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上下水道事業における維持管理の効率化や,災害時や事故発生時などの現地対応の迅速化をめざして,これまで設備の導入が難しかった水道の配水管や下水道管に,さまざまなセンサーを設置し,遠隔でリアルタイムに監視するシステムを開発した。株式会社日立システムズでは,システムの導入,事前の現地調査やセンサー設置作業,クラウドによる継続的な運用支援などを含めた一連のソリューションを「CYDEEN」水インフラ監視サービスとして上下水道事業体に提供している。

本稿では,水道事業体向けに提供している水圧および水質の遠隔監視,下水道事業体向けに提供している水位監視について,導入事例を交えて紹介する。

目次

執筆者紹介

上川 恭平Uekawa Kyohei

上川 恭平

  • 株式会社日立システムズ サービス・ソリューション事業統括本部 AS事業拡大推進本部 AS推進第2部 所属
  • 現在,水インフラを中心とした社会インフラ分野における新事業開発に従事

亀山 真也Kameyama Shinya

亀山 真也

  • 株式会社日立システムズ サービス・ソリューション事業統括本部 AS事業拡大推進本部 AS推進第2部 所属
  • 現在,水インフラを中心とした社会インフラ分野における新事業開発に従事

上田 大Kanda Masaru

上田 大

  • 株式会社日立システムズ 公共・社会事業グループ 社会情報サービス事業部 社会システム第三本部 デジタルトランスフォーメーション推進部 所属
  • 現在,CYDEEN水インフラ監視サービスを中心として,CYDEEN維持管理系商材全般の開発・拡販に従事

田口 拓蔵Taguchi Takuzo

田口 拓蔵

  • 株式会社日立システムズ 公共・社会事業グループ 社会情報サービス事業部 社会システム第三本部 デジタルトランスフォーメーション推進部 所属
  • 現在,CYDEEN水インフラ監視サービスを中心として,CYDEEN維持管理系商材全般の開発・拡販に従事

1. はじめに

社会インフラとしてさまざまな場所に設置されているマンホールでは,日々,維持管理のために管理者による点検や事故対応などの作業が行われている。しかし,マンホールは蓋で閉ざされた空間であるため,これまでは現場に到着してからの状況確認,それに応じた対応が主であり,トラブルの早期発見や迅速な対応が困難であった。また大規模災害時には,管理している数多のマンホールにおいて,どこで何が起こり,どのような優先順位で現場対応しなければならないのか,検討と判断が難しい状況にあった。

これらの課題に対し株式会社日立システムズでは,これまで設備の設置が難しかった水道の配水管や下水道管にさまざまな監視装置を設置し,遠隔でリアルタイムに監視するシステムを開発し,運用作業支援などを含めて「CYDEEN」水インフラ監視サービスとして提供している。

マンホール内に設置する監視装置は,設置場所や設置環境を考慮し,監視対象ごとに開発した。現場設置を容易にするために,無線通信による監視データ送信,電池による長期駆動を実現している。無線通信はマンホール内からでもデータ送信が可能なセルラーLPWA(Low Power Wide Area)を採用し,かつ設置可能範囲を最大化するために携帯電話大手3キャリアに対応している。電池については,設置環境やそれぞれのセンサー部の消費電力に合わせて電源装置を開発し,例えば水道の水圧監視であれば3年以上の稼働を実現した。また,マンホール内は雨天時などに水没する可能性,砂や土で埋まる可能性が考えられるため,防水・防塵性はIP68を確保した。

2. 水道事業体向けの配水管における遠隔監視

水道の配水管においては,配水小管あるいは配水支管のマンホール内に監視装置を設置し,水圧,流量,水質を遠隔監視するシステムを提供している。ここでは,水圧監視システムと水質監視システムについて紹介する。

2.1 水圧監視システム

水圧監視システムは,東京都水道局からの委託で2019年度に開発したものであり,水圧監視装置,セルラーLPWAを採用した無線通信ネットワーク,クラウドで構成される(図1参照)。

