[]快適な交通社会を実現するつながる技術・サービス化
DXおよびカーボンニュートラル達成に向け,さまざまな産業分野で,移動(モビリティ)に関わる業務の効率化や価値創出をめざし,EVシフトが加速している。その中で例えば,データの活用によるスムーズな物流や走行距離に制約のあるEVおよびバッテリー充電の管理などが具体的な課題となっている。
日立グループは,モビリティオペレータが直面する課題に対して共通基盤としてIoVプラットフォームを提供し,パートナーや顧客との協創によるエコシステム・バリューチェーンの構築に取り組んでいる。これらを通して,データ活用によるDXを促進することにより,「安全・安心」と「カーボンフリー」という新たな価値を創出していく。
モビリティ社会を取り巻く環境は近年大きく変化してきており,コネクテッド車両の普及,先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance Systems)や自動運転システム(AD:Autonomous Driving)の技術進化,EV(Electric Vehicle)化など,技術的・構造的変革が広がりつつある。さらに最近ではCOVID-19の感染防止対策として対面販売を避けるために,宅配などの商用車による物流が急速に増加している1)。
こういった変革期にあるモビリティ社会において,安全・安心とカーボンフリーを実現する新しいソリューションを提供することで,日立と商用車事業者の協創による新しいビジネスが始まると考えている。そこで,工場敷地内や鉱山・港湾などの特定領域で商用車を取り扱う事業者や,物流・配送業などで商用車を取り扱う事業者を「モビリティオペレータ」と定義し,本稿ではこのモビリティオペレータ向けに日立が創出する新しいデジタルソリューションについて述べる。
日立の考える近年のモビリティオペレータの課題としては,(1)安全・安心の実現と,(2)環境への対応の二つがある(図1参照)。
これら二つのソリューションに共通していることは,車両からデジタルデータを集めて分析し,モビリティオペレータに価値を提供することである。日立はこのプラットフォームを「IoV(Internet of Vehicles)プラットフォーム」と命名し,プラットフォーム化することであらゆるシーンに対応できるサービスの実現を目標としている。このIoVプラットフォームについては,4章にて詳細を述べる。
図1|モビリティオペレータ向け安全・安心,カーボンフリーソリューション 日立が持つLumadaに代表されるモビリティソリューションをIoVプラットフォームとしてまとめ,安全・安心とカーボンフリーを実現するソリューションとしてモビリティオペレータに提供する。
工場,港湾,道路建設のような事業領域では,ドライバーの長時間の待ち時間やドライバー不足4),安全・安心の実現が問題となっており,実際に,国土交通省ではAI(Artificial Intelligence)ターミナル5)やi-Construction※)6)のような取り組みがなされている。日立は,これらの事業領域のモビリティオペレータに対して,インフラ協調型の自動運転車両活用サービスを提供することで,各モビリティオペレータの生産性向上と安全・安心を実現する。モビリティオペレータが事業を行う限定領域(工場など私有地内,港湾,道路建設現場など)では敷地内に独自にセンサーなどを取り付けることが可能である。そのため,公道に比べて限定領域ごとに最適な環境を構築することができ,これらの事業領域に適したDXを促進することができる。
自動運転車両活用サービスでは,自動運転車両,管制センター,インフラセンサーの各コンポーネントが相互に連携しサービスを提供する。管制センターでは,車両から収集する位置や状態を利用し,各車両の移動経路の算出と管理を行う。インフラセンサーは,LiDAR(Light Detection and Ranging)などを路側に設置し,車両の死角箇所をインフラ側のセンサー情報で補うことで車両の安全性を高めている。また,インフラセンサーからの障害物情報を管制センター側に通知することで,管制センターにて通行不可な道路を考慮した動的な最適経路を算出し,車両に配信することで経路の最適化を行う。IoVプラットフォームは,これら各コンポーネントからの情報収集と情報提供を行う基盤となっており,各事業領域に適したサービスを提供する際に迅速なサービス開発・提供を実現する仕組みとなっている。
