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海上輸送と陸上輸送の結節点である港湾は,貿易および経済活動に影響力を持つ社会インフラである。近年顕在化している世界規模の環境問題や社会課題を受けて,国内外の港湾ターミナルではさまざまな課題を抱えており,機能高度化に関する取り組みへの関心が高まっている。本稿では,港湾分野の抱える課題に対する日立の取り組みとコンセプトを紹介し,開発ソリューション技術,事例および展望について述べる。

目次

執筆者紹介

寺竹 博道Teratake Hiromichi

寺竹 博道

  • 日立製作所 水・環境ビジネスユニット 環境事業部 情報システムエンジニアリング部 所属
  • 現在,社会情報分野におけるシステムインテグレーション事業推進および協創活動に従事

堀野 真弘Horino Masahiro

堀野 真弘

  • 日立製作所 水・環境ビジネスユニット 環境事業部 情報システムエンジニアリング部 所属
  • 現在,社会情報分野におけるシステムインテグレーション事業推進および協創活動に従事

吉井 一彦Yoshii Kazuhiko

吉井 一彦

  • 日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 Lumada CoE DX協創推進部 所属
  • 現在,Lumada事業推進およびデジタルトランスフォーメーション協創推進に従事

内藤 寛人Naito Hiroto

内藤 寛人

  • 日立製作所 水・環境ビジネスユニット 環境事業部 情報システムエンジニアリング部 所属
  • 現在,社会情報分野におけるシステムインテグレーション事業推進および協創活動の取りまとめに従事

1. はじめに

世界の物流では,トン(t)ベースで国際貿易量の90%程度を海上貨物輸送が担っており,日本における割合は99.6%(2020年時点)にまで及んでいる1)。国際海上輸送からの温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出量は,世界全体の約2.9%を占めている1)。近年の環境意識の高まりを受けて国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)は2018年にGHG削減戦略を採択し,2050年までに国際海運からのGHG総排出量50%以上削減(2008年比)を掲げている。

海上貨物輸送を受け入れる港湾ターミナルにおいては,GHG排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルポート(CNP:Carbon Neutral Port)形成に向けて,水素・燃料アンモニアなどの受け入れ環境の整備や港湾立地産業の脱炭素化,そして脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化に取り組んでいる2)

本稿では,港湾オペレーション効率化を通じてCNP形成や運用に貢献する港湾機能の高度化に関する取り組みについて概説する。

2. 港湾機能の高度化に関する取り組み

図1|日立がめざす港湾DXビジョン図1|日立がめざす港湾DXビジョンフィジカルスペースから得られるさまざまなデータをサイバースペースでデジタル処理し,現場にフィードバックすることで港湾業務を高度化して事業者に新たな価値を提供する。

図2|取り組みソリューション概要図2|取り組みソリューション概要顧客の業務を整理し,DXの効果の大きいと考えられるコンテナダメージチェック業務およびコンテナの配置計画業務の高度化に取り組んでいる。

港湾ターミナルは,荷役時間の最小化やターンタイムという作業効率性を示す指標の最短化,荷役機械の稼働率向上およびCNPに貢献する省エネルギー推進などの課題を抱えている。

日立は顧客のデータから価値を創出し,デジタルイノベーションを加速するための日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称であるLumadaを推進している3)。港湾オペレーション分野においても,カメラなどのセンサーを通じて取得したさまざまな現実世界の情報を用いてデジタル技術を活用し,現場業務および作業者を支援するデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現をめざしている(図1参照)。現状業務および将来業務を定義し,DXによる効果が大きいと考えられるコンテナ蔵置計画最適化ソリューションおよびコンテナダメージチェックソリューション(以下,「CDCS」と記す。)の開発に取り組んでいる(図2参照)。

貨物コンテナの蔵置について,日本の港湾では用地面積の制限からコンテナの段積数が高くなる傾向にある。通常,搬出されるタイミングが早いコンテナをより高い段に置き,搬出までに時間がかかると予測されるものは下段に配置される。コンテナを積み替える回数(荷繰り回数)を少なくするような配慮が必要となる。現状,このような配置計画は定式化された知見や熟練作業者の持つ経験を頼りに立案されている。今後,複雑化するサプライチェーンに対応するためにも,人工知能(AI:Artificial Intelligence)の活用によって時々刻々と変化する貨物情報への柔軟な適応と,作業者の立案業務支援を通じた負荷軽減が期待されている。

