日立評論

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現在,デジタル技術の急速な進歩や,自然災害・パンデミック・地政学リスクの高まりによって,企業を取り巻く環境はかつてないほど変化している。このような環境の中,社会インフラの維持・回復への対応に加えて,多くの顧客にとってビジネスレジリエンスが一層重要になっており,強靭かつ安全,さらに経営効率のよいバリューチェーンの構築が急務になっている。

このような顧客の課題に対し,日立は,拠点・企業間にまたがって販売・生産・調達・輸送業務を同期化するサプライチェーンコーディネーションサービスや,老朽化する社会インフラの保守管理を効率化する計測技術,人と自律モビリティが混在する環境で安全と効率を両立させる省人化ソリューションなどの研究開発に取り組んでいる。

1. 強靭化と経営効率を両立するサプライチェーンコーディネーションサービス

消費者の購買行動の変化による品種数と即時納入要求の増大,天災・地政学リスク,環境・社会・ガバナンス(ESG:Environment,Social,Governance)価値の高まりを受けて,製造流通業では,強靭化と経営効率を両立するサプライチェーンの再構築が急務となっている。

そこで日立は,フルバリューチェーン同期化とソーシング支援からなる「サプライチェーンコーディネーションサービス」を構想し,開発している。

フルバリューチェーン同期化は,拠点,企業間にまたがって販売,生産,調達,輸送業務を同期化する最適計画,実行指示を行う。TWX-21のサービスとして一部提供を開始している。

ソーシング支援は,従来のコスト,品質,納期,与信に加えて,ESGも考慮したトラスト評価による取引先選定,改善支援を行う。CRM(Customer Relationship Management)や評価機関による顧客情報,SNS(Social Networking Service)などのオープン情報,取引,検査,財務,CO2排出などの実績情報をリアルタイムに観測し,多角的視点で企業,拠点のトラスト評価を行う。そして,リスクが高まっている取引先のアラートを発報したり,新たな取引先候補の提示,マッチングをしたりする。さらに,評価を向上するために,日立の社内モノづくりや協創で培った業務ノウハウに基づくコンサルテーションやデジタルソリューションを提供し,顧客の事業機会の拡大を支援する。

日立は,協創を通じてこのようなフレキシブルなコミュニティ型のサプライチェーンプラットフォームを構築していく。

[01]サプライチェーンコーディネーションサービス[01]サプライチェーンコーディネーションサービス

2. 冷凍倉庫の運用保全効率化に関するソリューション開発

大型冷凍倉庫・設備を有する冷凍保管事業者では,運用コスト低減や保全業務の効率化が求められている。そこで,遠隔監視システムで収集した冷凍設備の運転・音・画像データを組み合わせて分析することで事業者を支援する冷凍設備運用効率化・保全合理化支援システム&サービスを,日立製作所産業製造ソリューション本部,日立グローバルライフソリューションズ株式会社と共同で開発した。

本ソリューションでは,画像処理によるメータ自動読取システムなどと連携して冷凍機のさまざまな稼働データを収集分析することで,運用効率化や故障予兆診断へとつなげる。運用効率化の面では,冷凍倉庫の負荷を推定し,冷却水温や冷凍機冷却能力の最適制御を行うことで,不要な電力の発生を抑制する。また保全効率化では,冷凍機の遠隔監視・予兆診断サービスと連携することで,冷凍設備全般の異常兆候を早期に発見し,効率的な保全計画を支援する。

本ソリューションは,効果検証が終了した技術から順次実用化されている。

[02]冷凍設備運用効率化・保全合理化支援システム&サービス概念図[02]冷凍設備運用効率化・保全合理化支援システム&サービス概念図

3. 人と自律機械が混在する環境での「共生安全」によるシステム制御技術

人が混在する環境に自律機械を導入する際に課題となる,安全性確保と作業効率向上のジレンマを解消すべく,安全と効率を両立する安全コンセプト「共生安全」を提案し,それを実現するシステム制御技術を開発している。

