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COVER STORY:ACTIVITIES 2

さらなる成長を共にするためのDX推進

グローバルな協創の課題を越えて

ハイライト

2021年7月,デジタルエンジニアリング業界のリーディングカンパニーであるGlobalLogicが日立グループに加わった。以来,日立とGlobalLogicは着実に融合を進め,それぞれの強みを掛け合わせながら顧客と日立自身のDXに取り組んできた。

なぜ,DXを推進するうえでデジタルエンジニアリングが重要視されるのか。日本と海外のビジネス習慣の違いを乗り越え,グローバルに協創する意義とは。GlobalLogicのSenior Vice PresidentであるRohitash Singhを迎えて,日立のキーパーソンに話を聞いた。

目次

執筆者紹介

DXを支える「デザイン」と「デジタルエンジニアリング」

Rohitash Singh Rohitash Singh
Senior Vice President(CTO Office, Advisory,Practices, Solutioning)GlobalLogic Inc.

鳴海 寛之 鳴海 寛之
日立製作所 アプリケーションサービス事業部 GL Japanビジネス推進本部

木幡 康幸 木幡 康幸
日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 Lumada CoE Design Studio

Singh2021年7月,私たちGlobalLogicは日立グループの一員に加わりました。以来,日立グループ各社やそれぞれの顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進,そして私たち自身の成長に向けた協創活動を開始しています。私は普段はSan JoseにあるGlobalLogicの本社で,コンサルティングやアドバイザリーを手掛けるCAPS(CTO Office, Advisory, Practices and Solutioning)という部門を統括しており,日本でのビジネス経験は多くありませんが,日本でチームを立ち上げるにあたっては国内のお客さまとも何度か会話をさせていただき,非常に興味深い社会,そして顧客基盤であると感じています。

鳴海私は2022年4月に設立されたGlobalLogic Japan(以下,「GL Japan」と記す。)の立ち上げに携わり,現在は主にGL Japan案件のプロジェクトマネージャとしてお客さまにサービスを提供しています。GL Japanは日立製作所の支援の下,各種プロジェクトや営業活動を推進しており,Lumada CoEやLumada Innovation Hub Tokyo(以下,「LIHT」と記す。)のメンバーにも,アドバイザリーフェーズ※1)などでサポートしてもらっています。例えば,Lumada CoEのデザイナーである木幡さんがプロジェクトの立ち上げ段階から具体的な企画や作業に携わる一方,私はプロセス全体を見渡して,オンサイト・オフサイトを含めたGL Japanのチームメンバーやお客さまの要望,成果物などのマネジメントを行うといった形で,日立とGlobalLogicのグローバルなワンチームでお客さまに価値を提供しています。

木幡ご紹介いただいたように,私はLumada CoEとDesign Studioでデザインストラテジストとして働いています。実は昨年10月に入社したばかりで,以前はコンサルタントとして日本のお客さまと国内外のデザイナーをつなぎ,課題を特定して提案・計画を行うといった活動をしていました。多くの場合,日本のお客さまはサイロ化された多数の組織,限定的な社内コミュニケーションといった問題を抱えていて,課題を特定すること自体が困難です。したがって,なぜDXが必要なのか,DXを進めるためにはなぜデジタルエンジニアリングが必要なのかということを明確に示す必要があると考えています。

鳴海なぜDXにデジタルエンジニアリングが必要か,一つの理由としては,デジタルエンジニアリングが非常にアジャイルかつ反復的なプロセスであることが挙げられると思います。顧客の課題や市場のニーズにどのようにアプローチするのか,「デザイン」の過程で具体的なアイデアを打ち出し,「エンジニアリング」で市場や顧客からのフィードバックを製品やアイデアに反映する。このサイクルによって,コストを抑えながら新しい事業のアイデアやコンセプトに投資することができます。

木幡デジタルエンジニアリングには大きく分けて「デザイン」と「エンジニアリング」の二つのプロセスがありますが,デザインチームとエンジニアリングチームは分断されていることが多いので,GlobalLogicと日立のコラボレーションにおいては両者の垣根を取り払って知見を出し合うことが重要だと思います。

Singhおっしゃるとおりですね。デザイン主導のエンジニアリングの実現に向けて,私たちは2011年にMETHODというデザイン事業ブランドを買収してから6年間にわたってデザイナーとエンジニア,データサイエンティストを融合してきました。

