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1. 生産ラインの動的切替を実現するオンラインCPS技術

近年の地政学リスクの高まり,顧客ニーズの多様化,短サイクル化,労働力の減少などの課題に対して,製造現場では,生産ラインの立ち上げ,運用・切替,改修を短期化,高効率化することがますます重要になっている。この課題に対して,需要の変動や生産現場の変動に応じて,生産ラインの計画や制御を動的に切り替えるオンラインCPS(Cyber Physical System)技術を開発している。

従来のCPS技術では,生産ラインの実績データを収集して管理者がデータをモニタリングし,傾向を分析して対策を検討する必要があったが,その分析には熟練度が必要であり,対策する計画の工数が大きく,対策するまでラインがストップするなどの問題があった。オンラインCPSでは,収集したデータから異常検知・対策生成,計画変更を自動最適化する。これにより,計画切替を迅速化し,ラインを停止することなく生産の継続が可能となる。

[01]オンラインCPSの特徴[01]オンラインCPSの特徴

2. データ管理の容易化に向けたプロセスモデル自動生成技術

製造業では,データを活用した製造プロセスの最適化が注目されている。製造現場で発生するデータは,各工程やシステムに散在し,データ収集・管理工数が膨大となっている。その解決に向けて,製造現場に散在するデータを,製造プロセスをデジタル空間に再現したプロセスモデルにひも付けて一元管理することで,プロセス全体でのデータ統合管理を容易化するソリューション「IoTコンパス」を提供している。

現状では,モデル設計者が製造プロセスの把握やデータのひも付きの整理を行うことで,プロセスモデルを構築している。こうした状況を改善するため,現場データに含まれる作業の着手・完了の実績データや資材投入実績などを用いてデータドリブンでモデルを推定することで,モデル構築に必要な工数を削減する技術の研究開発を行っている。開発技術によって,データ統合管理の中核となるプロセスモデリングの工数を80%削減し,データ統合管理のさらなる容易化に貢献していく。

[02]プロセスマイニング技術によるIoTコンパス活用の加速[02]プロセスマイニング技術によるIoTコンパス活用の加速

3. 数理式・機械学習組合せによる反応プロセスのバッチごと特性のモデル化方式

化学プロセス向けデジタルソリューションの一つとして,プラント運転自動化構想を進めている。本研究では,その構想を支えるバッチプロセスのモデル化技術を開発した。

人手で制御を行う製造現場では,化学反応が思うように進まず製造時間や製品品質がばらつく課題がある。そこで,プロセスの挙動を数理式でモデル化し,自動で適切な制御をすることが考えられる。しかし,製造現場には品種・機器が多数あり,その組み合わせ数だけモデル化を行う必要があるため,モデルの構築コストが多大になる問題がある。

本研究では,品種,機器特性について,種類で変わる特性を機械学習で,そうでない特性を数理式で,それぞれモデル化する方式を開発した。机上評価では,数理式でのモデル化と同等の精度を満足することを確認している。これにより,数理式のみのモデル化より構築コストを抑えつつ,機械学習のみのモデル化より精度の高いモデル化が可能となる。

[03]モデル化方式の概念図[03]モデル化方式の概念図

4. 現場作業者の動作を可視化するセンサーグローブFREEDiの開発

[04]FREEDiグローブ構成[04]FREEDiグローブ構成

組み立てや加工のような人の手で作業を行う現場で,作業者がモノを掴んだ時の指先の力加減や手先動作,作業音など動作情報を取得し可視化するセンサーグローブソリューション「FREEDi(フリーディ:FREE your Data input)」を開発した。

本技術は,センサー内蔵グローブから無線送信されたセンサーデータを端末上で受信し,目的に応じて動作ごとの特徴を抽出して作業者や管理者に通知する。これにより,技能訓練過程で熟練者と訓練者の技能差異を効果的に伝える教育での活用や,製造ラインでの作業漏れや手順違いなどの作業ミスをその場で検知する製造不良防止への活用が可能となる。

今後,「FREEDi」の作業検知技術高度化や他のセンシング手段との連携により,幅広い現場で活用でき,多様な顧客のニーズに応えられるソリューション化,さらには製造現場のあらゆる記録を統合した工場IoTソリューションの実現をめざしていく。

