日立評論

グローバル協創の進化

研究開発

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日立評論

1. デジタルを活用した協創スタイルへの変革〜問いからはじめるイノベーション:Linking Society

近年,イノベーション創出の観点から,「協創」に企業の注目が集まっている。日立は顧客協創方法論「NEXPERIENCE」の確立・活用を進め,2019年に東京・国分寺地区に「協創の森」を開設した。協創の森では,日立と多数のステークホルダーとのオープンな協創を進めてきたが,コロナ禍を受けて協創のパートナーとの出会い方,アイデア創発や課題共有の仕方をアップデートすることが必要になった。

昨今,在宅中心の就労環境が長期化する中で,具体的な協創パートナーであるビジネスパーソンや学識者,行政職員や市民の人々と,一人ひとりが地域に起こる社会的な課題を肌で感じ,それに対してネット上のコミュニティを使って自らが解決に向けて行動する事例が散見されている。

そこで,社会課題を問い直す議論を投げかけ,心躍る未来の姿を共に描いていくために,ニュースメディア「Linking Society 〜問いからはじまるつながるメディア」を2021年10月にリリースした。この場を活用して,社会の中にある潜在的な人々の想いに気づき,共感しながら,協創の種を作り社会イノベーションを加速させる取り組みを推進する。

[01]Linking Society:研究開発グループが発信するニュースメディア[01]Linking Society:研究開発グループが発信するニュースメディア

2. NEXPERIENCEのデジタル化と協創活用

[02]NEXPERIENCEのデジタル化と協創活用[02]NEXPERIENCEのデジタル化と協創活用

これまで,顧客協創を円滑に行うための手法をNEXPERIENCEとして体系化し,1,000件以上のプロジェクト適用を通じて,社会イノベーションの実現を支援してきた。現在,協創を支援するデジタルツール開発を行っており,その場で発想したアイデアを体験できる「協創プロトタイピングツール」,AI(Artificial Intelligence)で課題解決事例をレコメンドする「AI発想支援ツール」,複数業種との協創で蓄積した情報を呼び水に将来変化を洞察する「未来洞察支援ツール」を,2021年に協創活動のフラッグシップ拠点であるLumada Innovation Hub Tokyoに実装した。

これらを複数の協創プロジェクトに適用した結果,「その場で構想を形にできた」,「将来イメージを描きやすくなった」などの意見が顧客から寄せられ,将来像や実現手段の具体化を促進するといった効果を確認できた。今後は,さらなる社会イノベーションの実現に向けて手法のデジタル化を推進し,協創知見の蓄積と活用,適用プロジェクトの拡大をめざす。

3. スタートアップ連携によるオープンイノベーション

世界のスタートアップ企業への出資を通じてイノベーションのエコシステムに参加し,貢献するCVC(Corporate Venture Capital)として,2019年度に日立ベンチャー社を設立し,産業AI/IoT(Internet of Things),データマネジメント/コンピューティング,デジタルヘルスケアなどの分野のスタートアップ企業11社に出資した。また,日立ベンチャー社CEOのStefan Gabrielが,卓越したCVC活動の実践家を選定する「GCV Powerlist 2021」のTop25に選出された。

2021年10月には第2号ファンドを設立し,気候変動対応や資源循環促進などを通じた環境価値と,医療・医薬を含むヘルスケアによる社会価値を生み出すスタートアップ企業への出資を強化している。

今後も,先端技術と先進ビジネスモデルに挑戦するスタートアップ企業を発掘・支援し,日立の研究開発による先進技術の開発と,スタートアップ企業との協創の両輪で,イノベーションによる成長を実現する。

[03]スタートアップ連携によるオープンイノベーション[03]スタートアップ連携によるオープンイノベーション

4. 価値向上に向けたコネクテッド家電のデザイン

[04]日立のコネクテッド家電製品[04]日立のコネクテッド家電製品

日立では,デザインを通じて一人ひとりのQoLを高めることをめざしている。

多様化が進み変化し続ける生活者のニーズにきめ細かく応えるために,利用状況に応じてユーザーインタフェースが変化したり機能が向上したりするコネクテッド家電のデザインを推進している。1ドア冷蔵庫スマートストッカー「日立冷蔵庫コンシェルジュ」は,食材のストック量を把握し,あらかじめ登録した購入サイトでスムーズに購入することができる。洗剤自動投入機能付き洗濯機「洗濯コンシェルジュ」は,使用する洗剤の銘柄に応じて適した運転ができ,残り少なくなった洗剤の自動再注文も可能となっている。さらにはその日の天気に応じて運転設定をアドバイスしたり,好みの洗い方を学習し仕上がり具合を調整したりする。電子レンジの「ヘルシーシェフアプリ」は,ユーザーの好みの傾向からおすすめレシピを毎日提案する。また新しいレシピもアプリに更新され,レパートリーを増やしていける。

