ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

ハイライト

地球温暖化に伴う気温上昇を極力抑える努力が世界規模で進められている。特に温室効果ガスの排出削減,カーボンニュートラルの実現に向けて,2030年,2050年を期限とした目標設定に取り組む国,地域,企業が増えている。

各企業においては,自社の排出量(Scope1,Scope2)の抑制と再生可能エネルギーへのシフトを通じて,カーボンニュートラルをめざしていくこととなる。一方,原材料,製品の利用といったサプライチェーン全体(Scope3)を通じてカーボンニュートラルをめざす取り組みや,自社の製品・サービスの提供に含まれる温室効果ガスの算定評価も求められている。

本稿では,主に自社の排出量(Scope1,Scope2)のカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みに対して,エネルギーマネジメントシステムの観点からの支援について紹介する。

目次

執筆者紹介

湯上 洋Yunoue Hiroshi

湯上 洋

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部 所属
  • 現在,エネルギーマネジメントシステムの開発および事業の取りまとめ業務に従事

黒岩 翔Kuroiwa Sho

黒岩 翔

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部 所属
  • 現在,民間企業向けのエネルギーマネジメントシステムを中心とした統合プラットフォームの構築業務に従事

山崎 知哉Yamasaki Tomoya

山崎 知哉

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット ソリューション&サービス事業部 産業第2ソリューション本部 産業第4ソリューション部 所属
  • 現在,エネルギーマネジメントシステムの開発および地域エネルギーマネジメントシステム開発に従事

1. はじめに

2021年10月から11月にかけて英国・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)1)では,2030年までの気温上昇を産業革命以前との比較で+1.5℃に抑制する合意文書が採択されるなど,深刻化する気候変動を抑制する取り組みが広がっている。

こうした中,2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた各国政府による政策推進とともに,社会全体での自主的な取り組みへの期待が高まっている。

日本においても,COP26開催に先立って2018年7月に第5次エネルギー基本計画2)の閣議決定を行った。さらに現在では第6次エネルギー基本計画が策定され,2030年に2013年比46%の温室効果ガス排出削減,2050年にはカーボンニュートラルの実現をめざしている。

一方,企業ではこうした社会的要請に応えるために,自社のカーボンニュートラルへの転換とともに,サプライチェーン全体としてのカーボンニュートラルの実現が求められている。

本稿では,主に自社のカーボンニュートラルの達成に向けた各種課題解決に貢献するエネルギーマネジメントシステムについて紹介する。

2. カーボンニュートラルの実現に向けての課題

図1|カーボンニュートラルの実現手段図1|カーボンニュートラルの実現手段四つの取り組みアプローチを合理的に組み合わせて推進することが必要である。

カーボンニュートラルの実現には,四つの取り組みアプローチがある。それは,エネルギーの使用量を減らす「省エネ」,自らカーボンフリーの再生可能エネルギーなどを創り出す「創エネ」,カーボンフリーのエネルギーを調達する「再エネ調達」,排出カーボンの「オフセット」であり,これらの取り組みを合理的に組み合わせて推進することが必要である(図1参照)。

この中で省エネの取り組みは,その他施策の実践にあたっての費用を減らす効果があるだけでなく,その投資原資を生むための重要な施策となっており,特に優先的に取り組むべきものである。

一方,すでに省エネの取り組みを進めている企業においては,カーボンフリーのエネルギーを,いつどのような手段で導入もしくは調達するかについての検討が喫緊の課題になっている。

また,昨今,再生可能エネルギーの不安定性を一因とした,電力の需給アンマッチが生じるリスクが高まっている。今後,カーボンニュートラル社会をめざすうえで,系統電源の再生可能エネルギーの主電源化が求められているが,電力需給のアンマッチが生じる可能性がなお一層高まることとなり,電力系統の安定化に向けて社会的な課題も顕在化している。

3. エネルギーマネジメントシステムによる支援策

3.1 さらに深化した省エネの実現

従来のエネルギーマネジメントは,いわゆる見える化を通じての気付きや取り組みの検証などにとどまっているケースが多く見受けられ,効果の刈り取りは現場の努力に委ねられることが多かった。