共生安全は,保護対象とするフィールド内の状況を第三者的視点から把握し,互いに認識や意思疎通のない異種システム(例えば人と自律機械)であっても,安全性と作業効率のバランスを最適化する機能を提供するものである。その主な機能としてはルール順守制御,遠隔安全保護があり,制御対象に安全ルールに基づく排他領域制御を行いながら,フィールド内でルール逸脱を検知した際は,制御対象の動作を制限する。倉庫内の自動搬送機と作業員の混在作業に共生安全を適用したシミュレーションにより,従来の速度抑制のみによる安全制御と比較し,共生安全では安全性を確保しながら作業効率を向上できることを確認した。

今後,多様なフィールドの安全保護機能として展開し,自律機械の社会実装に貢献する。

[03]共生安全コンセプトを実現する主な機能[03]共生安全コンセプトを実現する主な機能

4. 倉庫などでのラインの組み換えを迅速化するシステム制御技術

倉庫などでの物品仕分けラインの構築や組み換えにおける現場作業を削減するため,ラインを構築するコンベヤ・搬送車・ロボットアームなどの搬送機器同士が相互に位置やIDを認識することで,各機器の精密な設置位置の調整を不要化するとともに,各機器の動作制御プログラムの設定を自動化するシステム制御技術を開発した。

本技術では,各搬送機器がカメラなどのセンサーにより認識した他の機器の位置に応じて,自律的に搬送動作を変更することで,機器同士の確実な物品の受け渡しを遂行する。さらに,ライン全体を制御する統合コントローラは,接続する搬送機器同士が認識した互いの情報に基づき,ライン全体のレイアウトを把握し,各機器の動作制御プログラムを設定する。物流倉庫の自動仕分けラインを想定した三次元物理シミュレーションを用いて本技術の効果を検証したところ,従来のライン組み換えでは4日間を要していた現場作業が,1日以内に短縮可能となる見通しを得た。

今後は本技術を実際の搬送ラインへと適用して価値検証を進め,早期の実用化をめざす。

[04]搬送機器の相互認識に基づくシステム制御技術の概要[04]搬送機器の相互認識に基づくシステム制御技術の概要

5. 作業負荷を可視化する作業着型ウェアラブルAI

[05]作業着型センサー[05]作業着型センサー

労働安全性を向上するソリューション実現をめざし,ドイツ人工知能研究センター(以下,「DFKI」と記す。),DFKIスピンオフ企業のsci-track社およびスマートアパレルの開発を行う株式会社Xenomaと共同で,作業者の身体負荷を常時モニタリングするウェアラブルAI技術を開発した。

身体負荷を計測するにはセンサーを身に着ける必要があり,装着の手間や心理的抵抗感が課題となるが,普段着用する作業着に縫い込んだセンサーによって着用者の骨格情報を推定することで,着用にストレスのない身体負荷計測を実現した。作業着のセンサーは体に密着しないため,動作中の服のたわみがノイズとなるが,本技術は,動作姿勢によるセンサー位置の変化を学習することで誤差を補正する。骨格情報精度を評価した結果,関節角度推定精度が80.1%であることを確認し,身体負荷計測に十分な精度を確認した。

今後は,工場・保守・物流の現場で適用性を確認し,作業者にストレスなく着用できる特徴を生かして常時継続的に動作情報をモニタリングすることで,幅広い分野で作業者の安全向上,働きがい向上に貢献する。

6. 設備保全や製品検査を効率化する異音検知ソリューションを支える異常音検知AI技術

設備保全や製品検査を効率化する日立の異音検知ソリューションを支える異常音検知AI技術を開発している。異常音検知では,正常サンプルのみを用いて学習する「教師なし学習」が求められるが,従来は正常/異常の複雑な境界面を得ることは困難だった。これに対し,型式分類を補助タスクとして利用する密度推定方式を開発した。本方式によって教師なし学習でも複雑な境界面を得ることが可能となった。また,従来のニューラルネットワークでは突発性の音に対する異常音検知の精度が低かったが,突発性の音に適する「補間型ニューラルネットワーク」に基づく異常音検知方式を開発した。両技術とも信号処理のトップカンファレンスIEEE International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing(ICASSP)に論文が採択されている※1),※2)

