日立評論

「見る・測る・分析する」から始まる社会・産業・生活のDX

最先端分野での飛躍と成長を支援する計測技術

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「見る・測る・分析する」から始まる社会・産業・生活のDX

最先端分野での飛躍と成長を支援する計測技術

リスクに備えて,事業レジリエンスの強化を

飯泉 孝 飯泉 孝
株式会社日立ハイテク 代表取締役・取締役社長
1985年日立製作所那珂工場入社,2004年株式会社日立ハイテクノロジーズ ナノテクノロジー製品事業部那珂事業所半導体計測システム設計部長,2011年研究開発本部企画部長,2013年経営戦略本部ライフインフォマティクスセンタ長,2014年科学・医用システム事業統括本部事業戦略本部長,2016年株式会社日立ハイテクソリューションズ代表取締役・取締役社長,2017年株式会社日立ハイテクノロジーズ(現 株式会社日立ハイテク)執行役,2019年執行役常務,2020年執行役専務を経て,2021年より現職。

─新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け,多くの企業が事業を継続するうえで多大な影響を受けています。VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)とも言われる予測不能な今日のビジネス環境を踏まえ,アフターコロナ時代に向けたマクロな見立てをお聞かせください。

飯泉コロナ禍においては,ASEAN(The Association of Southeast Asian Nations)企業の操業停止などに伴い,半導体やコネクターなどの重要な部品が入手困難になるなど,私たちも大きな影響を受けました。部品の調達は経営の安定的な継続において極めて重要な要素であり,今回のパンデミックを教訓にして,不確実な時代への備えを強化していく必要があると痛感しています。

もっとも,こうした事態を悲観的に捉えるのではなく,学びに変えていくことが肝要です。調達不全について言えば,部品調達や製造調整のために多くの人手と時間を割くことになりました。この反省を踏まえ,今後は直接取引のある一次パートナーだけでなく,二次やその先の調達先まで含めた何万という関係先まで目を配れるよう,パートナーと共にサプライチェーンのレジリエンスを確保するための施策を考えていかなければなりません。さらには,複数のサプライチェーンを用意したり,リスクのある部品については戦略的に在庫を持っておいたりするなど,さまざまな手段を駆使して可能な範囲で先を予測し,不測の事態に備えて対策を打つ必要があります。そこはまさにデジタルの有効活用が可能な領域であり,中小規模の協力企業とも連携したエコシステムの構築と,調達に関わる事業のレジリエンスの仕組みづくりを検討しているところです。

自社にとって必要不可欠な取り組みである調達確保は,世の中の多くの企業が同様に抱えている課題でもあり,われわれが先導してシステムをつくることができれば,製造業全体の事業レジリエンスの強化にも役立つのではないかと考えています。

ここで重要になるのが,経営のスピードアップです。世の中の変化を素早く捉え,過去の経験や自身のコアコンピタンスを最大限生かしながらも,変えるべきところは躊躇なくスピード感を持って改革していく。そうした意味では,時流の変化への即時対応が求められたパンデミックは,トランスフォーメーションへの契機になったと言えます。

当社は2020年2月に本社を移転しましたが,その際働き方改革を念頭に,紙のドキュメントの7割削減やサテライトオフィスの活用,新しいネットワークシステムの構築などを実施しました。コロナ以前からのこれらの取り組みが,今回,大いに生きることになりました。リモートワークが進み,営業の担当だけでなく,設計部門も含めた関係者がオンライン会議で一堂に会することにより,海外企業や拠点とのやり取りもスピーディーになりました。たとえ感染状況が落ち着いたとしても決して元の働き方に戻すことなく,今後もウィズコロナ,アフターコロナ時代に即した働き方を徹底していくつもりです。

図1│日立ハイテクグループの持続的成長に向けた経営方針図1│日立ハイテクグループの持続的成長に向けた経営方針

カーボンニュートラルに貢献する計測技術

─今日のビジネスには,自社事業の安定的な成長とともに,SDGs(Sustainable Development Goals)をはじめ,世界が直面するさまざまな社会課題解決への貢献が求められています。これらの課題に対して,日立グループの日立ハイテクだからこそ提供できる価値についてお聞かせください。

飯泉想定外の事象が発生している現在,解決すべき課題が山積していることは明らかです。その課題にしっかり向き合うことができているのかどうかを,いま一度,見つめ直す必要があるでしょう。多くの経験や知見,そしてさまざまな商材を持つ日立グループ,日立ハイテクは,既に顕在化している,あるいはこれから顕在化するであろう課題をしっかり捉えて,その解決策を総力を挙げてつくり上げ,社会に提案できると考えており,そのフィールドは多岐にわたります。

