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リアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」を用いた新サービスの展開

執筆者

楠田 尚史Kusuda Takashi

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属

沼尻 瑞希Numajiri Mizuki

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属

佐久間 一樹Sakuma Kazuki

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属

Ibadurrahman Ahmad Faiz

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属

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楠田 尚史Kusuda Takashi

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属
  • 現在,リアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」の開発管理に従事

沼尻 瑞希Numajiri Mizuki

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属
  • 現在,リアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」のAPIサービス開発に従事

佐久間 一樹Sakuma Kazuki

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属
  • 現在,リアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」の水害リスク解析サービス業務に従事

Ibadurrahman Ahmad Faiz

  • 株式会社日立パワーソリューションズ デジタルエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 所属
  • 現在,リアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」の海外案件業務に従事

ハイライト

近年,気候変動による大雨への対策が急務となっている。こうした中,水害対策の検討においては,シミュレーションの実施と得られた結果のデータ活用が重要となりつつある。これに対し,株式会社日立パワーソリューションズは,水害リスクをより簡単に解析できるAPIサービスと,顧客の水害対策を支援する,ニーズに応じてカスタマイズ可能な水害リスク解析サービスを提供している。

本稿では,これらの二つの新サービスとともに,APIを活用した浸水予測システム構築の検証事例について紹介する。幅広い顧客に対してシミュレーション結果を提供するアプローチにより,顧客が水害リスクをより正確に把握し,迅速かつ効果的な対策を講じることが可能となる。

1. はじめに

気候変動に伴う大雨への対策が求められる中,ハザードマップの普及により,水害に対する危機意識も向上している。ハザードマップは,住民が自分の住んでいる地域の水害リスクを具体的に理解するための重要なツールである。これにより,住民が水害リスクを「自分事」として認識することで,適切な防災対策への意識が高まっている。例えば,国土交通省の「自分事化」施策1)は,住民や企業が水害リスクを自分事として捉え,流域治水に主体的に取り組むことを促進するものである。この施策により,地域全体での防災意識が向上し,具体的なアクションが検討されるようになっている。

一方で,水害対策のアクションを検討していくためには,水害時の被害に関するより詳細な情報が求められる。住民が具体的なリスクを理解し,適切な対策を講じるためには,ハザードマップに加え,いつどこでどのような水害リスクが発生するのかを時系列に沿って詳細に示す情報など,最新の気象情報から今後起こりうる水害リスクと関連情報を活用可能な形で提供する必要がある。

2. 新サービスの概要

こうした中,株式会社日立パワーソリューションズは,シミュレーション結果を多くのユーザー間で共有・活用できるよう,シミュレーション技術の簡便な活用を可能にするAPI(Application Programming Interface)サービスと,顧客のニーズに応じて水害シミュレーションの結果を提供する水害リスク解析サービスの二つの新サービスを展開している。本稿では,これらのサービスの概要と特長について述べる。

2.1 APIサービス

「DioVISTA/Flood Web APIサービス」は,日立パワーソリューションズが開発・販売するリアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」のシミュレーション実施作業を支援するAPIサービスである。APIは,ソフトウェアやシステムを互いに連携させ,効率的に機能を提供するための重要なツールである。これにより,利用者は「DioVISTA/Flood」のシミュレーション機能を簡単に利用でき,より迅速にシミュレーション結果を出力することができるようになる。

本サービスでは,顧客が作成したシミュレーション条件をクラウド上のAPI(以下,「計算実施API」と記す。)を用いて解析・計算し,その結果を提供する。顧客の端末でシミュレーションを実施すると,数分から数時間に及ぶ解析中は端末の負荷が高くなり作業効率が低下するが,本サービスではクラウド上で解析を行うため,高性能な端末を必要とせず,解析中の時間も有効に活用することができるようになる。また複数のシミュレーションを並行して実行することが可能であり,計算時間の短縮により作業の効率化も可能となる。

図1|APIの概要図1|APIの概要注:略語説明 HTTP(Hyper Text Transfer Protocol),API(Application Programming Interface),URL(Uniform Resource Locator)
※DioVISTA/Floodが管理しているファイル。
ユーザーはDioVISTA/Floodを使用して作成したプロジェクトファイルに対し,クラウド上でシミュレーションを実行し,その結果をダウンロードすることができる。

計算実施APIの機能の概要を図1に示す。このAPIは,シミュレーション実行,シミュレーション結果取得,契約情報の確認の三つの機能を提供する。シミュレーション条件ファイルとライセンスキー,APIキーを設定して実行すると,シミュレーションIDを発行する。このシミュレーションIDとライセンスキー,APIキーを設定して再度実行すると,シミュレーションの状況や結果データが格納されているURL(Uniform Resource Locator)情報を取得することができる。このURLから結果をダウンロードすることで,シミュレーション結果を利用することが可能となる。なお,シミュレーション結果のデータ形式は,「DioVISTA/Flood」の結果形式とNetCDF(Network Common Data Form)形式の2種類に対応している。