今後も,これらのAI技術を高度化し,異音検知ソリューション事業の拡大を図る。

[06]型式分類を補助タスクとして利用する密度推定[06]型式分類を補助タスクとして利用する密度推定

※1)
K. Dohi, T. Endo, H. Purohit, R. Tanabe, and Y. Kawaguchi, “Flow-based self-supervised density estimation for anomalous sound detection,” in Proc. IEEE ICASSP, 2021, pp. 336-340.
※2)
K. Suefusa, T. Nishida, H. Purohit, R. Tanabe, T. Endo, and Y. Kawaguchi, “Anomalous sound detection based on interpolation deep neural network,” in Proc. IEEE ICASSP, 2020, pp. 271-275.

7. ピッキングロボットの活用促進に向けた新規物品登録を容易にするAI学習技術

EC(Electronic Commerce)の普及,パンデミック,人手不足などを背景に,倉庫や工場内でのピッキング作業自動化が求められている。AIの活用で多様な物品をピッキング対象にできるが,従来のAI学習方法では,新しい物品を追加登録する場合に学習済みの物品データも含めた再学習が必要で,学習や検証の時間と労力が課題であった。

そこで今回,ピッキングロボット搭載AI向けに,従来の1/3以下の工数で新たな物品を追加登録できる学習技術を開発した。本技術では,提案したインクリメント型AI学習により,追加する物品のみ学習することで前述の課題を解決した。今後,本技術を他のさまざまな自律・協調技術と連携させ,柔軟性と効率性を兼ね備えた物流オペレーションの自動化を実現していく予定である。

本成果の一部は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP16007)の結果得られたものである。

[07]従来のAI学習とインクリメント型AI学習の比較[07]従来のAI学習とインクリメント型AI学習の比較

8. AI応用高スループット半導体検査ソリューション

[08]AIによる画質改善[08]AIによる画質改善

近年のIT機器高度化とデータ処理量の増大に伴う半導体の増産を背景として,半導体検査SEM(Scanning Electron Microscope)には,検査精度に加えて高いスループットが求められている。そこで,半導体検査SEMにおける多数の画像を積算する画像処理に着目し,高スループットで取得できる低積算画像へのAI活用による画質改善技術を開発した。

高積算画像におけるノイズ軽減状態を再現するために,AIに撮像ノイズを除去するように学習させると,ノイズだけでなく半導体回路の形状情報も除去してしまい,検査精度が低下する。そこで,「SEMにより得られる像の輝度分布は,SEM内の物理現象と対象の形状に起因する確率分布に従う」というドメイン知識に基づき,予測画像と高積算画像の差分を評価することで,半導体回路の形状の再現とノイズの軽減を両立させるAIの学習手法を開発した。本技術により,従来比1/8の撮像数で同等精度の検査が可能な画像を予測することに成功し,高スループット化を実現した。

9. 社会インフラの運用保守を革新する漏水検知サービス

先進国を中心に高度成長期に整備された社会インフラの老朽化が進む一方,保守人員の高齢化や減少による保守品質の低下が社会課題となっている。水道管においても,音聴棒を用いた人手の巡回調査による保守が行われているが,効率化が求められている。

今回,水道管の保守をデジタル化して漏水監視業務を効率化する漏水検知サービスを開発した。センサーとクラウドで構成されるこのサービスは,独自開発の微小漏水を検知するアルゴリズム,遠隔監視を実現する電池駆動型高感度振動センサーにより,水道管の状態をデジタル化して巡回点検コストの削減に寄与することをめざしている。