成長への道筋は,大きく分けて二つあります。まず,既存の製品とサービスを改良し,持続的なビジネスにしていくこと。そしてもう一つは,DXによってこれまでになかった製品やサービスを生み出すことです。例えば,建設業向けの工具の製造を手掛けるHilti社はアセットマネジメントとリーシングという新たなデジタルビジネスを立ち上げることに成功しました。また,かつて出版社であったPearson社は,学習プラットフォームのビジネスへの転換を果たしました。これらは,DXがお客さまの成長を促進した好例です。

ただしDXという用語の意味するものは,そのお客さまがライフサイクルのどこにいるか次第で変わってきます。私たちはお客さまとの対話を通じてその立場を理解し,アイデアを出し,それぞれのお客さまに最適なDXプログラムを提供しなければなりません。同じ業種の企業でも,将来を見据えた先進的な思考を持つ企業もあれば,急速な変化を望まない企業もあります。デジタルエンジニアリングとDXを適切に活用するためには,そうしたお客さまの考え方を早期に見極める必要があります。

※1)
デザインエンジニアリングの過程で達成すべき目標を特定する,顧客とのアイディエーションのフェーズ。

グローバリゼーションの課題を超えた協創へ

木幡お客さまが自社の顧客にどんな価値を提供したいのか。どんなビジョンを実現したいのか。これをしっかりと見極めてから,いざデジタルエンジニアリングということになるわけですが,関係者の密な連携を必要とするデジタルエンジニアリングをグローバルなチームで行うには課題もありますね。時差の問題一つとっても,例えば日本とインド,米国のメンバーがそろって参加できる時間帯を見つけるのは難しいのです。通話やメールなど,コミュニケーションの主な手段も国によって変わってきますし,先ほど申し上げたとおり,デザインチームとエンジニアリングチームの分断という課題もあります。関係者の相互理解が極めて重要となるデジタルエンジニアリングにおいては,これは難しい問題です。

鳴海日本と諸外国における文化的な違いも大きいですね。例えば,米国や欧州では最小限の情報でも物事を前に進めることができるのですが,日本のビジネス文化はコンセンサスを非常に重視するため,何か大きな決定を行う際にはお客さまから事前に詳細な説明や資料の提示を求められます。そこで,私たちから米国や欧州のメンバーに説明のための資料を作ってほしいとお願いするのですが,大体「どうしてですか」と言われてしまうんですね。プロジェクトを進行するのに詳細な資料が必要だ,事前に説明をしておくことが必要だ,というコンセンサスの取り方についての考え方が異なるからです。ただ,こうした課題は今後の協創を通じて解決できるものと確信しています。

Singh米国と欧州の間でさえ,文化の相違はあります。北米ではビジネス上の決定は通常トップダウンで行われるので,最高幹部さえ納得したならば,たとえ手元に最小限の情報しかなかったとしても,リスクの高い意思決定が行われることがあります。結果として,北米ではプロジェクトが失敗に終わる確率が高いとされているのですが,ここには『リスクがあっても,とにかくやろう。どうせ失敗するなら早く失敗して,損失を抑えながら前進しよう』と考える北米の文化があるのです。

これに比べると,欧州企業はやや慎重です。意思決定は原則として経営トップが行いますが,中間経営陣の同意が必要になるためです。それよりもっと慎重なのが日本企業で,その施策にどんな意味があり,どんなメリット・デメリットがあるのかを,できるだけ事前に知っておきたいと考えます。予算などの関係上,物事がはっきり決まっていなくても,変動が少ない具体的な見積もりを提供することも必要ですね。

このように文化の違いはありますが,大切なのは私たちが単なるDXの業者ではなく,お客さまにとってのアドバイザーになるということです。お客さまの立場に立った親身で率直なアドバイスを行い,信頼を構築することが,DXを推進するうえでは非常に重要なのです。日本のビジネス文化についてはこれから学んでいかなければならないことも多くありますが,私たち自身も変化しながら対応していきたいと考えています。

