インダストリアルデジタルコネクティブインダストリーズ
1. 建屋構想を含めた新工場スマート化への全体最適化アプローチ
近年,半導体工場などの成長産業の拠点拡大傾向に加え,新型コロナウイルスや地政学リスクを踏まえた製造拠点の国内回帰トレンドも相まって日本国内の新工場投資が活発化しつつある。加えて,かつて高度成長期に建設された工場は約40年の耐久年数を超過しており,今後は老朽化更新を目的とした新工場投資が加速すると想定される。
しかしながら,人手不足や建材の高騰により建築費用は年々著しく増加しており,とりわけ成熟産業においては新工場向け投資予算の確保が難しく,顧客の新たな課題となっている。
この課題を解決するため,日立グループの総合力を結集し,スマート工場化構想と建屋設計構想を組み合わせた「One Hitachi」アプローチで新工場建設における全体最適解を提供している。例えば,生産ライン自動化導入により生産性2倍を達成しつつ,レイアウトを最適化して作業エリアを半分まで縮小することで,新工場建設時の投資額の過半数を占める建屋コストを半減し,効果的な新工場投資を実現する。
2. 品質CPSソリューション
グローバル製造企業の品質問題が大きな社会課題となりつつある中,製造品質データの高度分析や,大量のドキュメントから不具合対策ナレッジを抽出・検索する生成AI(Artificial Intelligence)などの技術が実用段階を迎えている。
こうした中,日立では,日立グループ製造各社の知見も生かし,「品質CPSソリューション」として以下の機能を特長とする二つのソリューションの企画・開発を進めている。
・品質ナレッジソリューション- 不具合報告書などの各種ドキュメントから,対策検討・再発防止ナレッジを抽出する。
- ナレッジを,要求・機能・部品などの体系にマッピングして格納する。
- 設計・製造・保守部門のユーザーにナレッジを提供する。
- 統計的に異常兆候と判断できるデータや設計値からの偏差が大きいデータを品質異常点として自動抽出する。
- 品質異常点と因果関係が強いデータ項目を探査し,発生事象のメカニズムを解明する。
- 因果関係が強いデータ項目の値を変化させ,新たな良品化条件をシミュレーションする。
これらにより,「不具合の未然防止」と「不具合対策コストの低減」を図っていく。
3. 生成AIを活用した映像・画像分析ソリューション
現在,自動車業界では,SDV(Software Defined Vehicle)※)が注目を集めており,ハードウェアを変更することなく,システムを制御するソフトウェアによって機能や性能を付加できる車両の開発が増えている。そのため,今後は,車両から取得できるデータをソフトウェア開発に活用する,データドリブンでのソフトウェア開発が主流となる。
これに対し,生成AIを活用し,車載カメラの映像から交通状況の高精度な説明文を自動生成し,必要な映像データをユーザーが自然言語で瞬時に検索できるソリューションを開発した。このソリューションは,日立の自動車分野の豊富なナレッジを応用した独自のプロンプトにより実現しており,ソフトウェア開発のスピード向上や,開発期間の短縮,開発コストの低減に貢献する。
本ソリューションは自動車業界に特化せず,さまざまなカメラの映像に対して応用可能なものであり,自動車業界のみならず,他業種への展開を通じて社会への貢献をめざしている。
- ※)
- 車と外部との間の双方向通信機能を使って車を制御するソフトウェアを更新し,販売後も機能を増やしたり性能を高めたりできる自動車。
4. HDSM/チェーントレーサビリティソリューション
飲料メーカーでは,商品の安全・安心の実現に向けて,サプライチェーン全般に関する問い合わせへの迅速な対応が求められている。一方で,工場への原材料入荷から製造,物流,倉庫保管までのさまざまな情報は個別のシステムで管理されていることが多く,疑義発生時の影響範囲の調査・確認に膨大な時間と労力を費やしている。
こうした中,日立は複数拠点にまたがる製造現場(Physical)の情報をデジタル空間上(Cyber)で一本のチェーンとして一元管理・追跡できる「HDSM(Hitachi Digital Solution for Manufacturing)※)/チェーントレーサビリティソリューション」を開発した。本ソリューションにより,他商品の製造に異常のあった原材料が使用されるリスクを未然に防ぐことが可能となる。また,万が一疑義商品を製造してしまった場合でもその影響範囲を即座に把握できるようになり,商品の安全・安心の追求と,大幅な業務効率向上を実現する。
将来的には,トレース範囲をサプライチェーン全体に拡大し,業界全体での一貫したチェーントレーサビリティの実現をめざす。
- ※)
