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気候変動,COVID-19,高齢化社会,デジタル経済の進展がもたらす将来の新たな課題を洞察し,先端的な研究開発を通じ,人々のQoLを向上させる安心・安全な社会の実現をめざしている。

医療・医薬分野では,大量の医療データから投薬パターンをモデル化し,患者の病態に応じた投薬効果を予測して治療効果を向上させる技術,生化学免疫分析装置に機械学習を利用した画像処理技術を適用することで検体分析の正確性と処理能力を向上させるなど,バイオ×ITでのイノベーション創生に取り組んでいる。

診断・治療分野では,がんの放射線治療向けにがんに照射する粒子線ビームのエネルギー変更とON/OFF制御を両立する低侵襲・高奏効率のがん治療を可能とする粒子線治療装置VEMICの研究開発を進めている。

都市やセキュリティ分野では,巧妙化するサイバー攻撃を複数機関で協同して防御する技術,大規模指認証技術や自動運転に向けた技術を開発している。

1. 米国での糖尿病治療の効果向上を支援する処方薬選択支援システム

65歳以上の4人に1人が糖尿病※)と言われる米国では,長期の投薬治療による患者の経済的負担が課題となっている。そこで,治療方針をめぐる患者と医師の共有意思決定支援をサポートする処方選択支援システムを,米国ユタ大学と共同で開発した。

本システムは,ユタ大学が有する糖尿病患者の医療データ(2万7,904症例)に含まれる過去の投薬パターンを独自の技術で遷移モデル化することで,病態に応じた薬ごとの治療効果(例:3か月後の血糖コントロール目標の達成確率)を予測する。一般的な機械学習と比較して,より正確な確率計算が可能であり(誤差80%減),副作用リスクや価格と合わせて電子カルテ上に比較表示することで,治療効果や経済負担を考慮した治療方針決定を可能にしている。ユタ大学関連クリニック13施設で実用化に向けた臨床試験を2019年2月より開始し,症例数を拡大しつつ,システムの改善を推進している。今後も本技術を活用し,患者のQoL(Quality of Life)向上をめざす医療サービスの実現に貢献する。

[01]処方選択支援システムダッシュボード[01]処方選択支援システムダッシュボード

※)
出典:Center for Disease Control and Prevention: National Diabetes Statistics Report, 2020

2. 免疫分析装置cobas e 801向け検体気泡検知技術

[02]免疫分析装置cobas e 801向け検体気泡検知技術の概要[02]免疫分析装置cobas e 801向け検体気泡検知技術の概要

検体検査においては,検体の容器間での移し替えや容器の移送時の衝撃により,検体の液面に気泡が発生する場合がある。現状は,測定に先立ち,目視で気泡の有無を確認している。しかしながら,多数の装置を並行して運用する検査室では,装置単位で気泡の影響の度合いを臨床検査技師の感覚で判定することは極めて難しい。そのため偽低値などによるデータ異常が疑われる場合には,気泡の影響も含めた原因究明に時間を要している。

そこで,検体吸引前に,検体表面を撮影した画像内の気泡の有無を検出する機械学習(Convolutional Neural Network)を用いた検体気泡検知技術を開発し,免疫分析装置cobas e 801(株式会社日立ハイテク製)に搭載した。本技術により,画像内の気泡の位置や大きさなどの状態を正確に判定することで,約11万件での検証において99%以上の精度で気泡を検出するなど,極めて高い精度でデータ異常の発生を排除することができ,検査に携わる臨床検査技師の負担を大幅に軽減することが可能となった。

3. 新たな検査サービスソリューションの創造に寄与する自動手指採血装置

医療現場での採血に伴う医療スタッフの負担軽減のため,自動手指採血装置を開発した。

本装置は,使い捨ての穿刺器具,採血管,止血綿の各部品を備えたカセット※)と,手指を置くための手指置き部品を使用する。被採血者の手指を本装置に設置した後,指先に巻いた圧迫帯の圧迫・解放動作とカセットの動きを制御することで,指先穿刺,出血の促進,採血管への採取,止血を自動実施し,血液自動分析装置での検査に必要な採血量(生化学・免疫用:400 μL,血算用:250 μL)が得られる。

