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ハイライト

世界的に脱炭素に向けた動きが加速する中,企業や産業の現場では,自社のみならず地域やサプライチェーン全体のカーボンニュートラルという難しい社会課題に直面している。

これに対し,日立製作所大みか事業所では,同事業所をフィールドにGX実証を重ね,そこで得た技術やノウハウを地域やサプライチェーンに還元しているほか,共通課題を持つ多くのステークホルダーと社会インフラエコシステムを形成し,カーボンニュートラルの達成をめざす「大みかグリーンネットワーク」を構想・推進している。

本稿では,この大みかグリーンネットワークのコンセプトや取り組みについて概説する。

目次

執筆者紹介

入江 直彦Irie Naohiko

入江 直彦

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 所属
  • 現在,新事業創生および次世代プラットフォーム戦略立案に従事
  • 博士(工学)
  • 情報処理学会会員

岩間 江津子Iwama Etsuko

岩間 江津子

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 新事業推進センタ 所属
  • 現在,大みかグリーンネットワークプロジェクトの推進など新事業の戦略策定に従事

森知 隆Morichi Ryu

森知 隆

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 新事業推進センタ 所属
  • 現在,大みかグリーンネットワークプロジェクトの推進など新事業の戦略策定に従事

越智 直子Ochi Naoko

越智 直子

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 経営戦略本部 事業企画部 所属
  • 現在,制御プラットフォーム統括本部の広報・宣伝業務に従事

1. はじめに

日立は,「脱炭素社会」,「高度循環社会」,「自然共生社会」の構築を掲げた環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を策定し,推進している1)。特に「脱炭素社会」の実現に向け,2030年度までに事業所(ファクトリーとオフィス)の,2050年度までにバリューチェーン全体のカーボンニュートラル達成を宣言しており,これを実現するためには,日立のみならず地域やサプライチェーン全体のカーボンニュートラルという難しい社会課題を解決する必要がある。

カーボンニュートラル実現に向け,企業や現場が向き合うべき課題として,事業の継続や成長を止めることなく脱炭素改革を推進する「経済価値と環境価値の両立」,エネルギー価格変動や需給バランス調整に対応する「再生可能エネルギーの調達・適正化」,地域やサプライチェーン全体にスコープを拡大する「脱炭素協創体制の確立」などが挙げられる。

ここでは,このような課題に対する日立製作所大みか事業所の取り組みを概説する。

2. 脱炭素化に取り組む「大みかグリーンネットワーク」

図1|「大みかグリーンネットワーク」のコンセプト図図1|「大みかグリーンネットワーク」のコンセプト図大みか事業所を実証フィールドのハブとして,ステークホルダーとの協創によるGX(グリーントランスフォーメーション)実証を重ね,共通課題であるカーボンニュートラル達成をめざす。

茨城県日立市大みか町に位置する大みか事業所は1969年に設立され,電力,鉄道,上下水道などの社会インフラを対象とした情報制御システムの設計・製造・開発・保守を担ってきた,多品種少量生産が特徴の地域に根ざした工場である。50年以上の歴史があるが,20年にわたる生産改革の取り組みを通じ,人の動態や設備の稼働情報などさまざまな4M(Human,Machine,Material,Method)データをIoT(Internet of Things)で収集・分析・対策するPDCA(Plan,Do,Check,Act)循環モデル,高効率生産モデルを確立し,代表製品において生産リードタイム50%削減を実現している2)

また大みか事業所は,東日本大震災を契機に太陽光パネルや蓄電池を導入するとともに,工場内約900か所に及ぶ電力センサーからの電力使用量データやエネルギー監視制御システム(EMS:Energy Management System)を活用し,省エネルギーや創エネルギー,蓄エネルギーに取り組んできた。EMSと生産計画の連動による電力使用のピーク抑制や,太陽光・蓄電池の充放電制御,自立運転制御により,BCP(Business Continuity Plan)を強化するとともに,省エネルギーの面では契約電力約29%低減という成果を上げている。

こうした生産管理やエネルギー管理などの取り組みが評価され,2020年1月には,世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)より,世界の先進工場「Lighthouse」に選出された3)。Lighthouseとは,WEFが第四次産業革命をリードする先進的な工場として認定するもので,大みか事業所は,日本企業の国内工場として初めての選出となった。

このような生産管理やエネルギー管理といった工場経営DX(デジタルトランスフォーメーション)の知見を生かし,大みか事業所では事業所内のみならず,地域やサプライチェーンにおけるカーボンニュートラルという社会課題の解決に取り組み始めている。しかしながら,こうした目標は一企業が単独で達成できるものではないため,共通課題を持つ企業,公共機関,教育・研究機関,あるいは金融機関といったさまざまなステークホルダーと連携し,脱炭素化に関わるケイパビリティを高める活動として「大みかグリーンネットワーク」を立ち上げた4)

大みかグリーンネットワークは,大みか事業所をハブあるいは実証フィールドとして脱炭素に関わるさまざまな取り組みのトライアルを行い,そのノウハウをサプライヤ企業,地域・近隣企業,金融機関,公共機関,テクノロジー企業,顧客などと共有する仕組みであり,協創によるGX(グリーントランスフォーメーション)を通じてカーボンニュートラルの達成をめざしている(図1参照)。