コンテナのダメージチェックでは,海上コンテナに傷やへこみ,腐食などが見られる場合,輸送過程における積載貨物の損傷を疑う必要がある。港湾ターミナルでは,コンテナの損傷状況を確認し引き渡しの段階で伝達することが関係者間での管理責任上で重要となる。一般的にコンテナターミナルでは,本船荷役時やゲート搬出・搬入時に実入りコンテナの外観を確認し,空コンテナはさらに内部も目視で汚損や水漏れの有無を確認する。検査作業は重要業務であるため,安心・安全な労働環境を確保しながら効率化を図る必要がある。日立は,将来的にAIなどを活用してダメージが疑われる箇所を自動でアラートすることなどによる点検支援をめざし,前段として遠隔点検システムでデータ蓄積を図り段階的に発展することが肝要であると考えている。

2.1 コンテナ蔵置最適化ソリューション

図3|コンテナ蔵置最適化ソリューション概要図図3|コンテナ蔵置最適化ソリューション概要図コンテナターミナルで得られるさまざまな業務情報からオペレーションの制約を踏まえた計画を立案し,結果をWeb GUIで表示する。

日立は,複雑な港湾オペレーション業務に対応するために,複数のAIモデル群と数理最適化技術を組み合わせて蔵置計画を立案するAIモデルを開発した(図3参照)。コンテナの属性情報をはじめとしたビッグデータを活用し,機械学習により輸入コンテナが何日後に搬出されるか予測する機能やコンテナの搬出予測日結果を基に最適なコンテナ配置計画を立案する機能などを有する。作業者はコンテナの搬出予測結果に基づく蔵置計画案,または環境負荷低減などの目的に応じた荷役機器の作業指示などの情報を参考にすることができ,業務効率化を図ることができると考えている。

検証においては,港湾の業務システムであるTOS(Terminal Operation System)が保有するコンテナ情報に基づいた学習モデルを構築し,評価する。過去データに基づくコンテナ実配置と,学習したAIで示されたコンテナ配置を比較して,蔵置回数の減少率を評価することが蔵置場所の最適化の一つの指標になると考えられる。現在,複数の港湾ターミナルのデータを用いたオフライン検証において荷繰り回数を10〜15%程度低減できる見通しを得ている。現在得られている結果は制約・仮定条件下であるため,今後は諸条件や評価システム系の見直しなどを進めていく予定である。将来的には,熟練者の計画方法をAIが立案者に提案する業務計画支援アプリケーションが有用であると考えている。

2.2 コンテナダメージチェックソリューション(CDCS)

図4|コンテナダメージチェックソリューション概要図図4|コンテナダメージチェックソリューション概要図処理ごとにライブラリ化したGUIアプリケーションとすることで,顧客の多様なニーズに対応する。

CDCSの概要図を図4に示す。ダメージチェックは,主にチェックゲートや岸壁側本船荷役作業時に実施されるため,日立では各場所において取得した映像を基にダメージ箇所を検出し,遠隔モニタまたは作業現場モニタに提示するシステムの開発を進めている。ダメージ検出ソフトウェアには,取り込んだ映像・画像データの画像処理,機械学習によりダメージの有無などを判別する判定処理,および結果を画像上に重畳する変換処理および人が結果を確認できるようにするための表示処理がある。設置状態,設定条件,方法などが各事業者によって異なる。顧客に応じてカスタマイズしたライブラリを適用することでニーズに対応する。

車両下部の点検ソリューションにおけるコンテナ底部の撮影結果や,光学文字認識技術を用いたコンテナ番号読み取り結果,およびAIによるダメージ判定に関する検討結果の一例を図5に示す。今後,実用化,実装化に向けて取り組んでいく予定である。

図5|評価結果の一例図5|評価結果の一例左側にコンテナ底部の撮影画像,中央に光学文字認識によるコンテナ番号読み取り結果例,右側にAIによるダメージ判定例を示す。

3. おわりに

本稿では,港湾機能の高度化に向けた取り組みとして,業務データやAIを活用したデジタル化技術の活用事例を紹介した。日立は,今後もデータの活用による制御技術(OT:Operational Technology)の高度化とDX推進のための技術開発を通じて社会課題の解決に貢献していく。その中で,港湾分野の未来をつくる社会イノベーションを通じて社会や港湾関係者に貢献をしていきたいと考えている。

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