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ハイライト

人々の生活を支える社会インフラは,常に正常に機能することが求められる。しかし,主に高度経済成長期に整備された社会インフラ設備は老朽化してきており,今後も老朽設備の増加が見込まれる。また,保守点検作業は人による巡回点検が主であり,熟練作業員の不足・高齢化が問題になっている。

こうした課題への対応としては,センサーなどのデバイスを用いて社会インフラの状態を収集し,AIなどで解析するソリューションサービスの提供が考えられる。また,これらのソリューションサービスは,大規模災害からの早期復旧,国土強じん化,工事の局所化などを通じて環境負荷軽減にも貢献が期待できる。

本稿では,日立がめざす社会インフラ保守のデジタル化の事例を紹介する。

目次

執筆者紹介

田川 大介Tagawa Daisuke

田川 大介

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 社会インフラ保守事業推進センタ 所属
  • 現在,社会インフラ保守事業の全体推進,マーケティングに従事

増田 真也Masuda Shinya

増田 真也

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 社会インフラ保守事業推進センタ 所属
  • 現在,地中可視化サービスを用いた顧客課題解決提案,サービス提供に従事

池田 惇耶Ikeda Junya

池田 惇耶

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 社会インフラ保守事業推進センタ 所属
  • 現在,漏水検知サービスを用いた顧客課題解決提案,サービス提供に従事

石川 直史Ishikawa Naofumi

石川 直史

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 社会インフラ保守事業推進センタ 所属
  • 現在,漏水検知サービスおよび地中可視化サービスのサービス運用,エンハンスに従事

1. はじめに

現代において人々の生活を支える社会インフラは,高度経済成長期に集中的に整備されたため,今後,老朽設備が増加することが懸念されている。2035年には老朽設備の点検・修繕に要する費用が年度予算を上回る可能性を指摘する試算結果もあり,また現状の熟練作業員の約半数が定年を迎えるとも予測されている。

こうした状況に対し,政府,地方公共団体などにおけるさまざまなインフラを対象にした今後の取り組みの全体像が国土交通省の「インフラ長寿命化基本計画」に示されている。この基本計画の中では,全国のあらゆるインフラで着実に老朽化対策を実施するため,各インフラの管理者がインフラ長寿命化計画(行動計画)を作成することが規定されている。

日立は,センサー,レーダー,カメラなどのエッジデバイスからデータを収集し,AI(Artificial Intelligence)技術を用いてデータ解析を行い,社会インフラの維持管理に対して価値のあるデータを生み出すことで,社会インフラ設備を保有する事業体が担う点検・修繕業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)に貢献する(図1参照)。

図1|社会インフラの課題と解決の方向性図1|社会インフラの課題と解決の方向性高度経済成長期に整備された社会インフラ設備の老朽化と,設備を保守する熟練作業員の不足と高齢化が進行している。

2. 社会インフラ保守事業の概要と事例紹介

本章では,社会インフラ保守事業の全体概要,提供サービスの事例として「漏水検知サービス」および「地中可視化サービス」の取り組みを紹介する。また,これらのサービスによる大規模災害時の早期復旧支援への貢献や,環境負荷軽減に向けた取り組みなどについても紹介する。

2.1 社会インフラDXの概要

日立グループは,地上インフラや地下インフラを問わず,さまざまな業界が保有する社会インフラ設備の点検から修繕計画の最適化まで幅広くソリューションを提供している(図2参照)。従来は,特定の顧客に向けた個別SI(System Integration)型ビジネスにてシステムを開発してきた。最近では,社会インフラ設備が抱える課題の共通性に着目し,顧客や業界の垣根を越えてソリューションサービスを提供し始めている。長年にわたって取引のある顧客や業界に関する知識と課題の共通性に着目したソリューションサービスをベストミックスさせることで,サービスを必要とする顧客に低コストかつスピーディに提供する(図3参照)。

既に提供を開始したサービスに,今後,現場DXが進展した際に新たに発生する可能性のあるリスクへの備えを加えて,さらなる価値提供をめざす。その実現に向けて,ステークホルダーとの協創のさらなる深化・拡充を引き続き実施する。

図2|日立の社会インフラ保守ソリューション図2|日立の社会インフラ保守ソリューション日立は,さまざまな社会インフラに対してトータルでソリューションを提供する。

図3|業界をまたいだ現場DXの推進図3|業界をまたいだ現場DXの推進業界の多様なステークホルダーに対して,業界横断で現場DXを推進する。

2.2 漏水検知サービス

漏水検知サービス1),2)は,日立独自開発の超高感度振動センサーを用いて水道管路を常設監視するもので,通信機能一体型の漏水検知センサーと,クラウド上にある監視プラットフォームで構成される(図4参照)。

