パワーグリッドグリーンエナジー&モビリティ
1. SF6フリー高電圧遮断器の開発と型式試験
遮断器はさまざまな電気設備において欠かすことのできない機器である。したがって,電気設備,送電系統,電力系統のCO2排出量を削減するうえでは,SF6(六フッ化硫黄)フリーの遮断器を利用することが重要である。
CIGRE(Conseil International des Grands Réseaux Électriques)2022で発表された世界初のSF6フリー420 kV,63 kA遮断器は,50 Hzと60 Hzの双方の周波数に対応可能で,その遮断部はGIS(Gas-insulated Switchgear:ガス絶縁開閉装置)としても,DTB(Dead Tank Breaker:タンク型遮断器)としても使用できる設計のため,さまざまな国や地域で柔軟に適用することが可能である。本遮断器は,IEC(International Electrotechnical Commission)およびIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)規格に準拠した型式試験を完了し,設置および通電まで完了している。また,誘導性スイッチングに適しており,拡張電気的耐性(E2)の実証を通じて,性能と信頼性を確認した。本遮断器でシミュレーションツールとSF6フリーの設計を確立したことにより,SF6フリーの遮断器ポートフォリオを迅速に開発し,従来機器の最高電圧レベルまで拡張することが可能となった。CIGRE 2024では,世界初のGIS用途およびDTB用途のSF6フリーEconiQ 550 kV金属容器内遮断器と,世界初のSF6フリーEconiQ 420 kV碍子型遮断器LTAを発表した。
(日立エナジー)
2. 420 kVガス絶縁ラインのレトロフィル
信頼性が高くコンパクトで,拡張性のある電力系統用高圧機器の実現に向けては,従来,SF6技術が使用されてきた。しかし,気候変動の影響が深刻化するのに伴い,SF6の地球温暖化係数の高さが問題視されるようになった。気温上昇の抑制に向けてCO2排出相当量を削減し,最終的には排出量ゼロを達成することが世界的な課題となる中,日立エナジーは,既設機器のSF6を代替ガスに置き換え,有害なCO2排出相当量を大幅に削減することをめざしている。
こうした中,既存GISのSF6を代替ガスに置き換えるレトロフィルの概念が提案され,420 kVガス絶縁ラインの設計への適用が認可された。既存の高電圧機器をそのまま使用しながら,SF6をN2(窒素),O2(酸素),C4-FN(フルオロニトリル)の混合ガスに置き換えることができる。レトロフィルの主な技術的ポイントは,以下のとおりである。
- 既設ハードウェアの変更が少ない(またはまったくない)
- 機器の停止時間が非常に短い
- SF6と比較してCO2排出相当量を99%削減
- 充填圧力の増加を最小限に抑えながら同等の絶縁性能を実現
- 最適なガス気密性,長期安定性,混合ガスと装置材料の化学的適合性
2021年,英国リッチバラのNational Grid Electricity Transmissionの変電所に本レトロフィル技術を初めて適用した。試運転調整は成功し,同年12月の運用開始以来,装置とガスのいずれにも劣化の兆候は見られず,最適な状態で稼働を継続している。
(日立エナジー)
3. HV資産を遠隔監視する市場主導型のアーキテクチャ
超高電圧遮断器の運用において,設備運用者やOEM(Original Equipment Manufacturer)の専門家に詳細な情報を提供するためには,クラウドシステムを使用した遠隔監視が重要である。これにより,保守の効率化と費用対効果の向上が可能となるが,一方で顧客は(1)サイバーセキュリティ,(2)データプライバシー,および(3)既存システムとの統合といった課題に直面する。
このうち,(1)と(2)の課題については,ベストプラクティスや最高クラスの製品の導入,EU(European Union)データ法などの規制の遵守によって対応が可能である。
(3)の課題は,顧客の多様な条件や要件をカバーする柔軟な遠隔監視アーキテクチャ※)によって解決を図る。このアーキテクチャは,センサーから監視システム,クラウドアプリケーションに至るまでをE2E(End-to-end)で網羅するソリューション一式を導入するグリーンフィールド(新規導入)だけでなく,既に遠隔を含めた監視機能に投資している顧客向けに,追加の製品やサービスを導入するブラウンフィールド(部分的な既存設備活用)のユースケースにも対応している。
また,本アーキテクチャはMQTT(Message Queuing Telemetry Transport)などのオープンインタフェースと既定の統合ポイントに基づくものであり,柔軟でありながらも標準化されたソリューションを可能にする。これにより,顧客は既存のデジタル投資を活用しながら,監視ソリューションの機能を容易に拡張できる。
