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COVER STORY:ACTIVITIES 2

「事故ゼロ」に貢献する物流ソリューションSSCV-Safetyの協創

安全・健康・環境価値に資する物流DXを推進

ハイライト

産業構造や消費者の購買行動が変化する中で,物流は今やインフラとして社会に不可欠なエッセンシャルワークとなっている。一方で,慢性的な人手不足や高齢化,疲労に起因する交通事故,環境負荷軽減など物流業界が直面する課題は数多い。

それらの克服をめざし,日立物流は,物流を進化させるDXの実現に向けたSSCVを開発・提供している。SSCVは「Smart」,「Safety」,「Vehicle」という 三つの柱から成り,社会価値・環境価値・経済価値を高める輸送デジタルプラットフォームである。このうち事故ゼロの実現をめざすSSCV-Safetyは,日立製作所を協創パートナーとして開発され,Lumadaソリューションとして外販を開始している。

SSCV-Safetyはどのような背景から生み出され,物流業界の革新にどう貢献していくのか。協創プロジェクトのキーパーソンに聞いた。

目次

事故の連続発生で抱いた危機感

佐藤 清輝 佐藤 清輝
株式会社日立物流 執行役専務 営業統括本部長

日立物流では,物流デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現をめざした新たな取り組みとしてSSCV(Smart & Safety Connected Vehicle)を推進されています。最初にその構想について教えていただけますか。

佐藤SSCVはSmart(効率化),Safety(安全),Vehicle(車両管理)の3本柱から成る輸送デジタルプラットフォームです。現在,日立物流の事業の主軸は3PL(3rd Party Logistics)サービスで,倉庫管理業務の占める比重が大きいのですが,輸送事業全体で見れば,やはり重要なのは現場で荷物を運ぶトラックです。SSCVは,安全で効率的,かつ円滑なトラックの運用・管理という輸送事業の大前提を支える次世代のプラットフォームです。このプラットフォームには,共同研究に加わった日立製作所のデジタル技術が大いに生かされています。

三つの柱について簡単に説明すると,まず,「SSCV-Smart」は受発注,求貨求車,配車,運行指示といった輸配送に関連するさまざまな業務をデジタル化し,一元管理やペーパーレス化による業務効率向上,コンプライアンス強化を支援します。「SSCV-Vehicle」は,車両の走行データをリアルタイムで取得・解析して整備の最適化と稼働率向上を図る機能や,車両の調達から買い取りまで一元的にサポートするFMS(Fleet Management Service)を提供します。

そしてSSCVの出発点となったのが,交通事故ゼロをめざす「SSCV-Safety」です。車両運行前後および運行中のドライバーの生体データから疲労度を可視化し,画像や車両の挙動などのセンシングデータと合わせてAI(Artificial Intelligence)で解析して,リアルタイムにドライバーや運行管理者に警告を発して事故防止を図ります。また,運行後に各ドライバーの運転を振り返って評価することで,運転の改善を支援し,さらなる安全向上につなげます。

「SSCV-Safety」を開発された背景には,強い危機感があったそうですね。

佐藤私が当社の東日本エリアを管轄する東日本営業本部の本部長を務めていた2015年に,エリア内の同一事業所で輸送事故が立て続けに発生したのです。半年間に3件という異常な頻度で,原因究明と再発防止策を検討している側から次の事故が起きるという状況に,これではいけないと強く思いました。しかし,事故を起こしたドライバーにヒアリングを行い,ドライブレコーダーを確認しても明確な原因が見つからず,家族の病気や介護などの問題が目に見えない精神疲労となって注意力を低下させ,漫然運転を招いたのではないかという結論に至りました。一方で,これに対する再発防止策は,安全教育の徹底や出発前の注意喚起といった従前の精神論から抜け出せないものであり,大きな齟齬を感じました。

やはり技術的な対策が必要ではないかと考え,最新のデバイス,例えば眠気を感知する装置や衝突リスクを警告する装置などを試してみたのですが,いくらデータを集めて検討しても,ドライバーの疲労と事故につながる事象との相関関係を見いだすことができませんでした。