木幡日本企業の多くは,ビジョンや課題の特定があまり得意ではありません。だからこそ,ゴールやそこに至るまでのプロセスについて合意を形成するために詳細な説明や資料を求めるのです。お客さまが何を望んでいるのか,なぜ,どのようにそれを実現するのかをきちんと把握するためには,プロジェクトの早期から参画する必要がありますが,機密性の高い情報を外部と共有することは,日本企業では難しい面もあります。経営陣と信頼関係を築き,コミュニケーションを取っていくことが大切ですね。

Singhその点では,日立グループ内での経験が大いに生かせると考えています。現在,日立のグループ会社やビジネスユニットの多くが,さまざまな方法でDXを取り入れようとしています。こうした事例は今後数年のうちに,日本のお客さまにとってのモデルケースとして活用できるようになるでしょう。

鳴海日立グループ内での成功事例は,日本のお客さまがDXを検討するうえで大きなきっかけになるかもしれませんね。米国企業が「誰よりも先に成功したい,その可能性を積極的に模索したい」と考えているとするならば,「最初の失敗例にならないために,成功例を自分たちに当てはめたい」と考える日本企業は少なくないと思いますから。この慎重な姿勢は日本におけるビジネスのマインドセットですので,それ自体を変えようとするのではなく,プロセスを改善する必要があります。

木幡開発スピードに関しても,同じことが言えますね。欧米では,短期・中期・長期でやるべきことをバックキャストして実践し,製品開発が不十分であってもまずはローンチして結果を確認しようとしますが,日本企業は失敗をしたくないため,ボトムアップのプロセスを好みます。「これはできた。では,次はどうしよう」といった具合です。そういうビジネス文化の中で,例えばアジャイルエンジニアリングなどの新しい開発方法を適用することは容易ではありません。

Singh欧州の自動車関連企業と協創した際に,こんなことがありました。自動車製品に適用されるソフトウェアはドライバーと同乗者の安全を確保するという観点から品質が重視された一方,その開発ライフサイクルは非常に短いものでした。したがってアジャイルエンジニアリングをどのようにしてVモデル※2)に組み込むかが課題だったのですが,数年を掛けてプロセスを最適化し,最終的には成功に至ることができました。つまり,必ずしもアジャイルエンジニアリングをそのまま適用する必要はないということです。日本のビジネス文化に適応しつつ,アジャイルな開発とデザインを行う方法があるのではないでしょうか。

鳴海同感です。純粋なアジャイルプロセスの適用は,日本のお客さまにとっては少し難しいのではないかと感じています。予算の観点から見ても,日本のお客さまは 通常6 か月〜1年前に予算を確保するため,アジャイルなプロジェクトにタイムリーに投資することができないのです。また,木幡さんもおっしゃったように,日本のお客さまは非常に高いクオリティを求めます。ですから私たちのQA(Quality Assurance)についても,これに合わせて調整しなければなりません。GlobalLogicの強みを最大限活用するためにも,純粋なアジャイルプロセスを少しだけ調整して,日本のお客さまに適合できるようにしたいと考えています。

木幡お二人がおっしゃったように,日本のお客さまにはサクセスストーリーが必要です。一方でお客さま組織の中には小さなチームが多数ありますので,そうした社内のチーム単位から,アジャイルなプロセスを用いた成功例を示すことは非常に効果的だと思います。

※2)
IT製品開発の手法の一種であり,オートモティブ産業をはじめとしたさまざまな分野のシステム開発などで用いられる。エンジニアリングプロセスの中で行うべき活動について,「誰が」,「何を」,「いつ」,「どのように」行うかを規定する。

米国San Joseに位置するGlobalLogicの本社オフィスと従業員

グローバリゼーションと教育

鳴海ところでRohitashさん,私たち日立とGlobalLogicの従業員教育の仕組みについてはどうお考えですか。そこにもまた,文化の違いが表れると思うのですが。

SinghITやソフトウェアの業界ではテクノロジーが急速に変化するため,分野をまたいだ教育,すなわちクロストレーニングが欠かせません。GlobalLogicにはTalent 2.0という教育プログラムがあり,従業員のためのアカデミーも有しています。教育とはいっても,そこにはもちろん,人財をクロストレーニングすることでさまざまなプロジェクトへの展開が容易になるといったビジネス的な側面もあります。

また北米において,企業がもはや会社にとって必要のない人を解雇することは非常に簡単です。一方で,優秀な人財が他の仕事を見つけることも容易です。そういう意味でも,スキルを磨いて最新の状態に保つということは,従業員自身の責任になります。それ以外に,自分の仕事を守るためのセーフティネットはありません。