一方,より深化した省エネの実現として,需要予測と最適化手法を組み合わせ,システムで制御まで実行することで,実行,効果の刈り取りまでのサポートをシステムで実現する事例が増えている。

3.2 創エネの最大活用,再エネ調達の最適化

前節の需要予測と最適化手法に,再生可能エネルギーの発電量予測,電力市場価格などの情報を組み合わせ,創り出した再生可能エネルギーを余すことなく使い切るとともに,調達する再生可能エネルギーコストの最小化をめざすために,エネルギーマネジメントシステムの高度化が望まれている。

3.3 再生可能エネルギーの主力電源化に向けた調整力の供給

2021年4月より,送配電系統における周波数制御・需給バランス調整を行うために必要な調整力を確保するために,需給調整市場が開設された3)。これは,エリアを越えた広域的な調整力の調達・運用と,市場原理による競争活性化・透明化による調整力コスト低減を目的とした需要調整力を売り買いする市場である。本市場の開設により,再生可能エネルギーの出力変動に対応しやすくなった。

電力送配電システムにとって,気象条件によって発電量が不安定な再生可能エネルギーに対して,電力需要家からリアルタイムに調整力を調達し系統の安定化を図ることができる。また,需要家として調整力の供給は,社会課題に対する貢献と合わせて,これまで無償であった自らが有する調整力を売却すれば,利益をカーボンニュートラルの投資に生かすこともできる。

4. 統合エネルギー・設備マネジメントサービス「EMilia(エミリア)」

4.1 統合エネルギー・設備マネジメントサービス「EMilia(エミリア)」の概要

前述したカーボンニュートラル実現を支援するエネルギーマネジメントシステムとして,2017年より日立が提供を開始したのが統合エネルギー・設備マネジメントサービス「EMilia(エミリア)」4)である(図2参照)。これまで地域向けエネルギーマネジメント(CEMS:Community Energy Management System),製造現場向けエネルギーマネジメント(FEMS:Factory Energy Management System),ビル向けエネルギーマネジメント(BEMS:Building Energy Management System)を納入してきた(図3参照)。

EMiliaは見える化にとどまらず,より深化した省エネルギーの実現に貢献するための機能を有している。気象や生産計画と連動した需要予測に加え,コスト最小化,CO2排出量最小化を目的とした最適運転計画機能で,生産計画へのフィードバックやユーティリティ供給設備に対する制御を行うことが可能である。

図2|EMiliaの概要図2|EMiliaの概要工場内のさまざまな設備と接続し,エネルギーと設備の最適運用の実現を支援する。

図3|EMiliaの利用シーンと特徴図3|EMiliaの利用シーンと特徴EMiliaはさまざまな利用シーンに適用できるほか,エネルギーと設備の最適運用の実現を支援する。

4.2 最適運転計画の立案と制御による深化した省エネの実施と創エネの最大利用

カーボンニュートラルの実現に向けては,従来のエネルギーマネジメントの視点である,むだ・むらの排除による省エネ活動では限界が予想される。

EMiliaでは,より深化した省エネ,省コスト,創エネの最大利用を実現するために,時々刻々と変化する外部環境(エネルギー価格やCO2原単位など)や,エネルギー需要,ユーティリティ設備の運用制約や性能特性を考慮した最適な運転計画の立案と制御をシームレスに連携させ,効果を最大化させることが可能である(図4参照)。

EMiliaは,顧客の要件に合わせて,電力需要や熱需要の予測機能,設備運転に関する最適化演算と設備運用スケジュールの立案および制御をシステム化して提供することで,より複雑化する顧客の課題に応える。

図4|最適運転計画の立案と制御による省エネの実現図4|最適運転計画の立案と制御による省エネの実現最適運転計画を立案し,その計画に基づいて制御を行うことで省エネの実現をめざす。

4.3 需給調整力市場に対する機能

図5|EMiliaの需給調整力市場向けエンハンス図5|EMiliaの需給調整力市場向けエンハンス再生可能エネルギーの主電力化社会や顧客のニーズに向けて,2021年度の機能エンハンスにて調整力市場向け機能を実装した。

