2022年7月19日
東京一極集中の状況を是正し,地方の人口減少に歯止めをかけて日本全体を活性化することを目的として,DXや人財支援,地域協創など,全国でさまざまなアプローチを通じた地方創生の取り組みが続いています。
これに対し2016年6月,日立製作所は北海道大学と共に,両者のオープンイノベーション拠点として「日立北大ラボ」を開設しました。その主眼は,北海道が直面している少子高齢化や人口減少,地域経済の低迷,地球温暖化といったさまざまな社会課題解決に向けた共同研究の推進にあります。本記事では,2022年2月に開催された第3回北海道大学×日立北大ラボフォーラム当日の講演内容について,全3回に分けてレポートします。
ここでは,地域産業の発展と題し,ほくでんグループによるカーボンニュートラルと地域共創や,日立による自立型地域エネルギーシステムの開発,北海道大学名誉教授の丸谷知己氏による気候変動への適応の提案について紹介します。
世永 茂
北海道電力 執行役員
総合研究所長
北海道電力総合研究所では,「人間尊重」,「地域への寄与」,「効率的経営」というほくでんグループの経営理念の下,2050年のカーボンニュートラル実現に向けたさまざまな取り組みを進めている。
再生可能エネルギー分野では,「再生可能エネルギーのさらなる導入拡大」,「安定かつ効率的な電力システムの構築」,「災害発生時の非常用電源確保」を目的に,小規模な再生可能エネルギー発電やEV(Electric Vehicle)などの分散型エネルギーリソースを束ねて制御し,有効活用する実証を実施しているほか(図1参照),再生可能エネルギーを活用した水素サプライチェーンの構築に向けては,既存のインフラを最大限活用しながら低コストで安定した水素の製造と利用基盤の整備をめざしている。
また,少子高齢化・過疎化に伴う地域の交通インフラ維持の手段としてのEV活用,再生可能エネルギーの地産地消,自治体のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)や地域通貨を用いた域内の価値循環などに加え,寒冷地型ZEB(Net Zero Energy Building)の普及推進,農業活性化に向けた寒冷地における植物工場の実証,街の低炭素化をめざす「NISEKO生活・モデル地区構築」に向けたニセコ町との共創などさまざまな分野で,電気の利活用の面から地域の課題解決に向けた取り組みを行っている。
竹本 享史
日立製作所
基礎研究センタ
日立北大ラボ ラボ長代行
北海道では札幌市への人口集中,過疎化などから,電力需要地が各地に分散している状態にある。地域における一次産業の衰退,防災機能低下を防ぎ,持続可能な地域社会を実現するためには,地域エネルギーシステムの開発が必要不可欠である。
これに対し,日立は小規模で導入コストが低く,災害時の単独運転が容易な地産地消・自立型地域エネルギーシステムの開発を推進している。複数の地域レベルのナノグリッドをEVで電力融通することにより,電力運用の安定化と電力収益の向上を図るとともに,地域産業低炭素化と地域活性化の両立をめざしている(図2参照)。
丸谷 知己
北海道立総合研究機構 理事
北海道大学 名誉教授
自然災害研究者の経験から言うと,人間の力で自然を変えることは原理的に不可能である。気候変動などの諸問題に対しては,自然環境を変える(緩和する)のではなく,人間自身が変わる(適応する)ことが求められる。
一般的に,資源を得るための設備投資がかさめばかさむほど,社会(経済)変動の影響を受けやすく,資源を得るための空間が広ければ広いほど,自然(気候)変動の影響を受けやすい(図3参照)。地球温暖化をはじめとしたさまざまな気候変動に対しては,個別に対策するのではなく,このように一貫した考えに基づいて対策を立てることが重要である。
日本の食糧自給率は非常に低く,小麦やトウモロコシなど多くの穀類は輸入依存の状態にあり,果実や牛肉,魚介類でも,国内生産を輸入が上回る状態が続いている。気候変動時代を迎えた日本が,この状況を打破するカギとなるのが,北海道の広大な「土地空間」である。人口が少ないということは,視点を変えれば人口一人当たりに対する土地が広いということであり,それこそが北海道の最大の資源であり,克服すべき最大の課題は気候変動適応策と言える。
現在,日本全体の食糧自給率が38%であるのに対し,農業・酪農・畜産・漁業などの一次産業で国内上位を占める北海道の食糧自給率はカロリーベースで222%(国内第1位)に上る。この大きな強みを生かすためにも,広大な土地空間をうまく利用した水産業,農業,林業や水や雪をはじめとした新たな資源の活用などイノベーティブな適応対策が必要だと考える。