本装置を日立ハイテクとの共同研究関係にある藤田医科大学で評価してもらい,本装置による手指採血と一般的に実施されている上腕静脈採血での検査測定値(血算8項目,血糖,HbAlc,生化学18項目)は,良好な相関であることを確認した。

今後は,手指採血装置を軸とした,検査の分散化に対応する新たな検査サービスソリューションを創造し,安心・安全な社会の実現をめざす。

[03]自動手指採血装置と使用する採血カセットの外観[03]自動手指採血装置と使用する採血カセットの外観

※)
穿刺器具は,「BD マイクロティナ セーフティ ランセット」を使用し,採血管は,「BD マイクロティナ 微量採血管 BD マイクロガード キャップ付き」を使用した。

4. 粒子線治療向け新型可変エネルギー加速器

がんの放射線治療の一種である粒子線治療では,患部の体表からの深さと形状に合わせ,加速器がイオンビームを適切なエネルギーまで加速した後,適切な線量分布をもつビームを照射する。日立は,高精度・高線量率の照射が可能であり,中小病院への導入が容易な小型・低コストを実現する新型可変エネルギー加速器を開発している。

従来型の加速器は,ビームのエネルギー変更とON/OFF制御が容易なシンクロトロン,および単体でのエネルギー可変性はないが,超伝導電磁石の適用で小型化が容易なサイクロトロンが採用されている。

これらの長所を兼ね備える新型加速器では,超伝導電磁石が発生する磁場により偏心軌道を形成し,高周波加速空胴でビームを目標エネルギーまで加速する。各エネルギーのビーム軌道が共通して通過する領域に設けた高周波キッカーが,任意のタイミングでビームを取り出しチャネルに蹴り出すことで,可変エネルギーとON/OFF制御を実現している。

これまでに理想的な電磁場条件でのシミュレーションにおいてビームの取り出しが確認されており,現在,製品適用に向けて設計を進めている。

[04]新型可変エネルギー加速器の構成[04]新型可変エネルギー加速器の構成

5. アルファ線内用療法用の放射性核種製造技術

[05]アルファ線内用療法および電子線形加速器を用いたアクチニウム225の製造方法[05]アルファ線内用療法および電子線形加速器を用いたアクチニウム225の製造方法

アルファ線内用療法は,がん細胞を破壊するアルファ線を放出する核種と,がん細胞に選択的に集積する薬剤を組み合わせた治療薬を患者に投与し,体内からがん細胞を攻撃する新しい治療法である。しかし,アルファ線を放出する核種として有望なアクチニウム225は,従来,取り扱いが難しい核物質であるトリウム229を原料とした少量生産しか製造方法が確立されていなかった。そこで,東北大学および京都大学と共同で,アクチニウム225を高効率・高品質に製造可能な一連の技術を世界で初めて※)実証した。

本製造技術は,ラジウム225を原料とし,電子線形加速器を用いて生成させた透過性能の高い制動放射線を原料全体に照射して,光核反応を起こすことで製造する技術であり,分離できない不純物が生成されないため,高品質なアクチニウムが得られる。今後,本製造技術の実用化に向けた研究開発と本技術で製造したアクチニウム225の薬剤への適用性評価を進め,アルファ線内用療法の早期実用化と,がん患者のQoL向上に貢献していく。

※)
日立製作所調べ。

6. サイバー攻撃の検知精度を高める協働型セキュリティオペレーション技術

近年,サイバー攻撃が巧妙化し,組織が単独で攻撃に対処するには限界があるため,複数の組織がアクセスログを共有し,協働して防御する必要がある。しかし,ログに含まれるユーザー名などの機微な情報は削除して共有されるため,他組織での有効活用が難しい。そこで,ノウハウに基づく分析手続きを秘匿したロジックを他組織へ送付し,ログへの適用結果のみを取得することで,情報そのものは開示せずに任意の分析を実現する技術を開発した。