転機となったのは,試行錯誤する中で,株式会社疲労科学研究所が開発した自律神経の働きから疲労度を可視化する「疲労ストレス測定システム」を導入したことです。システムを導入した結果,その会社と関わりのあった大阪市立大学および関西福祉科学大学の倉恒弘彦教授からコンタクトがあったのです。日本疲労学会の理事を務める倉恒教授は,「ドライバーの疲労と運転ミスの間には相関関係が認められる可能性があるものの,それに関する学術的な研究はまだ行われたことがない。」として,共同研究を提案してくださいました。それが開発のきっかけです。

目に見えない疲労と事故リスクの関係を明らかに

南雲 秀明 南雲 秀明
株式会社日立物流 DX戦略本部 スマート&セーフティソリューションビジネス部 部長

共同研究には日立製作所も参画しましたが,どのような体制で行われたのですか。

佐藤当社と倉恒教授が当時所属されていた関西福祉科学大学,さらに理化学研究所の渡辺恭良教授にもお力添えいただき,そこに日立製作所の研究開発グループが参画し,産官学連携の体制で取り組みました。

まずフェーズ1として,2017年度から当社の一部車両にドライブレコーダーなどのデバイスを装着し,運行前後に測定したドライバーの生体データと,車の挙動やインシデント(ヒヤリハット事象)が起きた際の画像データをひも付けて解析することで,疲労とヒヤリハット事象との間に相関性があることを明らかにしました。

2019年度からはフェーズ2として,当社グループの全保有車両にデバイスを装着し,さらにドライバーにもウェアラブルデバイスを装着して,運行前後ならびに運行中の体温,血中酸素濃度,血圧,自律神経の疲労度といった生体データを取得し,運行中の体調と事故リスクの相関性を実証しました。

実証実験を通じて分かったのですが,人間は自分の体の疲労に気づきにくく,本人は元気なつもりでも目に見えない疲れが生じていることが多いのです。物流業界ではドライバーの高齢化も大きな課題となっており,体力の衰えが目に見えない疲れや突発的な不調の原因になっています。自分では気づかない体調変化や疲労をどう把握し,対策するのか。そのカギとしてドライバーの生体データと自律神経の疲労度に着目し,実際にデータを取得して事故を未然に防ぐ仕掛けにつなげたのは,トラック輸送業界では日立物流が初めてです。それが可能になったのは,日立製作所の研究開発グループが培ってきたヘルスケア分野の知見のおかげでもあります。

南雲共同研究では日立製作所の社会イノベーション協創センタ(CSI:Global Center for Social Innovation)にも協力してもらいました。NEXPERIENCE※)の手法で日立物流が直面する課題やアイデアを抽出するため,ドライバーも交えながら両社の拠点で何度もワークショップを開きました。ドライバーの業務が終了した夜間に研究者の皆さんが事業所まで足を運んでくれて,飲み物やお菓子を用意してワークショップに不慣れなドライバーが話しやすい環境を整えてくれるなど,現場と一体となった課題解決をサポートしてもらったことが印象に残っています。

佐藤経営側もドライバーも,さらには社会全体も,交通事故をなくしたいという思いは同じです。その大きな目標に向けて,ドライバーも快く実証実験に参加してくれました。

日立製作所が参画することで,共同研究の成果につながったポイントは何でしょうか。

南雲私たちがめざしているのは事故ゼロ,ドライバーを加害者にも被害者にもしない世界です。安全衛生の分野では「ハインリッヒの法則」がよく知られていますね。「1件の重大な事故・災害の背後には,29件の軽微な事故・災害があり,その背景には300件の傷害のない事故(ヒヤリハット)が起きている」というものです。つまり,1件の事故を防ぐには,300のヒヤリハット事象の兆候をつかみ,撲滅しなければなりません。そのためには,運行中の身体状況と運転行動,車両の挙動を見える化するために生体データと画像を取得するデバイス,IoT(Internet of Things)技術,得られたデータを解析するAIやリアルタイムデータ処理などの高度な技術が不可欠です。それらの技術や知見が日立グループにそろっていることは大きなポイントでした。

一連の共同研究で得られた知見やデータを生かして解析精度を向上させ,システムとしてまとめたのがSSCV-Safetyです。現在,日立物流グループの保有する全車両に導入しており,漫然運転に起因した車両事故ゼロを継続しています。さらに,自社だけでなく広く輸送安全に貢献したいと思い,当社と日立製作所,三菱HCキャピタル株式会社の協業で2021年より外販を開始しました。物流をはじめ製造・流通,バスやタクシーなど幅広い業界における輸送業務向けのSaaS(Software as a Service)型サービス,「SSCV-Safety on Hitachi Digital Solution for Logistics」として提供しています(図1参照)。

