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1. 多拠点型PV電力自己託送システム

安価かつ安定的なグリーン電力調達が可能になる電力自己託送システムの普及拡大に向けて,PV(Photovoltaic)数理モデルを適用したリアルタイム発電量推定技術を開発した。PVは天候変化などによる出力変動が大きいため,通常は実際の発電能力よりも電力託送量を少なく設定する必要がある。本開発ではPVの実際の発電量(潜在電力量)を1分ごとに推定し,蓄電池と連動制御を行うことで,従来よりも電力託送量を30%向上できる見通しを得た。

本システムの実証に向けて,埼玉県鳩山町の基礎研究所にPVを設置し,東京都国分寺市の中央研究所へ電力自己託送を行うシステムの実装を開始した。今後,この実証を通じてMW級PV電力の安定かつ高効率な託送を検証しながら,本システムを多拠点型の電力自己託送システムへ拡張する。これにより,電動化の進む多くの拠点において,ボラティリティリスクを抑えながら余すことなくPVが活用され,経済価値と環境価値の両立が可能になる。

[01]電力自己託送の鳩山‐国分寺実証システム[01]電力自己託送の鳩山‐国分寺実証システム

2. 高線量率環境下でのセンシング技術

[02]福島第一原子力発電所内調査向け中性子検出器[02]福島第一原子力発電所内調査向け中性子検出器

原子力分野で必要となる高線量率環境下でのセンシング技術を二つ紹介する。

福島第一原子力発電所の線量率環境に適用可能な中性子検出器を開発した。従来の中性子検出器では,汚染水中のガンマ線を複数同時に検出することで,波高値が中性子検出時と同程度となり,波高値による弁別が不可能であった。そこで,ガンマ線は感度と波高値に相関があり,中性子は感度と波高値に相関がないことに着目し,感度に影響する金属電極部を削減することで中性子検出を妨害するガンマ線信号を排除した。この検出器を搭載した遊泳ROV(Remotely Operated Vehicle)による調査で震災後初めて中性子を検知した※)

原子力発電所に取り付ける計測器の放射線耐性の向上を目的に,炭化ケイ素(SiC:Silicon Carbide)を用いたアンプ(SiCアンプ)を開発した。SiCはワイドバンドギャップ半導体の一つで,ケイ素を用いた従来デバイスと比較してガンマ線による欠陥誘起がされにくい。このSiCの優れた特性を応用して相補型MOS(Metal-oxide Semiconductor)から構成されるアンプを開発し,従来と比較して6,000倍の放射線耐性を実証した。

※)
この成果は,技術研究組合国際廃炉研究開発機構の自主事業「原子炉格納容器内部総裁調査技術の開発(堆積物対策を前提とした内部詳細調査技術の現場実証)」において,その組合員である日立GEニュークリア・エナジー株式会社が実施したものである。

3. 変動高まる電力市場での経済的な発電運用を支える電力需給運用最適化ソリューション

発電事業者は,燃料や電力の市場価格などの将来状況を予測しながら,発電運用の計画を最適化することで経済的に発電機を運用している。将来状況が変動する中でも経済性を維持するため,予測誤差を補正する予測技術と,さまざまな状況変動の影響と事前対策案を高速に評価する計画技術に基づく電力需給運用最適化ソリューションの開発を進めている。

発電運用の計画では,燃料や電力の市場価格など将来状況の変動を模擬した数十以上のシナリオごとに計画を立てることで,運用時に生じる価格急変による損失や制約違反のリスクを事前に対策して低減させるが,1シナリオ当たりの計画の最適化に数時間の処理時間がかかる。そこで,計画の最適化処理を分割し,分割した処理ごとに高速最適化手法である疑似多項式時間アルゴリズムを適用して並列演算を行うことで,大規模な計画最適化でも数十分程度で演算する高速計画技術を開発した。

評価可能なシナリオ数を増やせることで,将来の状況変動と事前対策の高精度な評価ができ,経済的な運用を実現する。

[03]高速計画技術の概要[03]高速計画技術の概要

4. 強化学習を利用したリスク予見型の停電回避技術

台風などの稀頻度・大規模な自然災害に対して,あらかじめ設備故障を想定したうえで,停電範囲と時間を最小限に抑えるための「減災」による対応力強化が注目されている。従来の数理最適化を用いた運転計画手法では,時間的に進路が変化する台風に対して考慮すべき想定故障シナリオの組み合わせが膨大になり,適時の運転計画演算が困難であった。そこで,強化学習を活用したリスク予見型の停電回避技術を開発した。

