日立評論

臨床検査を取り巻く環境変化に応え地域医療に貢献する複合型自動分析装置

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ハイライト

近年,臨床検査を取り巻く環境の変化に伴い,検査技師の働き方が多様化し,手掛ける検査分野が急速に拡大している中で,さらなる検査業務の質の向上が求められている。この課題を解決するため,株式会社日立ハイテクは,日立自動分析装置3500を提供している。

本装置では,従来の生化学自動分析装置に免疫分析が可能な散乱光度計,血液凝固分析が可能な凝固時間ユニットを追加し,異なる分野の検査機能を1台に集約した。これにより,検査室内の限られたスペースにおける検査効率を向上し,中小規模の医療機関や高度専門医療を行うクリニックなどの地域医療連携に貢献することをめざしていく。

目次

執筆者紹介

大賀 博Oga Hiroshi

大賀 博

  • 株式会社日立ハイテク アナリティカルソリューション事業統括本部 ライフ&メディカルシステム製品本部 医用システム第三設計部 所属
  • 現在,医用システムの設計・開発に従事

足立 作一郎Adachi Sakuichiro

足立 作一郎

  • 株式会社日立ハイテク アナリティカルソリューション事業統括本部 ライフ&メディカルシステム製品本部 医用システム第三設計部 所属
  • 現在,医用システムの設計・開発に従事

杉山 千枝Sugiyama Chie

杉山 千枝

  • 株式会社日立ハイテク アナリティカルソリューション事業統括本部 ライフ&メディカルシステム製品本部 医用システム第三設計部 所属
  • 現在,医用システムの設計・開発に従事

瀧澤 恵Takizawa Megumi

瀧澤 恵

  • 株式会社日立ハイテク アナリティカルソリューション事業統括本部 ライフ&メディカルシステム営業本部 マーケティング部 所属
  • 現在,医用システムのマーケティングに従事

1. はじめに

臨床検査とは,人の健康状態を調べ,疾患の診断および治療の方針選択や効果判定を行うために必要な検査のことである。臨床検査は患者から採取した血液や尿,便,細胞などを調べる「検体検査」と,心電図や脳波など患者の身体を直接調べる「生理機能検査」の二つに大きく分けられる。

このうち,検体検査は自動化が進み,一人の検査技師はさまざまな領域の検査装置を扱っている。

近年は臨床検査室の品質と能力に関する国際規格ISO15189認定取得施設の増加や,2018年改正の医療法に検体検査の品質・精度確保に関する規定が新設されるなど,検査の質の向上に対する要求は年々高まっている。複数の装置の精度管理や適切なメンテナンスを行いながら,国際規格や法令の順守を行うなど,検査技師の業務は急速に増加している。

また,医療体制全体に目を向けると,内閣府は2015年に病院完結型から地域完結型に転換する方向性を打ち出している。

厚生労働省が掲げる2025年までの地域医療構想では,医療の機能に見合った資源の効果的かつ効率的な配置を促し,急性期から回復期,慢性期まで患者が状態に見合った病床で,状態にふさわしい,より良質な医療サービスを受けられる体制を築くことが必要であるとされている。大都市圏に集中している医療資源を分配し,居住地域において質の高い医療を提供できる環境整備は急務である。

これらの臨床検査を取り巻く環境変化に鑑み,検査技師の業務負担軽減や地域医療連携に貢献し,患者やその家族のQoL(Quality of Life)を向上させることを目標として,株式会社日立ハイテクは日立自動分析装置3500(以下,「3500」と記す。)を開発した。

2. 複合型自動分析装置

中小規模(100床以下)の病院では,少数の検査技師が限られたスペース内で多くの機器を操作・管理している。このため,一人の患者の血液を分析装置ごとに振り分けて測定し,測定手法・項目ともに多様な検査に対応しながら結果を報告書にまとめるために長い時間と多大な労力が割かれている。また,検査工程で生じるヒューマンエラーの防止や,患者検体との接触回避など,安全上の観点から運用や管理には慎重さが求められる。

臨床検査業務において,検体検査業務を1台の分析装置に統合することは,臨床検査業務の運用改善に貢献し,医療サービスとしても望ましい。

日立ハイテクは,2002年に複数種類の装置をモジュール化し結合するモジュールアッセンブリ方式により,生化学・免疫分析装置の統合化を他社に先駆けて実現し,大形自動分析装置市場をリードしてきた。中型自動分析装置市場においても,1992年にISE(Ion Selective Electrode)分析部の追加搭載,2010年の血球分注オプションによるHbA1c分析機能の集約によるメタボリック・シンドローム特定健康診査需要への対応を実現して,検査項目の拡充を進めてきた。