具体的には,水道管の制水弁に設置したセンサーが漏水点から伝搬してきた振動を計測し,日立が独自開発したアルゴリズムで計測データを解析し,漏水の疑いをスコアリングする。このスコアを,LPWA(Low Power Wide Area)通信[LTE-M(Long Term Evolution-Machine)通信]を利用してセンサーから監視プラットフォームに伝送し,地図画面上に漏水の疑いの有無や漏水疑いを示しているセンサーの位置を可視化する。

このサービスにより,現場に移動しなくても地中に敷設された管路の状態を遠隔で監視することが可能となる。また,漏水の疑いがあるエリアを絞り込むことで,漏水点を確認する調査業務の作業効率向上が期待できる。

本サービスは,株式会社日刊工業新聞社が主催する「第51回 日本産業技術大賞 文部科学大臣賞」を受賞3)しており,安心・安全かつレジリエントな社会インフラの実現に貢献できるサービスとして国内に広く展開している。

漏水検知サービスの主な顧客の各市町村の水道事業体が管理している水道管は,高度経済成長期に整備され,更新時期を迎えている管路が多いが,その更新が追い付いていないため,漏水の発生が継続している状況である。

そのため,水道事業体は漏水に対応するべく,定期的な漏水調査を実施している。現在は,技術者が自身の聴覚で漏水音の有無を聴き分ける巡回調査が主流であるが,広域に広がる管路状況の変化を即時に検知するには限界がある。また,その検知には熟練の経験とノウハウが必要であり,継続的な人財の確保にも課題がある。

漏水検知サービスの提供価値は,遠隔監視を通じて漏水の早期発見・早期修繕を可能にする点にある。本サービスを従来の巡回調査と組み合わせることで,漏水監視体制を構築し,漏水調査業務の効率化が期待できる。

これに加えて,水道事業体の全体課題の一つである管路管理(管路更新計画)への横展開も検討4)している。対象管路をいつまで継続利用することが可能なのか,どの管路をいつ更新する必要があるのかを判断する材料として,漏水検知を目的に収集したデータを利活用することで,効率的な管路更新の実現をめざしている。

日立は漏水検知サービスを単独で提供するだけでなく,ほかのサービスとデータ連携をすることにより,水道事業体の運用効率化に寄与するサービスとしての拡張をめざしている。

図4|漏水検知サービスの概要図4|漏水検知サービスの概要日立の漏水検知サービスは,自社開発の超高感度振動センサーとアルゴリズムにより高精度な漏水検知を実現する。LPWA通信による継続監視を行うことで,漏水起因の事故を抑止する。

2.3 地中可視化サービス

図5|地中可視化サービスの概要図5|地中可視化サービスの概要地中レーダー画像解析により可視化した埋設管・空洞・その他の埋設物などの地下埋設物に関する位置情報をプラットフォーム上で統合管理し,オンデマンドで顧客提供する。車両にレーダー探査装置,GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)およびGNSSの測位品質が劣化する場所においても位置精度を維持する慣性航法装置,道路面および道路周辺の三次元データを取得するMMS(Mobile Mapping System)を搭載し,時速45 kmで探査可能である。

埋設管路の新設・更新においては,各事業者が個別に管理する図面を収集・統合して設計する手間・負担や,図面と現場との乖離による設計変更・工事中断,管路損傷事故により,計画的かつ効率的な業務推進が阻害されていることが課題として挙げられる。

地中可視化サービス5)は,地下埋設インフラの維持管理業務を高度化・効率化するため,応用地質株式会社との協創により,地下埋設インフラ事業者を対象に地下埋設物情報を提供するサービスである(図5参照)。本情報は,非破壊で地下を探査する応用地質のレーダー搭載車両により地下情報を面的に収集し,熟練作業員に代わって日立のAI解析で可視化することで作成する。収集した情報はプラットフォームに一元集約し,埋設状況や位置関係を二次元/三次元で直感的かつ正確にWebブラウザ上で表示可能である。日立は,本サービスの提供により,従来の維持管理業務プロセスの革新をめざしている。

本サービスは,2021年5月より有償提供を開始し,2021年12月よりプラットフォームを介した情報提供を開始した。これまで28事業体(ガス関連企業7社,国・自治体など13事業体,製造関連企業ほか8社)と実証の取り組み,サービス提供を行っている(2022年11月現在)。仙台市下水道部門との共同研究(2021年11月〜2022年5月)においては,設計業務での本サービスの情報活用による効果算定を実施し,試掘調査の前段階での設計情報の精度が向上することで,現場状況との乖離により発生する追加試掘調査・設計変更(手戻り)の70%削減が見込めることを確認した。2022年7月からは,施工業務まで含めた効率化に向けた共同研究を開始しており,本活動で培ったノウハウを生かしたサービス機能の拡充や,自治体が導入しやすいサービスモデルの確立,さらには民間企業への展開を図っている。