本手法では,台風の予報から得られた大量の送電線故障シナリオに対し,停電量の削減と対策費用のトレードオフを考慮して適切な対策を事前に学習しておく。台風到来時は学習済みの機械学習モデルを利用することで,実災害状況に応じた効率的な対策立案が短時間で可能となる。シミュレーションによる検証にて,発電機の出力計画と電源車の事前配置計画を1時間以内に立案し,停電量を低減できることを確認した。

今後,開発技術の実用検証を推進し,電力系統システムのレジリエンス向上に貢献していく。

[04]強化学習による事前対策立案の流れ[04]強化学習による事前対策立案の流れ

5. 放電曲線解析によるLIBの高精度劣化診断技術

LIB(Lithium-ion Battery:リチウムイオン電池)は,定置用蓄電システムや電気自動車の動力源として需要が増加しているが,電池システムの高信頼制御には電池の劣化状態を非破壊で正確に診断する必要がある。日立は従来,容量と電池電圧の関係を用いた劣化診断技術(放電曲線解析技術)を,現在主流のコバルト・ニッケル・マンガン三元系LIBの高信頼制御に活用していたが,近年需要が高まっているリン酸鉄系LIBは電圧が一定のため適用困難であった。今回,容量と内部抵抗のデータを用いた劣化診断技術を開発し,リン酸鉄系LIBを含むすべてのLIBの高信頼化の見通しを得た。

本内容に関連した電池診断技術の事業展開として,株式会社日立ハイテクと共に電気自動車の遠隔診断サービスを開発した(2022年7月25日 日立ハイテクニュースリリース)。本サービスでは,放電曲線解析を用いた電池の基本情報のデータ化技術,および電池の基本情報と車両の稼働情報から電池劣化状態を診断する技術を用いて高精度な遠隔劣化診断を実現している。

[05]リン酸鉄系LIBの劣化要因の非破壊診断[05]リン酸鉄系LIBの劣化要因の非破壊診断

6. DERの統合に役立つ配電計画手法およびモデリングプラットフォーム

[06]G Platform[06]G Platform

自家発電コミュニティの台頭により,電力系統の高度な制御が求められる一方で,イノベーションの機会も創出されている。このギャップを解消し,直感的な操作によるリソース計画を可能にする,オープンソースの配電計画手法およびモデリングプラットフォームとしてG Platformを開発した。これにより,DER(Distributed Energy Resource:分散型エネルギー源)の影響を管理して抑えることで,電力系統を分析するエンジニアの負担が軽減される。

G Platformでは,複雑な配電網モデリングシナリオを想定してサードパーティのソルバーを統合できる。ユースケースには,ホスティング容量の解析,電力系統のレジリエンス,建物や電気自動車の電化評価などがある。G Platformは,複雑な情報を可視化し,柔軟なアーキテクチャをサポートして,ビッグデータシミュレーションに対応できるスケーラビリティを提供する。また,プラットフォームに統合されている後処理ツールを使えば,データ解析の結果を容易に生成でき,ワークステーションとクラウドのどちらの環境にも導入可能である。G PlatformはDER統合プロセスの時間とコストを削減することで,グリーンエネルギーの普及を促進する。G Platformは,カリフォルニア州エネルギー委員会から助成金(EPC-17-043)を受けている。

7. 鉄道車両データのIoT活用による付加価値創生

鉄道の運行コスト低減,利便性向上には,運行状態の網羅的・定量的な把握が必要である。そこで日立は,車両データを遠隔で取得・解析し,省エネルギー・保守効率化などの多岐に亘る現場課題の解決に向けたソリューションを提供している。本ソリューションを支える技術として,営業運転列車から安定して遠隔でデータを取得する技術と,蓄積したビッグデータの可視化・分析を担うIoT(Internet of Things)活用分析基盤の開発を進めている。