これからも,一人ひとりに寄り添い,暮らしをしっかり見つめて,使い勝手の高いデザインによりユーザーに届ける価値を向上させていく。

5. EVフリートの運用・整備のためのAIを活用したE2Eフレームワーク

EV(Electric Vehicle)市場はかつてない成長期を迎え,EVメーカーはEVの効率と効果を高める可能性を追求している。さらに,EVの運用・整備をフリートオペレータ自らが最適化できるようにする付加価値サービスの提供も検討されている。

EVの運用・整備は,内燃機関の場合とは異なる。EVは,コンポーネント(バッテリー,モータなど)の力学および航続距離最適化への影響,充電ネットワークと充電スケジュール,パフォーマンスレベルについてより深く理解していることが求められるためである。同時に,故障,修理計画,車両のアップタイムなど既知の課題についても従来同様に留意する必要がある。

日立はEVの運用・整備向けに,EV固有の課題や一般的な課題に対処し,日立エナジーのインフラを活用できる,AIを駆使したE2E(End to End)ソリューションを提供している。

これにより,EVフリートはAI技術を活用して,イベントトラッキングの効率化,不具合や故障の予測,運用と修理の最適化,修理作業の提案,車両の使用とドライバーの行動の最適化が可能になる。E2Eのアプローチは,複数のAIをプラグアンドプレイ方式で連携させ,単独のAIソリューションより高い最適化レベルを実現するフレームワークとなっている。

(日立アメリカ社)

[05]EVの運用・整備を最大限に高めるAIを活用したE2Eフレームワーク[05]EVの運用・整備を最大限に高めるAIを活用したE2Eフレームワーク

6. AIおよびMLを使用した熱間圧延設備での鋼帯形状不備の削減

鉄鋼メーカーにとって,製造された鋼帯コイルの形状不備は,重大な財務上の損失につながりかねない。熱間圧延加工後の形状が不完全な鋼帯コイルの多くは,再加工または廃棄を余儀なくされる。

日立が提供するAIベースのデジタルソリューションは,(1)製造開始前に,形状不備の根本原因を突き止めて予防措置を講じる,(2)製造中に仕上がりの形状不備を予測して対策を取ることにより,鉄鋼メーカーが鋼帯コイルの不備に起因する損失を削減し,生産性の向上を図る。根本原因分析(RCA:Route Cause Analysis)ソリューションは,多岐にわたる素材と多様な要件に合わせて形状不備の根本原因を効果的かつ効率的に特定できる。また,品質予測分析ソリューションでは,熱間圧延設備の形状計測値とセンサーデータを使用して,下流工程の鋼帯形状基準を正確に予測する。

世界最大級の鉄鋼メーカー数社による顧客体験の情報を踏まえた結果,本ソリューションは鉄鋼メーカーの品質および生産性の向上に寄与するものであることが示された。

(日立アメリカ社)

[06]AIおよびMLを使用した熱間圧延設備での鋼帯形状不備の削減[06]AIおよびMLを使用した熱間圧延設備での鋼帯形状不備の削減

7. ダークデータからの情報抽出を効率化するAIモデル開発技術

AIを用いてデータから価値を抽出する取り組みが進んでいる。日立では,活用されないまま眠っている非構造データから情報を抽出するダークデータソリューションを開発している。

書類を対象に視覚的特徴を解析する情報表現構造解析技術と,少ない学習データでAIモデルを生成する弱教師学習により,さまざまなフォーマットが混在する書類から効率的に情報抽出ができることが特徴だが,学習方法が従来と異なるため,独自のモデル開発ノウハウが必要なことや,視覚的特徴のみを使うため内容を考慮できないことなどが制約となる。

これに対し,書類の視覚的特徴を自動抽出して推薦する情報表現特徴抽出技術を開発した。これによりモデル開発の難易度を下げ,顧客への導入容易性が向上する。さらに,文章構造を抽出するAIに因果関係の学習を加えることで推論構造も抽出し,自然言語理解を実現する技術を開発した。この結果,契約書などの内容理解を前提とする書類にもユースケースを拡大できる。今後は,これらAIモデル開発技術を核に,データ収集から活用までを支援するダークデータ分析基盤化をめざす。

(日立アメリカ社)

