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レポート

スタートアップ連携で育む新たなイノベーション

生成AI Special Interest Groupの取り組み

ハイライト

近年,多くの産業分野でイノベーションを生む先端技術の一つとして,生成AIが注目を集めている。こうした中,日立は,日々進歩する最先端の生成AI技術とビジネスモデルに触れ,スタートアップなどとの議論を通じてイノベーションの構想を練り,実践するSpecial Interest Groupを設立した。日立グループを横断するこのチームでは,生成AIがもたらす産業構造の変化を捉えるとともに,新たな事業機会の獲得に向けた取り組みを推進している。

ここでは,2023年9月に日立製作所コーポレートベンチャリング室主導で開催された,生成AIに関するスタートアップピッチイベントの概要と,日立のSpecial Interest Groupのねらいや取り組みを紹介する。

目次

生成AIの活用を通じたイノベーション創生に向けて

2019年,日立製作所は幅広い分野の優れたスタートアップとのコラボレーションによって革新的な技術やビジネスモデルと日立の技術,顧客基盤を融合し,顧客や社会の課題解決に向けたイノベーション創出を支援するべく,コーポレートベンチャリング※1)の活動を開始した。以来,5,000件を超えるスタートアップとの交流や,各ビジネスユニット,グループ企業との議論を重ね,技術の共同開発から新しいサービスコンセプトによる市場開拓まで,現在までに86件のコラボレーションプロジェクトが始動している。

こうした中,2023年9月に日立製作所コーポレートベンチャリング室とPlug and Play Japan社※2)との共催により,生成AI(Artificial Intelligence)に関するスタートアップピッチイベントが開催された。

生成AIとは,既存のデータからパターンやルールを学習し,それに基づいて自動的に文章や画像といったコンテンツを生成するAIのことであり,主としてDL(Deep Learning)の技術に基づいて構築されその活用方法は,製品開発や製造プロセスの改善,マーケティングや意思決定など多岐に渡り,さまざまな場面で,従来の方法では考えつかなかった斬新なアイデアや多面的な視点を提供することが可能となることから,今後の活用が期待されている。

2022年に実施された第1回,第2回(メタバース/Web 3.0)に続いて3回目となる今回のスタートアップピッチイベントは,Plug and Play Japan社の渋谷オフィスにて開催された。国内外を拠点とする生成AI関連のスタートアップ6社が参加し,日立側からは26の事業部から約200名が参画する生成AI SIG(Special Interest Group)のメンバーを中心に,会場で40名,オンラインでは60名が参加した。開会の挨拶に立ったコーポレートベンチャリング室の熊谷貴禎部長は,「今日のイベントをきっかけとして,スタートアップの方々と共に生成AIを通じた新しい事業機会を発掘し,今後の協業につなげていきたい」と語った。 続くスタートアップ6社のピッチでは,各社がプレゼンテーションと質疑応答を通じてそれぞれのビジョンや強みを共有した。

MoBagel(米国)

AIの活用を通じた持続可能な未来の構築をミッションに掲げ,生成AIのプラットフォームとアプリケーションを提供する。生成AIアプリケーションの開発にはデータサイエンティストやエンジニアなどのさまざまな人財が必要となるが,同社の『Code Generative AI/ML Platform for Enterprise』はこれらの人財によって行われる作業を代替し,サプライチェーンの最適化を可能にする需要予測や,プラント設備などの故障検知などに適用可能な生成AIアプリケーションをチャット画面でのやりとりのみ,かつノーコードで生成することができる。5,000社を超える企業で約10万人に使用されており,大学や企業の研修など,教育用途でも多数の実績を有する。

Launchable(米国)

ソフトウェア開発の迅速化を目標として,開発サイクルの中で最も時間を要するテストの工程を短縮するための生成AI開発を手掛ける。同社の生成AIは,開発過程で多数のエンジニアが日々変更を加えてくるプログラムの中からテストを必要とする部分を特定し,優先順位の高いテストだけを実行して,フィードバックのスピードを上げることをめざしている。具体的には,あるプログラムを走らせた結果(ログ)をML(Machine Learning)で解析し,問題のある個所にあたりをつけたうえで人間のエンジニアにフィードバックすることでテスト工程を迅速化するなど,AIを用いてソフトウェアの開発プロセスを自動化・最適化していく。

カサナレ株式会社(日本)

