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COVER STORY:ACTIVITIES 1

デジタル技術で創り出す価値を社会へ

持続可能性とQoLを両立する日立デジタルの取り組み

ハイライト

日立製作所は2022年4月に発表された「2024中期経営計画」の中で,Lumadaを中心としたデジタル事業による成長戦略を発表した。これに伴い,グローバルでの日立グループ全社のデジタル事業の加速に向けて同月に発足した日立デジタルは,グループ各社との連携を強化しながら,日立のグローバルデジタル戦略を策定・推進している。ここでは,日立デジタル設立の目的やその役割,2021年よりグループに加わったGlobalLogicとの融合について,同社の谷口潤CEOに話を聞いた。

目次

Lumada事業のグローバル展開に欠かせないビジネスユニット間の連携

谷口 潤<谷口 潤
日立デジタル CEO
1995年株式会社日立製作所入社。2019年4月より日立グローバルライフソリューションズ社長,2022年4月より日立製作所執行役常務,サービス&プラットフォームビジネスユニットCOO兼日立デジタルCEO。2023年4月より,デジタルエンジニアリングビジネスユニットCEO兼日立デジタルCEO。

2022年4月,日立グループ横断のグローバルデジタル戦略を策定・推進する組織として,日立デジタルが設立されました。設立の目的・役割についてお聞かせください。

日立グループは2024年度中期経営計画において,「社会イノベーション事業でグローバルリーダーになる」という目標を掲げ,「デジタル」,「グリーン」,「イノベーション」の3本の柱で社会イノベーション事業をさらに加速することを発表しました。特にデジタル事業については,社会やお客さまの環境変化が激しい今,日立として注力する事業領域をしっかりと見定めることが重要です。日立はこれまでも品質や信頼性の高い社会インフラを提供してきましたが,そこは日立の大きな強みとして捉えて,今後も引き続き社会インフラ分野に注力しながらデジタルの力でユーザー体験を高めていきたいと考えています。

一方で,デジタル事業というのは,「デザイン」,「エンジニアリング」,「プロダクト」,「マネージドサービス」など,複数の専門性が融合することで,より大きな価値を生み出します。お客さまが日立に期待するのは,そうした専門性の掛け合わせでシナジーを生み出す能力でしょう。これを実現するためには,各BU(Business Unit)をまたいでデジタル事業の戦略を立案し,新たな価値を創出しなければなりません。Lumadaを基盤としながらこの価値創出をリードするのが,日立デジタルの重要な役割です。言うなれば,当社はグローバルに Lumadaの展開を加速する司令塔の役割を担うわけです。

CEOに就任された際のお気持ちはいかがでしたか。

非常に責任が重いと感じました。なぜなら,当社が機能するかどうかが日立の成長を左右することになるからです。任務を全うするためには,従来,各BUが自主自律の精神で行ってきた経営に風穴を開けなければなりません。言うなれば,これまでの常識を壊す必要があるわけです。そこは一筋縄ではいかないだろうと感じています。一方で,事業創生やIT,OT(Operational Technology),プロダクト事業,経営といった,私自身のこれまでの経験を生かすチャンスだとも思いました。重責ではありますが,自身の経験を基に,それぞれのBUの立場を理解しながら成長を促していこうと覚悟を決めて臨みました。

これまでも,日立はLumadaを中核として,各BUをつなぎながら新たな価値創造をめざしてきました。今後は,それをさらにグローバルに強化していくということでしょうか。

そうです。2021年度のわれわれの大きな変化の一つに,デザイン主導のデジタルエンジニアリングをリードする,GlobalLogicが仲間に加わったことがあります。2020年に世界トップクラスの技術とシェアを有するABBのパワーグリッド事業(現・日立エナジー)がグループの一員に加わったことで,Lumada事業をグローバルに広めていく動きは既にありましたが,今後はさらにGlobalLogicと共にその流れを加速していきます。

そのためにはこれまで以上にBUの垣根にとらわれることなく,お客さまの価値創出に向き合っていかなければなりません。具体的な方策の一つとして,BU間連携のボトルネックとなっていた評価の仕組みを見直していくことも検討しています。従来はBUごとに目標を立て,その達成度合いを評価してきたわけですが,今後は,BU間の協力・協働体制下で生み出された成果も積極的に評価していく仕掛けをつくっていきます。そうした新たな経営メカニズムを示すことで,今まで以上に大きな価値をお客さまに提供していくというマインドセットが,日立グループ全体に醸成されるのではないかと考えています。