例えば,地球温暖化対策として自動車のEV(Electric Vehicle)化が急速に拡大していますが,EVに使用されるリチウムイオン電池のリサイクルやリユースは大きな課題です。そこでわれわれは,電池のライフサイクルマネジメントに対する新たなソリューションの構築に取り組んでいます。具体的には,使用中および使用済みのリチウムイオン電池の性能劣化や余寿命を高速で診断する電池劣化高速診断手法を用いて,電池のライフサイクルマネジメントサービスの提供を始めています。これにより,例えば,EVでは十分な性能を発揮できなくなった電池を回収し,家庭用の蓄電池として再利用するといったことができるようになります。

なお,リチウムイオン電池は,製造過程で万一,異物が混入してしまうと性能の低下をもたらすだけでなく,発火などの原因となってたいへん危険です。この異物検知で活躍しているのが当社のX線異物解析装置であり,異物の検出から元素同定までを自動で行うことができます。つまり,われわれ日立ハイテクの製品は,安全な電池の製造から回収まで,まさに電池のライフサイクル全体に寄与しているのです。今後は国内だけでなく,特に環境規制の厳しい欧州での活動にも注力していきます。

その他に,カーボンニュートラルの取り組みとしては,CO2を吸着させて別の物質に変換させるための触媒の開発にも貢献しています。ここで利用されているのが,実際にCO2と触媒の反応をリアルタイムに観察できる,いわゆるIn-situ(その場)観察を可能にする透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)であり,日立の研究所と共に開発に成功しました。

さらに,ヘルスケア分野では,再生医療やバイオ医薬,創薬などの分野において,少子高齢化社会が抱えるさまざまな課題に向き合い,人々のQoL(Quality of Life)を向上させるための取り組みを加速しています。このように,日立ハイテクのコアコンピタンスである「見る・測る・分析する」技術は,SDGsなどの地球規模の課題解決にも大きく貢献しているのです。

技術力と製品化力の高さが強さの源泉

─日立ハイテクは,日立グループのライフ分野をリードする中核企業であり,ものづくりや技術へのこだわりなど日立らしさを堅持しつつ,専門分野で世界シェアの高い製品を提供しています。日立ハイテクの製品とその強みについて教えてください。

飯泉日立ハイテクの製品や技術は縁の下の力持ち的な存在であり,サステナブルな社会と生活を支えているにも関わらず,一般にはあまり知られていません。今後は,われわれの活動を広く知っていただくよう努めていかなければならないと考えています。

例えば,世界トップシェアを誇る製品としては,医療現場の血液検査などで活用されている生化学自動分析装置があります。これは分光技術を核とした,開発から半世紀の歴史を持つ主力製品であり,試薬を開発するロシュ社との提携を基軸に世界市場で展開してきました。臨床医療に欠かせない製品であり,パンデミックを機にさらにその重要性が高まっています。

もう一つの主力製品には,半導体のウェーハ上に形成された微細パターンの寸法計測に特化したFEB(Field Emission Beam)測長装置があります。これは数ナノメートルオーダーでの計測を可能にする走査電子顕微鏡の応用装置であり,半導体製造の現場に決して欠くことのできない装置です。微細化や積層化,三次元構造化といった半導体の進化とともに,われわれの装置もその性能を高めてきました。今後は,さらなる低消費電力化をめざす次世代半導体に向けた取り組みを加速させていきます。

こうしたある分野に特化した専用製品が長きにわたって世界トップシェアであり続けている背景には,当社の最先端のテクノロジーを開発していく技術力の高さに加えて,産業の現場で24時間365日,高い信頼性と安定性を持ちながら稼働し続けなければならない装置づくりを通して醸成された製品化力,ものづくり力の高さ,それぞれの分野への深い理解があります。日立の中央研究所で開発された電子線技術を電子顕微鏡へ応用し,製造現場で使われる半導体の検査装置へと展開できたのは,その事業領域に特化した経験とノウハウ,すなわちドメインナレッジがあればこそと言えるでしょう。

日立ハイテクが,1968年から製品の製造に関わる若手技術者を技能五輪全国大会に送り出しているのも,世界一のものづくりをめざすがゆえであり,こうした技術力,製品化力の高さこそがわれわれの強さの源泉であると確信しています。

