日立評論

戦略的コーポレートベンチャリングで共に育むイノベーションの種

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日立評論

執筆者紹介

James Mawson

James Mawson

  • Editor in Chief, Global Corporate Venturing
  • 2006年より約4年間,ロンドンでThe Wall Street JournalおよびPrivate Equity News(Dow Jonesの一部)の編集を務める。2010年5月,自身の出版社であるMawsonia Ltdを設立し,CVC業界のデジタルマガジン『Global Corporate Venturing』を創刊。独自のデータベース(GCV Analytics)を通じてCVCに関するデータを提供し,グローバルなイベントも主宰する。2012年1月,学生,教職員,学術機関によるビジネスの展開・発展,外部組織との協働の支援を目的として,Global University Venturingを創刊。2014年5月には三つ目のタイトルとして,Global Government Venturing(2019年2月より,Global Impact Venturingとして刷新)を創刊した。

Stefan Gabriel

Stefan Gabriel

  • CEO, Hitachi Ventures GmbH
  • 20年以上にわたり,BMWグループにて製造エンジニアリング,グローバル戦略立案に従事。同社の次世代自動車のコンセプトを主導した。その後,3M社のCVC部門である3M New Ventures社社長を経て2019年より現職。修士(機械工学)。2010年より,英国ハダースフィールド大学(Enterprise and Innovation)客員教授。過去には,複数の「フォーチュン500」掲載企業にてシニアエグゼクティブアドバイザーを務め,企業の持続可能な成長と価値向上に向けたオープンイノベーション,企業戦略およびビジネスモデル立案をCVを通じて支援した。イノベーションのための投資について,複数の受賞歴を持つ。

船木 謙一

船木 謙一

  • 日立製作所 コーポレートベンチャリング室 副室長
  • 工場設計,生産システム,サプライチェーンマネジメントシステム,サービスデザインの研究を経て,協創を通じたオープンイノベーション戦略の策定,実行に従事。これまでにコンピュータ機器向け生産管理システムや,半導体,機械保守部品,アパレル品向けSCMシステムなどを開発・適用。2019年より現職。博士(工学)。産能大学経営情報学部講師,米国ジョージア工科大学Supply Chain & Logistics Institute Research Executive,北海道大学大学院情報科学研究科准教授,首都大学東京都市教養学部講師など。2009年日本オペレーションズリサーチ学会実施賞,2013年日本経営工学会経営工学実践賞,2014年 IEOM Outstanding Industry Award受賞。

目次

近年,デジタライゼーションの急速な進展が市場に変化をもたらす中で,大企業が社外のスタートアップ企業への支援やコラボレーションを通じてオープンイノベーションを促進するコーポレートベンチャリングが注目を集めている。コーポレートベンチャーキャピタル業界のデータプロバイダーであるGlobal Corporate Venturingを主宰し,デジタルマガジンの発行などを手掛けるJames Mawson氏によれば,企業によるスタートアップへの投資額はこの10年間で急増し,2020年だけで3,000社超のスタートアップに対して,約1,290億ドルが投じられたという。また,近年の傾向として,より多くの企業が単なる出資を越えてコラボレーションを通じた戦略的な機会を求めるようになっている。

2019年に日立製作所の戦略的CVC部門として設立したHitachi Ventures GmbHはミュンヘンとボストンに拠点を置き,コーポレートベンチャーキャピタルファンド「Hitachi Ventures Fund」を通じて日立の戦略との適合性を見ながら,欧州,イスラエル,米国を中心としたスタートアップ企業に投資している。その目的は,幅広い分野の優れたスタートアップとのコラボレーションによってその革新的な技術やビジネスモデルと日立の技術,顧客基盤を融合することで,顧客や社会の課題解決に向けたイノベーションの創出を支援することにある。Hitachi Ventures GmbHは,2020年度だけで1,200社以上のスタートアップを調査し,既に7社に出資した。