なぜ,シリコンバレーに拠点を置いたのか

日立デジタルの拠点を北米に置かれた理由をお聞かせください。

急成長するグローバルDX市場をターゲットにする中で,特に市場規模の大きい北米に拠点を置くことに意味があると考えたためです。ご存じのように,北米は技術,ソリューションの進展・進化のスピードが非常に速いことで知られています。そうした米国市場のベストプラクティスを取り込みながら,Lumada事業を拡大・推進していくのがねらいです。

実際に,CEO(Chief Executive Officer)として現地に赴き,既に十数か月が経ちましたが,私自身,非常に楽しみながら仕事をしています。米国の西海岸にはさまざまな国からスペシャリストが集まっていて,多様な価値観を相互に理解・尊重しながら,社会やお客さまの困りごとを解決していく文化が根づいています。また,世界最先端のテクノロジー基地の一つであるシリコンバレーでは,新しい技術に触れる機会が多いことも大きな刺激になっています。

さまざまな企業やベンチャーとの交流もあるのでしょうか。

はい。昨秋もカリフォルニア大学アーバイン校で,デジタル事業をグローバルに牽引している企業やアカデミアのリーダーたちと交流する機会を得ました。世界をデジタルでリードしている人たちと比較的容易にコミュニケーションが取れるというのは,やはりシリコンバレーならではだと感じています。

もう一つ,北米に拠点を置く重要な意図は,日立が社会イノベーションでグローバルリーダーになるために,極めて重要な要素がデジタルだと考えているためです。OTとプロダクトをITによって掛け合わせ,日立ならではの新たな価値を提供していく中で,世界のホットスポットであるシリコンバレーに拠点を置くことは,われわれがデジタル分野により積極的に注力していくという意思表明でもあるのです。

GlobalLogicの役割と同社への期待

谷口 潤

先述されたように,2021年7月よりGlobalLogicが日立グループに加わりました。「GlobalLogicのケイパビリティとLumadaを融合することで,豊富なデジタルソリューションをグローバルに展開する」ということですが,具体的には,同社にどのような期待を寄せられているのでしょうか。

一言で言えば,日立のカルチャーとビジネスモデルを変える起爆剤になることです。一方で,GlobalLogicのカルチャーは,日立との親和性が非常に高いと感じています。2022年4月の着任直後,GlobalLogicのリーダー数十人に,「自社の強み,成長の源泉は何ですか」と尋ねたところ,それぞれ表現こそ違うものの,異口同音に,(1)Mutual Respect,(2)Customer Success First,(3)Early Challenge, Failure and Learningという共通の三要素について聞かせてくれました。私は,これは日立が掲げる「和,誠,開拓者精神」と同じことだと瞬時に理解しました。

ここで特に重要だと思うのが,一つ目のMutual Respect(相互尊敬)です。相互に敬うためには,まずお互いのことを深く知る必要があります。尊敬や敬意の念というものは,例えばプロダクトやテクノロジーに関する知識であったり,お客さまの業務に対する知識であったり,業界に対する知識であったりと,相手に対する深い知識を持ち合わせることで初めて生じるものだと思います。相互理解,相互尊敬があってこそ,チームとして一つの方向感を共有しながら,新たな価値の創造に素早く向かっていくことができる。そうしたカルチャーは既に日立の中にありますし,今後,Lumada事業を大きく成長させていくうえで,重要な成長ドライバーになっていくだろうと確信しています。

一方,日立がミッションクリティカルなソリューションを強みとしているのに対し,彼らはアジャイルな開発,価値創出を強みとしています。日立とGlobalLogic双方の強みを持ち寄り,補い合うことで,現在の不確実な時代を生き抜いていくことができるはずです。

また,挑戦し,失敗から学ぶという精神は,日立の伝統である「開拓者精神」および「落ち穂拾い」の精神そのものです。日立が成長してきた過程で,失敗から学ぶ精神が少し弱くなっているとも感じていることから,この点もGlobalLogicに大いに期待しています。いずれにせよ,日立がGlobalLogicと協働することでお互いを尊敬し,新たな挑戦や成長の文化が醸成されることを願っています。

