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1. 再生可能エネルギーを活用した低コストグリーン水素供給

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用したグリーン水素の普及をめざして,電力系統と連携させた水素製造技術の開発を進めている。電力系統と連携する再生可能エネルギーの変動や余剰電力で高効率に水素を製造するために,電力制御設備構成や水電気分解装置の接続構成の最適化と階層制御に基づいた運転制御方法を開発するとともに,風力などの発電設備の挙動,電気分解の物理モデルなどから構成される仮想プラントにより検証を行い,分散サイトから大電力サイトまで適用可能なスケーラブルグリーン水素製造システムの開発を行っている。

このような水素を活用したグリーンエネルギーシステムについて,産学官と連携した実証実験などを通じて,30円/m3以下の低価格なグリーン水素を製造し国内外の水素普及に貢献していく。

[01]系統に連系した水電解の階層制御とスケーラブルデザイン[01]系統に連系した水電解の階層制御とスケーラブルデザイン

2. 循環型社会実現に向けた人工光合成の開発

[02]人工光合成の概要[02]人工光合成の概要

地球環境再生・循環型社会実現に向けて,水と大気と太陽光からクリーンな燃料を直接製造可能な人工光合成の開発を行っている。人工光合成反応の中でも光触媒・光電極を用いた水分解水素製造(ソーラー水素)やソーラー燃料は,簡易な構造で実現できるため有望な技術である。しかしながら,従来の光触媒は紫外光を利用しているため,太陽光に含まれるわずかなエネルギーしか活用できない。

これに対して日立は,太陽エネルギー変換効率の向上をめざして可視光応答材料の開発を行っており,シミュレーションやマテリアルズインフォマティクスを活用し,酸硫化物・酸窒化物などの最適な材料・構造の開発を進めている。

将来的には,無機材料デバイス技術とバイオ技術の融合により大気中のCO2を利用し,従来の化学合成では製造困難な医薬品や繊維などの高付加価値物質を,環境負荷ゼロで再資源化する人工光合成技術にも取り組み,技術を通して社会課題の解決をめざす。

3. 大規模集積シリコン量子コンピュータ

量子コンピュータは,従来のコンピュータでは解けない問題を解くことができる新概念コンピューティング技術として期待されている。一方,実課題に適用するためには基本構成要素である量子ビットの数がまだ足らず,将来的には数百万量子ビットを集積することが課題となる。

日立は集積性に優れるシリコン集積回路の特徴を生かし,量子コンピュータの早期実用化をめざしている。多数の量子ビットを利用するためには,その制御がボトルネックとなる。それを解決するために,量子ドット(電子1個を閉じ込める箱であり,これを高精度に制御することで量子ビットとなる)を二次元アレイ状に集積し,それを制御するCMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor)回路を混載可能なプロセスを開発した。

JST(Japan Science and Technology Agency:国立研究開発法人科学技術振興機構)ムーンショット型研究開発事業などオープンイノベーションの利用や,日立ケンブリッジラボ連携での量子アルゴリズム開発を進め,量子コンピュータの早期社会実装をめざす。

本研究は,JST「ムーンショット型研究開発事業」グラント番号「JPMJMS2065」の支援を受けたものである。

[03]量子ドットアレイとCMOS回路の混載[03]量子ドットアレイとCMOS回路の混載

4. 物質生産微生物創製のための遺伝子提案AI技術

持続可能な社会の実現に向けて,化石燃料に依存した物質生産法である化学合成から,バイオマス由来の低環境負荷なバイオ合成への置換が期待されている。バイオ合成は,遺伝子の改変により物質合成能力を付与した高機能微生物により化成品や医薬品の原料などを生産し,さらには化学合成では困難だった複雑な化合物をも合成できる可能性を持つ。しかしながら高機能微生物の創製においては,研究者の知見により改変する遺伝子を設計し,検証するという工程を試行錯誤的に繰り返していたため時間を要していた。

そこで日立は,高機能微生物創製支援技術として,「次の改変候補遺伝子」を提案するAI(Artificial Intelligence)技術を開発した。この技術は,研究者の遺伝子改変の履歴に関連する公開文献を網羅的に探索して分野特徴語モデルによる物質合成分野との関連性評価で重み付けし,その中から履歴との関連性に基づき改変遺伝子を提案するものである。本AI技術で提案した遺伝子改変により,医薬品の原料であるシキミ酸の生産において世界記録を持つ高機能微生物株の生産能力をさらに19.5%向上することに成功した。

なお,この成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization)の委託事業「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発」により得られたものであり,2021年8月に国際誌『ACS Synthetic Biology』に掲載された。

[04]物質生産微生物創製のための遺伝子提案技術の概要[04]物質生産微生物創製のための遺伝子提案技術の概要

5. 日立神戸ラボ:次世代型CAR-T細胞治療

[05]ヒトCAR-T細胞による標的細胞の認識の様子[05]ヒトCAR-T細胞による標的細胞の認識の様子

一部のがんに対して目覚ましい治療効果を発揮しているキメラ抗原受容体(CAR:Chimeric Antigen Receptor) T細胞療法は,その拡張性の高さからあらゆるがんの治療,さらには他疾患治療へと適用の範囲が拡大することが期待されている。その拡張性を可能にしているのは,患者由来細胞を遺伝子改変することで治療機能を付加する技術である。