[07]ダークデータ解析ソリューション[07]ダークデータ解析ソリューション

8. 標準化されたIoTサービスを世界各地の工場に導入するDXプロジェクト

日立Astemo株式会社は,世界140か所以上の工場のデータを共有するため,パブリッククラウドを利用したグローバルなIoTシステムの構築に取り組んでいる。この取り組みには研究開発グループも参加し,日立Astemoの工場におけるIoTの受け入れ体制の評価や,DX(デジタルトランスフォーメーション)アーキテクチャの設計,迅速な開発,テクノロジーの選定,世界全体でのデータ共有,業務の負荷軽減,アプリケーションの新たな構築や既存のアプリケーションの拡張など,さまざまな活動に貢献してきた。パブリッククラウドにおいてもLumadaのイノベーション哲学に合わせて,既存のコンポーザブルなテクノロジーを組み合わせた設計,データ管理の標準モデルの採用,開発と運用を一体化させたDevOps方式によるポータブルシステムの展開などが取り入れられている。

また,サーバレスアーキテクチャとマネージドサービスによる安全で拡張性の高い構成を実現したことで,IaC(Infrastructure as Code)によって世界各地への展開が容易となり,仕様,ソース,関連情報を共同環境で集中管理することが可能になった。こうして,システムは予定通り2021年10月から各工場に順次ロールアウトされている。今後も引き続き,将来の業務拡大に備え,自動化コンテンツの拡大やグローバルなデータ共有手法の設計に共同で取り組んでいく予定である。

(日立アメリカ社)

[08]日立AstemoのIoTシステムアーキテクチャ[08]日立AstemoのIoTシステムアーキテクチャ

9. 熱帯住宅エネルギー効率評価サービス

[09]グリーンローンの申請に利用できるエネルギー性能評価レポートを提供するTHEEAサービス[09]グリーンローンの申請に利用できるエネルギー性能評価レポートを提供するTHEEAサービス

高温多湿な熱帯気候の東南アジアでは,建物の電力消費量が消費電力全体の50%以上を占める。脱炭素社会に貢献するため,日立アジア社はシンガポールの建築建設庁よりSLEB(Super Low Energy Building:超低エネルギービル)スマートハブの開発委託を受けた。これは,地域の環境配慮型建築のためのシンガポール初のデジタルナレッジセンターである。

SLEBスマートハブでは,最先端のビッグデータ分析とAIを駆使し,環境配慮型技術の採用を促進するためのさまざまなサービスを提供している。そうしたサービスのうちの一つが,THEEA(Tropical Home Energy Efficiency Assessment:熱帯住宅エネルギー効率評価)である。THEEAは,エネルギー効率の高い家電製品やスマートホーム機能の利用状況を評価することで,住宅の消費電力の予測につなげる。THEEAによってエネルギー効率の高い住宅と認定されれば,その評価レポートを添えて,優遇金利が適用される金融機関のグリーンローンに申し込むことができる。このサービスは,近々商業用の建物にも拡大される予定である。両者を合わせれば,二酸化炭素排出量の削減と経済的なメリットを享受しながら,都市の持続可能性とエネルギー効率を維持していく街づくりに,日立アジア社は重要な役割を果たすことができる。

(日立アジア社)

10. Lumada Centerを活用した顧客協創の展開

[10]Lumada Centerとバリューチェーンマップ[10]Lumada Centerとバリューチェーンマップ

日立では,APAC(Asia-Pacific)地域におけるLumada事業推進に向けてLumada Centerを開設した。2020年には製造業,エネルギー,金融,スマートシティへと協創範囲を拡大し,研究開発グループは日立の協創方法論NEXPERIENCEを中心とした協創環境の現地化を実施した。

タイの事業環境では,同国内での技術イノベーションに加え,他の地域での先進技術をベースとした価値最大化提案を求める傾向が強く,経営に直結する顧客課題発見や日立の幅広いソリューション群への迅速な理解獲得が重要な課題となる。そこで,タイでの主要な顧客課題,国内外で蓄積したユースケースを一覧化し,タイの顧客向けに40件のユースケースに絞り込むことで,重要課題獲得を容易化するデジタルツール「バリューチェーンマップ」を開発した。すでに製造業向け営業活動への適用を通じ,タイでの顧客課題発見,Lumada事業展開を支援している。

今後,グローバルでのLumada事業拡大に向けて,Lumada Innovation Hub Tokyoと連携したツール標準化を進めるとともに,環境,スマートシティ分野での協創を拡大していく。

(日立アジア社)

11. 持続可能な未来へのトランジション

サステナブルなカーボンニュートラル社会への移行は個々の努力だけでは困難であり,顧客・パートナーとの連携による事業展開に加えて市民の行動変容なども必要である。そこで,有識者との対話や顧客・パートナーとの協創を通して,現在の社会と2050年のありたい社会を描き,将来からのバックキャストと現状の延長線(フォアキャスト)との間に生じるギャップを乗り越えるためのイノベーション手法の開発と,具体的な事業創生をめざして活動している。