本技術を活用したソリューションの一事例として,運転のばらつき可視化や省エネルギーパターン抽出,および省エネルギーな運転操作について運転士を支援する運転支援システムを実現している。

今後,運行の省エネルギー化に寄与する運転支援,利用客の利便性向上に寄与する輸送計画策定支援,スムーズな運行に寄与する車両異常状態の情報共有,保守効率化に寄与する故障予兆診断へと展開していく。

[07]鉄道車両データの可視化・分析による付加価値創生の流れ[07]鉄道車両データの可視化・分析による付加価値創生の流れ

8. 英国高速鉄道HS2向け低環境負荷鉄道車両の開発

[08]HS向け車両イメージ(上)と鉄道車両の音源の可視化(下)[08]HS向け車両イメージ(上)と鉄道車両の音源の可視化(下)

2029年以降の開業が予定されている英国高速鉄道HS2*(High Speed 2)向けに,最高速度360 km/hで低消費エネルギー・低騒音の環境負荷の低い次世代車両を開発している。消費エネルギーの低減に関しては,高速車両の消費エネルギーの大部分を占める空力抵抗を低減することが重要であり,これまでの欧州向け鉄道車両開発で培った大規模流体シミュレーション技術を活用し,短期間で多くの試行を繰り返すことで空力抵抗の低い形状を開発している。

また,低騒音化に関しては,既存車両を用いた走行試験によりパンタグラフや台車の音源を可視化・定量化したうえで,新規路線における軌道や遮音壁のインフラ条件の影響をシミュレーションで加味することで,規格・仕様に準拠する低騒音構造を開発している。

今後も,シミュレーション技術・計測技術を活用することで,より環境負荷の低いサステナブルな鉄道車両の開発を推進していく。

9. 複数主体の協調によるオペレーション改善を促すモビリティオペレーション連携技術

COVID-19は人々の移動需要に質と量の両面で大きな影響を与え,安全・快適な移動へのニーズが高まっている。加えてカーボンニュートラル化に向けて,CO2排出の少ない移動手段である鉄道・バスなどの公共交通へのモーダルシフトも迫られている。都市交通は鉄道,バス,タクシーなど複数の交通モードが別事業者により運営されている。これらの事業者/モードをまたいで交通サービスを評価し,複数主体の協調によるオペレーション改善を促すモビリティオペレーション連携技術を開発した。

主体ごとに個別最適で運営される交通オペレーションについて,都市交通全体の観点で交通サービスのつなぎめを最適化して複数の公共交通や周辺サービスの連携を図る。交通サービスの混雑緩和や路線間乗り継ぎのシームレス化を実現し,都市全体で交通の利便性・サステナビリティの向上をめざす。

[09]モビリティオペレーション連携技術[09]モビリティオペレーション連携技術

10. 列車乗降の最適化に貢献するEasy Boardingソリューション

[10]Easy Boardingソリューションシナリオ[10]Easy Boardingソリューションシナリオ

Easy Boardingソリューションでは,乗客の乗降データをリアルタイムで取得し,プラットフォーム上での乗客の最適な待機位置を可視化する。これにより,混雑する駅における乗降時間を短縮するとともに,遅延の減少,乗客体験の向上,事故の削減に貢献する。その価値は,英国研究・イノベーション機構(UKRI:UK Research and Innovation)の資金提供で実施された2021年度FOAK(First of a Kind)プログラムにおいて,英国の鉄道事業者とともに実証済みである。

駅構内のセンサーから得た乗降フローの履歴データを使用してシミュレーションした結果,本ソリューションにより乗降時間を最大50%短縮できる見込みを得ている。また、プライバシーに配慮したCamera-as-a-Sensorプロトタイプを使用して,データ保護規制に準拠している。

さらに,プラットフォーム上で待つ場所を乗客がどのようにして決めているかを把握するため,インタビューを実施した。得られた知見を基に複数のインタフェース案を作成し,そのユーザビリティを評価して,乗客と乗務員の両者が使いやすいものにしている。

本ソリューションは国際鉄道技術専門見本市Innotrans 2022に出展され,日立レール社との連携の下,欧州の複数の交通機関とのディスカッションやワークショップを実施した。

