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ハイライト

各業界においてCO2排出量削減に対してさまざまな取り組みが行われている中,物流業界では運輸部門のCO2排出量が日本全体の17.7%を占めているため,グリーン物流の促進やEVトラックへの転換などが急務となってきている。一方で,EVトラックへの転換は航続距離が短く配送エリアが限定される,充電時間待ちにより配送効率が落ちるなど現状の物流業務への適用に課題を抱えている。日立は持続可能な社会を実現するため,これら物流現場が抱えているグリーン物流の課題にデジタル技術を活用して対応する物流高度化サービス「Hitachi Digital Solution for Logistics-EV(仮称)」を開発しており,本稿ではその取り組みを紹介する。

目次

執筆者紹介

宇山 一世Uyama Kazuya

宇山 一世

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,ロジスティクスソリューション全般の新規事業企画,推進に従事

瀬戸 明嶺Seto Akane

瀬戸 明嶺

  • 日立製作所 研究開発グループ 制御・ロボティクスイノベーションセンタ 産業オートメーション研究部 所属
  • 現在,ロジスティクス全般の研究開発に従事

國府 輝Kokubu Hikaru

國府 輝

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,輸配送ソリューション全般の新規事業企画,推進に従事

藤井 善文Fujii Yoshifumi

藤井 善文

  • 日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 ロジスティクスイノベーション部 所属
  • 現在,ロジスティクスソリューション全般の事業統括,推進に従事

1. はじめに

日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル目標および2030年温室効果ガス排出量46%削減(2013年度比)の実現に向けて,各業界ではCO2排出量削減などさまざまな取り組みが行われている。物流業界でも輸配送に使われる車両から排出されるCO2の削減,環境に配慮した物流への変化が急務となっている。

物流業界では,2006年頃より物流の効率化やグリーン化をめざした環境問題への取り組みとして「グリーン物流」を掲げ推進してきた。グリーン物流の主な取り組み事例として,トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道やフェリーなどの船舶の利用へと転換するモーダルシフト,複数の荷主の商品を共通の配送先へ1台のトラックで配送する共同配送,各地に分散している拠点および配送網を集約・再編成し輸送効率を高める輸配送拠点の集約などが挙げられ,これらの取り組みにより物流形態を変えることでCO2削減を実現してきた。しかし,すべての物流において物流形態を変えていくことには限界があり,ガソリン車からFCV(Fuel Cell Vehicle)・EV(Electric Vehicle)トラック車への転換気運が高まってきている。

一方,各自動車メーカーにおいても環境配慮への取り組みが加速しており,北米などを中心に大手物流会社やEC(Electronic Commerce)運営会社などがEVトラックの導入・転換を推進している。国内においても主にラストマイル領域において大手物流会社を中心にEVトラックを導入し始めている。

しかし,EVトラックの普及・推進においては航続距離が短い,導入コストが高い,配送効率が落ちるなどといった課題を克服する必要があり,対応が急務となっている。

本稿では,環境に配慮した持続可能な物流を実現する取り組みとして,それらの課題に対応した配送計画立案への取り組みを紹介する。

2. EVトラックを取り巻く配送業務の課題

2.1 EVトラックによる配送の動向

2020年度における運輸部門からのCO2排出量は日本全体の17.7%,そのうち貨物自動車は運輸部門の39.2%(日本全体の6.9%)を占めており,脱炭素化が求められている1)。そこで,日本政府が策定した2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略では,2040年までに新車販売にて商用の小型車を100%電動化・脱炭素燃料化することと,大型車も追従することを目標としている2)。これに伴い,物流業界ではラストマイル物流において小型EVトラックを導入する動きが加速しており,合わせて充電インフラの拡充も推進されている。

しかし,乗用車と比較して商用車の電動化は遅れている。現在主流のEVトラックは,充電器から車載バッテリーに充電した電力を用いて駆動している。EVトラックは充電時間が長く,航続距離が短く,バッテリー容積の影響で積載可能量が少ないため,ガソリン車と同じようにEVトラックで配送することは難しい。さらに,大多数の配送は,日中に一斉配送し,夜間に一斉充電するため,充電器不足や契約電力量超過が発生するおそれがある。この場合,夜間の充電が不十分な状態で翌日の配送を実施すると,運送事業者にとって機会損失となる。そこで日立は,EVトラックによる配送効率化を目的に,車両運行や充電・電池残量を考慮した走行ルートの生成など,配送と充電を統合的に管理するサービスを開発し提供する。

2.2 EVトラックによる配送の課題

図1|EVトラックによる配送の問題点と課題図1|EVトラックによる配送の問題点と課題EVトラックの配送計画は,気候や道路状態に伴い変化する電力消費量と充電設備の空き状況を踏まえた考慮が必要である。

EVトラックによる配送の問題点と課題を図1に示す。

EVトラックにおいて,配送開始時点での電池残量が不足している場合や100 km以上の配送が要求される場合に機会損失を防ぐためには,業務中に充電して航続距離を延ばす必要がある。しかし現状では充電インフラが不十分なため,充電量が不足するタイミングで追加充電が可能な設備が近くに存在しない場合がある。また,近くに充電設備が存在しても,別車両が設備を使用している場合は同設備を使用できないため順番待ちによる配送遅延が発生する。そのため,配送前に設備の空き状況と充電時間を含めた配送計画を立案することが必要となる。

また,EVトラックの電費は気温,道路状態,バッテリー劣化度などにより大きく変化するため,正確な実態を管理・把握し,電費予測の精度を高める必要がある。加えて,計画外の事象発生による電力消費量の急な増減のリスクがあるため,計画変更に柔軟さが要求される。