このようなSaaS型のサービスの提供も当社としては初の試みであり,インダストリアルデジタルビジネスユニット(IDBU)の協力によって実現できました。

※)
パートナーとの協創を通じて新しいビジネスやサービスをつくり上げていくための協創方法論。

図1│SSCV-Safetyが三つのDXで実現する安全管理ソリューション 図1│SSCV-Safetyが三つのDXで実現する安全管理ソリューション

精度90%以上でヒヤリハットを自動検出

上田 元春 上田 元春
日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部
事業部長

吉村 康一郎 吉村 康一郎
日立製作所 インダストリアルデジタルビジネスユニット 流通システム本部 本部長

IDBUが事業化を支援したのはどのような経緯からでしょうか。また事業化にあたって難しかった点はありますか。

上田私たちIDBUでは,主に産業・流通分野のお客様へLumada事業を展開しています。その中で物流,輸配送業界のお客様を対象としたソリューションの一つに「Hitachi Digital Solution for Logistics(HDSL)」があり,日立グループがITサービス提供で培ってきた堅牢なプラットフォーム,セキュリティ技術,大量データの高速処理技術,テレマティクス技術などを活用して,配送計画の自動立案やIoTによる配送モニタリングといった輸配送業務を最適化する機能を提供しています。その上に日立物流の「安全」に関わる研究成果を載せることができれば,新しい価値が提供できると考えました。

佐藤それまで世の中になかったサービスをつくるわけですから,事業化にあたっては情報セキュリティやAIによる自動解析の精度など難しい点もありましたね。

上田そうですね。これは研究開発の領域の話ですが,特にヒヤリハット事象をAIで自動的に分類・検出する技術の開発がカギでした。人間の目であれば危険な状況かどうかはすぐに判断できますが,ドライブレコーダーの画像で機械が自動的に危険度を判別することは困難です。そこで車速と加速度のデータ,位置情報と地図標識データからヒヤリハット場面を自動分類する技術を開発しました。専門家の協力の下で教師データをつくり,実際のヒヤリハット事例を基に事故が発生しやすい場面をいくつか定義して場面ごとに機械学習を行うなどして解析精度を高めた結果,検出率90%以上という高い精度で車両挙動データからヒヤリハット場面を自動的に分類できるようになりました。

佐藤SSCV-Safetyを実際に運用する中で驚いたのは,導入当初は数多く検出される急発進や急減速,脇見,速度超過などのインシデントが,着実に減少していくことです。帰着後に毎回,運転を振り返って管理者からアドバイスされることが大きいようです。当社の場合,全車両に導入する以前の2019年1月と導入後の2021年3月を比較すると,インシデントの発生数が94%も減少するという効果が得られています。運転を可視化されることに対してドライバーも最初は抵抗を感じるようですが,「安全」という最も大切な価値が得られることが分かると運転が変わっていきます。これが社外にも広がっていくと,クルマ社会が変わっていくのではないでしょうか。

SSCV-Safetyではドライブレコーダーも新規開発したものを採用していますね。

吉村日立製作所は20年ほど前から自動車メーカーと協業でテレマティクスサービスの開発に取り組んできました。2016年前後からその強化を図り,HDSLをさまざまなお客様に提供していく中で,ドライブレコーダー動画のような大容量データをクラウドに上げ,遅延なく処理する技術なども開発してきました。一方,今回のケースでは運行中の危険事象をリアルタイムに検出することが求められるため,エッジ側の処理能力も向上させなければなりません。近年はデバイス技術の進歩でエッジ側のメモリ容量も増え,高速処理が可能になってきたことから,これまでよりも多くのデータを収集・処理できるドライブレコーダーを開発・適用しています。

南雲車両の位置情報と地図標識データから一時不停止や速度超過などの法令違反を検出する機能のほか,ドライバーの画像から閉眼率を計算して眠気を推定し,ドライバーに声をかけて覚醒させる機能も搭載していますね。エッジ側のドライブレコーダーに搭載したAIでこのような多様な処理ができることは,これまでありませんでした。エッジAIでのリアルタイム処理と,データをクラウドに上げるテレマティクス技術の両方があって,SSCV-Safetyが実現できました。

