特集「原子力分野における日立の取り組み」(2)新型炉開発に向けた日立GEニュークリア・エナジーの取り組み
ハイライト
日立GEニュークリア・エナジー株式会社は,革新軽水炉HI-ABWR,高経済性小型軽水炉BWRX-300,軽水冷却高速炉RBWR,革新的小型ナトリウム冷却高速炉PRISMの四つの炉型の開発を通じて,社会のニーズに応じた段階的なソリューションの提供をめざしている。HI-ABWRは,2023年に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」における「革新軽水炉」として具体化を進めており,BWRX-300は,カナダ・米国などでの導入の動きを踏まえ,世界標準設計の構築を進めている。また,RBWRは実績豊富な軽水冷却技術による高速炉の実現,PRISMは革新的技術の採用による固有の高い安全性と経済性の両立という特長を持ち,それぞれ具体的な検討を進めている。
本稿では,カーボンニュートラルへの貢献をめざす,これらの炉型について紹介する。
1. はじめに
図1|日立GEニュークリア・エナジーの炉型開発戦略注:略語説明 BWR(Boiling Water Reactor),ABWR(Advanced BWR),HI-ABWR(Highly Innovative ABWR),RBWR(Resource Renewable BWR),PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)4炉型(HI-ABWR,BWRX-300,RBWR,PRISM)それぞれの特長と開発状況に基づいて,社会ニーズに対応し,ステップバイステップで多様なソリューションを提供する。
近年,CN(カーボンニュートラル)に向けた動きが急速に進んでおり,150以上の国と地域が2050年(一部の国は2060年または2070年)のCN達成を宣言している。その中で,2023年11月から12月にかけて開催されたCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)では,2050年までに世界の原子力発電所の設備容量を2020年比で3倍に増加させる協力方針が発表されるなど1),※1),原子力はCN達成に向けて重要な脱炭素エネルギー源の一つとして広く認知されている。
日立GEニュークリア・エナジー株式会社は,40年以上のBWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型軽水炉)建設経験と燃料サイクル技術を基に,拡大する世界の原子力ニーズに対応するべく,四つの新型炉の実用化と開発を進めている。具体的には,比較的近い将来の安定電源としてCNに貢献する革新軽水炉HI-ABWR(Highly Innovative Advanced Boiling Water Reactor)2)と高経済性小型軽水炉BWRX-300,将来のエネルギー自給率向上を担う軽水冷却高速炉RBWR(Resource-renewable BWR)および革新的小型ナトリウム冷却高速炉PRISM(Power Reactor Innovative Small Module)がある(図1参照)。日立GEニュークリア・エナジーは,各炉型の特長と実用化検討の進捗を踏まえ,社会のニーズに合わせて段階的に多様なソリューションを提供する。次章からは,これら四つの新型炉の特長と実用化に向けた取り組みについて説明する。
- ※1)
- 2024年11月時点で,日本をはじめとする31か国が合意。
2. 革新軽水炉HI-ABWR
図2|HI-ABWR概要と外部・内部ハザードへの耐性強化注:略語説明 NEI(Nuclear Energy Institute),PRCS(Passive Reactor Cooling System),GT(Gas Turbine),SA設備[Severe Accident(重大事故)対処設備],DB設備[Design Basis(設計基準)事故対処設備],DG(Diesel Generator)近年は原子力発電所への大型航空機衝突などの外部ハザード対策が強化されているが,内部ハザード対策やサイト条件なども踏まえて最適配置を行う。
大型炉による安定的な設備容量の確保を目的に,革新軽水炉HI-ABWRの実用化に向けた検討を進めている。HI-ABWRは,英国の設計認証を取得した国際標準ABWR(UK ABWR)をベースにしており,福島第一原子力発電所事故の教訓に基づく安全対策を設計段階から合理的に組み込んだ革新軽水炉である。出力規模は1,350~1,500 MWeを想定し,3系統である工学的安全系を含めて,基本システムはABWRと同様である。一方,革新的安全性として,自然災害・テロ・内部ハザードへの耐性強化による安全機能の防護,事故時の除熱機能強化のための静的炉心冷却系PRCS(Passive Reactor Cooling System),溶融炉心対策の強化を目的としたコアキャッチャおよび静的デブリ冷却システム,過酷事故時でも住民の避難を実質的に不要とし,また,より早期に水素を排出することで水素燃焼リスク低減が期待できる希ガスフィルタなどを搭載した放射性物質閉じ込め設備3)を備えている。