このような課題を解決するために,日立は物流高度化サービス群「Hitachi Digital Solution for Logistics(HDSL)」の一機能として,EVトラックの配送計画業務を支援するための配送最適化サービス(HDSL-EV)を開発している。次章では,「Hitachi Digital Solution for Logistics」とHDSL-EVについて説明する。

3. 充電時間を考慮した配送計画(HDSL-EV)

3.1 HDSL概要

日立は,顧客の物流業務のデータを収集・蓄積・分析することで物流業務を高度化するサービス群を「Hitachi Digital Solution for Logistics」として体系化し,現在はガソリン車による輸配送を対象に以下のサービスを提供している。

  1. 安全運行・動態管理サービス
    熟練者の運転ノウハウの共有や運転特性を把握することで,現場の実態を見える化し,業務の最適化・効率化を実現する。
  2. 配送最適化サービス
    熟練者の代わりに効率的な配送計画を自動で立案することで,配送計画の自動化と配送の効率化を実現する。
  3. 配送情報シェアリングプラットフォーム
    荷主と運送会社がクラウド上で荷物情報を連携することで,これまでデータが分断されていた発注から納品までをシームレスにつなぐことができ,共同配送による輸送効率向上とCO2削減を実現する。

このうち配送最適化サービスでは,配車の自動化を実現することで属人的な作業からの脱却が可能となる。走行実績データなどの収集した現場データを分析し活用するとともに,熟練者の経験を取り入れることで,実効性のある配送計画を立案することが可能となる。

3.2 充電時間を考慮した配送計画(HDSL-EV)

図2|HDSL-EVの機能と特長図2|HDSL-EVの機能と特長HDSL-EVは配送計画の立案・変更機能と,電費予測機能,動態管理機能を備える。HDSL-EVの機能間の連携に加え,地域内の充電施設のエネルギーマネジメントシステムが持つ情報を活用することで,効率低下を抑えた実効性の高いEVトラックの配送計画を立案するとともに,リアルタイムな状況把握と迅速で柔軟な計画変更を可能にする。

EVトラック向けの配送最適化サービス(HDSL-EV)は,計画フェーズにて一から配送計画を立案する機能と,実行フェーズにて配送中の状況に応じて配送計画を変更する機能を持つ。どちらもEVトラックの充電を考慮して配送計画を自動立案する(図2参照)。

具体的には,地域内の充電施設のエネルギーマネジメントシステムから,充電設備の空き情報を取得し,充電設備への立ち寄りを踏まえた配送を最適化することで効率低下を抑えたEVトラックの配送を実現する。この際,複数のEVトラックが,同じタイミング・同じ充電設備での充電が必要になることを避けるために,各EVトラックの走行ルートや使用する充電設備・タイミングを変更することで充電設備利用の分散を図り,待ち時間やむだな移動を削減する。

また,HDSL-EVでは,車両や経路に対して電費に影響する複数のパラメータを入力した電費予測機能を備えることで,実態に近い電費と走行可能距離を導出し,実効性の高い計画を立案する。さらに今後は,SOC(State of Charge)やSOH(State of Health)などの車両情報を取得する動態管理機能と連携することで,リアルタイムな状況把握と迅速で柔軟な計画変更を可能にする。

将来的には,バッテリー交換型のEVトラックに対して外部のバッテリー交換設備利用の運行を想定し,同機能を拡張予定である。

3.3 HDSL-EVの適用シーン

図3|HDSL-EVの適用例図3|HDSL-EVの適用例HDSL-EVの導入により,配送途中に立寄充電をして走行可能距離を延ばすことで,総車両台数の削減や遠方への配送の実現が可能になる。

HDSL-EVは,脱炭素化を意識する顧客に対して,配送効率を極力抑えた配送計画を自動立案することでEVトラックの導入を支援する。HDSL-EVの適用シーンの例を二つ紹介する(図3参照)。

一例目は,複数の配送先を周回する配送の例である。配送拠点だけで充電する場合,ガソリン車よりも航続距離が短いEVでは1車両当たりの訪問可能な配送先が少なくなる。そのため必要な車両台数が増え,配送効率が低くなる。HDSL-EVを導入すると,使用する充電設備や使用タイミングを最適化することで,ドライバーや車両の稼働時間の増加を抑えながら,走行可能距離を延ばすことができる。これにより,EVトラックの積載可能量が許す限りは配送先数を増やすことができるため,配送効率を落とすことなく運行が可能となる。

二例目は,拠点の充電設備が十分に存在しない例である。配送業務に使用するガソリン車をEVトラックに置き換えると,充電設備数や契約電力量の観点から必要な電力を賄うことができない場合が考えられる。このとき,HDSL-EVを導入することで,車両台数や稼働時間の増加をできる限り抑えるように,外部充電設備で電力不足分を補いながら配送することが可能となる。

4. おわりに

「Hitachi Digital Solution for Logistics-EV(仮称)」は,物流業務のデータを収集・蓄積・分析するだけでなく周辺システムのデータとも連携していく。例えば,使用する充電設備(外部施設や拠点など)やEVトラックの電池消費量や充電残量などのデータを収集連携することで,使用する充電設備や充電タイミングを平準化し,不必要な待ち時間の解消やエネルギー負荷の分散につなげていくことが可能となる。今後はエネルギーマネジメントシステム(EMS:Energy Management System)と連携して,充電設備が存在する建物にて使用する電力消費と,EVトラックの充電に使用する電力消費を合わせたエネルギー負荷の分散に取り組み,その先の社会全体のエネルギー負荷の分散をめざす。日立は,物流業務を中心として各業務の「際」をシームレスにつなげていき,サプライチェーン全体でのグリーン効率化を図っていくとともに,グリーン物流におけるエコシステムへHSDL-EVを成長させていく。

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