2.1 大みか事業所のカーボンニュートラルに向けて

第一の取り組みは,大みか事業所のカーボンニュートラルを目的としたGX実証の推進である。

大みか事業所でこれまで蓄積してきた生産現場の4Mデータや環境データをマッピングし,脱炭素のデジタルツインを構築する。工場内約900か所の電力センサーやEMSデータ活用による建屋ごとのCO2排出量の見える化を図り,削減に向けた効果予測,ロードマップ策定,実績測定といったPDCAサイクルを回す。また工場内の電力系統モデルによる電力変動のシミュレーションを行い,再生可能エネルギーの利用拡大を図る。さらに,製造ラインや設計データなどのデータを組み合わせることで,製品ごとのCO2排出量の把握も実施する。この脱炭素デジタルツインを活用し,脱炭素に向けたアイデアを次々と検証・蓄積するサイクルを生み出していく。

こうした活動を通じて得られたGX実証成果を「大みかGXモデル」として確立し,自社内だけでなく,顧客やパートナー企業にも展開していく。

2.2 地域やサプライチェーンのカーボンニュートラルに向けて

次に,GX実証の取り組みの地域やサプライチェーンへの拡大である。

カーボンニュートラルにはCO2排出量が少ない再生可能エネルギー設備による創エネルギーや,電力を安定供給するための蓄エネルギーを最大限活用することが重要となる。しかし単一企業の取り組みでは,創エネルギーや蓄エネルギー設備の増設に限界があり,オフサイトPPA(Power Purchase Agreement)などを利用したグリーンエネルギーの調達・最適利用が不可欠である。また,電力を安定供給するためには,常に需給バランスをコントロールする必要があるが,天候により発電量が左右される太陽光や風力などの再生可能エネルギーのコントロールはとても難しいのが実態である。

日立はこれまでにも分散電源制御ソリューションを国内外で展開しており,それらを活用した茨城地区の近隣事業所との実証を進め,将来的にはより広い地域への適用を構想している。こういったグリーンエネルギー管理ノウハウも「大みかGXモデル」に加え,電力広域運用や需給調整市場も考慮に入れて「地域エネルギーマネジメント基盤」としてフレームワーク化し,地域での再生可能エネルギーの利用拡大をめざす。

また,サプライチェーンにおける取り組みとして,サプライチェーン全体のCO2排出量算定・可視化のためのデータ統合や,金融機関や自治体と連携した環境経営サポートのための「環境トラステッドデジタル基盤」の構築を行っている。サプライチェーンに関わるステークホルダーとデータドリブンなエコシステムを形成し,脱炭素に向けた取り組みをリアルなデータと活動で実証していく。

ステークホルダーと足並みをそろえた活動はすでに始まっている。日立市の企業や産業支援センターなどが集まる中小企業脱炭素経営促進コンソーシアムでは,市内の中小企業の脱炭素経営を促進し,脱炭素事業を後押ししており,大みか事業所も,地域に根ざした責任ある企業としてここに参画し,Scope3のCO2排出量の算定・可視化・削減に向け,デジタル技術やノウハウを活用した仕組み作りを提案していく。このように今後も,脱炭素に向けたデジタルの仕組みとリアルな活動を連携した取り組みを推進していく。

3. おわりに

昨今,多くの企業がカーボンニュートラル宣言をしているが,サプライチェーンまで含めたカーボンニュートラルに関して具体策を伴うロードマップが描けている企業は少ない。また,工場・オフィスでのカーボンニュートラルに関しても,CO2排出量算定・可視化までは参考となる事例が多いが,その先のCO2排出量削減施策となると,投資コストや成長戦略との関係などを深く考慮する必要があり,一般的な解を得るのは困難である。

そのような状況の中,大みか事業所は,工場・地域を起点としたカーボンニュートラル実現に正面から向き合い,アプローチ方法を考えた。今後も,大みかグリーンネットワークを通じて,大みか事業所をハブとして培ってきた工場経営DXの技術や知見,環境経営GXに関わるさまざまな実証成果を多くのステークホルダーと共有し,企業ごとの脱炭素化に向けたシナリオ策定を支援しながら地域やサプライチェーンのカーボンニュートラル実現をめざす,社会インフラエコシステムの形成を推進していく(図2参照)。

こうした取り組みは日立市だけではなく,さまざまな地域へも展開している。例えば,地方銀行と協業し,2050年カーボンニュートラル社会の実現に向け,中堅・中小企業の脱炭素経営支援を目的とした新サービスを開始5)している。

日立は社会全体のカーボンニュートラルという大きな社会課題に対し,大みかグリーンネットワークの地域発社会インフラエコシステム活用を解決に向けた一つの糸口として捉え,今後も課題解決に取り組んでいく。

図2|「大みかグリーンネットワーク」がめざす社会インフラエコシステム図2|「大みかグリーンネットワーク」がめざす社会インフラエコシステム地域やサプライチェーンのカーボンニュートラルという大きな社会課題に対し,解決の糸口となる社会インフラエコシステムの構築をめざす。

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