(日立エナジー)
- ※)
- S. Scarpaci, et al., “Market driven architecture for remote monitoring of HV assets”, CIGRE 2024 Paris Session, Paper ID 10399
4. オーストラリア北部における大規模グリッドフォーミングBESS
日立エナジーは,オーストラリアのChannel Island発電所にDKBESS(Darwin-Katherine Grid Forming Battery Energy Storage System)を提供している。本プロジェクトの主な目的は,ガス火力発電の廃止に伴い,これを先進的なBESSに置き換えることであった。DKBESSは,慣性・系統強度・電圧および周波数の制御など,系統安定化に必要なサービスを提供することで,化石燃料に依存した発電からの安定的な脱却を可能にし,全体の大半をRE(Renewable Energy)が占める電力系統の安定した運用を支えている。
DKBESSの負荷は60 MW~300 MWの範囲で変動する。ピーク出力70 MWとなるこのBESSを通じて,再生可能エネルギーの高い導入率を実現する要素として最新のグリッドフォーミング技術を組み込む際の課題と利点が浮き彫りとなった。具体的には,接続プロセスの複雑さが課題である一方,これらの技術が火力発電に代わる安定的なサービス提供を可能にし,ほとんどのケースでより優れた性能を提供する,革新的な制御システムのアプローチであることが分かった。
本プロジェクトは,世界各地の相互接続された電力系統が,再生可能エネルギーの高い導入率を実現する電力系統に移行するための成功例の一つとなっている。
(日立エナジー)
5. オーストラリア初の完全電化公共交通システム
オーストラリアのブリスベンでは,2032年の大規模スポーツ大会に向けた準備の一環として,既存の鉄道,バス,フェリーのネットワークを基盤とした新しい交通システムの構築を進めている。具体的には,収容人数が多く運行頻度も高い,バリアフリーの電動地下鉄車両システムで都市と郊外を結ぶという計画である。
ブリスベンでは,地下鉄車両基地においてe-mesh EMS(Energy Management System)を活用して地下鉄の充電を最適化している。同車両基地には,1 MWの分散型PV(Photovoltaic)や,Grid-eMotion FlashおよびGrid-eMotion Fleet地下鉄車両用充電器を含む,さまざまなDER(Distributed Energy Resources)が設置されている。
EMSは,前日および当日中の最適化により必要な電力量を担保しながら,エネルギーコストと需要コストを最小限に抑える。また,リアルタイムのフィールド測定データを基に,必要エネルギー量と電力料金,利用可能なエネルギー源,予測される設備運用効率,地下鉄の時刻表を考慮に入れて1日中継続的に最適化を行う。
電力系統の制約が増え続ける中,EMSは限られた電力系統のリソースを最適化し,電動地下鉄の充電と定刻通りの運行を支えている。
(日立エナジー)
6. 残留磁束推定に基づく連系用電力変圧器の制御スイッチング
従来,変圧器の突入電流を抑制し,配電用変圧器の通電時の電圧降下を緩和するため,CB(Circuit Breaker)にはPIR(Pre-insertion Resistor)が用いられてきた。これに対し近年では,PIRの代わりにCS(Controlled Switching)を採用するケースが増加している。
日立エナジーは,変圧器の突入電流を最小限に抑え,電圧降下を低減する新しいCSデバイスを発表した。鉄心脚の電圧を計算し,残留磁束を推定する新しいアルゴリズムにより,極めて小さな突入電流での通電を実現した。制御スイッチングによって突入電流を変圧器の無負荷電流未満まで低減できることは,さまざまな設備で検証,実証されており,PIRを使用した場合と同様の結果が得られることが確認できた。
さまざまなフィールドテストの結果から,変圧器の突入電流を低減し,遮断器も含めた機器の寿命を延伸するには,制御スイッチングは極めて効果的かつ効率的な方法であるといえる。
(日立エナジー)
7. VSCコンバータの効率的なモデル化とテスト結果の検証
グリーントランジションの実現に向けては,高速でかつ信頼性の高い,正確なコンバータモデルによって,複数ベンダが運用するHVDC(High Voltage Direct Current)系統の相互運用を実現する必要がある。日立エナジーは,オフラインのSIL(Software in the Loop)環境で仮想MACH(Modular Advanced Control for HVDC)プラットフォームを活用し,MMC(Modular Multi-level Converter)をソフトウェアのみで効率的にモデル化する。