一方,日立は社会,環境,経済の三つの価値を提供することにより,より良い人々の生活の実現や顧客の経営への貢献をめざしており,これらの価値の実現に必要なOT,IT,プロダクトの経験とノウハウを併せ持つという日立の特長を生かし,スタートアップと共に高度なサービスを創生して成長する姿を描いている。日立製作所コーポレートベンチャリング室では,スタートアップとのコラボレーションを15件以上開始しており,世界のイノベーションエコシステムへの貢献を加速していく。

今なぜ,コーポレートベンチャリングが重要なのか。成果につながるコーポレートベンチャリングに必要なものとは――。Hitachi Ventures GmbHのStefan Gabriel CEO,日立製作所コーポレートベンチャリング室の船木謙一副室長が,Mawson氏とともにそれぞれの立場で語り合った。

企業戦略におけるCVの重要性

船木私のスタートアップとの出会いはおよそ15年ほど前に遡ります。2000年代に,サプライチェーンマネジメントの研究に従事していた際,ミシガン大学発祥のスタートアップ企業を訪問しました。同社はサプライチェーンネットワーク設計のプラットフォームを開発している会社でした。訪問の目的は技術ベンチマーキングだったため,彼らが持つシミュレーションや最適化技術を理解して非常に満足して帰ってきました。しかし,それは大きな間違い。同社は当時,既にサブスクリプション型ビジネスモデルを導入し,プラットフォーム上に集めた会員企業のデータを使って,個々の顧客に最適なサプライチェーン戦略を提示するというサービスを提供していました。私に先見の明があったら,技術よりもこのビジネスモデルがイノベーションであることに気づいたのでしょうが,残念ながらそのチャンスを逃しました。これが私とスタートアップの出会いであり,それ以来,イノベーションの種は,私たちが知らない誰かが握っていると信じています。ちなみにその会社は,現在ではグローバルに事業展開する素晴らしい会社になっています。

日立は,2019年にミュンヘンにHitachi Ventures GmbH(HVG)を,東京の日立本社にコーポレートベンチャリング室を設置し,同年12月にコーポレートベンチャリングファンドを設立しました。以来,約1,800件のスタートアップ投資機会に触れ,そのうち約900社を精査しました。コーポレートベンチャリング室は,その中の400社以上についてビジネスユニットやグループ企業とのべ500回以上議論を重ね,技術の共同開発から新しいサービスコンセプトによる市場開拓まで,15を超えるコラボレーションプロジェクトをスタートしています。 HVGは,これまでに7社への戦略的投資にも成功していますね。

Gabriel優れたスキル,テクノロジーを持っているスタートアップは何千とあり,高度に技術的でスケーラブルな市場でのコラボレーションの可能性は計り知れません。こうしたスタートアップから学び,同時に彼らのビジネスプランの遂行,スケーリング,新しい領域での成長を支援することは,企業にとっても大きな意味を持ちます。今や戦略的CV(Corporate Venturing)は,CVC(Corporate Venture Capital)の世界における大きなトレンドの一つになっており,日立にとっても,ビジネス・戦略を育む手段になると考えています。

企業戦略の面において,戦略的CVは非常に重要です。企業のビジネス戦略は非常に複雑で,急速に変化する市場に合わせて,自己のビジネス開発状況とスキルセットを把握し,調整する必要があります。そのためには現在のビジネス戦略を見直し,オープンにイノベーションを追求しなければなりません。大規模なM&A(Merger and Acquisition)を行ったり,研究開発活動に巨額の資金を投資したりする前に,ビジネスの成長戦略を検討し,破壊的な市場におけるスタートアップのビジネスに触れ,それに応じて投資することは非常に効果的です。

HVGは,日立製作所の戦略的CVC部門です。ミュンヘンとボストンにオフィスを構え,環境から技術までさまざまな分野の社会課題解決をめざす日立製作所の戦略に密接に関連する革新的なスタートアップ企業を,欧州,イスラエルや北米を中心に探し出し,投資することで,付加価値のある協創と戦略的パートナーシップの確立をめざしています。そのためには,あらゆるネットワークを活用しなければなりません。その点で,Mawson氏が主宰し,世界の上位5,000件の企業CVのうち3,000件以上を網羅するデータとネットワーキング機能を有するGlobal Corporate Venture(GCV)には,CV活動を行ううえで大いに助けられています。