上田今後SSCV-Safetyの搭載台数が増えてくると,テレマティクス技術もより生きてくると思います。OTA(Over the Air)機能もこの基盤を提供しており,エッジ側のソフトウェアアップデートを短時間かつ確実に行うことを可能にしています。そうした意味では,私どもが培ってきた技術基盤と日立物流の課題がうまくかみ合った協創事例となりました。

SSCV-Safetyは「人に寄り添う仕掛け」

近年,従業員の健康管理を経営的な視点で考え,戦略的に実践する健康経営が注目されています。SSCV-Safetyは安全だけでなく,健康という面でも効果的なソリューションになるのではないでしょうか。

南雲そうですね。現在,日立製作所の研究開発グループと,日々取得・蓄積しているドライバーの生体データから体調の変化を見つけ出し,心疾患や脳血管疾患の予兆をつかむシステムの構築をめざした共同研究を行っています。年1回の健康診断では把握しきれないドライバーの疾患とそれに起因する事故を防ぐことがテーマです。

また月例会議を設定して共同プロジェクトに関する情報共有や次の機能開発に向けたアイデア創出などを行っていますが,その取り組みから「SOS(緊急)ボタン」という機能が実装されました。例えばドライバーが突然苦しくなったり,心臓が痛くなったときなどにそのボタンを押すと,動画が自動で切り出されて管理者にリアルタイムに通知されるというものです。

SSCV-Safetyを輸送車だけでなく,作業車や営業車などにも搭載できないかという問い合わせもいただきます。そうなると,ドライバー職だけでなく,エンジニアやサービス職の健康管理にもつなげることができるかもしれませんね。

吉村バイタルチェックの機能だけなら,業務で運転をしない人の体調管理にも応用できそうです。

佐藤SSCV-Safetyというのは,時間も場所も画像も全部記録できる,ごまかせない仕掛けなのです。それは従業員側だけでなく経営側にも言えることで,例えば従業員が休憩時間をきちんと取っているかどうかも可視化されます。これは健康経営に直結するものでしょう。大型トラックの場合,法令で決められた時間に休憩を取ろうとしても,高速道路のパーキングが満車で停められないという事態がどうしても発生します。そこで,SSCV-Safetyの「IoTボタン」を押すと,その時刻の周囲の画像が記録できますから,仕方なく時間を超過してしまったというエビデンスが残せます。そうした意味ではコンプライアンスの強化にもつながります。

デジタルで可視化するというのは監視の強化ではなく,「人に寄り添う仕掛け」をつくると考えることが大切です。安全と健康を守りたいという,従業員にも経営者にも共通する思いを実現できるのがSSCV-Safetyということですね。

運転が変わると環境負荷の軽減効果も

物流業界の目下の課題である,2024年問題とカーボンニュートラルに向けたCO2削減についてはいかがでしょうか。

南雲2024年問題は,働き方改革関連法で2024年4月1日から「自動車運転の業務」の時間外労働に年960時間の上限規制が設けられることですね。上限規制によってドライバー1人当たりの走行距離が短くなると,長距離輸送が難しくなるなど,業界への大きな影響が予想されます。その対応策として開発を進めているのがSSCV-Safetyとデジタルタコグラフとの連携機能です。SSCV-Smartとも関係しますが,できるだけ多くの業務をデジタル化し,労務管理機能を強化する必要があります。

佐藤長距離輸送が難しくなると,1人当たりの走行時間を短縮するために荷物のシェアリング,載せ替えなどが必要になり,配車・配送計画が複雑になります。そのためにもデジタル化が欠かせません。

南雲またCO2削減に関して,実はSSCV-Safetyには環境負荷軽減の効果もあります。インシデントの大幅な減少にも関連するのですが,急加速や急減速が減ると燃費効率が改善され,結果的に環境負荷の軽減につながります。また,SSCV-Smartも含めて言うと,従来の紙の書類を電子化したことで,パートナー企業の方々も含めたペーパーレス化によるCO2削減も見込めます。