日立エナジーの仮想C&P(Control & Protection)プラットフォームは,実システムの動的な挙動を捉え,複雑な交流および直流網に対し,柔軟かつ拡張性のある方法でHVDCシステムを効率的に統合する。これにより,C&Pシステムの設計,検証,統合の精度を損なうことなく,時間を短縮できる。この手法により,設計から実行,設置までの各段階だけでなく,アフターサービスを含むプロジェクトのライフサイクル全体を通じて,正確なシミュレーション結果を提供することができる。このアプローチで得られたシミュレーション結果を,実規模試験による実測値(図7-1参照),およびドッガーバンクA洋上風力発電プロジェクトの直流ケーブル通電時の試運転測定値(図7-2参照)と比較した。
(日立エナジー)
8. スマートシティ「NEOM」における新しい送電および電力系統
100%再生可能エネルギーで送電系統を運用するためのモジュール型MTDC(Multiterminal DC)送電バックボーンに基づく送電アーキテクチャは,系統全体がリソースの共有を通じて接続されるため,高い耐障害性を有する。また,故障の波及や相互作用を防止するため,意図的に分離する部分を設けることにより,再生可能エネルギーの大規模統合や交流系統の脆弱性に起因する問題の解決を図っている。このモジュール型MTDCの各構成要素は,VSC(Voltage Source Converter)高電圧直流技術を用いた4端子バイポーラMTDCを基盤としており,これにより制御性の向上やグリッドフォーミング制御,ブラックスタート機能,接続された交流系統の電圧安定化など多くのサービスを提供できる。
日立エナジーは本アーキテクチャを用いて,サウジアラビアにて建設中のスマートシティNEOMのエネルギー・水事業者であるENOWAに対し,電力系統の構築と運用に必要な機能を提供している。この系統では,全体が直流リンクと交流電力プールを介して相互接続されており,異なるアイランド型交流系統間の電力交換と制御が可能である。潮流の輻輳,故障の波及,潜在的な相互作用を設計段階で防止しているため,従来のシステムと比べ多くの点でより堅牢であり,柔軟な制御が可能で,運用も容易である。日立エナジーはこうした新しい電力系統の構成を通じて,再生可能エネルギーが多くの比率を占める将来の電力系統に対し,新たなパラダイムを打ち立てる。
(日立エナジー)
9. HVDCシステムを支えるバイモード絶縁ゲートトランジスタ
電力系統における再生可能エネルギーの統合に向けて,コスト効率が高く技術的競争力のあるアプリケーションを設計するためには,HVDC,STATCOM(Static Synchronous Compensator),HVDC DC遮断器などの多くのコンポーネントと,最適なパワー半導体デバイスを並行して開発する必要がある。
BIGT(Bi-mode Insulated Gate Transistor)は,HVDCシステムに最適な半導体部品である。BIGTは,IGBTとダイオードの両機能をシングルチップに統合したものである。これは,使用可能なモジュールのフットプリントについて大きな利点をもたらし(図9-1参照),電流処理能力とダイオードのサージ耐量を向上させる。
HVDCアプリケーションにおける最先端のコンバータトポロジは,HB(Half Bridge)セルベースのモジュール型マルチレベルコンバータである(図9-2参照)。
BIGTを採用することで,導通損失の低減と過渡電流能力の向上を同時に実現できる。
(日立エナジー)
10. 配電用変圧器における過渡過電圧保護の実験的解析
電気ネットワークでは,開閉操作や落雷などの事象によって急峻な過渡現象が発生する。これにより変圧器の絶縁性能が劣化し,重大な故障につながる可能性がある。RC(Resistor Condenser)スナバ回路や避雷器のようなソリューションは機器を保護する役割を担うものの,巻線内で固有周波数に起因する過電圧を制限することはできない。そこで日立エナジーは,中間コイルノードにバリスタを接続する方式を提案する。
それぞれ2個,3個,4個のバリスタを備えたディスク巻線変圧器において,保護なしのユニットおよび導体幅を交互に変えたユニットと比較して,本技術の性能を評価した。巻線にさまざまなテスト信号を印加し,各ディスク巻線の内部電圧を測定した。