日立は,より多くの人が受けられる次世代型CAR-T細胞治療の開発をめざし,新規遺伝子導入技術を利用したCAR-T細胞の作製方法の改良,新規治療標的を認識するCARの開発,CAR-T細胞による治療タンパク質の産生システムの開発を開始した。CAR-T細胞作製方法の改良についての成果は,2021年に科学誌『Mammalian Cell Engineering』(Springer社発行)に掲載された。

なお,本稿で紹介した研究内容の一部は,日本学術振興会(JSPS:Japan Society for the Promotion of Science)「卓越研究員事業」の補助により実施した。

6. 日立神戸ラボ:再生医療

再生医療は,けがや病気で失われた身体の機能を,再生した細胞や組織を用いて治療する革新的な医療である。従来,再生医療用の細胞医薬品製造は熟練した技術者の手作業により行われ,品質の安定化とコスト低減が課題であったが,日立はこれらの課題を解決するため,2019年に商用製造用細胞自動培養装置iACE2を上市した。また,京都大学と大日本住友製薬株式会社で推進するパーキンソン病のiPS(Induced Pluripotent Stem)細胞由来神経移植治療の医師主導治験においてiACE2が貢献し,医療用細胞の商用製造向け細胞自動培養装置として,世界で初めて臨床応用された。

現在,次世代の細胞自動培養技術として,新規細胞培養モニタリング手法を検討している。iPS細胞から神経初期分化の培養工程をモデルに,細胞が培養上清中に分泌するエクソソームおよびその含有物であるmiRNA(Micro Ribonucleic Acid)などの核酸やタンパク質の量的あるいは質的変動を指標に,細胞品質との相関を解析し,両者の間に相関があることを見いだした。この成果は,国際誌『Journal of Bioscience and Bioengineering』に2021年9月30日付けで掲載された。

なお,本稿で紹介した内容の一部は,日本医療研究開発機構(AMED:Japan Agency for Medical Research Development)課題番号JP21be0404010において実施したものである。

[06]iPS細胞から分泌されたエクソソーム由来miRNAの発現データ(マイクロアレイ)[06]iPS細胞から分泌されたエクソソーム由来miRNAの発現データ(マイクロアレイ)

7. 日立東大ラボ:エネルギープロジェクトオンラインクローズドワークショップを開催

2020年度から開始した日立東大ラボエネルギープロジェクトフェーズ2において,ネットゼロ社会の実現に向けたシナリオの策定に取り組んでいる。世界的なカーボンニュートラルへ向けた動きが加速しており,日本における,2030年CO2排出量46%削減(2013年度比)という高い目標達成には,あらゆるステークホルダーの能動的な参画が不可欠である。

本クローズドワークショップでは,エネルギー供給,産業および需要家という幅広い分野からのパネリスト参加の下,持続可能なエネルギーシステムという共通目標に向けた今後の取り組みと将来像について率直な意見交換を行った。その中で,(1)コストを含めた非連続なイノベーション,(2)脱炭素イノベーションを通じた国際連携,(3)ライフサイクルアセスメントの視点,(4)地域活性を支える評価システム,が重要であるとの指摘があった。

本ワークショップでの議論を踏まえ,日立東大ラボは,政策提言をまとめるとともに,オープンフォーラムを通じて世の中に発信していく。

[07]東京大学藤井総長(左),日立製作所東原会長(右)による開会挨拶[07]東京大学藤井総長(左),日立製作所東原会長(右)による開会挨拶

8. 日立京大ラボ:ロジックモデルを用いた社会的インパクトの評価

今日,気候変動や自然災害の発生,COVID-19のパンデミックによる経済活動の制約やコミュニティの分断など,さまざまな社会課題が顕在化してきている。このような社会課題を解決するため,国や地方自治体,民間企業などにおいて,さまざまな社会的プログラムが実行されているが,投資に対する直接的な結果を測定する従来型のプログラム評価法では,その効果を測定することが困難になりつつある。これは,社会課題が複雑化し,どのような資源がどのようにして最終的な社会的インパクトにつながっているのか分かりにくくなっているからである。

日立京大ラボでは,投資した資源が論理的にどのような順序をたどって望ましい社会的インパクトを生み出すかを,グラフィカルに表現したロジックモデルを用いて,社会的プログラムを評価する手法の開発に取り組んでいる。今後,定量シミュレータと結合し,定量的な社会的インパクト評価へと拡張していく予定である。

[08]ロジックモデルによる社会的インパクトの評価[08]ロジックモデルによる社会的インパクトの評価

9. 日立北大ラボ:持続可能な地域社会の実現に向けた地産地消自立型エネルギーシステムの開発

日立北大ラボでは,北海道大学や他のステークホルダーと連携して,北海道における過疎化,少子高齢化などの社会課題解決と持続可能な地域社会の実現に向け,健康・農食・エネルギーが連携した共生のまちづくりを推進している。

地域における地産地消低炭素な電力供給と災害時も供給可能な電力網の構築をめざして,岩見沢市と連携して,地産地消自立型エネルギーシステムの実証設備を構築した。本設備は地域の未利用資源や太陽電池で発電した電力を自動操縦ドローンなどに活用することで,農業の低炭素化に貢献する。さらに,本設備は既存の電力系統に頼らない自立運転が可能であり,災害時は自立した電力供給によって地域の防災機能強化に貢献できる。

今後,産学官地域連携を通じて本設備のフィールド実証と技術開発を加速し,地産地消エネルギーを活用した地域産業の持続的な発展に寄与するとともに,地域に安心・安全な生活基盤の提供をめざす。

[09]地産地消自立型エネルギーシステムの構成[09]地産地消自立型エネルギーシステムの構成

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