5. 熟練溶接技能のデジタル化

少子高齢化に伴い,モノづくりの技能やノウハウの消失が社会課題となる中,溶接作業の熟練技能をデジタル化する技術を開発した。

本技術は,溶接ナレッジに基づき抽出した溶接動作の特徴量を,モーションキャプチャなどを用いて高精度に計測して可視化できる点が特徴である。

熟練溶接士および初心者の溶接時のトーチ動作を比較した結果,熟練者は溶接トーチの高さや溶接速度の変動が小さく,安定した動作であるのに対し,初心者の溶接速度は熟練者の2倍以上であり,トーチ高さは徐々に増大することが確認された。さらに,初心者の溶接部には品質上問題となる内部欠陥が認められた。これは,初心者の溶接速度とトーチ高さが大きく,入熱量が不足することで発生する融合不良であると推察される。

上記のように,本技術を用いて溶接動作に基づく溶接品質が評価できることを確認した。今後,本技術を活用することで,モノづくり現場の技能伝承効率化に貢献していく。

[05]熟練者と初心者の溶接動作の比較[05]熟練者と初心者の溶接動作の比較

6. 社会の持続的な安心・安全に貢献する水環境デジタルソリューション

社会の持続的な発展には,健全な水環境とその基盤として安心・安全な生活を支える上下水インフラが必要不可欠であるが,昨今の激甚化・頻発化する豪雨,人口減による人手不足,熟練職員の退職,温室効果ガス削減への対応など課題が山積している。これらの社会課題に対して,上下水道事業における運用・保全業務の可視化・省力化・効率化やノウハウの継承などを支援するデジタルソリューションを提供している。

例えば,豪雨によりもたらされる内水氾濫を防止する雨水ポンプの運転支援技術として,CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)とRNN(Recurrent Neural Network:回帰型ニューラルネットワーク)を組み合わせたモデルを開発中であり,ポンプ所への流入量予測に適用する。また,人員不足の現場に対しては,点検者が定期的に現場で確認している臭気を常時監視して状態変化を検知し,機器・設備の運転管理への活用を図る,光音響分光方式などの小型臭気センサーを用いたシステムの開発を進めている。さらに,再生資源として有効活用が期待される下水汚泥に対し,汚泥脱水システムの運転条件好適化や熟練ノウハウの継承容易化への支援を目的に,重要な指標値である汚泥の含水率を近赤外分光により簡易に計測し,運転条件をガイダンスするシステムの構築を進めている。

[06]上下水デジタルソリューションを支える技術例[06]上下水デジタルソリューションを支える技術例

7. 再生可能エネルギー由来燃料を活用した発電システム

[07]水素混焼発電システムの構成図[07]水素混焼発電システムの構成図

カーボンニュートラルに向け,再生可能エネルギー由来燃料の利活用を検討しており,その一つとして水素サプライチェーンの実証を各ステークホルダーと連携して進めてきた。その中で既存インフラと容易に連携できる水素混焼発電システムの社会実装および運用を行った。水素混焼発電システムは,水素と従来燃料(バイオ燃料や軽油など)を混焼する仕組みであり,従来燃料のみでの発電も可能であるため,段階的にカーボンニュートラル社会へ移行できるシステムである。

さらに,本システムで課題となる水素供給量や環境温度の変化などによって発生する燃焼異常をリアルタイムに検出する燃焼状態検知の技術を開発した。具体的には,発電機の軸に接続された回転センサーを活用し,回転の角速度変化からリアルタイムの燃焼重心タイミングを検出する手法をコントローラへ実装した。本技術は水素供給システムと連携することで燃焼異常時に水素供給量を制御できるため,利用環境に合わせた安全な水素発電が可能となった。

8. データセンター向け省スペース・高効率500 kVA UPSの開発

[08]偏磁抑制方式と500 kVA機外観[08]偏磁抑制方式と500 kVA機外観

日立は,顧客のニーズに応じて小容量から大容量までのUPS(Uninterruptible Power System:無停電電源装置)をそろえ,システム冗長構成への対応が可能な省スペース・高効率・高信頼設計の「UNIPARA」シリーズを展開してきた。近年はAI(Artificial Intelligence)やIoTなどデジタル技術の進展,リモートワーク・eコマースの利用増加により,インフラとして重要な役割を果たす大規模データセンターの需要が増加している。そこで,大規模データセンター向けに省スペースで高効率化を実現する500 kVA機を開発した。

本機では,負荷側の変圧器に発生する偏磁を抑制するために,偏磁制御用リアクトルを用いない偏磁抑制方式を適用し,小型化を図っている。出力電流に含まれる偏磁成分を抽出する必要があるが,並列したUPS間に流れる横流電流の影響で偏磁成分の抽出が困難であった。そこで,横流電流の影響を除去する抽出方式およびそれを用いた偏磁抑制方式を開発した。この技術を適用することで,偏磁制御用リアクトルを不要とする製品を実現した。