その結果,保護なしのユニットと不均等なディスク巻線を持つユニットでは,重大な過電圧を引き起こす可能性のある強い内部共振が見られた。一方,バリスタを搭載したサンプルでは主要な共振が抑制され,残留する共振も十分に低いレベルに抑えられており,リスクとならないことが判明した。振動性およびインパルス性の信号に対して,対地電圧とディスク巻線間電圧の両面で保護性能が改善されたといえる。
(日立エナジー)
[10]異なる入力信号[正弦波,VCB(Vacuum Circuit Breaker)再点弧バースト,1.2/50 µsインパルス]に対する最大対地電圧およびディスク巻線間電圧
11. 大型洋上分路リアクトルの工場受入試験における課題
再生可能エネルギー需要の増大に対応するため,洋上風力発電所の活用が急速に拡大している。洋上風力発電所で発電された電力は,ケーブルを用いて陸上の電力系統へ送電する必要がある。交流設備の電圧を高くすることで,より大きな電力をより長距離送電できるようになるが,交流ケーブルが長くなるほど,また電圧を高くするほど無効電力が増加し,それを補償するための分路リアクトルが必要となる。このような分路リアクトルは,非常に大きな定格電力を持つ傾向があり,リアクトル製造業者の試験設備の三相容量を大きく超える場合が多い。IEC,IEEEといった国際規格では,大型分路リアクトルの試験においてある程度の妥協が認められているが,場合によっては代替的な方法を用いて試験を行う必要があり,その方法については,入札の段階で顧客とリアクトル製造業者が事前に合意していなければならない。
試験設備の容量の制限によって完全な三相試験が実施できない場合,単相試験や電力を減じた試験など別の試験方法を用いることもできるが,三相通電かつフルパワーで分路リアクトルを試験する方法が正確で望ましい方法であることに変わりはない。
(日立エナジー)
12. 変圧器製造におけるAIの活用
超高圧変圧器用巻線の製造工程は非常に複雑であり,精密な設計と熟練した手作業を必要とする。一方,ひとたびミスが発生すると多大な損失につながるため,品質管理は不可欠である。
これに対し,日立エナジーは高圧変圧器用巻線の製造における効率の向上,ミスの削減,運用者の支援を目的として,AI(Artificial Intelligence)と機械学習を巻線円板製造に組み込む方法を探求している。AIシステムは,高度な画像処理,部品分類,品質管理モジュールを組み合わせたものであり,人間の作業者に取って代わるのではなく,人間を支援する形で導入され,定型的な検査を自動化することで生産品質を向上させる。
本研究では,特にUHVDC(Ultra High Voltage Direct Current)コンバータ変圧器の複雑な巻線工程に焦点を当て,AIの適用範囲を製造の他の面にも拡大することをめざしている。AIを導入することで,安全性と生産性を高めながら,生産コスト,故障率,トレーニング時間を削減できると期待される。
また,AIに障害が発生しても生産の継続性が確保されるよう設計され,技術の進化と実用性のバランスを取ることで,経済的にも社会的にもプラスの影響をもたらすものであると考えられる。
本システムにより,繰り返し作業や危険な作業,あるいは肉体的負担の大きい作業を低減し,労働条件を大幅に改善することで,より安全で満足度の高い職場環境の実現に貢献する。
(日立エナジー)
13. 配電系統のレジリエンス強化に向けた確率論的フレームワーク
異常気象は電力系統を大きく混乱させ,停電や大きな経済的損失を引き起こす可能性がある。電力事業者はこうした影響を最小限に抑え,迅速に復旧することをめざしている。トポロジの再構成や需要側管理など,プロアクティブな系統耐性強化戦略により,停電時間を短縮することができるが,異常気象の予測不可能な性質により,レジリエンス対策の実施には大きな困難を伴う。
日立エナジーでは,プロアクティブなレジリエンス強化のため,確率論的最適潮流に基づく新しいフレームワークを開発した。このフレームワークは,脆弱なネットワーク構成要素から潮流を迂回させ,安全な運用を確保することを目的としたプロアクティブなレジリエンス戦略を評価し,実行する。フレームワークには,ネットワークモデル,負荷の重要度,負荷予測,停電期間予測,ネットワーク構成要素の脆弱性確率といった情報が入力される。
このフレームワークは,運用者が効果的な運用戦略をリアルタイムで実施するのに役立ち,異常気象に対する電力網のレジリエンスを高める。その効果は,VoLL(Value of Lost Load)を含む指標によって測定される。このフレームワークは,さまざまな気象現象や電力網に適応可能で,実世界のデータを使用したリファレンス配電系統で実際に適用され,指標の値に改善が見られた。
(日立エナジー)
14. 将来のHVDCシステムにおける電力貯蔵とグリッドフォーミング制御の役割