例えば,工場では,部品から製品を組み立てる組立工場と部品を保管する倉庫の間をトラックで部品輸送する。これには,ドライバーの確保と,組立工場の不足部品の連絡,倉庫での部品手配,組立工場への部品輸送が必要であった。自動運転車両活用サービスでは,不足部品の連絡,部品輸送が自動化される。管制センターで,組立工場の部品不足を受信すれば,倉庫から組立工場間を無人運転車両が部品の輸送を行う。また,データを活用すれば,部品輸送依頼の連絡のタイミングも最適化することが可能になる。日立は,これらの自動化により事業者の生産性を向上させ,インフラ協調型の自動運転によって運搬経路上の安全・安心を提供する(図2参照)。
カーボンフリーの実現のために,商用車のEVシフトが進行している。商用車は乗用車と異なり高い稼働率が求められるが,バッテリーの劣化が進むにつれて満充電から走行可能な距離は短くなるため,稼働率を維持するためにはバッテリーの綿密な管理が必要となる。日立はモビリティオペレータ向けのソリューション7)として,(1)バッテリーマネジメント(LiB-LCM:Lithium-ion Battery Life Cycle Management),(2)保守管理(CBM:Condition Based Maintenance),(3)運行管理(EVO:Electric Vehicle Operation)による,社会価値・環境価値・経済価値を提供し,物流・配送事業を行うモビリティオペレータ向けの商用車EVのライフサイクルマネジメントを支援する(図3参照)。
図3|モビリティオペレータ向けのソリューション 日立はモビリティオペレータ向けのソリューションとして,(1)バッテリーマネジメント(LiB-LCM),(2)保守管理(CBM),(3)運行管理(EVO)による社会価値・環境価値・経済価値を提供し,物流・配送事業を行うモビリティオペレータ向けの商用車EVのライフサイクルマネジメントを支援する。
IoVプラットフォームは,このようなEVのライフサイクルマネジメントによる業務の全体最適化をサポートする。
近年,コネクテッドカー時代においては,モビリティ(人やモノの移動)が従来のハードウエア中心からサービス中心に変化し,安全・環境・物流・商業といったさまざまな分野と密接に結び付きつつある9)。こうした幅広い分野で多彩なサービスを提供するためには,車体・交通データや,ユーザー・エネルギー・保険といった多様なデータを収集・活用し,価値に変える必要がある10)。
一方,こうしたさまざまなデータソースからデータを収集し活用するコネクテッドカーサービスは,関連プレイヤーとのデータ連携・活用方法が整理されておらず,サービス提供に向けて高信頼で効率的なシステム開発が課題となっている。例えば,データ収集では,車体や外付けなどのセンサー,ETC(Electronic Toll Collection)や充電設備などのインフラ,運行計画などのITシステムといった種類に富むデータソースが存在する。収集されるデータは,個人情報を保護する必要があり,またキロバイトオーダーのリアルタイムデータやギガバイトオーダーのバッチデータといった多岐にわたるデータをサポートする必要がある。さらにサービスの連携先は,車・インフラ・ITシステム・人など多様である11)。サービス開発者は,例えば高頻度で大量に収集されるプローブ情報の蓄積や大容量カメラ画像の高速処理など,異なる性質のデータを必要十分に活用可能なシステムを都度検討する必要がある。
IoVプラットフォームは,多彩なサービスの高信頼で迅速な開発に向け,さまざまなデータソースからデータを収集し活用するためのシステム基盤を提供する。IoVプラットフォームは,主にデータ収集・データ蓄積・データ加工・データ活用の機能群と,システム運用・保守,セキュリティといった共通機能群から構成される(図4参照)。各機能においては,日立が提供するコネクテッドカーサービスから得た知見を基に,多様なサービス類型ごとのリファレンスアーキテクチャやシステム構築ツールを定義する。例えば,サービス開発者は,まずIoV プラットフォーム上で構築したいサービスの類型やセキュリティランクなどを選択する。次に,該当するリファレンスアーキテクチャを参照して,システム構成を検討し,システム構築ツールのパラメータをカスタマイズして所望のサービスに適したシステムを構築する。このように,IoV プラットフォームを通じてコネクテッドカーサービスにおけるシステム基盤のベストプラクティスを用いることで,多様なモビリティサービスの高信頼で迅速な開発を実現する。
本稿では,モビリティオペレータ向けサービスの事業イメージと,課題を解決するための共通基盤となるIoVプラットフォームを紹介した。日立はIoVプラットフォームを活用して,パートナーや顧客との協創によりエコシステム・バリューチェーンを構築し,DX推進とデータ活用による価値創出に貢献していく。