(株式会社日立インダストリアルプロダクツ)

9. CO2考慮サプライチェーン最適化ソリューション

脱炭素社会の実現に向けて,製造業ではサプライチェーンにおけるCO2排出低減が求められている。CO2排出低減のためには,地産地消化により輸送におけるCO2排出を減らす方法などが考えられるが,その結果,調達・製造コストが増加する場合があり,CO2排出低減と経営効率の両立が重要である。

本ソリューションではこうした課題に対して,各拠点・地域におけるCO2排出量に上限を設けたうえで,数理最適化技術を用いて利益が最大となるサプライチェーン構成案を自動導出する。原材料や調達経路,生産工程,設備,販売・輸送経路におけるCO2排出量の評価が可能であるとともに,株式会社日立ソリューションズの環境情報管理サービスEcoAssist-Enterprise-Lightとの連携によりCO2排出量マスタの整備を支援することが可能となる。

今後,本ソリューションを通じて製造業におけるサプライチェーンの評価・再構築を支援し,脱炭素社会の実現に貢献していく。

(株式会社日立ソリューションズ)

[09]グローバルSCMシミュレーションサービスにおけるCO2算定機能の概要[09]グローバルSCMシミュレーションサービスにおけるCO<sub>2</sub>算定機能の概要

10. DXプロジェクト成功の鍵となる上流DX手法

DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトでは,上流段階でDX構想を多様なステークホルダー間で共有し,合意形成しておくことが成功のカギである。そこで,DXでめざす企業の姿をビジョンとして明確にすることで,顧客内のDXマインドを一つにし,以降の具体的なDXを加速する上流DX手法を開発している。

本手法では,顧客と日立が一体となり,経営を起点としたビジョン策定と,担当を起点とした自身の変革後の業務像を物語風に書き起こす両プロセスを経験することで,将来のめざすDXの世界を疑似体験しつつ「自分事化」してもらう。さらに,財務視点として,DXによる各種変革が経営にどのようなインパクトをもたらすか,社内の各階層・部門のステークホルダーの各種業務指標間の関係性を辿ることで論理的にクリアにし,担当者と経営者が一つとなりプロジェクトを推進することを確認してもらう。

この手法を産業機械メーカーとのプロジェクトで実践し,経営者の考えと担当者の現場の問題を同時に解決するDX方針を短期に合意し,その後のDXプロジェクト推進に貢献した。今後も引き続き手法に磨きを掛けながら,顧客のDXに貢献していく。

[10]上流DX手法図[10]上流DX手法図

11. 量産検証および商用生産向けマイクロリアクタシステムの開発

2種類の原料を高流量比で混合可能な,量産検証および商用生産向け樹脂製マイクロリアクタを開発した。マイクロリアクタは,微小流路内で原料を迅速混合し,反応温度を精密制御可能な連続フロー式化学反応装置で,医薬品などの製造効率を飛躍的に向上できる。一方の原料を他方の原料で挟むシースフロー流路により,幅広い流量比での混合への適用を実現し,高耐食性のポリエチレンやポリプロピレン製により,バイオ医薬品製造で求められるシングルユース(使い捨て利用)を可能とした。量産検証用では,開発済みのラボ用マイクロリアクタと生成物が同等性を持つように設計し,商用生産用では流路構造の並列化により生産量増大を実現した。

また,量産検証用マイクロリアクタを3台搭載した量産検証用マイクロリアクタシステムと,商用生産用マイクロリアクタを2台搭載した商用生産用マイクロリアクタシステムも開発した。従来バッチ法に比べて,製品開発から商用化までの期間を短縮できるため,原料や廃棄物の抑制が可能である。今後は,マイクロリアクタシステムの検証と用途開拓を進めていく。

[11]製品開発から商用化までの期間短縮を実現するマイクロリアクタシステム[11]製品開発から商用化までの期間短縮を実現するマイクロリアクタシステム

12. バイオ医薬品向け凝集体計測技術の開発

新薬の開発は,低分子医薬品からバイオテクノロジーを用いたバイオ医薬品へと大きくシフトしている。バイオ医薬品の有効性・安全性を確保するうえで,薬剤に含まれるタンパク質凝集体のサイズと密度を適切に計測し,管理することが重要である。タンパク質凝集体の計測にはそのサイズごとに異なる手法が用いられるが,0.1〜1 μmのサブミクロン領域では計測法が十分に確立されていなかった。

