日立評論

社会インフラのDXが実現する未来

持続可能な社会と創造的消費者

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Hitachi

日立評論

REPORT
Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN
基調講演

社会インフラのDXが実現する未来

持続可能な社会と創造的消費者

ハイライト

2021年10月,日立は,グローバルな社会イノベーション事業を通じた持続可能な社会の実現をめざし,お客さまやパートナーとの協創に向けたきっかけ作りの場として,日立グループにおける最大規模のイベントである「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN」を開催した。

通算で23回目となる本イベントは,前年に引き続き,Web上にて各種プログラムに参加できるオンラインイベントとして開催され,基調講演では,東原敏昭執行役会長兼CEOが,社会が現在直面している「環境問題」と「テクノロジーにおける人間中心へのパラダイムシフト」に対して,日立の推進する社会インフラのDXがどのように課題を解決し,持続可能な社会の実現に貢献するのかについて語った。

目次

Chapter 1

日立製作所 執行役会長 兼 CEO 東原 敏昭

日立製作所 執行役会長 兼 CEO
東原 敏昭

皆さま,こんにちは。

日立製作所の東原です。

本日はご参加いただき,誠にありがとうございます。


今,私たちの社会は二つの大きな変化に直面しています。


一つは「環境」です。

地球温暖化,大気汚染,海洋汚染,生物多様性の喪失などの環境問題は,人間の活動がその原因と考えられています。


米国の生態学者,ギャレット・ハーディンは,1968年『サイエンス』誌に「コモンズの悲劇」として,牧草地の例を紹介しています。

ある男Aが,共有地である牧草地に牛を放牧します。

普段は,それほど牛を増やしませんが,別の男Bが普段よりも多くの牛を放牧しました。

それを見て男Aもより多くの儲けを得るために,より多くの牛を放牧,その様子を見た周りの人々もどんどん牛を放牧して,結果的に牧草地は荒廃してしまいました。

これが,コモンズの悲劇です。

この牧草地の例を,地球規模に拡大させたのが,今の環境問題です。

私たちは,このコモンズの悲劇を阻止するために,世界中の叡智を結集しなければなりません。


もう一つ,私たちに起きている大きな変化は,「テクノロジーの変化」です。

通信,交通,物流,医療など,生活環境を取り巻くあらゆるテクノロジーが猛烈な勢いで変化しています。

しかし,これら一つひとつの変化に目を奪われるのではなく,その中心に何があるのか,じっくりと見極めたときに,一つの大きな変化が浮かび上がってきます。

それが,「テクノロジーにおける人間中心へのパラダイムシフト」です。


高度成長期,経済を牽引してきたのは,「ものづくりを中心とした企業」でした。

生産性の高い工場が,高性能・高品質の製品をつくり,消費者に提供し,経済成長を支えました。


しかし,2000年代後半から,一社だけではお客さまのニーズを捉えることが難しくなり,「パートナー企業との協創」により,価値を創り出す時代がスタートしました。


そして,2020年以降,時代はさらに大きく変化しつつあります。

従来の消費者と企業の間には,サービスを「提供する側」と「される側」という明確なラインがありました。


しかし,今はどうでしょうか。

YouTuber,Instagramerなどのソーシャルメディアを楽しむ人々は,自分の活動のために多額の費用を投じています。

彼らは消費者でしょうか。

それとも生産者でしょうか。

そうです,どちらでもありません。

このラインはもう意味を持たなくなってしまっています。


彼らは消費者であり,生産者でもあるのです。

このような人々を,ここでは「創造的消費者」と呼ぶことにしましょう。

この創造的消費者の誕生こそが,テクノロジーにおける人間中心を意味します。

価値の起点が,ものづくり企業から企業同士の協創へ,そして私たち人間へと,順に変化してきているのです。

Chapter 2

今,私たちに課されている最大のミッションは,「限りある環境の中で,この人間中心へのパラダイムシフトを実現できるか」ということです。

果たして私たちはこのミッションを無事に遂行することができるのでしょうか。

そして,このミッションをやり遂げた未来は,どんな姿をしているのでしょうか。


2030年には,限りある環境の中で,人間がテクノロジーを意識することなく,ごく自然に使いこなしながら生活していることでしょう。

「環境」については,あらゆるサプライチェーンの中で,エンドユーザーが消費するまでのすべてのCO2の排出量が「追跡」されると予想されます。


日立では既に,設備やサービス単位での使用電力が100%再生可能エネルギーであることを証明する「Powered by Renewable Energy」というシステムを運用しています。