2020年度の熊本市上下水道局との共同研究による社会実装と検証を経て,2021年度より正式運用を開始している。

今後は,さらなる技術開発と社会実装を進めて,将来の社会インフラ保守を見据えた水道管理業務の革新に貢献していく。

[09]漏水検知サービスの概要[09]漏水検知サービスの概要

10. 停電時間低減に貢献する配電系統の事故原因推定技術

[10]停電時間低減に貢献する配電系統の事故原因推定技術[10]停電時間低減に貢献する配電系統の事故原因推定技術

配電系統では絶縁部材の破損や,樹木・鳥獣の配電線接触などが停電事故の原因となる。現在では停電事故時に作業員が目視などにより原因を特定しているが,探査に時間が掛かることが多い。関西電力送配電株式会社においては,設備の高経年化やベテラン作業員の減少の中で,配電系統事故に対する停電時間の短縮が課題となっている。

そうした中で日立は,関西電力送配電とともに,事故原因を自動で推定することで探査時間を短縮し,停電時間の短縮に寄与する事故原因推定技術を開発した。配電系統事故時の電流・電圧波形が事故原因によって異なることに着目し,パターン分析のAI技術を適用することで事故原因を分類して過去の系統事故・気象データの統計解析と組み合わせることで,短時間かつ高精度に事故原因を推定する。

開発技術はフィールド試験にて性能検証を進めている。本技術の展開により,電力系統のレジリエンス向上とオペレーションコスト低減に貢献していく。

11. コネクテッド家電向けオンライン故障診断の本格運用

インターネットに常時接続されるコネクテッド家電を対象として,オンラインデータによる故障診断システムを開発した。

洗濯乾燥機における「乾燥不良」や冷蔵庫における「冷えが悪い」といった事象は,発生頻度も低く,またその再現性も低いことから熟練者であっても製品の故障診断が難しい。そこで,サービスエンジニアの作業効率化を目的として,インターネット上のサーバに保存された稼働データを分析することで,これらの故障要因を推定するシステムを開発した。

本システムにより,判断が難しい事象についてオンラインでの故障診断が可能となるので,例えば,ユーザーへ訪問する前に交換部品を事前に準備する,現地への訪問回数を減らすなど,業務効率の向上に役立てることができる。

本サービスは,日立の家電を扱う全国のサービスエンジニア向けツールとして運用が開始されている。

(運用開始時期:2021年6月)

[11]故障診断システムの全体像[11]故障診断システムの全体像

12. Industrie 4.0デジタルネームプレートのプロトタイプ

日立ヨーロッパ社は,2016年6月にドイツのプラットフォームIndustrie 4.0の構成員となった※1)。これは,ドイツと日本の有益な関係によって覚書の合同締結に至ったものであり,近年ではIndustrie 4.0の複数の作業部会や関連コンソーシアムに参加してきた。また,Industrie 4.0設立の立役者となったACATECH(German Academy of Science and Engineering:ドイツ工学アカデミー)の会員にもなっており,一連の出版物やプロジェクトにつながっている。

こうした状況を背景に,現在,Industrie 4.0 AAS(Asset Administration Shell)のコンセプトの開発をサポートしている。そのため,ZVEI(German Electrical and Electronic Manufacturers' Association:ドイツ電気電子工業連盟)とヘルムート・シュミット大学によるデジタルネームプレートのデモンストレーション向けに,PLC(Programmable Logic Controller)機能を備えたHX-CP1H16のサンプルAASを提供した。

デモでは,製品に添付されたQRコードをスマートフォンで読み取ることで,製品の詳細情報にアクセスする方法を実演する。当該製品に関する情報はすべてAASにデジタル保存される※2)。関連するマニュアル,構成ファイル,製品証明書の入手が容易にできるほか,サポートも簡単に利用できる。また顧客はSSOT(Single Source of Truth)を獲得し,日立は製品に関する最新情報を提供できる。

(日立ヨーロッパ社)

[12]Hitachi HX-CP1H16のデモ用サンプル※3)[12]Hitachi HX-CP1H16のデモ用サンプル※3)

※1)
Zypries, B., Seko, H., & Takaichi, S. (2016). Hannover Declaration (BMWi & METI, Eds.)
※2)
BMWi.(2020). Specification: Details of the Asset Administration Shell-Part 1-The exchange of infor­mation between partners in the value chain of Industrie 4.0 (Version 3.0 RC01)
※3)
http://hitachi.i40-aas.de/18sm=nameplate&sn=HX-CP1H16
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