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ハイライト

近年,企業におけるサステナブル経営に対する意識の高まりやESG投資の拡大に伴い,投資家に対してESG情報の開示が重要となっている。また,情報の開示基準の変化に対して迅速な対応が求められることから,組織や国をまたいで散在する多種多様かつ膨大なESG情報を収集・整理するために人的リソース・時間を割いている状態である。

これに対し,日立はESG情報の収集・可視化・分析を効率化し,企業のサステナブル経営の推進を支援するサービスを開発した。

本稿では,このサービスのねらいや機能の特徴について紹介する。

目次

執筆者紹介

山口 誠Yamaguchi Makoto

山口 誠

  • 日立製作所 金融ビジネスユニット 金融第一システム事業部 金融システム第一本部 第一部 所属
  • 現在,ESGマネジメントサポートサービスの開発に従事

笹谷 耕資Sasaya Kosuke

笹谷 耕資

  • 日立製作所 金融ビジネスユニット 金融第一システム事業部 金融システム第一本部 第一部 所属
  • 現在,ESGマネジメントサポートサービスの開発に従事

山口 琴音Yamaguchi Kotone

山口 琴音

  • 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部 金融システム営業統括本部 事業企画本部 ESG推進室 所属
  • 現在,ESGマネジメントサポートサービスの開発に従事

1. はじめに

図1|ESGマネジメントサポートサービスのコンセプト図 図1|ESGマネジメントサポートサービスのコンセプト図 本サービスは企業ごとの導入ではなく,部署やプロジェクトなどの小さい単位でのサービス利用が可能であり,人手による非効率の解消,収集業務の見える化を実現し,収集したデータの可視化をサポートしている。

企業の財務状況と非財務状況を結合して経営戦略を可視化する統合報告書という報告形態が登場し,2013年に国際統合報告フレームワークとして公表された。

2020年代に入り,非財務情報開示の基準化,制度化に向けた動きが加速してきている。こうした動きには例えば,国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)※1)財団を中心とした気候関連財務情報開示ならびにサステナビリティ関連財務情報開示に関する基準化の動向,EU(European Union)における企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)※2)に基づく基準の法制化,米国における米国証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)での非財務情報開示の充実などがある。

膨大かつ多種多様なESG(Environment,Social,Governance)データの収集にあたっては,組織や国ごとにデータ形式が異なり,組織の統廃合時のデータ統一やESG開示テーマの変化への迅速な対応が求められるなど,作業負荷の大きさが課題であった。

これに対し,日立は企業のESGデータの収集・可視化・分析を効率化し,サステナブル経営の推進に向けたDXを支援する「ESGマネジメントサポートサービス」を開発し,2023年1月よりサービス展開を開始した(図1参照)。

本稿では,情報収集するためのプラットフォーム構築に向けた課題と,課題解決のために本サービスが提供する機能について述べる。

※1)
国際会計基準審議会が策定する会計基準。
※2)
環境のサステナビリティや社会的権利から人権やガバナンス要因に至るまで,さまざまな問題について報告する必要性を定めた法令。

2. ESG情報収集における課題とESGマネジメントサポートサービスの機能

2.1 ESG情報収集における課題

ESG情報を収集する動きは近年加速的に発展したため,その仕組みが追いついておらず,以下の流れで情報収集する企業が多く散見された。

  1. 上位者が,表計算ソフトで集計したいフォーマットを定義する。
  2. 上位者は自分の管掌メンバーに(1)で作成したフォーマットを添付し,依頼メールを送信する。
  3. メンバーは必要であれば,さらに自分の管掌メンバーに同様の依頼メールを転送する。
  4. 担当者は,必要な情報を収集し,指定のフォーマットに手入力し,依頼メールに更新済みフォーマットを添付し,メール返信を行う。
  5. 上位者は受け取った添付ファイルの内容を確認し,入力ミスや不明な点があれば,担当者にヒアリングを行い,データの修正を行う。
  6. 自分の管掌下のデータがそろったところで,データを集計し,上位者から受け取ったフォーマットに転記し,返信を行う。

前述の情報収集フローから,日立は以下の3点において課題があると判断した。

  1. 情報リテラシーの不足
    情報を入力するためのツール,管理するためのツールとして表計算ソフトを用い,コミュニケーションツールはメールという企業が多く存在する。その理由として,専用のシステムを導入しても収集する情報の追加が発生するたびに改修が必要となり,収集情報の変化に対応できないという点と,情報収集のためにシステムを構築する予算を組めないという点がある。
  2. 情報収集フォーマットの不ぞろい
    親会社と子会社,あるいは同じ企業内でも組織間で使用するフォーマットが異なるため,上位者は報告用テンプレートに該当する項目を人手でマッピングし,報告資料を作成するという労力を要している。
    また,情報収集対象が増えた際に,既存のシステムやサービスの改修が必要であるケースが多く,改修期間・コストが必要となり,収集フォーマットの変更に即応できない。
  3. 人手による入力チェック
    数値フィールドに対して文字が含まれていないか,集計対象範囲が間違っていないかなどのチェックを表計算ソフトにある程度盛り込むことはできるが,人手の設定のため,設定漏れや範囲設定ミスなどがあり,入力チェックが効かないケースが残存する。