本技術の効果検証実験を慶應義塾大学・中部電力株式会社と共同で実施した。実験では,ユーザーの振る舞いを分析するロジックを送付し,慶應義塾大学で観測したウェブアクセスログ25億件をユーザー名を秘匿したまま分析し,不審なウェブサイト検知に活用した。その結果,自組織が保有するログのみを用いた場合と比べ,検知率を維持したまま誤検知を30%削減できる見通しを得た。

今後,本技術を多分野で展開し,社会インフラのセキュリティ向上に貢献していく。

[06]協働型セキュリティオペレーションにより他組織の情報をサイバー攻撃検知に活用する仕組み[06]協働型セキュリティオペレーションにより他組織の情報をサイバー攻撃検知に活用する仕組み

7. 非接触大規模指静脈認証技術

決済など大人数のユーザーを対象としたサービスで利用され始めた生体認証において,昨今の新型コロナウイルス感染拡大に伴い,非接触認証のニーズが急激に高まっている。そこで,指を近づけるだけで数百万規模の登録ユーザーの中から正確に本人を認証する非接触型大規模指静脈認証技術を開発した。

赤外と可視の反射光を用いた2波長同時照射方式により非接触状態の複数の指を安定的に検出し,同時に取得可能となった複数の生体特徴を併用することで認証精度を向上した。

また,生体情報を一方向変換した公開鍵を用いて認証する日立独自の公開型生体認証基盤(PBI:Public Biometric Infrastructure)と連携し,認証時には,圧縮した生体特徴による候補ユーザーの高速検索を行うことで,安全かつ高速・高精度な認証技術を実現した。

今後は,ビジネスから消費者までさまざまなシーンで,非接触での大規模な本人認証やキャッシュレス決済を実現し,ニューノーマルな生活や社会を支援しつつ,新たな社会課題の解決に向けた技術開発を行っていく。

[07]PBIに対応した安全かつ高速・高精度な指静脈認証システム[07]PBIに対応した安全かつ高速・高精度な指静脈認証システム

8. 持続可能な社会の実現に向けたCPS開発と「コモングラウンド・リビングラボ」への参画

[08]リアル空間の人の位置をコモングラウンド・プラットフォームにリアルタイムに反映[08]リアル空間の人の位置をコモングラウンド・プラットフォームにリアルタイムに反映

Society 5.0の実現やスマートシティの市場拡大を背景に,大阪・関西万博を契機として,将来の都市サービスを実証できる実験場「コモングラウンド・リビングラボ(CGLL)」を,2021年7月に大阪商工会議所および民間5社※1)で開設した。

「コモングラウンド」は,建築家・豊田啓介氏が提唱する概念で,建物・都市における活動情報や属性情報などの膨大な都市データを,3D(Three Dimensions)情報でつなぎ汎用的に扱えるようにすることで,リアル空間とデジタル空間をリアルタイムにつなぐ,次世代都市の空間情報プラットフォームである。製造,建設,運輸,流通・小売,都市マネジメントなどの分野のサービス事業者が,自律モビリティ/ロボット活用サービスや,XR※2)などを介したアプリケーション開発の際の,都市データの容易な入手と活用機会を増やす。それにより,開発にかかる社会的なコストを下げ,社会環境の変化や地域のさまざまなニーズに応える都市サービス開発を容易にし,持続可能な社会の実現への寄与を目標としている。

現在,CGLLには,サービス開発,デバイス開発,コンピュータグラフィクスなどの知見を持つ20ほどのメンバー企業が参画し,コモングラウンドの社会実装に向けたエコシステムが構築されつつある。日立は,CGLLと協創の森のCPS(Cyber Physical System)を連携させることで,具体的な都市サービスを想定した将来都市のプラットフォームのあり方の研究を推進している。

※1)
株式会社gluon,株式会社竹中工務店,中西金属工業株式会社,日立製作所,株式会社三菱総合研究所(五十音順)。
※2)
Extended Reality またはCross Reality。VR(Virtual Reality:仮想現実),AR(Augmented Reality:拡張現実),MR(Mixed Reality:複合現実),SR(Substitutional Reality:代替現実)の総称。