HI-ABWRでは,既存の設計も活用しつつ,プラント設計および安全性向上を具体化した。自然災害や航空機衝突などの外部からの物理的損傷に対しては,建屋外壁で防護し,耐震壁と共用することで建築構造を合理化するなど,物量増加を抑制しながら建屋を強化する。地震に対しては,ABWRの特徴である低重心の原子炉建屋に加え,建屋地下の側方拘束などを活用する。建屋内の火災や溢水に対しては,原子炉建屋内部を耐火・止水性能を持つ壁で区分けし,共通要因故障をもたらす事象への対策を強化している(図2参照)。静的安全設備であるPRCSや静的デブリ冷却システムは,運転員の操作を低減し,ポンプなどの動的機器を排除することで,事故時の対応の信頼性を向上させている。放射性物質閉じ込め設備については,従来のフィルタベントシステムの下流側に希ガスフィルタを追加し,ベント時の放射性物質放出を抑制する。今後もプラント設計のさらなる具体化と安全性向上を進めていく。
3. 小型軽水炉BWRX-300
CN社会実現に向けて原子力発電の価値が再評価されているが,自由化された電力市場では,発電コストとともに建設費の抑制による投資リスクの低減も求められる。このような背景の下,世界的に小型炉が注目されており,米国の姉妹会社であるGE Hitachi Nuclear Energy(以下,「GE日立」と記す。)と電気出力300 MWの小型軽水炉BWRX-300を共同で開発している。一般的に小型炉はスケールデメリットにより経済性が悪化すると言われるが,BWRX-300は先進的な「隔離弁一体型原子炉」概念の採用により冷却材喪失事故の影響を徹底的に緩和することで安全性を高めつつ,プラントシステムを簡素化することでスケールデメリットを克服できると考えている。プラントシステム簡素化は機器点数削減による信頼性向上や運転・保守費の低減,そして廃炉時の廃棄物量低減にもつながる。このような優れた特長が認められ,カナダ・オンタリオ州の州営電力会社Ontario Power Generation(以下,「OPG」と記す。)が2029年の運転開始をめざし,カナダでの建設許可申請を開始している4)。米国や欧州でもBWRX-300導入の動きがあるため,GE日立は,OPG,米国の国営電力会社Tennessee Valley Authority,ポーランドのSynthos Green Energyと共同で,BWRX-300の世界標準設計の構築を開始した5)。日立GEニュークリア・エナジーもGE日立のパートナーとして,これまでに培った技術と経験を生かし,キー技術の実証試験や主要機器の設計などでBWRX-300の早期実用化に協力している。将来的には国内へのBWRX-300導入もめざし,開発を進めていく。
図3|BWRX-300の概要注:略語説明 LOCA(Loss-of-coolant Accident)革新的な隔離弁一体型原子炉の採用により,LOCA(冷却材喪失事故)の影響を緩和する。安全系は,動作に交流電源や運転員操作を必要としない静的安全系で構成される。
4. 軽水冷却高速炉RBWR
原子力を持続性のあるエネルギー源とするためには,既設軽水炉を最大限活用しつつ,将来的には軽水炉の使用済み燃料に残されるプルトニウムの利用に適した高速炉に移行していく必要がある。発生する使用済み燃料は再処理して減容し蓄積量をコントロールする必要があるが,今世紀後半以降とされる高速炉実用化までは,再処理で回収されるプルトニウムは核不拡散の観点から軽水炉で燃焼する必要がある。
日立GEニュークリア・エナジーは,冷却水(中性子減速材)が沸騰するBWRの特長を生かし,軽水炉で高速炉と同等の性能をめざした軽水冷却高速炉RBWRの開発を進めてきた。現在はそのコンセプトを活用し,既設軽水炉にバックフィットすることで早期導入しつつ,高速炉実用化までのプルトニウム利用に適した燃料タイプ(四角格子RBWR)の開発に注力している。四角格子RBWRは,プルトニウム利用により発生する使用済みMOX(Mixed Oxide)燃料の体数を削減し,再処理による使用済み燃料の減容効果を高める。また,軽水炉での燃焼と,燃焼後の使用済み燃料の長期保管に伴うプルトニウム同位体組成の劣化を抑制し,高速炉実用化までの期間が長期化した場合でも,使用済み燃料に残されるプルトニウムの高速炉での再利用性を高める。これによって,軽水炉から高速炉への柔軟な移行に寄与する。