MawsonCV業界のデータプロバイダーであるGCVの責任者として,今回,戦略的CVCについてのディスカッションにお招きいただき,うれしく思っております。GCVの分析によると,過去10年間でCVを行っている企業とその投資額は急速に増加を続けており,2020年には3,000件,1,290億ドルに上りました。戦略的にビジネスチャンスを獲得し,日立がグローバルなオープンイノベーションの最前線に立つためには,CVがカギとなるでしょう。

Gabriel船木さんがおっしゃった通り,HVGは2020年度だけで1,200社以上のスタートアップを調査し,100社を精査して,そのうちの7社に投資しました。技術のクラスターや市場,成長ドライバーを理解すればするほど,スタートアップとの提携も,戦略やビジネスチャンスに関するアドバイスもしやすくなりますし,時には実際のプロジェクトや,新分野の実験に取り組むこともできます。これはスタートアップにとっても刺激となるでしょう。CVは企業の中で起業家精神を育み,企業文化とオープンイノベーション戦略に変化をもたらすとともに,アウトサイドインの付加価値を生み出します。

Mawsonデータによると,興味深い傾向が見えてきます。まず,恐らくは経験豊富なリーダーを擁するCV事業体が,CV全体の約80%を占めています。中でも上位20%の企業,われわれは「Powerlist Leader」と呼んでいるのですが,彼らは10年以上にわたってスタートアップへの投資を続けており,成功したCVの大半を占めます。

何をもって成功とするかは企業の方針によって変わり,より大きな経済的利益を求める企業もあれば,既存の事業体の価値を見いだし,新しいビジネスチャンスや成長ドライバーを特定する戦略リターンを求める企業もあります。いずれにせよ,CVの成功のためにはより成長性の高いスタートアップを見つける必要があり,それは経済的なリターンにもつながります。

つまり,戦略的目標の達成は財務目標も同時に達成することができますが,財務目標を達成することは必ずしも戦略的なメリットにつながるとは限りません。データを見ると,成功を収めている確立されたCV事業体は,経営の観点からなるべく離れ,戦略的により適合するスタートアップに効果的に投資を割り当てようとしていると感じます。

その点,CVにおける日立のリーダーシップは,気候変動やエネルギー問題といった社会課題の解決に向けて重要な技術などの実用化,導入のサイクルを速めるうえで大きな役割を果たしており,幅広いエコシステムの開発に貢献していると感じます。2020年,COVID-19によって社会や経済活動は大きな打撃を受けましたが,一方で記録的な数の企業がCVを開始していることが分かりました。こうした企業にとっては,HVGのようなロールモデルが重要になります。

コラボレーションを重視する日立のCV

投資家タイプごとの取引頻度(2011〜2020年)投資家タイプごとの取引頻度(2011〜2020年)少数の企業投資家が投資件数の大半を占める。

Mawsonところで,日立のCVはどのようにして始まり,なぜコラボレーションを重要視するのでしょうか。

船木従来より,日立はスタートアップ企業とのコラボレーションに積極的に取り組んでいます。この数年間でも,日立はワークスタイル改革や地域医療をはじめとしたさまざまな分野のスタートアップと提携を発表しています。より新しい価値を素早く提供するには,革新的なアイデアを持つスタートアップ企業とのコラボレーションはとても重要です。CVを通じて今後さらにコラボレーションを強化していく計画です。例えば,最近では,ゲノム分析プラットフォームを持つスタートアップ企業との提携を発表させていただきました※1)。単なる提携ではなく,投資を伴うことには,一緒に将来の成長を創るという意味があります。また,Lumada Alliance※2)にスタートアップ企業にも参加いただき,新たに開設したLumada Innovation Hub Tokyoでの協創を通じて,お客さまに最大の価値を提供できるよう準備しています※3)

Gabriel私は長年にわたりグローバルなCVに携わってきました。その中で学んだのは,戦略リターンの重要性です。戦略リターンは数値で測ることはできませんが,CVにおいて最も価値あるものです。一方で,スタートアップ企業間で日立が良き投資者であると認知してもらうためには,経済的な成功が必要であることも事実です。