11. 電動化社会を牽引する電動モビリティインフラ技術

日立は,導入が進むEV(Electric Vehicle)に対して,ドライバーとEVオーナーに加え,EVがつながるエリアや都市などのインフラを効率良く運用する電動モビリティインフラの構築に向けて,EV充放電ソリューションを開発してきた。ドライバーやEVオーナーの課題の解決には,充電の不安からの解放に必要な充電機会を十分に提供することと,航続距離の向上につながるEV自体の高効率化,さらには再生可能エネルギーなどのデリバリーが必要である。しかし,従来の充電器では充電ポートと充電スペースが一緒に運用されているため,充電が終了した車と次の車を入れ替える必要があり,充放電器の運用効率を下げ,多くの充電機会が失われていた。

本システムでは,充放電器の出力を多並列化できるように分割し,充電したいEVの台数や終了時間を基に充放電器の出力を切り替えて接続して行くことで,複数設けた充電ポートにつながれたEVを効率良く次々と充電して行くことが可能となり,充電機会を十分に提供可能となる。一方,充電に必要な電力に対して,再生可能エネルギー由来の電力をデジタルグリッド技術を用いて管理することで,ドライバーやEVオーナー,さらには充放電器のあるエリアに対して,運用データを分析して再生可能エネルギーを有効利用する機会を提供できる。また,都市空間の移動やデリバリー用途では,電動車両の高効率化と搭載スペースの拡大が課題であり,効率と搭載性の向上が可能なダイレクトドライブを提供することで,従来のEVに比べて搭載スペースの拡大および高効率化を達成できた。

(株式会社日立インダストリアルプロダクツ,日立Astemo株式会社)

[11]電動化社会を牽引する電動モビリティインフラの構成[11]電動化社会を牽引する電動モビリティインフラの構成

12. 「進化するクルマ」を実現するソフトウェア設計技術

CASE(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)のカギとなる「進化するクルマ」の実現に向けたソフトウェア設計技術を開発した。

ソフトウェア更新(OTA: Over The Air Download)においては,更新対象のソフトウェアが所望の動作を行うことだけでなく,更新対象以外のその他の制御ソフトウェアの処理結果が更新前後で予期せぬ変化を起こしていないことを保証する必要がある。そこで,本技術では各タスク(ソフトウェアの処理単位)の処理タイミングおよびECU(Electronic Control Unit)間の通信タイミングを固定化し,これらの固定を維持しながら空き時間を探索し,新機能搭載に伴うタスク追加や処理負荷平準化のためのタスク配置変更などを行う。タスクの処理順序が維持されるため,設計および検証を効率化し,迅速かつ低コストなソフトウェア更新を可能としている。

今後は,OTAに対応した自動運転・ADAS (Advanced Driver Assistance Systems)ECUや複数の既存ECUを一つに統合したECUに対して本技術の適用を進め,性能とコストを両立した次世代ECUを提供し顧客の期待に応えていく。

[12]空き時間探索による処理負荷分散[12]空き時間探索による処理負荷分散

13. 電動化モビリティ向け軽量・高強度・高熱伝導Mg合金

近年,モビリティのグリーン化実現に向けた動きとして,電気自動車の普及が急速に拡大している。また,これらの車両にはエネルギー消費削減のため,大幅な軽量化とエネルギー消費の高効率化が求められ,車両部品に対し軽量化・高強度・高熱伝導性のニーズが高まっている。現在,自動車メーカー各社が車両の軽量・省エネルギー化と航続距離向上に向けて熾烈な競争を繰り広げている。

本技術は,このような部品の軽量化・高強度・高熱伝導性の実現に向け,材料成分と組織の設計の最適化に着目し開発を推進した。溶質原子密度の低い基材の適用と転位のピン止め効果の高い第二相の導入により,従来のAl合金と同等の高強度・高熱伝導を両立し,かつAl合金よりも30%軽量のMg合金の開発に成功した。また,Mg合金を用いた筐体部品を試作し,部品性能を満足することを実証した。新型Mg合金筐体は,耐食性向上などの高機能化が図られており,今後,事業部に関する技術応用などの検討が進められる。

[13]電動化モビリティ向けMg合金の開発[13]電動化モビリティ向けMg合金の開発

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