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Activities for Future Earth:日立のサステナビリティ戦略SDGsの達成に貢献する日立グループのサステナビリティ戦略

2019年3月

執筆者紹介

増田典生

日立製作所 グローバル渉外統括本部 サステナビリティ推進本部

目次

サステナビリティを取り巻く世界動向

気候変動に伴う自然災害の増加,増加する人口と貧富格差の拡大,資源の枯渇など世界はさまざまな社会・環境課題に直面している。これらに対応するために,2015年に国連で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」いわゆるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が定められた。ここでは持続可能な世界を実現するため,2030年までに達成すべき17のゴールと169のターゲットが示されている。また,同年に気候変動に対応する「パリ協定」が採択され,翌年に発効している。いずれにおいても,企業には機会とリスクの両面から目標達成に向けた貢献が期待されている。

こうした流れを受けて,ESG(Environment:環境,Society:社会,Governance:企業統治)投資も活発化している。2014年から2016年の成長率は25.2%で,世界のESG投資総額は約2,500兆円,欧州では総投資額の半数以上がESG投資になっている。日本ではESG投資の総投資額に占める割合は数パーセントだが,2014年から2016年の成長率は約6,700%と世界でも群を抜いている※1)。企業への投資において非財務側面での企業評価が今後ますます重要視されると考えられている(図1参照)。

欧州委員会もサステナビリティに向けた動きを加速している。非財務情報の開示を促進する流れの中,企業における事業や商品についてサステナブルの定義と具体的基準を設け,今後の投融資の判断基準での活用を検討している。企業の事業活動が社会的・環境的に有意な価値を創出し,ネガティブインパクトを軽減することは,単に公共善のあり方として捉えられるだけでなく,投資を呼び込めるかどうかといった財務戦略にも直結する問題となりつつある。

図1|企業を取り巻くサステナビリティトレンド

日立とサステナビリティ

創業以来100年を超える日立の歴史は,創業者・小平浪平の「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念の上に築かれている。日立は,社会が直面する課題に対応した製品やサービスの提供を通じて,企業理念が掲げる使命を果たしてきた。日立の「企業理念」と「日立創業の精神」は100年以上にわたり今日まで大切に受け継がれている。こうした理念のもと,日立は,自らの強みであるOT(Operational Technology:制御・運用技術),IT,プロダクト・システムの3つを融合させた社会イノベーション事業を積極的に推進しており,今日,社会が直面している課題に応え,人々のQuality of Lifeの向上と持続可能な社会の実現に貢献している。

日立とSDGs

日立の事業分野は多岐にわたり,SDGsの達成に幅広く貢献できる。2017年度に,社長を議長とする「サステナビリティ戦略会議」を立ち上げ,SDGsの17目標と日立の経営・事業との関わりについて検討し,日立が企業活動全体で貢献すべき目標として17のSDGsの中から6つの目標を特定した(図2参照)。また,事業戦略を通じて達成に大きく貢献できる目標を5つ特定した。SDGsのそれぞれの目標は相互に関わりがあり,また日立のバリューチェーンは多様で,かつ多岐に渡るため,特定した11の目標以外も含めSDGsの17の目標すべてについて,直接的のみならず間接的にも貢献できると考える。

図2|日立の経営・事業とSDGsの関わり

企業活動全体で貢献する目標

図3|Global Women’s Summit 参加者の集合写真

企業活動全体で貢献するSDGsについては,主に人財部門,調達部門,品質保証部門,コンプライアンス部門,環境部門などコーポレートの関連部署との協議などを経て特定した。例えば「Goal 4:質の高い教育をみんなに」に関しては,日立は,次世代リーダー育成のための教育プログラム「日立ヤングリーダーズ・イニシアティブ(HYLI)」を実施し,ASEAN(東南アジア諸国連合)のうち7か国に日本を加えた8か国から選抜された学生たちが,各国政府,ビジネスリーダー,学術研究者,NGO(非政府組織)などさまざまな分野を代表する人々とともに,地域や国際社会が抱える課題について討論する場を提供している。1996年の開始以来,300人を超える学生がHYLIに参加しており,日立はこの取り組みを通じてアジアにおける次世代の人財育成に貢献している。

また,「Goal 5:ジェンダー平等を実現しよう」に関しては,ダイバーシティ促進の一環として,日立は女性従業員を対象とした「グローバル女性サミット(Global Women’s Summit)」を2016年から毎年開催している。2018年度のサミットはシンガポールで開催し,17の国と地域から約160名の女性従業員が参加した(図3参照)。各地域を代表する日立グループの女性リーダーによるパネルディスカッション,社外有識者と参加者が議論を行うワークショップなど,参加者が新たな気付きや学びを得るためのプログラムを実施し,社長や女性社外取締役などが出席して,参加者と活発な意見交換を行った。

「Goal 12:つくる責任つかう責任」への貢献では,日立はサプライヤとともに調達活動の改善を継続するため,CSR(企業の社会的責任)モニタリング(自己点検)とCSR監査を定期的に行い,関連するリスクや課題を診断し,サプライヤがガイドラインを遵守しているか確認している。さらに,製品に含まれる化学物質の情報をサプライヤからシステムを介して随時入手し,適切な管理を実施している。