日立はこれまで,積極的にスタートアップとコラボレーションし,それに並行して評価と投資の判断を行ってきました。ですから,コラボレーションプロジェクトの件数は実際の投資件数を大きく上回ります。コラボレーションを行うことで,実際に投資を行う前に,市場のメガトレンドやディスラプションについて学ぶことができるのです。それゆえ,戦略的CVは企業にとって高付加価値だと言えます。

船木私たちはスタートアップに対して常にオープンかつ公平でなければなりません。そのためには,マインドセット変革やビジネスモデルの見直しも必要。また,彼らをサポートする方法を考える必要もあります。試行錯誤を重ねる中では,三つの発見がありました。

まず第一に,いたずらに世界ナンバーワンを追求しすぎないということ。パートナーを探す際,とかく相手がどれほど優秀か,他社と比べてどんな優位性を持っているのかなどを気に掛けがちと思いますが,経験上,そこにこだわり過ぎるのはよくないと考えています。元々新しい課題に取り組む際,最初からナンバーワンの企業はありませんし,同じ課題に挑戦する企業は世界に無数にあるのが普通です。ですから,その時々の出会いを大切にして,まずは迅速にコラボレーションしてみる。むしろ,スタートアップの取り組みを支援して一緒にナンバーワンをめざすというくらいの気持ちが必要です。

次に,スタートアップのステージ(成熟度)について。この世界では,よく「どのステージの企業が出資対象ですか?」という質問を受けますが,これは戦略的CV活動においてそれほど重要ではないと考えます。例えば,スタートアップが持つデータを生かして新しい価値を生み出したい場合を想像してみてください。このとき,十分な質と量のデータを保有しているのは,既にある程度成熟したスタートアップであることが多いです。しかし,市場の誰もが思いもよらないような新しい価値を作り出すのであれば,革新的なアイデアや意欲を持ったより若いスタートアップと協力することもあり得ます。オープンイノベーションの目標や目的によって,期待するステージは変わると思います。

最後に,スタートアップとコラボレーションを行う場合,両者が共に成長するためには複数段階のシナリオが必要だということです。短期間で成果の見込めるコラボレーションはもちろん魅力的ですが,それだけでなく両者の将来の成長につながる中長期のシナリオも共有することで,関係を強化し,課題解決に取り組むことができるのです。

GabrielHVGでは,投資先の選定は異なるビジネスモデルや技術,エコシステムを理解するところから始まります。CV室や事業部門と議論して,日立の戦略や関心に沿って,対象となるスタートアップ各社を評価します。最近の例では,精密医療の分野で4社のスタートアップに投資しましたが,これは「デジタルプラットフォームを通じてグローバルにソリューションを構築・提供する」という日立の方針に沿ったものです。対象となるスタートアップの成熟度にかかわらず,技術やビジネスモデルの点でその企業が日立にどんな付加価値をもたらすかを考え,チャンスにつなげます。戦略的CVにおける典型的な投資は株式の20%未満のマイノリティ投資ですが,一方でコラボレーションの成果に応じて追加の投資を行うこともできるよう,資金を準備しています。今日の戦略的CVの目的はスタートアップを吸収することではなく,戦略的コラボレーションを通じて学び,成長することです。資金面での支援はもちろん,日本をはじめ世界各地に広がる日立の顧客ネットワークも,スタートアップにとっては大きなメリットになるでしょう。

Mawson実際,企業投資家にビジネスを売却するスタートアップは全体の約3〜10%にすぎません。というのも,ほとんどのスタートアップは株主基盤の一部として複数のCVCを保有しており,M&Aが有益な選択肢であったとしても,後援企業のうちの1社に売却する可能性は低いのです。しかしお二人が先ほどおっしゃったように,買収ではなく中長期にわたって支援するという方法も確立されつつあります。戦略的CVにおいて重要なのは,スタートアップが何を求めているのかを問うことです。研究や開発のための資金が必要なのか,顧客が欲しいのか,会社を売却したいのか,製品開発をしたいのか―。大企業は,こうしたスタートアップの要望に応えることに長けています。しかし,膨大な数のスタートアップの中から実際にうまく協業できる企業を見つけ出すのは非常に難しく,経験豊富なCVCチームの役割が重要になります。