そこで独自の高分解能レーザー干渉技術を応用して,フィルタリングや乾燥などの前処理をせずに薬剤をそのままの状態で計測可能な技術(三次元ホモダイン光検出法)を開発した。本方法では,薬剤に照射したレーザー光を三次元的に高速走査することで三次元像を構築する。この際,光の干渉を利用して信号強度を約1万倍に増幅することで,サブミクロンのタンパク質凝集体からの微弱な反射光を検出可能にした。三次元像を解析することで一つ一つのタンパク質凝集体を識別し,それぞれの反射光量を抽出することで凝集体のサイズ同定と密度の計測を可能としている。今後は本技術を早期に製品化し,バイオ医薬品の安全性の向上に貢献していく。

[12]三次元ホモダイン光検出法[12]三次元ホモダイン光検出法

13. 簡単・高感度・迅速な抗原検査を実現する卓上電子顕微鏡を用いた検査ソリューション

[13]抗原検査の適用例と高感度化の原理[13]抗原検査の適用例と高感度化の原理

抗原検査は,感染症,食中毒や残留農薬などさまざまな検査に用いられている。ウイルスや細菌などの抗原の有無は,検査キットの判定ラインの色の変化で判断する。これは,抗原に吸着するマーカー粒子が抗原とともに判定ラインに捕捉され,色を変化させるからである。しかしながら,検査対象の抗原の量が少ないと判定ラインの色の変化を観測できず,抗原を検出できない。

そこで,浜松医科大学との共同研究の下,抗原検査を高感度化する方法を開発した。具体的には,卓上型の電子顕微鏡を用いて金属マーカー粒子を観測し,その個数をカウントする方法である。本方法を用いれば,PCR(Polymerase Chain Reaction)に匹敵する高感度な検査を実現できる。また,従来,熟練者のみが可能であった電子顕微鏡画像の取得や解析を自動化し,簡単に迅速な検査を可能にする技術を開発した。

今後,本検査技術で得られる検査データを活用した新たなソリューションを提供し,感染症検査や食品検査などへの活用をめざす。

14. Chemicals Informaticsによる高効率材料探索

カーボンニュートラル向けのバイオ由来樹脂であるポリ乳酸の強度と生分解性の両方を向上させる添加剤を,材料探索AI「Chemicals Informatics(CI)」※)を用いて探索した。この結果,添加剤としてアジピン酸とジチオジプロピオン酸を見いだした。これらの添加剤が樹脂に及ぼす影響を分子シミュレーションによって解析した結果,樹脂の分子配列を規則化して分子間力を増大させるとともに,水侵入経路を拡大させる作用があり,強度と吸水性(分解性の指標)を向上させるうえで有効であることを明らかにした。これらの知見に基づいて実証実験を行った結果,添加剤が引張試験の強度を増大させるとともに,分解性も高められることを確認した。これにより,CIが材料探索に有効であることを実証した。

また,探索から実証実験までのプロセスを約2か月間で完了しており,CIを使わなかった場合(推定約3年)と比較して,材料設計の時間を大幅に短縮できることが分かった。今後は,カーボンニュートラル向けのさまざまな材料探索・設計に適用していく予定である。

※)
Chemicals Informatics(CI)は株式会社日立ハイテクソリューションズのソフトウェア,サービスの名称である。

[14]CIで探索した添加剤の効果を示すシミュレーションと実験の結果[14]CIで探索した添加剤の効果を示すシミュレーションと実験の結果

15. 環境分野向け先端電子顕微鏡計測

さまざまな化学反応を促す「触媒」は,環境浄化や食料増産など地球規模の問題解決に貢献するとりわけ重要な材料である。触媒開発を加速する計測技術を革新するため,九州大学,大阪大学,明石工業高等専門学校と共同で,最先端の電子顕微鏡技術と情報科学的手法(微弱信号の抽出技術)を融合する独自の研究戦略により,TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡法)の一種であり,物質の電位分布を観察できる電子線ホログラフィーの位相計測精度を1桁向上させた。この超高感度化により,化学反応に寄与する触媒ナノ粒子のごく微弱な電荷量を「電子1個の精度で数える」という,未踏の計測を成し遂げた※1)

電子線ホログラフィーは微細な磁場の計測でも強みを持つ。東北大学,北海道大学,ファインセラミックスセンターと共同で,宇宙環境の計測として「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った試料の磁場解析にも活用し,サンプル内の磁鉄鉱粒子(マグネタイトFe3O4)の磁気的に高安定な渦状磁区構造と,周辺磁場の高解像度な磁束分布の観察に成功した※2)

