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Experts' Insights:社会イノベーションをめぐる考察社会課題解決を通じて新しい未来を築く「プラチナ社会」創造の起点となる大学の役割とは

2022年9月30日

目次

気候変動や少子高齢化などの社会課題が依然として山積する中,新型コロナウイルスによるパンデミック,ウクライナ危機などが加わり,時代はますます混迷を極めている。

この困難な時代をいかに乗り越えていくべきか―。「課題先進国日本」や「プラチナ社会」といった独自の構想を提唱し,日本のイノベーション戦略を牽引してきた第28代東京大学総長であり三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏に,ポストコロナ,ポストウクライナの世界に向けた社会イノベーションと大学の役割について,日立北大ラボシニアプロジェクトマネージャならびに北海道大学COI拠点長などを務める吉野正則が話を聞いた。

若者を擁する大学こそが課題先進国・日本を救う

小宮山 宏 小宮山 宏
三菱総合研究所 理事長
1972年東京大学大学院工学系研究科化学工学専門課程博士課程修了。1972年東京大学工学部化学工学科助手,1973年カリフォルニア大学デービス校ポスト・ドクトラル・フェローなどを経て,1988年より東京大学工学部化学工学科教授。2005年,第28代東京大学総長に就任。国立大学法人化を背景に「東京大学アクション・プラン」を掲げ,教育改革や産学連携を推し進めた。総長を退任後,2009年より三菱総合研究所理事長を務める。以来13年にわたり,「課題先進国日本」や「プラチナ社会」といった独自の構想を提唱し,日本のイノベーション戦略を牽引する。また,2010年8月より,プラチナ構想ネットワーク会長(2022年4月に一般社団法人化)。

吉野私は,2015年から北海道大学COI(Center of Innovation)および日立北大ラボの活動に従事していますが,その経験を通じて,常々,社会イノベーションを進めるためには大学も企業も大きく変わらなければならないと感じてきました。東京大学の総長を務められたご経験などを踏まえて,小宮山先生は大学の未来像をどのように見ておられますでしょうか。

小宮山私は実のところ,現実の社会課題と本気で対峙できるのは大学しかないと思っているのですね。なぜなら大学には若い人たち,つまり学生がいるからで,現代のように急激に世の中が変化している時代においては,時代の変化に敏感かつ柔軟に対応できる若い力が不可欠です。大学で社会人を再教育して現場で役立てるというのは,もはや古いモデルと言わざるを得ません。そんな悠長なことをやっていても,社会をリードすることはできませんからね。

しかも大学は社会的にニュートラルな存在であり,企業や自治体,NPO(Non-profit Organization)など,さまざまなセクターの人たちが気兼ねなく関わることができます。そのことによって,学生も先生も現実の社会課題と直に対峙し,本当の意味でのアクティブラーニングの実践の場を得て,成長できる。そういったいい循環を生み出せる場こそが,これからの大学のモデルになっていくだろうと思っています。

吉野おっしゃる通り,私自身,北大COIなどの活動を通じて若者の力を常に感じていますし,大学がハブとして機能し,他の企業の方とすぐにお会いして議論できるのは大きなメリットだと感じています。通常のルートなら,アポイントを取るだけでも非常に時間がかかってしまいます。

小宮山大学と企業は今や,非常に近い距離感にあると思っています。そもそも日本は「課題先進国」であり,課題はいくらでもあります。つまり自分たちの直面している身近な課題が,人類の最先端の課題になり得るということです。したがって,その解決こそが世界を先導することにつながります。ただ,私が『「課題先進国」日本』という本を上梓したのは2007年なのですが,あれから十数年経っても,地方の過疎や少子高齢化,エネルギーの化石燃料依存など,いずれの問題も解決の糸口が見えないのは残念です。これらは,今では世界中の課題となっていますからね。

吉野先生がそれらの課題について提唱されたのは,SDGs(Sustainable Development Goals)よりもずっと前ですね。

小宮山そうですね,私が課題先進国と言い出したのは2003〜2004年頃です。ところが日本は課題を解くどころか,いまだに20世紀の加工貿易モデルのイメージから抜け出せていません。ほとんどの国が工業を発展させて,あらゆるモノが飽和へ向かう中で,従来の加工貿易モデルが成り立つはずがないでしょう。