しかしながら,これからの企業は,高度な技術や主力製品があるだけでは十分ではなく,企業としての存在価値を高めていくことが重要になります。私自身,これまでさまざまな業種の仕事に携わる中,多くのお客さまやパートナーとの対話,市場の動き,従業員との会話などを通じて,企業の価値とは何かということを常に考えてきました。当然,利益が出なければ企業は存続できませんし,高収益を上げることは投資家の期待に応えることにつながります。ですが,生活に困窮している人や十分な医療サービスを受けられない人が世界中に数多く存在し,また,経済活動に伴う環境負荷や社会課題が地球規模で増え続けている現状を鑑みると,私たち企業が果たすべき役割を改めて問い直す必要があると感じています。

こうした考えから,日立ハイテクは次期中期経営計画の議論を経て,財務系指標から算出される経済価値に加え,非財務系の指標から生み出される社会・環境価値をいかに高めていくかに取り組んでいきます。そのためには,社会課題の解決を単に収益につなげるという思考ではなく,課題解決をした結果として収益も企業価値も向上していくことをめざすような思考の変革が必要になります。

企業価値を高め,企業として社会課題を解決している姿を示すことは,社員の意識を高め,働くモチベーションを向上させることにもつながるはずです。自分たちの仕事が社会に貢献しているという価値を実感でき,それが利益につながることが理解できれば,仕事に取り組む姿勢はまったく違ったものになるだろうと思っています。

図2│日立ハイテクの事業展開の基本スタンス図2│日立ハイテクの事業展開の基本スタンス

センシング技術の追求とデータ利活用を両輪で

─Industrie 4.0やSociety 5.0などで提唱されたCPS(Cyber Physical System)が近年,現実味を帯びてきました。ここでカギとなるのがAI(Artificial Intelligence)などの先端技術を駆使して,データを価値に変えるデジタルトランスフォーメーション(DX)です。こうした期待に応えるうえで不可欠な基盤技術として,計測・センシング技術をどのように進化させていく必要があるとお考えでしょうか。

飯泉データを価値に変え,より効率的にDXを進めるためには,どのようなデータを取得すべきなのか,という議論が必要です。大量に集めたデータを任意の解析に使えるようにクレンジングすればよいという考え方もありますが,そもそも最初から足りないデータを補うことはできません。多種多様なデータの収集に向けてセンシング技術の多様化と高度化に取り組んでいくことは,高度で効率的な制御システムの構築において欠くことのできない要件なのです。

つまり高付加価値を生むDXを提供するためには,既存のセンサーや装置だけでは十分ではなく,今後も継続的な技術開発が不可欠だということです。例えば,橋梁・水道管などのインフラ設備の劣化の状態を把握し,優先的に修繕を進めるためのセンシング技術はまだ開発途上です。個別化医療に関しても,人間の生体情報を網羅的,定常的に取得するセンサーは未だ開発されていません。適正なセンシング技術が開発されればブレークスルーにつながる領域は数多くあるはずです。

これらの課題解決に向けて,われわれは生化学自動分析装置をはじめ,ゴミ焼却炉の燃焼温度の適正な制御のための計装技術や,新幹線の軌道や架線の検査をする総合検測車向けの検測装置など,信頼性の高い検査結果が即時に求められるセンサーを数多く手掛けています。それぞれのドメインナレッジに通じているからこそ,その分野に特化した必要不可欠なセンサーを開発できるわけです。今後も,データを価値に変える取り組みと,最適なデータを取得する取り組みを両輪で進めながら,センシング技術のさらなる多様化と高度化に注力していきます。

日立ハイテクの製品を通じて取得できるデータは,医療であれば血液や遺伝子など秘匿性の高いものが多く,その取り扱いには常に細心の注意を払っています。これらのデータは基本的にはお客さま,あるいは個人のものであり,こうしたステークホルダーとの協創なくして価値創出につなげていくことはできないと考えています。

一方,半導体製造の現場を筆頭に,歩留まりや生産性向上に向けて,お客さまからもデータ利活用を求める声が強まっています。今夏,オレゴン州ヒルズボロ市に半導体エンジニアリング新拠点「Hitachi Center of Excellence in Portland」を開設し,最新の計測技術とともにお客さまのデータを活用することで半導体製造の生産性向上をめざしていく考えです。

さらにはわれわれが提供する装置が出力する計測データや装置稼働データなどをクラウド環境で収集し,一元的に管理するとともに,データ活用のためのポータルを搭載したIoTサービス「ExTOPE」の提供にも取り組んでいます。これにより,お客さまは,いつでもどこからでもデータにアクセスして分析・解析を行うことができ,当社がお客さまのデータを通じて価値創出を支援する機会も増えてきました。

カギとなるアカデミアとの連携と業務プロセスのDX化

─計測したお客さまのデータの活用が,また次のイノベーションにつながるというわけですね。そうした日立ハイテクの独創的な立ち位置が,持続的な成長を実現するうえで生きてくるものと思います。

