機新設需要の約6割を占める大市場に成長した中国において,日立はトップクラスの新設受注台数シェアを獲得し続けています。2020年には,広州の研究開発・製造拠点内に,世界トップクラスの高さ※)となる地上高273.8mのエレベーター試験塔「H1 TOWER」を完成させ,技術面においても市場をリードしています。

また2020年には,中国・アジアにおける昇降機事業基盤の強化に向け,台湾最大の昇降機事業会社である永大機電工業股份有限公司を連結子会社化しました。今後,永大機電との事業統合を推進し,さまざまなシナジーの創出を図り,世界最大の市場である中国におけるマーケットリーダーポジションを確固たるものにするとともに,中国事業のスケールメリットを最大限に生かして,アジアなどの有望市場での事業拡大をめざします。

一方で,私たちは昇降機製品の開発・製造とともに,遠隔監視技術を軸とした保全サービスの高度化にも注力してきました。1985年に東京と大阪に管制センターを開設し,1987年には昇降機の異常を自動通報する遠隔監視サービスを開始,その後も1994年に稼働データを活用した予防保全を実現する予兆診断機能を追加するなど,継続的に機能を強化し,高度な遠隔監視・保全サービスを実現しています。昇降機以外のビル設備の遠隔監視サービスも1980年代から開始しており,現在ではグローバルで40万台を超える昇降機をはじめとしたビル設備の遠隔監視を行っています。また,昇降機のリニューアル需要への対応も加速しており,リニューアルによって高度な遠隔監視・保全サービスの提供を可能にしています。

OT(Operational Technology)×IT×プロダクトを総合的に提供して顧客と社会の課題を解決することが日立の経営ビジョンですが,ビルシステム事業は,昇降機をはじめとするプロダクト,そして保全に代表されるOT,さらには日立グループ内に強力なIT事業を有しており,それらを組み合わせることによって特に強みを発揮できる事業領域であると考えています。長年にわたり事業活動で培ってきたドメインナレッジ(業務知識・経験)と,遠隔監視システムで接続している昇降機などのビル設備から収集される稼働データを掛け合わせてLumadaのプラットフォームで分析することで,ビル管理の効率化に大きく貢献することができます。ビル分野では,これまでも先駆的にデジタル技術活用に取り組んできており,IoT(Internet of Things)技術で蓄積した昇降機の稼働データの解析・活用により,信頼性の高い製品の開発・提供を行うとともに,AI(Artificial Intelligence)を活用した高品質な遠隔監視・保全サービスを提供するなど,昇降機の新設から保全,リニューアルまでのバリューチェーン全体における提供価値の最大化を図っています。既に売上収益の20%がLumada事業となっていますが,今後は,ビル設備の稼働データなどを収集・集約し,ビル管理の効率化や品質の向上などを実現するビルIoTソリューション「BuilMirai」や,ビルの就業者に対して新たな体験価値をスマートフォンを通じて提供する就業者ソリューション「BuilPass」など,顧客の新たなニーズに応える製品・サービスの提供により,ビルソリューションのマーケットリーダーとなることをめざします。

2020年初め頃からの新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を契機として,社会のあり方や人々の生活様式が変容しています。ビル分野においても,感染リスクの低減に向けて,空気の入れ替えや,ソーシャル・ディスタンシング,共用設備の浄化,共用設備に手を触れない形での移動,リモートワークの推進をはじめとする働き方改革など,さまざまなニーズ・社会課題が生まれ,新たな対応が求められています。一方で,気候変動を背景として,災害に対するレジリエンスの向上や,CO2排出量の削減に対するニーズも高まっています。

ビルシステム事業においては,建物での感染症リスク軽減に向けて,エレベーターの乗りかご内の空気の浄化や,乗り場や乗りかご内の密集回避,タッチレスでの建物エントランスの通過やエレベーターの利用など,都市空間における安全・安心・快適な移動を実現するソリューションを迅速に開発・提供してきました。また,昇降機のライフサイクル全体でCO2排出量削減をはじめとする環境負荷低減にも積極的に取り組んでいます。

コロナ禍が象徴するように先行きが読みにくい時代となっており,オフィスや住まいのあり方,そしてお客さまのニーズも大きく変化していくと考えています。2021年4月に組織体制を大きく見直し,これまで以上にお客さまの声を速やかに取り込み,製品・サービスの開発・提供を行える体制を整えました。このたび日本国内で販売開始した標準型エレベーターの新モデル「アーバンエース HF」は,「Standard for the New Normal」として,最新の感染症リスク軽減ソリューションの適用はもちろんのこと,社会やお客さまのニーズを先取りして取り込んだ製品としています。世界的なプロダクトデザイナーである深澤直人氏監修によるシンプルな中に機能美を追求したデザインで上質な移動空間を実現するとともに,エレベーターなどのビル設備の稼働状況の確認や制御をスマートフォンで行えるビルオーナー・管理者向けダッシュボード「BUILLINK」をはじめとするLumadaのソリューションとの連携により,災害に対するレジリエンスの向上や,ビル管理業務の働き方改革にも貢献します。今後も,新たなお客さまニーズを捉えた製品・サービスをスピード感をもって開発・提供することで,ニューノーマル時代の人・ビル・社会に新たな価値を提供し,持続可能な社会の実現に貢献していきます。

※)
2021年7月現在(日立製作所調べ)。