そうした激動の中で大学の役割というのは,「スズメの学校」ではなく,「メダカの学校」になるべきなのですね。

吉野メダカの学校ですか。

小宮山スズメの学校の先生は,「鞭を振り振りチーパッパ〜まだまだいけないチーパッパ」と生徒を鍛えるけれど,メダカの学校は,「だれが生徒か先生か,みんなでお遊戯しているよ」と歌いますね。後者はまさに,参加する人々の多様な経験と発想の交流によって成長していくというモデルです。

吉野そういった意味では,先生が提唱されているプラチナ社会の実現に向けたさまざまな活動は,まさにメダカの学校のスタイルですね。

吉野 正則 吉野 正則
[聞き手]
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ
日立北大ラボ シニアプロジェクトマネージャ 兼
北海道大学COI拠点長

小宮山その代表的な活動が,2012年から始まった東京大学の「プラチナ社会」総括寄付講座です。現在,菊池康紀准教授が中心となり,複数の大学の若手研究者とともに,鹿児島県の種子島で最先端の科学技術や仕組みを取り入れて実証実験を行うプロジェクトを手掛けています。すでに,農業AI(Artificial Intelligence)や熱中症アラーム,バイオマスエネルギーなど,先進的な成果が上がっています。

ここで重要なのは,さまざまな知を動員して課題解決に向けて統合化するということ,すなわち「知の構造化」です。その一環として,島内の県立高校で特別講義をして,高校生たちに先端事例を見てもらっているのです。そのうえで,地域課題の発見と対策提案について,高校生たちにシンポジウムで発表してもらうのですが,なかなかいいアイデアが出てくるのですね。数年前からは,このシンポジウムに現役の首長も参加するようになり,島中の人が集まって議論する場へと発展しています。

これこそがまさに若者の力です。こうした活動を通じて,高校生たちの島への愛着も深まっている。その証拠に,大学進学などで他県へ出たとしても,4割もの学生が島に帰りたいと答えるまでになったそうです。始める前はゼロだったのに。これこそがまさにこの活動のKPI(Key Performance Indicator)の一つになっています。

吉野やはり若いうちに最先端の取り組みに触れることが重要なのでしょうね。北大でも,AIや自動運転ロボットなどを活用したスマート農業に取り組んでいるのですが,先日,その取り組みに参加されている農家の方が,「高校生の息子が家業を継ぎたいと言い出したんだよ」と喜んでいらしたことを思い出しました。

まさに実践知こそが重要であり,その中心的な役割を担うのが大学だということですね。

課題設定の妙とスモールスタートで社会のムーブメントへつなげる

吉野社会課題解決にはメダカの学校のように,共に学ぶ姿勢が重要だということですが,その中で今,何が障壁だと感じていらっしゃいますか。

小宮山シニアのメンタリティですね。特に男性のシニアは難しい。例えば,われわれが手掛けるロボットスクールでプログラミングを教えるのは学生なのです。ただ,学生だけだとうまく回らないので,企業のOBなどのシニアにも入っていただいているのですが,その役割をうまくこなせる人が少ないのです。自分自身が勤めていた頃の感覚からなかなか抜けられないのでしょうね。ここが変われば,日本はより早く変われると思いますよ。

吉野メンタリティを変えるのは至難の技ですね。

小宮山昨今,社会を動かすための仕組みとして,米国では「Creating High-Impact Coalitions」などと言われていますが,これはまさにプラチナ社会構想ネットワークと同じで,社会的に影響力を持つ人たちがコアリション,すなわち連合して問題解決に当たるという取り組みです。そうした人たちが,ゆるいルールと信頼関係,そして社会を変えたいという熱い思いの下に集まり,それぞれの状況に応じて課題解決に取り組むことができれば,今の日本の現状を動かす力になると思っています。

吉野北大COIの活動もそうですが,やはり,大学,企業,自治体と,さまざまな立場の人が集い,地域の切実な課題にフォーカスして議論することで,問題への解像度が上がるのですね。つまり,多様な人がさまざまな視点から同じ課題を真剣に見つめるということが非常に重要なのだろうと思っています。