3500は生化学,ISE,HbA1cに加え,散乱光度計によるBNP(Brain Natriuretic Peptide)などの免疫分析,凝固時間ユニットによる血液凝固分析を可能とした複合型の自動分析装置である(図1参照)。

主要な機構要素とエレクトロニクスを共用化し,最低限必要なユニットのみを追加することにより,従来の生化学自動分析装置と同等のサイズを実現した。

コンパクトなサイズの装置に複数の検査機能を集約したことにより,検査室のスペースを大幅に確保できるだけでなく,検体検査業務の集約を実現し,臨床検査技師の動線やデータ管理の負担軽減に寄与している(図2参照)。

図1|複合型自動分析装置3500の外観図1|複合型自動分析装置3500の外観従来分析装置と同サイズでありながら生化学分析,ISE(Ion Selective Electrode),HbA1c分析に加え新たに免疫分析,血液凝固分析を加えた5種類の分析装置を集約した。処理能力は,最大1,200テスト/時(ISE使用時)で中規模病院の臨床検査の効率向上とワークフロー改善に貢献している。

図2|分析部の構成図2|分析部の構成それぞれの分析ユニットの配置図を示す。主要な機構部の共用化により,コンパクトなサイズの装置を実現した。

3. 新たな測光技術

3.1 散乱光度計による高感度測定

図3|3500に搭載した散乱光度計による測定原理と効果の説明図図3|3500に搭載した散乱光度計による測定原理と効果の説明図ラテックス試薬を用いた免疫分析の測定原理(a)と散乱光度計の構成図(b),吸光と散乱を組み合わせたAbscatter(c)による測定レンジ拡大の概要を示す。Abscatterは,吸光(Absorbance)と散乱(Scattering)を組み合わせた造語である。

3500ではラテックス試薬を用いた免疫分析において高感度測定可能な散乱光度計を開発し搭載した。ラテックス試薬を用いた免疫分析では,血液中の目的物質と,表面に抗体を感作させたラテックス粒子を試薬として反応させ(抗原抗体反応),反応液内での凝集体生成に伴う濁度変化から濃度を定量する。通常,吸光光度計を用いた透過光測光により,この濁度変化を測定している(ラテックス免疫比濁法)。今回,高感度化のためバックグラウンドを低減し,凝集体生成を相対的に大きく捉えられる可能性のある散乱光測光に取り組んだ。凝集体の観察や反応液をモデル化した光学シミュレーションなどにより高感度測定のための光学条件を探索し,波長700 nmのLED(Light-emitting Diode)光源を用いて前方の散乱光を受光する散乱光度計の構成を決定した。多種の試薬に対応するため,複数の受光器を設置している。これにより低濃度側の測定範囲を拡大することが可能となった。また一つの反応セルを吸光光度計と散乱光度計の二つの光度計で同時に分析する構成により,低濃度域は散乱光光度計のデータを,高濃度域は吸光光度計のデータを採用して測定レンジ拡大を実現した(図3参照)。

3.2 凝固時間ユニットによる血液凝固分析

図4|3500の凝固時間ユニットによる測定フローの説明図図4|3500の凝固時間ユニットによる測定フローの説明図(a)に示すとおり,反応容器は使い捨てタイプを用い,凝固試薬分注機構と凝固時間検出部は37℃に溶液を昇温し維持している。(b)に示すとおり,3500では凝固時間検出部に反応容器を配置し測定できる測定ポートが六つある。また(c)に示すとおり,反応終了時の光量に対して一定の割合の散乱光量を示す時間(図中は50%の例)を凝固時間として算出する。

3500では血液凝固分析が可能な凝固時間ユニットを開発し搭載した。血液凝固分析では検体と試薬を混合し,血液の凝固反応によりフィブリノーゲンがフィブリンに固化するまでの濁度変化を検出して凝固時間を算出する。測定のフローは以下のとおりである。

  1. 反応容器内に自動分析装置のサンプル分注機構にて検体を分注し,反応容器を凝固時間検出部に移送する。
  2. 凝固試薬分注機構により凝固試薬を吐出し,吐出の勢いで検体と混合させる(吐出攪拌)。
  3. 凝固時間検出部で反応液を37℃に加温し,0.1秒ごとに散乱光測光を行い,濁度変化から凝固時間を検出する。測定終了後反応容器は廃棄される。