鳴海その点,日本の企業には定年制という強力なセーフティネットがありますね。一旦入社してしまえば,スキルの有無にかかわらず基本的には60歳くらいまで働けます。そのため,一部の従業員は,自分のキャリアを明確に描くことができず,新しいスキルの獲得に苦心しているようです。中には,市場や技術の急速な変化についていけない人もいるでしょう。日本企業の教育プログラムは,従業員がキャリアやスキルを容易に確立できるようにするための一種のセーフティネットといえます。

木幡日本のビジネスにおいて重要なのは,「所属」なのです。自己紹介をするときは,「私はこの会社の誰それです」というように,まず会社名から説明します。しかし,欧米では逆ですね。私は日立のような大企業は初めてで,入社以来たくさんの研修を受けましたが,それらの多くは個人のスキルに関するものというより,社内のみで適用される人財のマネジメントやプロセス,セキュリティに関するもののように感じました。

また,日本企業においては部署間の異動の影響も非常に大きいです。例えば,以前あるお客さまと3年間にわたって仕事をしていたのですが,突然担当者が別の部署に異動してしまい,しかも後任の方への引継ぎがうまく行っていなかったため,結局プロジェクトはストップしてしまいました。大企業では3〜4年ごとに部署異動があるものと聞きますが,そうであればなおのこと,知識の伝達とスキルの獲得は極めて重要なはずです。しかし,そのための時間は非常に限られているのです。デザイン力やエンジニアリング力を備えた人財が日本企業になかなかとどまらないのも,そのためではないでしょうか。

鳴海日本の教育プログラムは,従業員をスペシャリストではなくゼネラリストに育てる傾向があるように感じますね。スペシャリストになるためには,私たちは外部のトレーニングなどを自ら受講し,学ばなければなりません。一方GlobalLogicには既に何千人ものスペシャリストがいて,お客さまのDXを実現するにあたって私たちに大きな自信を与えてくれます。すぐにWin-Winの関係には成らないかもしれませんが,そうしたお互いに異なるマインドセットを日立とGlobalLogicの教育連携という形で学び合っていけたらいいなと思っています。

将来の展望 日本のDX推進に向けて

鳴海日立と GlobalLogic のコラボレーションは,日本の市場とお客さまに大きな多様性をもたらすと思います。これは文化や国の違いだけでなく,技術面やビジネス面でもそうです。GlobalLogicのChip to CloudのDXやデザインの豊富な経験と能力は,日立がこれまで十分にお客さまを支援できていなかった領域を補完し,さまざまな業界のお客さまに新しい価値を提供することを強力にサポートしてくれるでしょう。以前は難しかったことでも,日立とGlobalLogicの能力を活用することで今は実現することができます。多くのお客さまのビジネス変革や,製品・サービスの改善を支援するためにも,この新しいケイパビリティを生かしていきたいですね。

Singh今後,私たちが注力するべき分野としては,エネルギーや鉄道システムのような,日立が業界内で既に優れた知名度を確立している分野があると思います。まずはこの分野に関連する日立のグループ企業やビジネスユニットの中でDXを推進し,そこで働く人々に「これがDXだ」と納得してもらう。すると今度は,彼らを通じて彼らのお客さまへとDXを拡大することができます。この分野だけでも十分なビジネスの可能性があり,大きな成長が期待できるでしょう。何十年も続いてきたビジネスのやり方を変えるのは簡単なことではありませんから,変化が既に起きつつあるところを見つけて,支援していくことが重要ですね。

木幡おっしゃるとおりと思います。デジタルコンサルティング企業はまず自分たちをコンサルするべきだとよく言われますが,実際,日立社内のDXは極めて重要です。ですからまず私たちの側からDXを行い,優れた成功事例を持ってお客さまに示していく必要があります。そこでは,会話を通じてお客さまのパートナーとしての信頼を醸成することも欠かせません。現在,日立はGlobalLogicからグローバルで培った豊富な経験・高度なデジタルエンジニアリング技術を学んでいるところですが,私たちは最終的にはそれを自分たちで行い,GlobalLogicとお客さまとの橋渡しをして,新しいケイパビリティを提供できるようにならなければなりません。この目標の達成に向けて,これからも協創を続けていきたいと思います。

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