2.2 ESGマネジメントサポートサービス開発

図2|ESGマネジメントサポートサービスの四つの機能群 図2|ESGマネジメントサポートサービスの四つの機能群 収集業務は(1)収集情報を定義する,(2)収集業務を行う範囲を定義する,(3)実際に収集業務を行い,回答する,(4)収集した情報を分析し,可視化するの四つのブロックに分けることができる。本サービスはその収集業務の各ブロックに必要な機能を提供し,収集業務の効率化を図っている。

こうした状況に対し,洗い出した課題から収集業務機能をサポートする「ESGマネジメントサポートサービス(以下,「MSS」と記す。)」の開発が急務と考え,2022年4月から開発を開始した。

開発すべき機能を,ユーザーの収集業務視点から(1)定義帳票フォーマット登録機能,(2)依頼先リスト管理機能,(3)情報収集依頼機能・回答受付機能,(4)分析機能の四つの機能群に分解した(図2参照)。MSSとしてはデータ提供のみとし,PowerBI※3)などのBI(Business Intelligence)ツールを用いて顧客先にて分析を実施することとした。

また,サービスを顧客先の利用形態に合わせて提供できるよう,収集業務を行う活動範囲を「テナント」と定義し,テナント単位でのサービス契約とすることで,大規模から小規模まで柔軟に対応できるようサービス定義を行った。

MSSの主な機能は以下のとおりである。

  1. 定義帳票フォーマット登録機能
    定義帳票フォーマット登録機能は,収集したいデータの項目を定義する機能である。表計算ファイルにデータの項目名(英語,日本語),データの型,入力規則(上限値,下限値)を記載し,MSSに登録することで,MSSに登録するデータのスキーマおよび(3)にて収集するデータを記載するためのファイル(回答ファイル)を生成する。後述する(3)での情報収集依頼機能の実行時に,定義帳票フォーマットから生成したデータのスキーマに従って,MSS内のデータ格納場所であるレイクハウス(Databricks※4))内に,データベーススキーマを登録する。ユーザーが定義帳票フォーマットへデータ項目を追加し,定義帳票フォーマットを更新した際には,このDatabricksのデータベーススキーマを更新することで,データ項目の追加がいつでも可能な仕組みになっている。
  2. 依頼先リスト管理機能
    依頼先リスト管理機能は,収集依頼メールを送付する依頼先をリスト管理する機能である。
    企業内では,ビジネス環境の変化への追随やM&A(Mergers and Acquisitions)などによる組織編制の変更や,従業員の異動により,部署名や担当者の変更が発生する。情報収集の依頼先は数十,数百人にも及び,大人数の所属変更や依頼先ネットワークのつなぎ直しに手間がかかっている。
    依頼先リスト管理機能は,テナント間での依頼先リストと担当者の情報連携により,依頼先担当者の変更が自動反映される仕組みになっており,依頼先ネットワークのつなぎ直しが容易となっている。
  3. 情報収集依頼機能・回答受付機能
    (1)で作成した定義帳票と,(2)で作成した依頼先を,情報収集依頼情報としてパッケージ化し,収集依頼を実行することで依頼先として指定された宛先に対し,定義帳票から生成された回答ファイルを添付し,メールにて回答を要求する。
    担当者がメールに添付された回答ファイルを更新し,要求メールへの返信で回答すると,MSSはファイルの内容と定義帳票に定義した入力ルールに基づきデータの検証を行う。エラーがあった場合は担当者にエラー通知を行い,データの内容に問題がない場合はMSS内にデータを格納する。
※3)
PowerBIは,Microsoft Corporationの登録商標である。
※4)
データ収集,蓄積,加工,AI(Artificial Intelligence)・データ分析,可視化までクラウド上でのデータ利活用に必要なあらゆる機能を備えた統合環境。Databricksは,Databricks Inc.の登録商標である。

3. おわりに

本稿では,情報収集業務における企業課題から,企業内の既存ツールを活用し,従来の収集業務の仕組みを踏襲したサービスの機能開発を紹介した。

今後は,サービス内の機能拡充を行い,より多くの企業にて本サービスを利用した情報収集ができるようサービス拡大をめざしていく。

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