「Goal 13:気候変動に具体的な対策を」に関しては,日立は2016年に環境長期目標「日立環境イノベーション2050」を策定した。具体的には,低炭素社会を実現するためにバリューチェーンを通じたCO2排出量を2010年度比で2030年度に50%削減,2050年度には80%削減を目標としている。また高度循環社会を実現するために,水・資源利用効率を2010年度比で2050年度に50%改善することを目標としており,さらに自然共生社会をめざすために,自然資本へのインパクトの最小化をめざす。

事業戦略で貢献する目標

事業とSDGsの関わりについては,すべての事業部門および主要グループ会社の事業企画部門の責任者などで構成するサステナビリティ推進委員会を立ち上げ,2017年度から2018年度にかけて審議を重ねた。具体的には,事業戦略で貢献する目標として取り上げたSDGsのGoal 3,6,7,9,11を中心に,日立の主要事業がどのような貢献ができるのかを明らかにした。また,事業が社会や環境に及ぼし得るネガティブインパクトとその対策も明確にした。事業を通じた貢献のいくつかの内容について以下に説明する。

「Goal 3:すべての人に健康と福祉を」への貢献

ヘルスケアは社会を支える必要不可欠なインフラであり,日立は世界のすべての人がスマートユニバーサルヘルスケアを享受できるような次世代システムの創出が必要と考えている。この実現には,ヘルスケアにおける社会イノベーションとデジタル化がカギとなる。IoT(Internet of Things)を組み合わせた高度な解析技術は,費用対効果の高い次世代ヘルスケアを支える医療イノベーションをもたらすことができる。日立は,画像診断装置や粒子線治療システムなどの医療機器のほか,医療施設運用システムや電子カルテなど,診療や治療をより有用なものとする製品を提供しており,これらの分野の取り組みを進めることで治療効果の向上に貢献する。

「Goal 6:安全な水とトイレを世界中に」への貢献

水は人々の社会生活に欠かせないものであり,送配水・水処理・水管理などが重要な役割を果たしている。日立は,上下水道事業体をはじめとして官民と協力して持続可能な水インフラを開発することで,効率的な水運用および水資源の適切な利用を実現し,すべての人々が安全・安心な水にアクセスできるよう,長年にわたり水インフラ事業に取り組んでいる。水処理施設の監視制御や運転管理などを担うOTと解析技術を用いた広域水運用などに代表されるITの両システムを融合して,浄水場,下水処理場および水の再利用設備といった重要インフラ施設を含めた,水環境トータルソリューションを提供している。

「Goal 9:産業と技術革新の基盤をつくろう」への貢献

さまざまな産業分野においてかつてないスピードでデジタライゼーションの進展がみられる。IoT,ビッグデータ,AIを活用し,産業界はさらに効率性を高め,持続可能なものへと変貌を遂げつつある。日立はOTとITを兼ね備えた数少ないグローバル企業の一つである。日立自身が製造業として,またお客様のニーズに応えて磨いてきた現場を動かすOT,データを分析・活用して経営を支援するIT,そしてこれらを支えるプロダクトを強みとし,マスカスタマイゼーションへの対応をはじめとしたスマートマニュファクチャリングなどを進め,お客様の直面する課題解決に貢献する。

「Goal 11:住み続けられるまちづくりを」への貢献

日立はすべての都市の発展にとって,交通システムが大変重要な役割を担うものと考えている。交通システムの革新,コネクティビティの改善により,人々の生活をより豊かにできるものと考えており,その実現に向け,お客様やパートナーとの協創を推進している。鉄道の総合システムインテグレータとして,日立は先進的な情報技術と制御技術を活用した,安全で信頼性の高い革新的な鉄道ソリューションを提供することで,人と人をつなぎ,コミュニティの活性化,都市の発展に貢献する。こうしたものには高速車両や無人運転技術,予防保全などがある。また,道路交通に関しては,日立は自動車の電動化や事故防止を重点化し,快適な乗り心地,安全性の向上,渋滞の緩和,環境負荷の低減をめざしている。

これらの日立の事業を通じたSDGsへの貢献と,前述した企業活動全体で貢献するSDGs目標の考え方について,外部有識者の意見も伺うべく2018年3月にブリュッセル(ベルギー)で欧州委員会ほか企業・団体が参加したステークホルダーダイアログを実施した。ここで得られた意見も反映して「日立SDGsレポート」をまとめ,2018年4月に英・日版で発行した。また,日立統合報告書2018,日立サステナビリティレポート2018によってサステナビリティ全体の取り組みを発信した※2)

今後の取り組み

2017年から2018年は,SDGsへの理解から始まり,既存の事業とSDGsについて関わりを明確化した。2019年から始まる次の中期経営計画においてはこれらのサステナビリティ視点(SDGs・ESG)を事業・経営により統合していく考えである。

※1)
「GSIA 2016 Global Sustainable Investment Review」より。
※2)
日立製作所:サステナビリティ