3500では生化学分析で用いる反応ディスクに設置された反応セルを通じて,凝固試薬を試薬ディスクから凝固時間ユニットに移送する方式とした。また凝固時間検出部では反応容器の側方から波長700 nmのLED光を照射し,90°方向の散乱光を測光する構成により,安定した凝固時間の検出を可能とした(図4参照)。

これらの工夫により,血液凝固分析の検査機能を搭載しながらもコンパクトなサイズの装置を実現した。

4. 地域医療に必要な臨床検査

2章から3章にかけて,3500の特長技術について説明した。本章では,これらの特長技術から顧客の課題解決を導く事例について述べる。

4.1 みなみ野循環器病院(東京都八王子市)

みなみ野循環器病院は先進的な循環器疾患治療を提供している循環器専門の病院である。大病院レベルの医療機器を備えつつ,精密な検査から薬物療法やカテーテル治療,再発防止のサポートまで,きめ細かい対応を実践している。患者のために正確かつ迅速な検査データを求める同院で,2018年4月に3500を導入した。

3500導入以前は生化学項目と凝固項目を別々の簡易装置で測定しており,検査数が増える中,検査技師の業務負担が増加していた。また,簡易装置では検査項目が不十分であった。3500の導入により,生活習慣病に関わる検査と緊急性の高い疾患の検査,その両面に対応することが可能になり,機器集約による検査技師の業務負担軽減に貢献している。

将来的に項目数を増やすなど,発展性があることにも医師からの期待が寄せられており,今後もさらなる運用改善をめざしていく。

4.2 LIGARE 血液内科太田クリニック・心斎橋(大阪府大阪市)

2018年に開院したLIGARE 血液内科太田クリニック・心斎橋は血液疾患の専門クリニックであり,開設と同時に3500を導入した。専門治療に必要な機能がワンフロアに集約され,その患者にとって最適な医療を迅速に提供できる機動力が強みである。

血液内科は抗がん剤治療を行うため,当日に検査をする意義は大きい。3500は生化学項目と凝固項目を同時に測定できる点,測定時間が約10分と短く,採血から前処理,検査,データ確認などを経て迅速に診察へのデータ提供が可能な点で,医療従事者および患者の負担軽減に貢献している。

診療時間の短縮は,患者の仕事や自分の時間を大切にできる療養環境を提供するうえで重要である。血液疾患の患者は家族などの関係者が付き添いで来院する場合も多い。早く診療を終えることは患者および関係者のQoLを向上させることに直結している。

LIGARE 血液内科太田クリニック・心斎橋は近隣の掛かりつけ医として,血液疾患の専門的な検査や治療を引き受け,診療連携体制を構築している。造血幹細胞移植や無菌室管理などの治療を必要とする患者は基幹病院の血液内科に紹介し,その後の外来化学療法や輸血などを同院で受け持つとともに,機能の異なる複数医療機関のハブとしての役割を担うことで地域医療に貢献している。

5. おわりに

医療現場においては患者やその家族のQoLを向上させるという目標が長年掲げられており,そのアプローチ方法は変化している。より精密な診断と迅速な治療選択が要求され,新たな検査項目や検査装置の開発競争が高まる中で,新技術をいかに患者や医療従事者の課題解決に昇華させるかが重要となっている。

大都市圏に集中している医療資源を分配し,居住地域でも質の高い医療を提供できる環境整備を行うには,患者が安心して双方の医療サービスを受けられることが前提となる。大規模病院と掛かりつけ医で同等の検査体制を構築することに加えて,検査データの整合性を保つことで,患者が掛かりつけ医に対して安心感を持つことができると考えられる。

検査データの信頼性をより一層向上させるためには,患者や医療従事者のみならず,医療機器メーカーや試薬メーカーなどのステークホルダーがリアルタイムに検査関連の情報を共有できる仕組みも強固にしていく必要がある。

今後は検査装置に新技術を融合し,検査関連の膨大なデータをリアルタイムに共有して活用する体制を整備するとともに,次世代の医療に対して有用かつ信頼性の高いデータを取得・抽出するシステムを構築し,地域医療連携における課題の可視化と解決を追求していく。

謝辞

本稿の執筆にあたり,みなみ野循環器病院,LIGARE血液内科太田クリニック・心斎橋ご関係者に貴重なご意見・ご支援を頂いた。深く感謝する次第である。

参考文献など

1)
厚生労働省医政局地域医療計画課,地域医療構想について(PDF形式、1.74Mバイト)
2)
井上陽子,外:高度な迅速検査を実現する体外診断装置,日立評論,102,5,646〜651(2020.11)
3)
三巻弘,外:多目的用途に迅速に対応できる小形血液自動分析装置,日立評論,73,11,995〜1002(1991.11)
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