Gabrielおっしゃるとおりだと思います。われわれはスタートアップが求めるものを見定めるとともに,日立の成長のために何が必要かを考えなければなりません。ところでこれまでに約2,000社のスタートアップと会話をしましたが,そのすべてで「ぜひ一緒にやらせてほしい」と言ってもらえたのはうれしいですね。さまざまな分野でCVCが行われるようになって約20年が経ち,今やCVは企業にとっての戦略的ツールになっています。HGVの主なミッションは日立のビジネスの付加価値向上ですが,一方で多くのスタートアップに日立との協力を呼び掛けるのもわれわれの役目です。とはいえ,起業したばかりの小さなスタートアップとの連携に事業部門を乗り気にさせるのはまだまだ容易ではなく,非効率的な投資を回避するには経験とリーダーシップ,エネルギーと情熱が必要です。

船木日立のCVは経営陣に全面的に支えられており,恵まれていると思います。おっしゃるとおり,既存の事業部門にスタートアップのもたらす真新しい発想を受け入れてもらうことには常に困難が伴いますが,コラボレーションの成功事例を示すことができれば興味を持ってもらえるはずです。

Mawson興味深いですね。船木さんのおっしゃる「成功」というのは,事業部門の競争力を高めるという意味での成功ですか。それとも,新しいビジネスを確立するための成功でしょうか。

船木日立としてのCVの最終目標は,コラボレーションを通じた成長の芽の発見とその先の新しいビジネスの開拓です。しかしそこに至るまでにも,スタートアップがどのように考え,行動するのかを多角的に見ることで,多くを学ぶことができます。

Gabrielスタートアップ各社には,日立が新しいビジネスやイノベーションに対してオープンだということをもっと知ってもらいたいと思っています。われわれはヘルスケア分野をはじめ,環境や産業など,日立が手がけるすべてのセクターで,スタートアップの持つアイデアやビジネスモデル,技術を次のレベルに成長させるべく投資を行っています。それがひいては日立の持続的な成長につながるからです。迅速に,かつ優れたやり方で技術とビジネスモデルを革新しなければ,グローバルな成功はつかめません。

投資家タイプごとの取引頻度(2011〜2020年)

※1)
日立とSOPHiA GENETICSがデータに基づく個別化・精密医療の推進に向けた協業に合意
※2)
Lumadaを活用した日立のオープンイノベーションエコシステム。
※3)
Afterコロナを見据えた新たな協創により、Lumadaムーブメントを加速する東京駅直結のフラッグシップ拠点「Lumada Innovation Hub Tokyo」を開設

CVとコラボレーションを成功に導く要件

船木日立は,「社会価値」,「環境価値」,「経済価値」の三つの価値を高め,人々のQoL(Quality of Life)の向上やお客さまの価値の向上につなげることをめざしています。特に環境価値については,「日立カーボンニュートラル2030」を発表したほか,国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)のプリンシパルパートナーになるなど,カーボンニュートラルに取り組み,気候変動の問題に挑戦するイノベーターとして,ワールドクラスのESG(Environment, Social, Governance)パフォーマンスの達成をめざしています。ただ,これらの目標を日立単独で実現するのは難しい。日立は創業以来,「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という企業理念を掲げ,OT(Operational Technology)とIT,プロダクトの経験とノウハウを併せ持っているという世界でもユニークな立ち位置にいるわけですが,スタートアップ企業とのコラボレーションを通じて,これらOT,IT,プロダクトを組み合わせた高付加価値なソリューションで貢献していきたいと思います。イノベーションエコシステムの一員となり,技術とビジネスモデルの両面でさまざまなスタートアップと協力することが必要です。世界中のさまざまな分野に広がる動きを,CVのコミュニティを通じて学びたいと思っています。