小宮山そういう意味では,北大COIと日立が中心となって岩見沢市と進めた,母子コホート調査は成功事例と言えますね。

吉野これは,妊産婦の便・血液,臍帯血,母乳,乳幼児の便などを試料として,母から子への影響を網羅解析し,母子に寄り添い,ケアするしくみを構築したもので,すべての検体を30年間保存するという世界に類を見ないプロジェクトです。さらに,日本の自治体では初となる健康統合プラットフォームの活用や腸のサイエンスに挑んだことでも話題となりました。2,500 g未満の低出生体重児を,2015年の10.4%から2019年には6.3%に減少させたのは大きな成果と言えるでしょう。

小宮山重要なのは課題設定なのですね。たぶん日本人は,課題解決は得意だけど,設定が苦手なのでしょう。少子化が切実な問題という中で,日本では低出生体重児が1割もいて,先進国では最も高いということで,そこに課題を設定したわけです。成功の第一の要因は課題の設定で,また背景として,北大に対する岩見沢市民の信頼感に加え,影響力を持つ多様な人が加わったこともあったのだろうと思います。

吉野おっしゃるように,さまざまなプレイヤーが関わり,市民の方々と顔の見える距離で議論を重ねてきた結果と考えています。また,COIという国のプロジェクトで実施したということも大きかったのではないでしょうか。

これを受けて現在,北大COI,COI-NEXT「こころとカラダのライフデザイン共創拠点」では,岩見沢市に未来人材育成拠点(北海道大学サテライト)を設立していこうと思っています。具体的には,若者が自分のこころとカラダを理解できるしくみをつくり,他者(ひと)とともに,自分らしく幸せに生きる社会の実現をめざすというもので,結婚や妊娠,出産といったライフイベントを含めて,人生をどう描いていくのか,そのお手伝いをすることで,若者を元気にして,新しい社会を築こうというプロジェクトです。

こうした活動の一環として,先日,世界一幸せな国とされるフィンランドの大使と話をする機会を得たのですが,意外なことに,彼らも30〜40年前は非常に苦労していたのだと伺いました。ではなぜ,現在のような幸福な国づくりができているのかというと,そのポイントは「アーリー・スモール・スタート」にあるという。つまり,一つ,二つの小さな成功事例を走らせて,それを起点に社会のムーブメントとして大きな流れにしていったのだそうです。そういった意味で,岩見沢の事例は,まさに社会を変える起点になり得る成功事例なのではないかと思っています。

プラチナ社会のコンセプト プラチナ社会のコンセプト

「超大学」という,新しい学びのかたち

小宮山私は最近,社会イノベーションにおける大学の役割を踏まえて,これからの大学を「超大学」と呼んでいます。先述の種子島の事例というのは,東大の寄付講座が中心になっているのですが,種子島自体に大学はありませんからね。そこで,大学が核になっていろいろな人が集まる仕組みを超大学と呼ぼうと。超大学と言うと,「それはなんですか。」と皆,驚くでしょう。それが重要なのです。

吉野それは,高校生にも響くかもしれませんね。今の高校生たちの悩みは,学びたいことが山ほどあるのに,大学に所望の科目がない,ということだと聞きました。今ある科目が彼らの興味からかけ離れてしまっているということなのでしょうね。

小宮山先日,ある地方の再開発事業の一環で,AI人財育成の場をつくろうという動きがあって,その分野の第一人者である坂村健先生と松尾豊先生に相談したところ,意外なことを言われたのです。「AIは数学がベースになるし,そのほかに統計学や情報学などのカリキュラムが必要になりますよね」と言ったら,「いやいや,それだけは言っちゃダメです」と。

つまり,基礎から応用という流れを逆にすべきだと言うのです。ディープラーニングなどのAIは,もはやアプリで簡単に使えるようになっているわけだから,まずは実践するところから始めるべきだと。実践していく中で,情報学や数学,さらには統計学が必要になってきたら,そこから基礎を学べばいいと言うのですね。従来のように,最初から数学をやると,その時点で半分の学生が嫌になって脱落してしまう。さらに統計学をやったらもう全員が嫌になる,と(笑)。