水圧監視装置は,消火栓マンホール内に常設して水圧を計測するもので,土工事や断水を伴わずに設置できる。消火栓マンホール内での長期稼働をめざし,頑丈かつ省スペースな筐体設計とし,消防活動や管路の維持管理作業への影響を最小化するなどの工夫を行った。

水圧監視装置は,圧力センサー,通信ユニット,電源ユニットで構成され,それぞれが防水性を確保したケーブルで接続される。定期的な電池交換や万が一の機器故障時は,該当部分のみを取り外して作業ができるようになっているため,道路上での作業において交通規制の時間を短縮できる(図2参照)。

図1|水圧監視システム図1|水圧監視システム水圧監視装置をマンホール内に設置し,無線通信ネットワークを通じてクラウドによる遠隔監視を提供する。

図2|水圧監視装置の設置例図2|水圧監視装置の設置例土工事や断水なしで後付け設置が可能である。省スペース設計で管路の維持管理作業への影響を最小化している。

圧力センサーは,消火栓と補修弁の間に挟み込むように設置するプレートに接続し,管内の水圧を計測する。水圧測定範囲は0〜3.5 MPaである。圧力センサーとプレートは接水するため,衛生試験に合格したものを提供している。

通信ユニットは樹脂製の円筒状とし,マンホール蓋が取り付けてある蝶番に吊り下げる方式としたため,マンホール蓋の開閉の妨げにならず,かつ最も通信が安定することが考えられる垂直状態にアンテナを保持できる。中継装置を使うことなく,また,既存設備の改修,交換を実施することもなく設置でき,マンホール蓋を閉じた状態でも安定した無線通信が可能である。

電源ユニットは,室内作業における衝撃などを考慮し,ステンレス製のボックスにアルカリ乾電池を搭載したものとした。圧力センサーで1分ごとに水圧を計測し,通信ユニットから1時間ごとにデータ送信する設定で,3年以上の電池寿命を確保している。ステンレス製のボックスは,配水管などに接触すると腐食のおそれがあるため,マンホールの内周にステンレス製のリングを取り付け,そこに電源ユニットをチェーンで固定することで転倒を防止している。

2021年度,東京都水道局発注の機器買い入れ契約により水圧監視装置120台を納品し,都内の消火栓120か所に設置して運用を開始した。これにより非常時に漏水箇所を特定しやすくなるなどの効果が見込まれ,今後,業務効率化や現地対応の迅速化への効果を検証していく予定である。

水圧監視装置の設置にあたっては,各設置場所における最適な通信キャリアを選択するため,2021年度の電波調査業務委託契約により,設置候補となる都内の消火栓176か所における電波調査を事前に実施した。

日立システムズでは,水圧監視システムを水道事業体ごとのさまざまな課題に対する解決策として提案を進めている。例えば,減圧弁付近の水圧を監視することによる不具合の早期検知や,管網末端で不定期に発生する停滞水の監視,用地確保や電源などの大がかりな工事が必要なテレメータ設備の代替としての導入など,さまざまな用途での利用が期待できる。

2.2 水質監視システム

図3|水質監視装置図3|水質監視装置左から,電源ユニット,自動開閉バルブボックス,通信ユニット,残留塩素センサーの外観を示す。各機器はケーブルで接続し,マンホール内に設置する。

水質監視システムは,管網末端の残留塩素濃度確保を支援するために,日立システムズが開発したものである。国内では人口減少や過疎化,土地利用形態の変更などによる水需要の低下によって,管網末端などにおいて水の停滞が発生することによる残留塩素濃度の低下が懸念されている。これに伴って,現場調査と排水作業などにかかる工数の増加や,排水量の増加が課題となっている。このため,水質監視システムでは残留塩素濃度の遠隔監視と排水作業を自動化し,効率的な水質管理の運用を支援する。

また,より多くの場所で残留塩素濃度を監視することで,水道法基準の0.1 mg/L以上に維持すると同時に,投入塩素量の最適化により,おいしい水(味・におい)とするための上限である1 mg/L以下にも維持できるよう貢献したいと考えている。