Gabriel長年のCVを通じて,私はこのコミュニティで多くの活力あるスタートアップや企業経営者,あるいは私達と同じCV部門の方々と会話をしてきました。彼らとの戦略的提携は非常に有意義ですが,われわれの関係は複雑で,やや政治的な側面もあり,多大な労力と経験を必要とします。特に,さまざまな分野でビジネスを手がけ,その戦略が世界的な社会課題の解決に影響するような大企業においては,その傾向は顕著です。こうした中で戦略的議論を進めるにあたっては,独自のデータベースとアナリティクス機能を有するGCVのプラットフォームに大変助けられています。

Mawsonありがとうございます。GCVは世界の3,000社以上の企業の活動について,誰が何をしていて,どんな戦略を持ってイノベーションに取り組んでいるのかをウォッチしており,カリフォルニアやロンドン,東京,サンパウロなど,各地で開催するGCVのイベントには,グローバルなイノベーションプラットフォームを通じてコラボレーションしたいという多くの企業にご参加いただいています。

企業やヘッジファンド,SWF(Sovereign Wealth Fund:政府系ファンド)といった優れた投資家の多くは日立と同様,経済・社会・環境というポイントを重視する傾向にあり,これはインパクト投資あるいはトリプルボトムライン投資と呼ばれます。今日,企業の信用や外部性は,財務報告や損益だけで測られるものではありません。次回のGCVのシンポジウムは2021年11月3日〜4日にかけてロンドンで開催を予定しており,多くの企業が国連のSDGs(Sustainable Development Goals)の達成に向けて戦略的にCVを行っています。同月,COP26で議論される持続可能性の問題も,ビジネスに影響を与える可能性が高いですからね。効率向上や製品・サービスの運用の改善といった変化にとどまることなく,ネット・ゼロ※4)を実現するにはどうすればよいのか,現行のビジネスやサプライチェーンの気候への影響をどう理解するか。そこに大きな変化の可能性が生まれます。

GCV InstituteではCV部門の担当者に限らず,事業部門や経営幹部なども対象とした研修プログラムを提供しています。今日の戦略的な変化を理解することは,CV部門だけでなく企業全体の能力向上につながり,強みとなります。PitchBook社の調査によると,この10年間のCV投資額は1.78兆ドルを上回ります。これは,過去数十年分のトータルを超える額であり,企業が業界全体のレベルアップに向けてより多く投資できるようになったことを示しています。すなわち,より速く,より多くのイノベーションが起こせるということです。

過去10年の間に,企業からスタートアップへの投資は5倍に増加しました。われわれは,次の10年で資産全体がさらに5倍になると見ています。これによって株価は上がり,今よりもはるかに大きな企業が生まれるでしょう。実に刺激的な時代です。

船木非常に示唆的なお話ですね。われわれは今後,特に社会や環境面の大きな課題の解決に向けたイノベーションを主導していく必要があると考えています。そのためには,1対1のコラボレーションだけでなく,共通のビジョンを持ったパートナーを募り,力を合わせて課題解決に取り組むことも考えなければなりません。

GabrielWEC(World Energy Council:世界エネルギー会議)に参加している企業はいずれも異なる背景を持ちながら,近い視点で,同じ将来の課題を見据えています。そして次のステップへ進むためのカギ,投資すべき対象,コラボレーションパートナーを模索している。HVGでは,他社のCV部門とも意見を交換しながら,近似したポートフォリオを調査しており,時には共同で投資することもあります。もちろん,開示する情報には十分注意を払う必要がありますが,付加価値の高い投資先を選定するうえでは,こうした戦略的対話は非常に役に立ちます。

船木私も同じ考えです。日立としてグローバルイノベーションをリードするべく,今後もCVに取り組みたいと思います。本日はありがとうございました。

GCVが主催するコーポレートベンチャリングに関するシンポジウムの様子 GCVが主催するコーポレートベンチャリングに関するシンポジウムの様子

※4)
二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。

Stefan Gabrielが「コーポレートベンチャリング」について語るインタビュー動画(英語)(YouTubeより)