飯泉次期中期経営計画の立案に際して,日立ハイテクのコアコンピタンスを改めて整理する中で,「見る・測る・分析する」というコア技術に加えて,お客さまとの接点であるフロント力やものづくり力など,E2E(End to End)で広範にわたる強みを持つことを再認識しました。これからも,基盤技術と基盤事業をベースに特定領域の専用装置をつくって高い収益を上げていくとともに,これから顕在化する社会課題に対応した,次なる事業の柱を生み出していきたいと考えています。収益化に時間がかかる先端技術の開発を積極的に進めるためにも,大学や学会などアカデミアとの連携をこれまで以上に強めていかなければなりません。

例えば,医療分野では現在,愛知県の藤田学園と臨床検査の品質向上と効率化に向けた共同研究を始めています。ここでは,臨床検査に関わる装置の高度化・高機能化だけでなく,検査技師の業務効率向上につながる臨床検査室の新しいあり方を実現するために,ロボットやAI,IoTなどのデジタル技術を積極的に取り入れる試みを進めているところです。

こうした長期的な視野に立ったチャレンジングな取り組みを通して,大学の先生方との信頼関係を地道に構築していくことが肝要です。その際,自分たちも技術に通じていなければ,専門家には相手にもされないでしょう。常に自らのレベルアップを図りながら先生方とお付き合いをしていく必要があり,そのための人財教育も重要になります。

また,経営基盤強化という観点では,現在,今まで積み上げてきた業務プロセスのやり方をゼロベースで見直し,「われわれ自身が変わる」社内DXに取り組んでいます。営業からサービスにいたるE2Eにおいて業務プロセスをシンプルにするとともに,幅広い協創を見据えてすべての業務でグローバル標準化を進めています。

さらに,設計業務に関しては,より高度化する製品や技術への対応に加え,働き方改革や少子化に伴う環境の変化へ対応していくことも重要であり,設計生産性改善は必須の要件となっています。そのため,設計業務プロセスの見直しや高度なデジタルツールを導入したサイバーフィジカルのシステムの導入による設計プロセスのDX化も進めています。

日立ハイテクは強い経営基盤と強い技術基盤,そしてグローバルなフロント力などのコアコンピタンスを総動員して,計測,分析という観点から社会課題の解決を進めていきます。

先を読みながら,高度な技術開発へチャレンジしていく

飯泉 孝

─日立ハイテクが手がける先端事業では技術イノベーションが競争優位につながりますが,R&Dとの連携についてはいかがでしょうか。また,そこで求められるのはどのような人財でしょうか。将来への展望をお聞かせください。

飯泉顧客起点,課題起点で何が必要かを考えていくと,注力すべきものと不要なものが明確になります。市場ニーズに応じて,手元にあるものは強化し,足りないものは日立の研究所とともに新たに開発する,あるいは外部から導入します。また,専門分野に通じた人財の中途採用に積極的に取り組んでいます。このとき,当社の母体の一つである旧日製産業の商社としての機能が,世界中からさまざまなモノやシステムを集めてくるのに大いに役立っています。一方,将来にわたって不要だと考えられるものは躊躇なく手放し,研究開発のリソースを継続的かつ最適なタイミングで投入していくことが肝要です。

難しい技術課題ほど,実現した後の差別化が可能になります。もちろん,そうした高度な技術の開発には困難を伴いますが,それを乗り越えるためには,チャレンジする姿勢,諦めない強い意志,失敗を恐れない変革マインドを持つ人財が不可欠です。イノベーションに対する興味,そして社会貢献をしたいという強い思いを持つ人が,これからの社会を大きく変えていくことになります。実際に日立ハイテクには,そうした意識を持つ,独立心旺盛な社員が多数いると確信しています。

10年後,30年後,50年後,世の中がどのように変わるかを予想することは難しいけれど,世の中がどう変わろうと「見る・測る・分析する」ことへのニーズは決してなくなることはありません。むしろ,不確実な世の中になればなるほど,計測の重要性は増していく。そして,その時々で何を計測することが求められているのか,そのためにどのような技術が必要なのかを見極めることが最も重要になるでしょう。

そうした時代の変化にキャッチアップするためにも,市場を見るだけでなく,技術の中長期計画を踏まえて,先を読みながら,あらかじめ技術を仕込んでおかなければなりません。一方で,特にアプリケーションの世界では,世の中の変化に合わせて,スピード感を持ってフレキシブルに対応していくことも不可欠です。

今後も,時代に合った技術のベースをしっかりとつくり上げ,世の中が必要とするものを継続的に提供していきたい。それがサステナブルな未来の実現に貢献すると信じています。

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