HVDCシステムにおける電力貯蔵は,将来的に重要な役割を果たす可能性がある。まず,迅速な応答が要求されるグリッドレジリエンスの観点では,VSC-HVDCのグリッドフォーミング運用方法を拡大することで,周波数と電圧の安定性を確保するのに役立つ。さらに,長期的には100%再生可能なエネルギー源への移行に向けた重要なステップとなる。HVDCシステムに電力貯蔵を組み込むことで,同期発電機や同期コンデンサでは実現できない,複数の新しい機能が生まれる。その一つが,HVDCシステムが周波数変化の大きい事象に耐える能力である。
例えば,Nordic 32ベンチマークシステム※)を用いたケーススタディでは,HVDCと風力発電設備を結ぶP2P(Point-to-point)接続に3秒間の電力貯蔵システムを導入するだけで,大規模な発電機停止後の周波数最下点(Nadir)性能が大幅に改善されることが分かっている。そのほか,ブラックスタート事象のサポート,電力の変調,電力ランプ制御などにも対応している。直流電力系統において,電力貯蔵システムは,集中型・分散型を問わず,まずは接続された変換所を支援し,直流電圧の安定化に寄与する。これは,さまざまな形態の電力貯蔵システムを備えた再生可能エネルギー源100%の電力系統というビジョンにつながるものである。
(日立エナジー)
15. BESSの自動市場入札
再生可能エネルギー発電設備(RES)の増加によって電力供給の変動が増大しており,電力系統の信頼性のみならず,電力料金にも影響を及ぼす可能性が生じている。BESSは,発電不足と発電過剰の双方の観点から,変動を迅速に調整するために使用できる。この調整は電力市場を通じて行われるが,電力取引に参加することは容易ではない。エネルギーやアンシラリーサービスの価格変動によって,機会損失や金銭的損失が発生する可能性もある。日立エナジーは,価格の不確実性に対処するため,簡素化された確率的最適化アプローチを適用し,解の堅牢性(蓄電池の制限に違反しない)と利益(BESSの投資対効果の向上)を両立させた。複数の価格予測シナリオとそれぞれの確率を考慮し,開発したソリューションを活用することで,BESSオーナーにとって比較的高い利益が得られることが確認できた。これにより,特に実際に起こり得る変動範囲を網羅した高品質の予測を用いることで,価格変動に対して一定の堅牢性が確保される。
(日立エナジー)
16. PHILに基づく水電解システムの最大効率点追従制御
水素は,再生可能エネルギー大量導入型電力系統において,再生可能エネルギーの利用を支える重要な要素である。しかし,再生可能エネルギーの入力は変動的であるため,PtH(Power to Hydrogen)プラントには運用面での高い柔軟性が求められる。
日立エナジーは,電気系と熱系を統合し,産業規模のPtHプラントのエネルギーの流れと水素製造プロセスを表現する連成マルチフィジックスモデルを開発した。本モデルは,電解槽の電圧と温度を制御する際のトレードオフを明確にする。また,電気化学反応に対する温度効果を考慮し,電解槽と熱交換器間のエネルギー配分を最適化するMEPT(Maximum Efficiency Point Tracking)戦略も導入した。さらに,PtHプロセスにおいて複数のエネルギー源の連成を正確にモデル化するという課題に対処するため,デジタル電力系統モデルと産業用PtHプラントを組み合わせたPHIL(Power Hardware in the Loop)プラットフォームを開発した。実験により,MEPT戦略を採用することで,さまざまな負荷条件下で,従来の方法と比較して水素製造効率を最大3.18%向上可能であることが分かった。PHILプラットフォームは,柔軟な水素製造制御戦略のためのリアルタイムシミュレーション基盤を提供し,再生可能エネルギー電力系統の研究と最適化に貢献する。
(華中科技大学,日立エナジー)
17. 気候および天候の変化によるエネルギーシステム計画への影響
環境の変化に伴い,世界各地で異常気象の頻度や強度が増大している。その結果として,電力需要の増加や発電設備の利用可能率および効率への影響が予測されており,電力網には需要側と供給側の双方からの負荷が掛かっている。
これを受けて,長期的なエネルギーシステム計画に用いられる設備拡張計画モデルに,気候および天候の変化の影響を統合する手法が開発された。最も重要な気候パラメータは気温,風速,日射量であり,それぞれがエネルギーシステム全体のさまざまな領域に影響を与える。各気候変数の長期予測は,フィルタリングと処理を経て,電力の需要側と供給側に対し気候が与える影響を判定するために使用される。
気候および天候パラメータの変動は,送電網を含むエネルギーシステムの各構成要素に影響を与えることが確認されている。一部の再生可能エネルギー源の設備利用率が変動することによって年間発電量が減少し,代替資源への投資が必要となると考えられる。
(日立エナジー,チューリッヒ工科大学)