スマートメーターとブロックチェーン技術を活用し,個々の建物や設備ごとの単位で,再生可能エネルギーがどの程度使用されているかを見える化します。

この技術が,より大規模に社会インフラとして機能すれば,CO2削減に大きく貢献することができるはずです。


日立は,日本企業として唯一,気候変動に関する国際会議「COP26」のプリンシパル・パートナーになっています。

これはテクノロジーの力で気候変動を防ぐイノベーターになる,という強い意思を示すものです。


私たち日立は,「2030年度に自社の事業所・生産活動においてカーボンニュートラルを実現する」という目標を掲げ,国連が推進する「レース・トゥ・ゼロ・キャンペーン」にも参画しています。

さらに,2050年度にはサプライヤからの調達やお客さまによる使用を含めた「バリューチェーン全体でのカーボンニュートラル」の実現をめざします。


もう一つの大きな変化,「人間中心へのパラダイムシフト」ではどのようなことが起こっているのでしょうか。

例えば,レストランなどでは,メニューにはない食事を,CO2排出量や個人の好みを踏まえてロボットがつくっているかもしれません。そうすれば,メニューにはない変わった食事をオーダーすることもできるようになります。

あるものの中から選ぶのではなく,消費者が起点となって発注者になるような消費スタイルが,創造的消費です。

消費者が創造的消費者へと変化する場面は,今後,ネット上だけでなく,より広範に見られるようになっていくでしょう。


そして,人間中心は,あらゆる人にとって優しい社会を実現します。

デジタルデバイスを使いこなせないことが,大きな格差につながっている,という報告があります。

しかし,さりげなく自然なやり取りの中で情報にアクセスできれば,デジタルディバイドの問題も自然と解決していくはずです。

「誰ひとり取り残さない」,そんな社会をテクノロジーの力で実現していくことができるはずです。


人間中心へのパラダイムシフトには,創造的消費を支援するほかにも重要なことが二つあります。


その一つが「レジリエンス」です。

私たちの社会は,人流,物流,金融の流れが途切れたとき,大きなダメージを受けます。

そんなときに,重要になるのがレジリエンスです。

この止まった流れをいち早く回復することで,ダメージを最小限に抑え込むのです。


例えば,鉄道です。

鉄道の運行においては,災害や事故が発生した際に,より迅速に運行を再開し,ダイヤを回復させることが重要です。

実は,私自身も入社以来,鉄道運行管理システムの開発に携わってきたのですが,日立は長年にわたり,トラブル発生後,ダイヤを正常に戻すための時間を短縮するシステムを開発・提供してきました。


現在では,指令員が過去に行った運転整理をAI(Artificial Intelligence)に学習させ,車両の未来の運行状況を予測することで,ダイヤ乱れの回復を自動化するシステムの開発に取り組んでいます。