水質監視システムは,水圧監視システムと同様,水質監視装置,セルラーLPWAを採用した無線通信ネットワーク,クラウドで構成している。クラウド環境は,水圧と水質,さらには流量も含めた一元監視ができるものとした。

水質監視装置は,残留塩素センサー,自動開閉バルブボックス,通信ユニット,電源ユニットから成る(図3参照)。

装置設計の基本的なコンセプトは水圧監視装置と同様であり,公道に埋設されたマンホール内に設置する点も同じであるが,水質監視装置の場合は残留塩素濃度を計測した試料水を排水しなければならないため,現地における土壌への自然浸透,もしくはドレン管による下水道管や側溝への排水が必要となる場合がある。このため,試料水の排水量を最小化することをめざし,自動開閉バルブによって濃度計測時のみバルブを開ける仕組みを開発した。

また,残留塩素センサーは,稼働時間が長くなると計測値と実際の値が乖離していくという特性があるため,定期的に設置場所で手動による分析を行い,結果を機器に入力する校正作業が必要になる。この校正作業を遠隔で実施できるようにしたものがクラウド校正機能(特許出願中)である。水質監視装置を設置している現場で,スマートフォンやタブレットから校正値を入力すると,クラウドを経由して残留塩素センサーに設定される。この機能によって装置側に操作ボタンや表示パネルが不要となり,IP68の防水・防塵性を実現している。

管網末端での残留塩素濃度確保の他に,災害用貯水タンクなど,設置環境によっては水の停滞が発生するような場所においても定期的な水質確認,排水作業が必要であり,施設管理者の負担になっている。このような場所においても水質監視システムの適用が有効であると考える。

3. 下水道における遠隔監視

図4|横須賀市での水位上昇図4|横須賀市での水位上昇大雨の際に複数の水位センサーが冠水前に変動を捉え,アラートメールを通知した。

下水道においては,水位を遠隔監視するシステムを提供している。雨水管や合流管における豪雨時の浸水対策,汚水管の雨天時浸入水対策や油脂詰まりなどによる溢水対策を支援する。現場の水位変化から異常を検知すると,自動的にアラートメールが送信されるため,豪雨時の水防活動や,ポンプ場の適正な運転に向けた迅速な初動対応が可能になり,定期的な点検や清掃などの作業を補完することで維持管理の効率化にもつながる。

2021年度に,高崎市・前橋市・横須賀市の協力を得て,供用中のマンホールに水位センサーを設置し,水位の変化を測定した。3市の計21か所のマンホール内にセンサーを設置し,設置場所ごとに対策のテーマを設けて効果を検証した。以下に事例の一部を紹介する。

  1. 管更生後の効果確認(高崎市)
    雨天時浸入水が発生した汚水管において,過去に実施した管更生の効果を確認した。
    検証の結果,大雨で水位が大きく上昇することはなかったため,雨天時浸入水の防止に対する管更生の効果が確認できた。
  2. 油脂閉塞の早期検知(前橋市)
    油脂詰まりが発生しやすい汚水管における閉塞発生の早期検知を検証した。その結果,水位上昇が検知された際に早急に孔内の清掃を行ったところ,水位が安定したことから,早期の検知が溢水防止につながることが確認できた。
  3. 冠水の予兆検知(横須賀市)
    豪雨時における冠水の予兆検知を検証した。その結果,大雨の際に複数の水位センサーが冠水前に変動を捉え,アラートメールの通知により,職員の初動体制を整えることができた(図4参照)。
  4. その他の検証
    その他の実証テーマとして,以下検証を実施している。
    1. 溢水実績がある箇所での浸入水有無の特定
    2. 配管ルート変更箇所における排水滞留有無の特定
    3. 雨天時溢水発生の早期検知

4. おわりに

本稿では,上下水道での「CYDEEN」水インフラ監視サービスの導入事例を中心に説明した。これらの実績を踏まえ,今後,中長期的な継続監視を上下水道事業体に提案し,安心・安全な上下水道運用のサポートと業務効率化を支援していく。

謝辞

本稿で述べた水インフラ監視サービスの開発においては,株式会社トミスをはじめとする関係各社にご協力いただいた。深く感謝の意を表する次第である。

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