佐藤車の動態を可視化することによって,荷物と同時にCO2排出もシェアリングできます。またモーダルシフトの選択も増える可能性があり,労働時間とCO2という二つの観点から優位な輸送手段を選択するには,距離,時間,環境負荷,コストも含めたさまざまな要素を加味した輸送計画の策定と実行が求められます。そのためにはデジタルツインの環境が必要になると思いますので,当社の3PL事業の中でも可能な限りデジタルツイン環境の構築に取り組んでいます。

デジタルで「際」をつなぎ,物流DXを推し進める

集合写真

物流業界が直面する課題の解決に,日立製作所としてはどのように貢献していけるでしょうか。

吉村働き方改革でも環境対応でも,重要になるのは経営層と現場の連携による業務の可視化・最適化です。短距離化については,佐藤専務がおっしゃるように配送計画の策定と,それを現場のオペレーションで実行できるかどうかが問われます。カーボンニュートラルについても,直接的にCO2削減につながるプロダクトだけでなくSSCV-Safetyの例のように間接的な対策を積み上げていくこともカギになります。いずれの場合でも,デジタルでつなぐことによって貢献できると考えています。

佐藤コロナ禍によって図らずも明らかになったのは,物流はエッセンシャルワークの一つであるということです。止まってしまえば社会が回らなくなる物流という産業を担っているわれわれには,みずからもサステナブルであることが求められます。そのためには,自動化できるところは極力自動化し,従業員の負担を軽減することが重要です。物流は労働集約型の産業と言われますが,人が人にしかできない仕事に集中していくことでオペレーションの安定性を高める必要があり,現在,全社を挙げてそうした業務の洗い出しを進めています。

逆説的ですが,デジタル化が進むほど差別化のポイントとして「現場力」が重要になります。強い現場力を保有したうえで,自動化や見える化によって安全,品質,生産性を高めていくことが物流のDXであり,それを業界の先頭に立って推進することは当社だからこそできると思っています。SSCV-Safetyの外販はその手始めですね。SSCVが業界標準になれば事故ゼロや環境負荷軽減を通じて広く社会にも貢献でき,輸送業界全体の価値が高まるはずです。そのためにも,われわれのフィジカル領域と日立製作所のサイバー領域の最先端テクノロジーの融合による価値創造を継続していきたいと考えています。

今回の協創で学んだことや,今後の展望をお聞かせください。

吉村私たち情報系の人間は物流の現場を見て初めて知ることも多く,今回,現場のOT(Operational Technology)を理解することがとても重要でした。日立物流が持つようなドメインナレッジをデジタルに実装できれば,ITだけの企業には真似のできないソリューションを作り出せます。

IDBUは産業・流通分野,製造から卸売,小売,その間を結ぶ物流という一連の流れを担うさまざまなお客様にデジタルソリューションを提供してきましたが,これからはその「際(きわ)をつなぐ」こと,つまり業界の壁を越えてデジタルでつなぐことにより個別最適化だけでなく全体最適化を図ることが重要だと考えています。近年,消費者の購買行動がデジタルチャネルにシフトし,日本においても今後eコマース化が進むと見られています。そのときに上流の物流や倉庫管理,ラストワンマイルの配送まで,ある意味で「際」をつなぐ物流の重要性が一層増していくと思われますので,これからも協創によって物流の価値を高めることに貢献できれば幸いです。

上田流通,物流のようにサプライチェーンが複雑でステークホルダーの多い業界では,大企業だけでなく,中小事業者も一体となってデジタル化を進めなければ全体をつなぐ効果が薄れてしまいます。中小企業におけるDX推進にはコストをはじめとする多くの問題がありますが,それらを取り除いていくことにも一緒にチャレンジできればと思います。

南雲SSCVが当社グループから輸送業界へ,多様な業種へと拡大して利用される方が増えると,蓄積されるデータも膨大なものになるでしょう。それらを利活用することで,さきほどお話しした病気の予兆をつかむ機能のような,社会に貢献できる新たなサービスを創出できるのではないかと期待しています。

佐藤同じ業界の中だけを見ていると,社会の変化に気づかないことも多くあります。違う業種・業界の方々と意見交換することで,異なる角度から物事を見ることができ,気づきがある。「際」という言葉がありましたが,革新的なものを生み出す化学反応は,異なる企業や業種の「際」で生まれるものなのかもしれません。この協創関係をぜひ物流業界の革新につなげていきたいと願っています。