吉野やはり実践知から入ったほうがいいわけですね。

小宮山同様のことは大学のビジネススクールにも言えます。大学の先生の話は,理屈ばかりでしょう。実務経験のある人の話の方が面白いはずです。では大学の先生は必要ないかと言えば,そうではない。なぜなら,実務家の話は面白いけれど,それをいくらたくさん聞いたところで,『千夜一夜物語』でしかないからです。それで結論は何だというと,根性だみたいになっちゃう。つまり,個別の話を積み上げていっても,肝心の理論を導き出すことはできません。やはり,教育には「実践×理論」が不可欠であり,その掛け算によって,はじめて現実の問題を解くことができるのだと思っています。

吉野そして入口は実践のほうがいいわけですね。

小宮山最初に嫌になってしまったら元も子もないですからね。逆に哲学や歴史のような学問は,若い頃はあまり興味を惹かれなかったとしても,歳を取れば取るほど,知りたくなってくる。これからの時代,一生学び,成長していかなければならないわけですから,必要になったら勉強するのがいいと思っています。

いずれにせよ,従来のような座学でもって古典や理論を学ぶよりも,メダカの学校のようにアクティブラーニング方式でやるべきだと思います。例えば,現代の私たちがソクラテスやアリストテレスを読んで,リアリティを持って共感できる部分が大いにあったとしても,実際のところ彼らの見ていた世界と現代とでは,まるで違いますよね。そう考えると,昔の知識をただ持ってくるだけでは不十分で,やはり,常に新しい課題を解き,新しい方法論を生み出していく必要があるのだろうと思います。

吉野古典を読むにしても,現代の問題に引きつけて,その背後にある本質を考えなければならないということですね。そういう意味では,小宮山先生は,今,注目されているリベラルアーツについてはどう思われますか。

小宮山私はリベラルアーツというのは,「よりよく生きるための知の力」というふうに定義しています。だから,役に立たないようでいて,実は役に立つものだと思っている。基礎研究だって,何の役に立つのか分からないなんて言われるけれど,そもそも目的のない学問なんてないでしょう。

ちなみに,私が東大の総長を務めていたときにつくったキャッチフレーズがあるのですが,それは「本質を捉える知」,「他者を感じる力」,「先頭に立つ勇気」というものなのですね。よりよく生きるためには,この三つのすべてが必要ですが,中でも,今最も重要なのは,三つ目の「勇気を持って先頭に立ち,アクションを起こしていく」ということではないかと思っています。

現実世界×データ×専門家×素人が生み出すもの

小宮山今,東大の経済学部は非常に面白い状況になっていますね。スタンフォード大学から金融論・マクロ経済学の星岳雄教授やマッチング理論の小島武仁教授らを招き,彼ら自身がベンチャーに加わるなど,実社会の経済活動にコミットしながら研究をしています。その他にも,経済統計のベンチャー「ナウキャスト」を設立した,物価研究の第一人者・渡辺努教授もいます。あちこち引っ張りだこの柳川範之教授もいます。経済というのは,それこそ日々変わり,ビジネスに直結しているわけだから,目の前の世界をフィールドにしない手はありません。

これに関連して今,私が最も必要だと思っているのが,時代の変化に合わせた新しい産業連関表※)です。例えば自動車も,従来のガソリン車からEV(Electric Vehicle)に変わると,1台売れたときの波及効果はまったく違うものになりますよね。そう考えると,技術や社会の進歩に応じて,係数自体が変化していくようなダイナミックな産業連関表に更新していく必要があります。そうしないと,今後,ペロブスカイト太陽電池のような新技術が普及してきたときに,このままリチウムイオン電池をつくり続けていていいのかどうか,予測が立てられませんから。

ところが現状は表の作成自体がほとんど手作業ですし,AIのデータセットとして使えるものにはなっていません。そもそもデータの更新も遅いのです。そこはぜひ,日立さんのような企業に頑張っていただきたいと思っています。