図6|需給調整市場向け機能図6|需給調整市場向け機能増コストを考慮して調整力を予測するほか,制御時には補正を行う。

また,EMiliaは再生可能エネルギーの主力電源化や顧客のニーズに向けて,2021年度の機能エンハンスにて調整力市場向け機能を実装し,進化を続けてきている5)図5参照)。

アグリゲーションコーディネータ(以下,「AC」と記す。)は,需給調整市場と接続し,配下にあるリソースアグリゲータ(以下,「RA」と記す。)の調整力を束ねて調整力市場への入札と約定後の需要調整要請を配下のRAに配分する役割を担う。一方RAは,入札段階では需要家が時間ごとに供出可能な調整力を算出しACへ伝える。需要調整段階では,ACからの需要調整要請に対して応動するために需要家の設備を制御して調整力を供出する役割を担う。また,ACおよびRAは,需要調整実績に応じたインセンティブや約束した需要調整ができなかった場合のペナルティの負担が発生する。

EMiliaは,ACとのシステム連携用のプロトコルである,OpenADR2.0bをサポートするとともに,以下の需給調整市場向けの機能を提供している。

  1. 翌日の供出可能調整力の算出
    需要予測と最適運転の結果に対して,設備の運転変更を行った場合の供出可能な調整力を算出する。
  2. 調整力の供出順位と供出調整力の決定支援
    調整力を供出するためには,最適運転から逸脱することで増コストになる設備運用が生じる可能性を考慮する必要がある。例えば,蓄電池設備の場合,充放電時に電力の損失が発生するため,その損失分が追加コストになる。また,コージェネレーション発電設備の場合,調整力を供出するために発電出力を上げると,追加で燃料を消費するとともに排熱が余剰となるケースも存在し増コストになってしまう。
    EMiliaでは,このような調整力の供出にあたっての増コスト要因をシミュレーションし,調整力単価が安価な順で発揮した場合の利益限界単価の算出と市場入札にあたっての供出可能調整力の決定を支援する(図6上段参照)。
  3. 需要調整要請を受けた時間帯における制御
    (2)で決定した運転順位に基づき制御指令を発令する。
  4. 供出調整力のマネジメント機能
    需要調整要請を受けた時間帯における調整力の供出状況をマネジメントし,逸脱を抑制する制御を実行する(図6下段参照)。需要調整要請に応じた受電電力予想値が,目標電力の±10%以内に収めるための制御補正値を算出し出力する。現状の設備だけでは上下限の範囲に収まらない場合は,(2)で決定した運転順位に基づき調整力発揮の指令を発令する。

4.4 カーボンフットプリントの算出支援

カーボンフリーの証明やカーボンフットプリントの算出のためには,製造工程で消費・排出したCO2の把握と,CO2と製造実績データのひも付けが必要となる。

EMiliaはこうした顧客の要求に対して,外部システムとの連携により,EMiliaで把握した製造のエネルギー消費量の時系列データと,MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)などで有している生産実績データをひも付けし,製品ごと,品目ごとの消費エネルギーを推定してカーボンフットプリントの算出を支援することが可能となっている(図7参照)。

カーボンフットプリントの把握により,改善に向けた気付きやステークホルダーに対する情報提供に活用したいという顧客のニーズも高まっている。エネルギーマネジメントの必要性は今後ますます高まることが予想されるため,企業の経営基盤として必須なシステムとなっていくことを期待している。

図7|カーボンフットプリントの算出イメージ図7|カーボンフットプリントの算出イメージ製造実績とエネルギー消費データをひも付け,カーボンフットプリントの算出を支援する。

5. おわりに

本稿では,顧客がカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを進めるために,エネルギーマネジメントシステムが支援するポイントについて紹介した。

カーボンニュートラルの実現は企業にとって喫緊の課題であり,事業継続においてその対応が求められている。

日立は,各種ソリューションの提供を通じて顧客の事業環境変化により直面する課題に応え,レジリエンスな事業と持続的な成長を支えていく。

関連情報

1)
EMilia
Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。