2021年3月には,世界的に著名なサステナビリティの有識者との対話から,「化石燃料から再生可能エネルギーへ」,「中央集権から分散へ」など九つの移行モデルをまとめてウェブサイトで発信した。さらに,2021年11月開催のCOP26や同年12月開催の日立東大ラボ主催のフォーラムといったオープンかつグローバルな場で,ステークホルダーとの継続的な議論を交わしながら,QoLとカーボンニュートラルを両立する持続可能な未来へのトランジションを具体化している。

[11]持続可能な未来へのトランジションとギャップ[11]持続可能な未来へのトランジションとギャップ

12. 透明性確保のためのサステナブルファイナンスプラットフォーム

脱炭素目標を達成し,地球温暖化を1.5℃以内に抑えるためには,持続可能な活動やプロジェクトへの投資を増やす必要がある。そうした投資は,グリーンボンドやグリーンローン,KPI(Key Performance Indicator)にひも付けられたサステナビリティリンクローンといった金融商品によって可能だが,それには環境に配慮していることのエビデンスが必要となる。

日立は,サステナブルファイナンスプラットフォーム(SFP)を通じて,環境への配慮に関する主張についての透明性を確保することをめざしている。そのために,IoTやブロックチェーンの技術を用いて,投資家や監査人をはじめとする主要なステークホルダーにデータやKPIに関する信頼のおけるレポートを提供している。SFP開発の次なる段階は,英国の金融行為監督機構の「レギュラトリーサンドボックス」を利用して商業化の実証実験を行うことである。

また,日立はサステナブルファイナンスにおけるソートリーダーシップにも貢献している。世界自然保護基金と世界銀行によるホワイトペーパー「Spatial Finance: Challenges and Opportunities in a Changing World」の執筆には,研究開発グループも参加している。また,日立はVTTフィンランド技術研究センターと共同で,ホワイトペーパー「Sustainability transition in cities」も発行した。このホワイトペーパーでは,ケーススタディ,変化の推進要因,プロジェクトの発掘,KPI設定プロセス,融資メカニズムを取り上げている。

(日立ヨーロッパ社)

[12]サステナブルファイナンスプラットフォーム[12]サステナブルファイナンスプラットフォーム

13. 中国におけるカーボンニュートラル社会に向けた取り組み

中国は,2030年までのカーボンピークアウト,2060年までのカーボンニュートラルの達成を宣言した。電力自由化も同時進行し,再生可能エネルギーが主力電源化するとともに負荷追従型からプロシューマ型へ転換されるなど,エネルギーシステムが大きく変革する。エネルギー消費サイドでは,低圧連系の太陽光発電(PV:Photovoltaics)とEVがすでに世界最大規模で導入されているが,2030年までの10年でそれぞれ4倍,16倍まで導入拡大すると予想されている。しかし,これらの大量導入は地域系統へのインパクトが大きく,その運用制約からPV発電とEV充電の機会損失が課題となる。

そこで,清華大学と連携し,PV,EV,蓄電池,ビル機器などの分散エネルギー資源を協調運用することで,系統の運用制約を満たして地域全体のエネルギーを最適化するDERMS-DGS(Distributed Energy Resource Management System with Distribution Grid Stabilization)の開発に取り組んでいる。2030年の中国典型地域モデルでシミュレーションした結果,従来比で経済性47%向上,二酸化炭素の削減効果1.44倍を確認した。

[日立(中国)有限公司]

[13]DERMS-DGSの共同開発[13]DERMS-DGSの共同開発

14. プラグ&プレイ型設備故障予兆診断ソリューション

自動化設備を導入している工場では,設備故障による生産ラインの停止が課題となっているが,設備メーカーの提供する既存の故障予兆診断ソリューションでは,データ取得方法がそのメーカーの設備仕様に依存することが多く,さまざまなメーカーの設備を対象にしたい場合,汎用性の面で課題があった。そこで,設備メーカーごとの仕様によらず,外付けで簡単に導入できる電流センサーを用いたプラグ&プレイ型の設備故障予兆診断ソリューションを開発中である。

同じような機能を提供する設備であれば,メーカーが異なっていても,モータ,減速機,パワーアンプなど設備を構成するコンポーネントは同じであることに着目し,それらコンポーネントの故障のメカニズムと電流との相関を解析し,コンポーネント別の故障診断を行うアルゴリズムを開発した。中国現地の複数の顧客工場にてPoC(Proof of Concept)を行い,一部のコンポーネントにおいて,故障の予兆を捉えることに成功した。今後,製品化と拡販を進めながら,対象となるコンポーネント種類の拡大や診断精度の向上を図っていく。

[日立(中国)有限公司]

[14]設備故障予兆診断ソリューション[14]設備故障予兆診断ソリューション

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