図4|想定する核燃料サイクルと四角格子RBWRの導入効果注:略語説明 MOX(Mixed Oxide)プルトニウム利用を促進し,再処理による使用済みウラン燃料の減容を促進する。使用済みMOX燃料の発生量を抑制するとともに,使用済みMOX燃料に残されるプルトニウム組成の劣化を抑制し,高速炉サイクルへのスムーズな移行に寄与する。
5. 革新的小型ナトリウム冷却高速炉PRISM
日本では,高レベル放射性廃棄物の減容化,有害度低減,資源の有効活用を可能とする核燃料サイクル政策を推進中であり,日立GEニュークリア・エナジーは,2040年代の運転開始に向けた高速炉実証炉の概念設計に協力している。一方,小型の金属燃料高速炉と小規模な乾式再処理,燃料製造を組み合わせた金属燃料サイクルは,プルトニウムとマイナーアクチニドを分離せずに同時回収し,燃料として再利用することで高い核拡散抵抗性を有するとともに,金属燃料高速炉の重金属密度と高中性子エネルギーを活用したマイナーアクチニド核変換技術を早期に実証することが可能である。こうした背景から,米国のGE日立が開発した小型モジュール炉概念であるPRISM6)(1基当たり311 MWe)の国内導入をめざして開発してきた。
PRISMは,事故時に電源や運転操作が不要な炉心冷却システムを実現する受動的安全系設備と固有安全性などの特長を有する金属燃料を採用した高速炉であり,モジュールの設置数を柔軟に変更することにより初期投資を抑制できる。さらに,米国ではTerraPower, LLCとGE日立が協力し,PRISM技術を原子炉に採用した実証炉Natrium※2)プロジェクトを進めており,2024年6月に着工している。溶融塩蓄熱システムを高速炉と組み合わせ,電力需要に応じた蓄熱,放熱によって再生可能エネルギーの出力変動を含めた負荷変動に対応する設計オプションとなっており,2030年頃の運転開始を予定している。今後,PRISM技術の国内規制要件への適合や,金属燃料サイクルの導入などについて,日米の関係者と協力してフィージビリティ・スタディを実施しつつ,技術開発を進める。
- ※2)
- Natriumは,TerraPower, LLCの商標である。
図5|金属燃料サイクルおよび高速炉PRISMの概要PRISMは炉心燃料に金属燃料(U-Pu-Zr)を採用した高速炉である。標準的には2基の原子炉モジュールと1基のタービン設備により1組のパワーブロックを構成する。図は標準的な原子炉モジュールの概念図(GE日立提供)を示す。金属燃料高速炉,乾式再処理,燃料製造を一体型高速炉(IFR:Integral Fast Reactor)として統合した概念も開発されている。
6. おわりに
本稿では,長期的な安定電源確保,初期投資リスク低減,放射性廃棄物有害度低減などの実現に向けた,日立GEニュークリア・エナジーのHI-ABWR,BWRX-300,RBWR,PRISMの四つの炉型の実用化および開発状況について述べた。今後も,カーボンニュートラルに貢献することをめざし,社会の原子力に対するニーズや,福島第一原子力発電所事故の知見などを引き続き取り込みながら,さらなるプラント設計の具体化および安全性向上などを進めていく。
参考文献など
- 1)
- 原子力産業新聞,「原子力三倍化」宣言 さらに6か国が署名(2024.11)
- 2)
- 日立GEニュークリア・エナジー株式会社,革新軽水炉HI-ABWR
- 3)
- 日立製作所,日立GE革新軽水炉(HI-ABWR)に向けた放射性物質閉じ込め技術を開発(2024.3)
- 4)
- Ontario Power Generation, OPG applies to Canadian Nuclear Safety Commission for License to Construct(2022.10)
- 5)
- GE Vernova, SMRs, Deploy! GE Hitachi Signs Four-Party Agreement to Bring Small Module Reactors Online This Decade(2023.3)
- 6)
- J. E. Donoghue et al., “Preapplication Safety Evaluation Report for the Power Reactor Innovative Small Module (PRISM) Liquid-Metal Reactor Final Report”, U. S. Nuclear Regulatory Commission, NUREG-1368(1994.2)