水害対策のシミュレーションの結果を広く提供するためには,シミュレーションをより簡単に実施できるようにしていく必要があると考えられる。シミュレーションは,「条件の設定」,「計算実施」,「計算結果分析」の三つのプロセスから成る。顧客ごとに異なる条件や分析のニーズに合わせてAPIをカスタマイズすることにより,顧客はより多くの計算シナリオを同時に実行することができ,短時間で解析結果を得ることが可能となる。また,解析作業を自動化して結果を顧客のシステムと連携することで,より多くのユーザーに解析結果を提供できると考えている。

2.2 水害リスク解析サービス

水害リスク解析サービスは,日立パワーソリューションズが顧客の水害対策を支援するために提供しているものである。このサービスでは,シミュレーション条件の作成から計算結果の分析までを行い,結果をレポートとして提供する。

本サービスの特長は,日立パワーソリューションズが開発・販売するリアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」を使用して,顧客のニーズに応じた水害リスクのシミュレーションを実施する点にある。

本サービスのターゲットとしては,顧客の資産や社会インフラを守り,水害に対応するエンジニアを想定している。例えば,水害リスク情報の作成に向けて解析業務を行う河川の建設コンサルタント分野における解析作業の支援,損害保険分野における顧客の水災リスク評価やリスク低減を目的とした解析結果の提供,企業防災分野における水害リスクの把握や水害の対策検討の支援を行うことができる。

近年では,増加する水害への課題意識が社会的に高まっており,顧客のニーズも高度化している。具体的には,ハザードマップの普及により,水害リスクを把握したいというニーズは減少し,実際の対策を検討したいというニーズが増加している。

水害への対策を検討するためには,関係者間での合意が必要であるが,関係者の課題意識の向上に伴って多くの意見が生まれることで,調整が難しくなりつつある。この課題を解決するためには,新たな検討やその材料となる情報が必要である。例えば,新しい施設を設置したり,排水設備の運用を変更したりした場合の水害リスクの変化や効果,ハザードマップで想定されていない降雨シナリオにおける水害リスクなどを,シミュレーションにより定量化することが有効である(図2参照)。

これにより,顧客はリスクの把握,対策の立案・設計フェーズにおいて関係者間の合意形成を円滑に行うことができる。

図2|シミュレーションによる浸水深定量化の例図2|シミュレーションによる浸水深定量化の例日立パワーソリューションズの洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」では,拠点の浸水リスクを評価することができる。評価を基に止水壁の高さなどの対策案を検討できるよう,視覚的に表現している。

3. APIサービス検証事例

日立パワーソリューションズが自治体向けに提供している「DioVISTA/Flood」のEnterprise Editionは,将来の気象情報や観測された水位情報を利用して,河川水位や氾濫域の予測情報を提供するサービスである。これは,自治体が洪水リスクを管理し,住民の安全を確保するための重要なツールであり,リアルタイムの気象情報と観測データを統合して精度の高い予測を提供することで,迅速な対応を可能にする。特に,洪水の予測とその影響範囲の特定において,システムの性能は非常に重要である。システムの構築にあたっては,APIサービスを活用することで,柔軟性と拡張性を持たせた。これにより,異なるデータソースからの情報を統合し,より精度の高い予測を行うことが可能となる。また,シミュレーション結果を地図上やグラフで視覚的に表示することで,関係者が迅速に状況を把握し,適切な対応を取ることができる。

図3|APIサービス検証事例図3|APIサービス検証事例※)DioVISTA/Floodが管理しているファイル。降雨予測データの他に水位データなどがあれば,それをプロジェクトファイルに取り込むことができる。

本システムでは,将来の降雨情報がシミュレーション実行のトリガーとなる。降雨データを受信すると,あらかじめ設定した解析条件に将来の降雨情報を反映し,APIによるシミュレーションを実行する。そして,シミュレーション結果取得APIで結果データを出力し,地図やグラフをブラウザに表示する(図3参照)。

一方でこれらのシステムにおいては,常時高性能な実行環境を維持することによるコスト面の課題が浮上している。そこで,必要な時にのみ環境を構築し,使用後に解放するなど,シミュレーション実行環境の効率的な運用を通じて,コストの削減を図った。これにより,顧客は必要な時にのみリソースを使用し,むだなコストを抑えることができる。さらに,システムの運用においては,顧客が明示的に予測開始と終了を設定できる機能を提供することで,柔軟な運用が可能となる。この機能により,顧客は特定の期間の予測を行い,その結果を基に迅速な対応を取ることができる。

なお,今回の検証では,降雨データの条件設定と水位データ出力などの結果分析においてAPIを使用していないが,顧客がより簡単に本システムを自社のシステムに組み込んで利用できるようにするため,今後も継続的にAPIの種類を拡充していく考えである。

4. おわりに

本稿では,気候変動に伴って深刻化する水害への対策と情報提供を支援する,日立パワーソリューションズの二つのサービスについて紹介した。水害に対するレジリエントな社会の実現に向けて,今後も引き続き,持続可能で安全な未来のための基盤を提供し,コミュニティの強靭性向上に貢献していく。