GlobalLogicの社員は,日立やLumadaにどういった印象を持っていると感じていますか。

非常に理解を示してくれています。まず,Lumada事業などを通じてミッションクリティカルな事業を担ってきた日立の経験と信頼に対して,大きな可能性を感じてくれています。日立の社会イノベーション事業に関わることは,GlobalLogicの事業領域を大きく拡大するものであり,彼らも大いに期待しているようです。そうした期待感や意気込みは,日々の会話からも伝わってきます。

もう一つ,プラネタリーバウンダリーを重要な指標として捉え,世界中の人々の生活やウェルビーイングに貢献していこうとする日立のパーパスに共感してくれています。GlobalLogicの社員の平均年齢は28歳と若く,私たちの世代以上に,より切実に地球環境保護や社会貢献の重要性を理解しているのでしょう。

GlobalLogicの存在は,既に日立のカルチャーやビジネスモデルを変えつつあるのでしょうか。

はい。GlobalLogicは既に多くのBUやグループ会社と協働していて,それぞれのカルチャーが融合しつつあります。2022年10月には,サンフランシスコで日立デジタルとGlobalLogicが共同で,「日立デジタルサミット」というイベントも開催しました。この場には,GlobalLogicのメンバーと日立グループの各BU,各グループ会社のCEOをはじめCxOを中心に,150名が一堂に会して,DX(デジタルトランスフォーメーション)で成功したユースケースを共有するなど,議論を深めました。このように,各BUのフロントがさまざまな機会を通じてGlobalLogicのデジタルエンジニアリング・デザインに触れ,彼らのスピード感やカルチャーを理解することで,いい変化が生まれつつあると感じています。

エネルギーやモビリティ,ファイナンス分野を主軸に

日立デジタルとして,GlobalLogicをはじめ,日立グループ各社・他セクターやさまざまな分野のお客さま,ステークホルダーと,今後どのような協創に取り組んでいくのでしょうか。

Lumadaの成長サイクルは,お客さまの事業成長のプロセスそのものであり,日立にとってはGTM(Go to Market:市場進出)の戦略と言えます。お客さまの事業成長のパートナーとなり,日立が成長するためには,冒頭でお話ししたように,BU横断でのお客さまへの価値提供が大前提です。成長するマーケットを特定したうえで,GlobalLogicが「デジタルエンジニアリング」を,デジタルシステム&サービス(DSS)統括本部が「システムインテグレーション」を,OT・プロダクト系のBUが「コネクテッドプロダクト」をそれぞれ担い,一丸となってGTM,サービス提供に取り組んでいかなければならないと考えています。

具体的な事業領域としてはどのような分野になるのでしょうか。

営業・マーケティング部門との議論の際,日立がより大きな価値を創出できる領域,産業として,「エネルギー」,「モビリティ」,「ファイナンス」などを挙げています。そこに日立のデジタル,OT,プロダクトの技術を組み合わせることで,いかにユニークな新しい価値を生み出していけるかが,顧客価値を考えるうえで重要です。既に,鉄道BUならびにGlobalLogicと共同で開発,推進しているMaaS(Mobility as a Service)の新しいサービス事業も始まっているほか,複数の共同プロジェクトが動き始めています。こうした取り組みを拡大していくことも日立デジタルの重要な役割と言えます。プロジェクトや事業テーマごとに適切な人財をつなぎ,体制を整え,事業をサポートしていくということも,まさに日立デジタルの仕事です。

ところで,デジタルに関しては次世代技術が次々と登場しています。DXを推進していくうえで,特に注目されている技術はありますか。

やはりWeb3.0およびNFT(Non-fungible Token)には非常に注目しています。デジタルツインなどの登場により,バーチャルとリアルの垣根が下がり,さまざまな新しい世界が広がりつつあります。その際,デジタルの大きな利点であり,また課題でもある,「容易に複製ができる」という特徴については,さまざまな権利を守るうえで,クリティカルなテーマだと考えています。そうした中で,Web3.0やNFTは,プライバシーの保護やセキュリティの向上など,バーチャルの適用可能領域を広げ,デジタルの事業可能性を広げるコア技術になるだろうと期待しています。

今や産業と生活のさまざまな場面において,デジタル技術は欠かせません。日立の強みを発揮できる事業領域を見極めながら,こうした新しいデジタル技術にも目を配り,さまざまな分野を掛け合わせることで新しい価値の創出に貢献していきたいと思います。