顧客視点での生成AI活用を通じて日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するため,LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を用いた理想のユーザー体験を追求する。具体的には,カスタマーサポートなどで用いられるチャットボットにおいて,ユーザー専用のCopilot(伴走)機能を設け,ニーズを先読みしてサジェストすることで,個別の課題に最適化したパーソナルな対応を可能とする。また,各社ごとに異なるデータに基づくシミュレーションを通じた短期間・低コストのPoC(Proof of Concept)実績が約30件あり,プロトタイプ検証によって生成AI導入の要否など顧客の経営判断を支援することに強みを有する。SaaS(Software as a Service)機能のダッシュボード上では,ノーコードで各社専用のCopilot機能を運用できるため,導入後の運用コストを下げながら,質の高い回答文を生成することが可能になる。

株式会社オルツ(日本)

自社開発のLLM「LHTM-2」を活用し,個人の知性や思考を反映したパーソナル人工知能[P.A.I.(Personal Artificial Intelligence) ※3)]やデジタルクローンの開発・提供を手掛ける。デジタルクローンは,大量のデータを学習させた平均モデルに個人のライフログデータ(実データ)を投入し,歪みを生じさせることで,個人の思考や癖を反映させつつ構築するものである。例えば,チームメンバーや関係者からの業務に関する質問に対し,デジタルクローンは高精度に「オリジナルの人間が回答するであろう内容」を回答できるため,本人(人間)はより創造的な業務に集中することができる。また高性能な日本語モデルである「LHTM-2」を基盤とする,AI GIJIROKU(AI議事録)をはじめとした生成AIのサービスも開発・提供している。

株式会社ELYZA(日本)

ChatGPTの登場以前より独自の生成AIを保有し,言語生成AIの社会実装とこれを用いた国や企業の競争優位性の確立に取り組む。

生成AIの活用により,株式会社マイナビの求人原稿作成業務を約30%削減したほか,株式会社JR西日本カスタマーリレーションズが有するコールセンターの一部業務を約50%効率化するなどさまざまな実績を有する。

研究開発分野では,日本語のLLMに比べて数倍から十数倍のパラメータを有する他言語のLLMの日本語化を手掛け,そのノウハウを公開するなど,日本のLLM開発を加速させる取り組みを率先して行っている。2023年8月にはMetaが公開した英語圏のLLMである「Llama 2※4)」を日本語化した商用利用可能なLLMを公開した。

MOSTLY AI(オーストリア)

データプライバシーの時代に必要不可欠なシンセティックデータ※5)の生成と提供を手掛ける。シンセティックデータは,学習元となったデータの構造と統計的な事実,相関関係などが保持される一方,生データとの1:1の関係は消失するため再識別のリスクがゼロという特徴を持つ。プライバシーを守るメカニズムを組み込みながら,ノーコードで利用可能な生成AIによりシンセティックデータを生成し,医療,保険,銀行といったセンシティブな個人情報を扱う分野で柔軟に活用することで,個人データを可視化し,データイノベーションを促進する。

社会課題の解決に向けた協業への展望

ピッチイベント後に開催されたネットワーキングでは,日立グループ各社から集まった参加者とスタートアップの代表メンバーが和やかな雰囲気の中で意見や情報を交換した。

イベントに参加した日立のメンバーからは,「自部門で検討中のユースケースにマッチした先進的な実績と知見があり,まずは社内で試してみたい」,「アイデアを素早く実装して評価する環境やノウハウを持っているので,協業の可能性を議論したい」といった声が聞かれた。また,スタートアップからは「プレゼンだけでなく直接議論できる場を設けてもらい,デモ紹介を含めて各ビジネスユニットのエンジニアと直接会話ができたことで,シンセティックデータの可能性や今後社会にもたらす付加価値に関してディスカッションが湧き上がり,有意義な時間を過ごせた(Mostly AI マルセル・ラージンガー氏)」,「これまで取り組み紹介の機会はいくつかあったが,取り組みの意味合いや企業文化および大事にしている考え方まで踏み込んで話ができる機会はあまりなく,非常に新鮮なイベントだった(ELYZA 中村亘氏)」といった声が聞かれた。

今後は,日立の各事業部門とスタートアップ各社の個別の面談を設定し,協業機会について議論しながら,2023年末にかけてプロジェクト化を検討する計画である。日立は,先進的なスタートアップとの連携を通じて,今後もさまざまな社会課題の解決に取り組んでいく。

※1)
大企業が社外のスタートアップ企業への支援やコラボレーションを通じてオープンイノベーションを促進する活動。
※2)
グローバルなネットワークを有するベンチャーキャピタル。日本では東京,京都,大阪を拠点に約50社に上る企業のオープンイノベーションを支援している。
※3)
P.A.I.は,株式会社オルツの商標である。
※4)
Llama 2は,Meta Platforms, Inc.の商標である。
※5)
学習データ(生データ)に基づき作成した人工的なデータ。一度学習したら無限に作ることができ,模擬データではない。
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