9. ビルIoTソリューション「BuilMirai」適用のデータ活用技術

[09]人流情報によるエリアごとの混雑度情報[09]人流情報によるエリアごとの混雑度情報

ビル管理の効率化や利用者の快適性向上を図る大規模ビル向けのソリューションとなるビルIoT(Internet of Things)ソリューション「BuilMirai」に適用されるデータ活用技術を開発した。

BuilMiraiは,ビル内のさまざまな設備からデータを収集・利活用することでビル全体の業務効率や価値向上を実現するプラットフォームであり,時々刻々と変化するビルの状況を的確に捉えるデータ分析がカギとなる。特に重要となるのが,ビル利用者の「人流情報」である。この人流情報からビル内のエリアごとの混雑度を分析する技術を開発した。人流データおよびビル設備のデータは,ビルのテナントや区画などの情報と対応づけるデータ構造により,ビル内の位置と連動して管理・可視化される。

BuilMiraiは,2021年8月に株式会社日立ビルシステム亀有総合センターに導入され,人流・設備情報のデータ分析による付加価値創出の実証を進めている。ここで得られる知見を基に,顧客により魅力のあるデータ活用技術を展開していく。

10. HORA:トラム用ADASのプロトタイプソリューション

[10]ナポリのHORA試験トラム[10]ナポリのHORA試験トラム

路面電車は欧州で広く普及しており,複数の都市が新規敷設や既存網の拡大を計画している。さらに,世界的にも見ても徐々に採用が進んでいる。このような背景の下,日立は,より安全で効率の高いトラム車両を事業者に提供することを目的に,運転支援や自動運転を実現するための技術開発に注力している。

Hitachi Rail STS S.p.A.社車両研究開発部門と日立ヨーロッパ社R&D(Automotive & Industry Lab.)による協創プロジェクトHORA(Hitachi Autonomous Street Cars)は,イタリアの研究開発助成プロジェクトREINFORCEの枠組みの中で,ANM(Azienda Napoletana Mobilita)のトラム旅客サービスを使用した試験を行い,サレルノ大学による検証を受けている。

プロジェクトの目的は,センサー[主にカメラおよびLiDAR(Light Detection and Ranging)]を併用し,AIを使って道路を利用する他の乗り物や歩行者との衝突の可能性を事前に検知し,適切な措置をとるよう運転者に知らせ,都市部で運行されるトラムの安全性を高めることにある。こうした機能は,状況認識を強化して死角を解消し,迅速な反応を可能にするため,トラム運転者に好意的に受け入れられている。HORAの実験キャンペーンは,実効的な安全性強化を実証することをめざしている。

(日立ヨーロッパ社)

11. コネクテッドデータを使用した自動運転用ビジョンベースセンサーの性能向上

[11]コネクテッドデータを使用した高密度視差領域の動的な選択[11]コネクテッドデータを使用した高密度視差領域の動的な選択

近年,センシング,AI,データ処理ユニットの進化により,自動運転(AD:Autonomous Driving)と先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance Systems)に幅広い関心が集まっている。このような背景の下,日立は,商用車のADASアプリケーションで使用できるステレオカメラを開発した。

ステレオカメラは,一般に視差マップと呼ばれる3D点群を使用してさまざまな物体を認識し,距離を測定する。多様な状況で車両の周囲の障害物を正確に認識して位置を特定するには,信頼性の高い高密度・高精度の視差マップ作成が極めて重要になる。しかし,高解像度画像で高密度の視差マップを生成すると,処理ユニットへの計算負荷が増大する。この問題を解決するため,コネクテッドデータを使用する動的再構成可能な視差マップの生成手法を開発した。これは,あらゆる状況で,処理ユニットの計算負荷を上げることなく,正確な物体認識と高い測距精度を実現する。

従来型システムでは,二つのカメラ画像で固定した関心領域を使用するが,提案する手法では,現在の位置,履歴データベース,道路異常データベースなどを考慮することで,高密度な視差領域を動的に決定する。これにより,ステレオカメラの認識性能が飛躍的に高まることになる。

(日立アメリカ社)

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