結局のところ,時々刻々と変わるような状況を把握できなければ,先の予測も議論もできないということです。例えば軍事研究の場合,日本では「やるか,やらないか」という二者択一の議論になりますが,アメリカでは機密度を7段階に分けて,それぞれのレイヤごとに関われる機関も人も変わってくるのです。実際にどの研究がどのレイヤに属するのかを判別する専門家もいます。そういう緻密で現実社会に即した取り組みをするためには,現状をつぶさに把握できるような材料(データ)が必要だと思っています。

もっとも,未知のことについては専門家ですら予測できないことが多々あります。顕著だったのが,COVID-19のワクチン開発です。実は,コロナ禍が始まった2020年初頭に,7〜8名の著名な免疫の研究者に連絡をして,「ワクチンはいつできますか」と尋ねて回ったのですが,ほとんどの方の回答は,「早くて3〜4年,通常は10年かかります」というものだったのです。中には,「そんなものできるはずがないでしょう」と言った方もいたほどです。ところが現実には,10か月で市場にワクチンが出ました。事程左様に専門家であっても,いや専門家だからこそ,その分野の常識にとらわれてしまうことがある。だから私は,2050年カーボンニュートラルも必ず実現できると確信しているのです。

吉野できると思ってやるしかない,と。

小宮山そうです。2050年までには再生可能エネルギーが主力になっているはずで,ぼやぼやしていると日本だけが取り残されて,ホルムズ海峡の情勢を気にしたり,高額な炭素税を払い続けなければならなかったり,といった状況に陥りかねません。

吉野その確信はどうやって得られたのでしょうか。

小宮山それは,いろんな人と議論をし尽くして,そのうえで素直に考えたからです。そもそも私は,修士課程の頃に読書会をやっていて気づいたのですね。いくらみんなでジャーナルを分担して読んでも追いつかないと。読むべき文献を読む時間がとてもじゃないけど足りないのです。だったら,分かっている人に聞くのが一番早い。専門家に聞いて,議論すればいい。もっとも先ほどのワクチンのように,専門家でも間違えることがあります。それは,前提条件を間違えるからです。つまり,専門家が提示する前提にこそ,多様な素人が関与しなくてはならないということです。そうしたことができる場であることも,大学の重要な役割だと思っています。

日本復活のチャンスは林業にあり

吉野最後に,社会課題の中で,特に重点的に進めるべき分野について,先生のご意見をお聞かせください。

小宮山林業ですね。脱炭素社会を実現するためには,石油や石炭,天然ガスなどの化石燃料から脱却する必要がありますが,それがどれほど困難なことか。今お話をしているこの部屋の中のほとんどのものが,石油化学の産物ですからね。ではどうするのか。日本の場合,森林開発による木質バイオマスを生かすべきだと思います。幸い,余りあるほどではないにしても,なんとか消費バランスと釣り合うくらいの供給は確保できますからね。そしてそれを展開するのは,やはり北海道がいいだろうという議論になっています。

吉野エネルギーや食糧の自給率向上の先進モデルをつくる際に,北海道は規模としても最適ですね。喫緊の課題として,人口500万人強が冬でも暖かく安心して暮らせることが必要になります。

小宮山高断熱住宅にするだけで,年間で一軒3,000 Lの灯油使用量を800 L程度に減らすことが可能になります。そのうえで,バイオマスとコジェネレーションシステム,ヒートポンプなどをうまく組み合わせていけば,さらなる省エネルギーにつながります。また,季節を問わず15℃程度で安定している地中熱をヒートポンプで熱交換して活用する地中熱交換も有用です。ただし,問題は日本の場合,地中を掘る費用が高いのですね。米国なら日本の10分の1以下の費用しかかかりません。こうしたことは他の産業分野にも言えることで,日本の場合は構造的な問題もあって,総じて設備にかかる費用が一桁近く高い。そこもぜひ,日立さんに頑張っていただきたいですね。

吉野技術開発だけでなく,仕組みづくりも含めてさまざまな改革が必要ですね。本日はありがとうございました。

※)
日本の経済構造を総体的に明らかにすることを目的に,経済波及効果分析や各種経済指標の基準改定を行うための基礎資料として,一定期間(通常1年間)に行われた財・サービスの産業間取引を,行列(マトリックス)の形で一覧表にまとめたデータセット。
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