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執筆者紹介

藤原 貴彦Fujiwara Takahiko

藤原 貴彦

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット 企画本部 所属
  • 現在,インダストリー分野の研究開発の企画・管理業務に従事

舘 隆広Tachi Takahiro

舘 隆広

  • 日立製作所 水・環境ビジネスユニット 水事業部 所属
  • 現在,国内外の水環境事業および研究開発統括業務に従事
  • 規格開発エキスパート(SE00346)
  • 環境システム計測制御学会会員
  • 触媒学会会員

1. はじめに

日立は,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを企業理念とし,重要な社会課題の一つである環境課題の解決に向けて,インダストリー分野においてもさまざまな技術やソリューションを提供することで貢献している。

例えば,最先端のデジタル技術を活用した日立のデジタルソリューションで社会を支えるシステムの効率を向上させ,CO2排出量削減に貢献していく。また,レジリエントなサプライチェーンの構築にデジタルソリューションで寄与し,インダストリー分野の脱炭素化に貢献していく。

一方で,グローバル共通の社会課題でもある資源の収穫・採取,使用,廃棄物処理の増加などの問題に対しては,バリューチェーンを通じた資源のサーキュラリティ実現をはじめとする水・資源循環型社会の構築に顧客や社会とともに取り組んでいる。

本稿では,このようなインダストリー分野での環境負荷低減につながる日立のデジタルソリューションや,循環型社会の実現に向けた日立の技術・役割について紹介する。

2. 環境負荷低減に向けたインダストリー分野での日立のデジタルソリューション

世界規模での環境意識の高まり,COVID-19の影響による社会の変化,地政学的リスクの高まりなど不確実性が高まる社会において,インダストリー分野の企業の事業環境や価値観が大きく変化している。企業のこのような複雑かつ広範囲な経営課題解決に貢献するため,インダストリアルデジタルビジネスユニットは強みであるIT×OT(Operational Technology)×プロダクトを生かしたトータルシームレスソリューションの提供を通じて顧客価値向上を軸とした事業を展開し,IT・OT一体でのデジタルソリューションとロボティクスSI(System Integration)をトータルに提供することで,社会イノベーションに貢献している。

環境負荷低減の視点でインダストリー分野を俯瞰すると,サプライチェーン上の各企業が自社のCO2を低減するばかりでなく,上流から下流まで,サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの実現を視野に入れた取り組みが重要となっている。

インダストリアルデジタルビジネスユニットでは,デジタル技術を駆使したさまざまなソリューションで顧客企業の業務プロセスの効率向上を実現することで,環境負荷を与える業務プロセスの時間や距離を削減し,インダストリー分野の環境負荷低減に貢献していく。

例えば,製造業においては,需要変動に即応する生産・販売計画の立案・実行支援ソリューションを提供することで,生産・輸送などの効率化や在庫最適化を実現し,環境負荷低減に貢献する。

また,商品流通分野においては,AI(Artificial Intelligence)需要予測型自動発注を用いて適正な発注と在庫最適化を実現し,食品ロスや在庫の過多による環境負荷の低減に貢献する。

医療・医薬分野においては,再生医療等製品のバリューチェーン全体の細胞・トレース情報を統合管理するプラットフォームでバリューチェーン全体を最適化し,厳格な品質(トレーサビリティ)管理で環境負荷低減に貢献する。

これらの最適化を実現するデジタル技術が,日立のCPS(Cyber Physical System)である。フィジカル空間の業務プロセスの多様・大量なデータを収集してモデル化し,サイバー空間で分析・シミュレーションすることで最適解を導き出して,フィジカル空間にフィードバックすることで実際のオペレーションを最適化する(図1参照)。

これまでの最適化は,業務プロセスの一部を現場から経営までつなげる企業内での垂直方向の最適化が主流だったが,昨今はサプライチェーン全体でのCO2削減や柔軟性の強化が求められ,複数の企業を巻き込んだサプライチェーン全体の最適化を図ることが必要になってきている。最適化すべき範囲が広がり,収集・分析するデータの種類も多岐にわたってその数も膨大となり,さらには関係企業が複数となることで,解くべき問題が複雑で難易度も高くなる。また,業務プロセス間,組織間,企業間には非連続な「際」が存在し,全体最適化を難しくする要因となっている。日立はCPSで「際」をつなぎ,複雑で難易度の高い問題を解決して,全体最適化を実現していく。

市場の不確実性が高まり,解くべき課題は複雑かつ多元的ではあるが,インダストリアルデジタルビジネスユニットは,生産現場からバリューチェーン全体にわたって可視化・分析するソリューションとプロダクトのコネクテッド化を基軸に,顧客のビジネスプロセスの変革を支援するとともに,環境負荷低減と経済価値の両立の実現を今後もめざしていく。

図1|最適化を実現するCPS 図1|最適化を実現するCPS 現場から収集した多様かつ大量のデータをサイバーで分析し,最適解として現場へフィードバックするリアルタイム性と,サプライチェーン上の広範な企業が利用できる信頼性・柔軟性で,新たなビジネス・エコシステムを構築する。

3. 循環型社会に向けたインダストリー分野での日立の技術・役割

図2|CEモデル概念図 図2|CEモデル概念図 従来のリサイクルルートに加え,他の循環方法を模式図にしたものを示す。

資源を取り巻く社会環境は近年著しく変化している。世界の経済発展や人口増加などによる資源消費の増大や,地政学的リスクの高まりによる原材料の高騰など,さまざまな産業で必要とされる資源の調達が困難となる課題が顕在化している。

また使用後の製品についても,例えば投棄されたプラスチックごみによる海洋汚染が海洋生物に影響を与えるなど,資源の回収が世界的な課題となっている。

さまざまな産業・流通分野において,資源の確保から製品の製造に至るサプライチェーンの確保や,使用後の製品の再資源化を考慮した資源循環型社会の構築がますます重要になっている。

そのような中で日立グループは,資源循環型社会の構築に貢献するため,資源循環の動脈側(製品の製造・販売)では再生材の活用や,省資源・長寿命化を図っている。また静脈側(資源の回収・リサイクル)では,製品の再利用や再製造などを推進している。

家電製品の再資源化においては,冷蔵庫断熱材からのフロンガス回収プロセスを開発し,基本プロセスを特許化するとともに,1999年には家電リサイクル事業会社を栃木県と北海道,東京都に設立している。

これらの事業会社では家電製品だけでなく,情報機器やATM(Automated Teller Machine)の再資源化,エアコンに含まれる希少金属(レアアース)の回収,医療機器やスマートフォンなどのリサイクルも推進している。

経済的な資源循環[Circular Economy(以下,「CE」と記す。)]の概念図を図2に示す。CEとは,従来のリサイクル(再資源化)の流れに加え,リマニュファクチャリング(再製造),リビルト(再組み立て),リペア・エクステンション(修理・延命)などの循環の流れを加えたものである。日立グループにおいても家電製品をはじめとする工業製品の再資源化において,CEの考え方での検討を進めている。

4. おわりに

気候変動や新型コロナウイルス感染症,地政学的リスクなどにより市場の不確実性が高まり,解決すべき課題はますます複雑かつ深刻になっている。

日立は,これからも最新のデジタルソリューションで循環型社会の構築や顧客の環境負荷低減に貢献していくとともに,IT×OT×プロダクトを生かして社会課題を解決する社会イノベーション事業を通じて,データとテクノロジーで持続可能な社会の実現と人々の幸せの両立に挑戦していく。

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