さらに,本サービスプラットフォームをインフラ事業者の情報共有の場として活用することで,コミュニケーションの円滑化,業界全体の業務効率化・高度化支援の可能性についても検討している。例えば,現在協議会などで行われる更新計画の共有などの際に,プラットフォーム上で共通フォーマットに簡便な方法で情報入力・共有することや,情報更新の頻度を向上することで,詳細かつ最新の情報の共有を支援し,事業者間の個別の調整や工事立会などの工数削減,業務効率化につなげることができると考える。今後,インフラ事業者とニーズや実現方法に関する議論を重ね,実現策の具体化・推進を図っていく。

3. 社会インフラ保守事業が貢献する付加価値

図6|社会インフラ保守事業の全体コンセプト図6|社会インフラ保守事業の全体コンセプトインフラ関連事業者の業務DXを実現するエコシステムを構築する。大規模災害への備えとして,有事にも使えるプラットフォームで国土強じん化にも貢献する。

これまでに紹介してきた社会インフラ保守事業で展開するプラットフォームは,大規模災害への備えとしても有効に機能する。これは内閣官房が進める「国土強靭化基本計画」の方針に合致するものである。

例えば,地震や地滑りなどの大規模災害が発生すると,老朽化した水道管から漏水が発生する。漏水は同時多発的に起きることが多いため,これまでは全体の状況把握に多大な時間と労力を要していた。日立の「漏水検知サービス」は常設監視を行うため,災害時においても漏水疑い箇所を特定することができ,早期復旧を支援できると考える。

その他にも,防災・減災に向けて整備が推進されている無電柱化の工事においては,既存管路の位置把握や工事調整などの設計業務に多大な工数を要しているが,日立の「地中可視化サービス」はこれらの設計業務の効率化に寄与することができる。

また,これらのサービスは,環境負荷の軽減にも貢献する。例えば,漏水検知サービスにおいては,漏水を早期に検知し水資源の浪費を防ぐ。地中可視化サービスにおいては,調査のための試掘回数を削減することにより,建機の稼働低減や残土の低減,工期短縮による渋滞削減などが期待できる。また,より広い視点で見ると,日立が提供する社会インフラ保守プラットフォームに多数のインフラ関連事業者の情報を統合管理できるようにすることで,事業者間の垣根を越えたエコシステムを形成し,社会インフラ保守全体での効率化にも貢献できると考えている。

日立は,社会インフラ保守事業がAIやIoT(Internet of Things)などのデジタル技術を活用し,平時の保守のみでなく災害時にも社会インフラの適切な保守に対応できるよう,国土強じん化に資するソリューションとして多数のインフラ関連事業者をまたぐ大規模なDX・エコシステムの形成をめざす(図6参照)。

4. おわりに

本稿では,日立がめざす社会インフラ保守のデジタル化の事例を紹介した。

今後も幅広く社会インフラのデジタル化に貢献するとともに,近年関心が高まっている国土強じん化や環境負荷軽減に寄与する技術・サービスを創出し,安心・安全な社会の実現に貢献していく。

参考文献など

1)
日立製作所,社会インフラ保守プラットフォーム,漏水検知サービス
2)
川本高司,外:持続可能な都市インフラを支える漏水検知サービス,日立評論,104,2,260〜266(2022.3)
3)
日立製作所,「超高感度振動センサー(MEMS)を用いた漏水検知システムの開発」が日刊工業新聞社主催の「第51回 日本産業技術大賞 文部科学大臣賞」を受賞(2022.4)
4)
藤原正和,外:上下水道管路の維持管理向けデジタルソリューション,日立評論,104,3,339〜344(2022.12)
5)
日立製作所,社会インフラ保守プラットフォーム,地中可視化サービス
6)
増田真也:地下埋設インフラ維持管理のDX化「地中可視化サービス」,月刊下水道,Vol. 45,No. 14,pp. 34〜35(2022.12)
7)
増田真也:地中レーダー等を活用した地下埋設物の検知に関する実証,配管技術,64巻,6号,pp. 59〜63(2022.5)
8)
国土交通省,社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト
9)
内閣官房,国土強靭化基本計画
10)
日立製作所,「ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2022」において、「地中可視化サービス」が社会業界特化系ASP・SaaS部門で準グランプリを受賞(2022.12)
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