「未来予測型AIを活用したダイヤ回復の自動化」です。

既に,オーストラリア・シドニーの路線データを活用した実証では,10秒程度で最適なダイヤ変更計画を立案することができました。

鉄道運行管理システム,オーストラリア・シドニーの路線データを活用した実証鉄道運行管理システム,オーストラリア・シドニーの路線データを活用した実証


もう一つは,「健康」です。

2030年までには再生医療が徐々に一般化すると考えられます。

再生医療は,病気で失われた身体の機能や臓器を,細胞を使って取り戻す医療ですが,現在,再生医療を受けることは,まだまだハードルが高いのが現実です。

今後,より多くの人が適切な価格で再生医療を受けられるようになるためには,高品質な細胞を安定的かつ大量につくることが必要です。


日立は,大日本住友製薬,京都大学と共に国家プロジェクトに参画し,iPS細胞の大量自動培養装置の実用化に向けた取り組みを進めました。

2020年度には,このプロジェクトで開発した装置で培養された細胞が,パーキンソン病治療の臨床試験に用いられるなど,大きな成果を出しつつあります。

2030年,私たちは限りある環境の中で,より充実した人生を過ごしているはずです。

このような生活を実現するためには,社会インフラのデジタルトランスフォーメーション,DXが欠かせません。

iPS細胞の大量自動培養装置の実用化iPS細胞の大量自動培養装置の実用化

Chapter 3

社会インフラは極めて複雑・複合的で,DXを推進することが,非常に難しい分野です。

しかし,私たち日立は,これらを実現することができます。理由は三つあります。


一つ目は,日立がOT,IT,プロダクトという広範な事業を,一社で手掛けている世界的にも珍しい企業だということです。

社会インフラを手掛けるとき,必ずこの三つが関わってきます。


二つ目が,Lumadaです。

Lumadaは,つながることで,より大きな価値を発揮していきます。

サントリー食品インターナショナルでは,2019年に国内の主要工場において,Lumadaを活用し,生産能力や在庫状況,需要予測などを踏まえた生産計画の立案を自動化しました。

効果検証の結果,従来は40時間かけていた業務を,たったの1時間に短縮できることを確認しました。

さらに,2021年には,「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」において,生産ラインの機器に加えて,調達・製造・品質管理・出荷などのITシステムをつなげることで,工場経営および働き方のDXを加速させるとともに,商品を1本ごとに管理するトレーサビリティを実現し,これまで以上に「安心・安全」に商品を提供できるようになりました。

このように,さまざまなデータがつながることで新しい価値が生み出される,これがLumadaの拡張性です。

サントリー食品インターナショナルとの協創サントリー食品インターナショナルとの協創


Lumadaは,パートナーとのつながりも加速させています。

2020年11月にLumadaアライアンスプログラムをローンチしました。

多くの企業の皆さまにご参加いただき,協創を拡大させています。

また2021年4月には,パートナーとよりつながるための拠点「Lumada Innovation Hub Tokyo」を開設しました。

今後この拠点を活用して,皆さまとの協創をさらに進めてまいります。

そして,Lumadaのグローバル展開の決め手として,米国GlobalLogic社を買収しました。

GlobalLogic社は,2万人を超える従業員を擁し,世界各地にデザインスタジオやエンジニアリングセンターを展開しています。

日立の持つ技術・ノウハウとの融合を図り,よりグローバルにお客さまのDXを支援していきます。

2021年9月には「Lumada Innovation Hub Tokyo」と,GlobalLogic社の米国・インド・ウクライナ・ポーランド・英国の5拠点をつないだ協創も開始しています。

このように,Lumadaは,つながりの力で「人間中心へのパラダイムシフト」を着々と前進させています。

Lumada Innovation Hub Tokyoを中心に進展するDX拠点連携Lumada Innovation Hub Tokyoを中心に進展するDX拠点連携


最後の三つ目です。

これが最も大切なのですが,私たちには,この講演をご覧くださっている多くのパートナーさまがいらっしゃるということです。

社会インフラのDXは,一社ではできません。

これからの社会は企業と企業が協創し,そして消費者とも一体となって,価値を創出していく時代です。

価値を生み出すには,皆さまの協力が不可欠です。

世界中の企業,政府・自治体,大学などが総力を挙げて取り組まなければなりません。

ぜひ,皆さまのお力をお貸しください。

一緒に社会インフラのDXを実現し,限りある環境の中で,誰ひとり取り残さない人間中心の新しい世界を実現してまいりましょう。

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