今後の研究で,46億年前のリュウグウ母天体におけるサンプル形成時の磁場環境や経験温度の解明に,電子線ホログラフィーが貢献できると期待される。

※1)
本研究はJST CREST(JPMJCR1664)の支援を受けたものであり,2022年10月13日発行の米国科学誌「Science」オンライン版で公開された。R. Aso et al., Science 378 (2022)202.
※2)
本研究は「はやぶさ2初期分析チーム」の「石の物質分析チーム」により進められ,電子線ホログラフィー計測はJPMXS0450200421,JPMXS0450200521の支援を受けたものである。本研究成果は2022年9月22日発行の米国科学誌「Science」オンライン版で公開された。DOI: 10.1126/science.abn8671

[15]電子線ホログラフィーにより得られた触媒ナノ粒子の電位分布像[15]電子線ホログラフィーにより得られた触媒ナノ粒子の電位分布像

16. 空調IoTソリューション「exiida 遠隔監視・予兆診断」の冷媒漏えい検知技術

フロン排出抑制法改定により,現状は目視などで行っている簡易点検の自動化が認可されることを踏まえ,遠隔監視データに基づく冷媒漏えい検知技術を開発した。

本技術は,設備が正常に稼動している期間に得られたセンサーデータを用いて学習し,評価時にそれらが正常な範囲から乖離した際に異常予兆として検出する手法である。正常状態からの乖離度合の算出には,既開発の高速局所部分空間法(F-LSC:Fast-Local Sub-space Classifier)を適用した。また,直接計測が困難な封入冷媒量に対して,冷凍サイクルの原理に基づいて封入冷媒量と相関の高いセンサーデータを抽出し,冷媒漏えい量の評価指標を構築したことを特徴とする。異常予兆検知後に,冷媒漏えい特徴量に基づいた冷媒量増減判断フローを適用し,冷媒漏えいを判断する。実稼働データを対象とした評価により,設計した特徴量を用いて高感度に冷媒漏えい検知ができることを確認した。

本技術を搭載したサービスは,2022年8月のフロン排出抑制法の改正に対応した「exiida 遠隔監視・予兆診断」として,運用が予定されている。

今後は,顧客価値の向上を目的に,冷媒漏えい以外の異常原因も含めた異常原因推定技術を開発し,早期の実用化をめざす。

[16]空調IoTソリューション「exiida 遠隔監視・予兆診断」の冷媒漏えい検知システム概要図[16]空調IoTソリューション「exiida 遠隔監視・予兆診断」の冷媒漏えい検知システム概要図

17. 再生材活用拡大に向けたデザイン

[17]PV-BH900SKの外観[17]PV-BH900SKの外観

プラスチックは家電製品をはじめとしたさまざまな製品で長年にわたり利用されてきた。一方で,大量に生産されてきたプラスチックは使用後に廃棄となり,土壌・海洋汚染や燃焼時に排出されるCO2による地球温暖化への影響など,環境問題を引き起こす要因ともなっている。

本開発では,多くの人々が利用する家電製品において,再生プラスチックを積極的に活用し高度循環社会の実現をめざした。コードレス スティッククリーナーPV-BH900SKは再生プラスチックの使用率を40%以上にまで高め,内部部品のみならず,外観部品も再生プラスチックに置き換えながら,外観品質を損なわないデザインにチャレンジした。

また,高度循環社会の実現への取り組みと,高い意匠性が評価され,公益財団法人日本デザイン振興会が主催する2022年度グッドデザイン賞で金賞(経済産業大臣賞)を受賞した。

18. シンガポール工科大学との恊創による統合コマンドコントロールセンタソリューションの開発

東南アジアでは急速な都市化が進んでおり,公共交通などの社会インフラサービス,公衆衛生,パブリックセーフティといった分野における効率的な人的リソース運用が社会課題となっており,これに対応する統合コマンドコントロールセンタソリューションを開発した。

リソース運用効率の向上のためのスタッフディスパッチ機能では,イベントの優先度やスタッフの能力を考慮した制約条件をモデル化し,数理最適化問題として解くことにより最適なリソース配置を実現する。イベント数が増えた場合に指数関数的に求解時間が増えてしまう問題があるため,時空間分割処理アルゴリズムを導入することにより,リアルタイムで求解可能とした。また,シンガポール工科大学との協創を通じて,監視カメラの映像から人の密集を検知し,密を避けるよう促すスタッフを現場へ急行させる新型コロナウイルス対策ソリューションを構築し,実証実験により有効性を確認した。

今後,顧客協創を通じて,本ソリューションの展開を図る。

[18]統合コマンドコントロールセンタソリューションのアーキテクチャ[18]統合コマンドコントロールセンタソリューションのアーキテクチャ

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