- 各種メーカーの生産現場における課題と経営課題を解決したノウハウやさまざまな顧客と協創した「価値」をアセット化し,クイックに提供できるように体系化した,製造業向けのソリューション群。
5. 製造業向けDXクラウドソリューション
昨今,労働人口の減少,環境に配慮した事業推進,不確実性の高まりなど,製造業を取り巻く課題は複雑かつ複合的に変化し,これに対応するため,AIやデータ処理技術などのデジタル技術によるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が急務となっている。
日立は顧客のDXニーズにより的確に応えるため,製造業として培ってきたOT(Operational Technology)やIT,および製造業の幅広い分野・領域の顧客の課題解決を通して獲得した多くの知見・ノウハウ(ドメインナレッジ)を,「製造業向けDXクラウドソリューション」として体系化している。
製造業のDXにおいて,従来,個別最適となっているエンジニアリングチェーン*,サプライチェーンのそれぞれの業務を,データで見える化・分析し,エンジニアリングチェーンにフィードバックして全体最適すること,サプライチェーンの複雑な制約やKPI(Key Performance Indicator)を考慮した最適な計画立案およびスピーディに生産計画を立案すること,コーポレート部門の業務標準化と問題解決力を強化し,事業部門でもそのノウハウを利活用することで顧客の競争力強化に貢献する。
6. ニプロにバリューチェーン統合管理プラットフォームのサービス提供を開始
ニプロ株式会社向けに,同社の再生医療等製品「ステミラック®*注」の供給管理で用いる「再生医療等製品バリューチェーン統合管理プラットフォーム/Hitachi Value Chain Traceability service for Regenerative Medicine※1)(以下,「HVCT RM」と記す。)」のサービス提供を2024年5月より開始した。
ニプロは,脊髄損傷に対する再生医療等製品である「ステミラック®注」を2019年より製造・販売しており,バリューチェーン全体の細胞・トレース情報を一元管理できる日立のLumada※2)ソリューション「HVCT RM」を採用している。
「HVCT RM」は細胞の採取から患者への投与に至る全工程において,細胞の情報や製品の製造スケジュール,各工程の進捗状況などを入力することにより,個体ごとにトレース・情報共有できるプラットフォームで,日立はこれを独自の秘匿化・仮名化技術※3)でセキュリティ性能を高めたクラウドサービスとして提供する。これにより,管理システムの拡張が容易になるとともに,高信頼なトレーサビリティ,バリューチェーンの最適化,および業務効率化を実現する。
7. SaaS版「HITPHAMS」
「HITPHAMS」は,さまざまな形態の医薬品や医療機器の生産プロセスにおいて,GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造と品質管理に関する国際基準)で要求される製造指図管理や製造実績管理を中心に,厳格な製造管理・品質管理を実現する統合パッケージである。
IT人財不足が問題化している昨今,SaaS(Software as a Service)版「HITPHAMS」はクラウド上に顧客ごとの利用環境を構築し,従来型のオンプレミス版で顧客自身が行っていたシステム運用管理を日立が実施することで,顧客の導入ハードルを下げたソリューションの提供形態である。SaaS版では機能拡充を随時行うため,最新の法規制・ガイドライン,テクノロジーに基づいた新機能をタイムリーに利用することが可能である。また,オンプレミス版で必要な機器の調達や検証が不要のため,スピーディかつコストを抑えたシステム導入・立ち上げを実現し,小規模なニーズにも適用しやすくなる。
今後,SaaS版「HITPHAMS」を,DXを支援するLumadaソリューションの一つとして医薬品・医療機器製造業向けに広く展開していく。
8. 工場完全自動化ソリューション「AsterSync」
製造業においては,超高齢化社会による人財不足への対応など業務における人手依存からの脱却が重要課題となっている。
工場完全自動化ソリューション「AsterSync」は,中堅の製造工場における経営・工場管理・現場および各部門間の情報の有機的な連携による製造現場・管理業務の自動化,実態の見える化により全体最適化し,顧客が抱えるさまざまな課題を解決するソリューションである。
「AsterSync」では,事業管理から製造実行,製造現場まで,製造工場の運営に関わる領域において豊富なソリューションを有しており,受注情報と在庫情報に応じた生産計画の最適化や生産計画への柔軟な対応,製造状態のリアルタイム監視,製造・品質実績のトレーサビリティ確立など,顧客の価値向上に貢献する。
(株式会社日立産業制御ソリューションズ)