再生可能エネルギーの導入率が高い脆弱な電力系統におけるGFM型STATCOM/E-STATCOMを通じた安定性強化
ハイライト
脆弱な電力系統の特徴は,短絡容量が低く,SSOの発生リスクが高まり,系統事故への耐性が弱くなるという点にある。そのため,多様な運転条件下で安定性をサポートすることが課題であるが,IBRの導入拡大と電力需要の増大により,この課題はさらに深刻化しつつある。こうした課題に対処するため,グリッドフォーミング機能を有するSTATCOMが開発されている。グリッドフォーミングSTATCOM(GFM型STATCOM)は,系統の変動に即座に応答し,適切な減衰制御を行うことで,系統の安定度を改善し,系統のレジリエンスを高めることができる。
本稿では,GFM型STATCOMと,その拡張版で電力貯蔵システムを備えたEnhanced STATCOM(E-STATCOM)の機能と設計上の考慮事項について詳述する。脆弱な系統に複数のIBRが接続されたシミュレーションを通じて,GFM型STATCOMとE-STATCOMが,SSOの減衰,位相角の不安定性への対処,系統電圧の維持において有効であることを実証する。その結果は,これらの技術が系統の安定度向上のために系統状態を能動的に形成および制御できる可能性を明確に示している。
1. はじめに
従来の電力系統の構成はSG(Synchronous Generator:同期発電機)が主体であったが,現在ではIBR(Inverter-based Resource:インバータを介して連系する再生可能エネルギーや蓄電池などの機器)への置き換えが進み,大きな変革期を迎えている。この変化により系統に接続されるSGの数が減少し,系統運用者は系統の安定性に関する課題に直面している。これらの課題には,SSR(Sub-synchronous Resonance:商用周波以下の周波数の共振現象)のリスクの増大,系統の慣性とSCR(Short-circuit Ratio:短絡容量比)の低下などがあり,いずれも電力系統の安定性と供給信頼性を脅かす可能性がある。
これらの課題に対処するため,STATCOM(Static Synchronous Compensator:自励式無効電力補償装置)は系統電圧を維持し,系統の安定性を高めるうえで重要な役割を果たしている。従来のSTATCOMは,GFL(Grid-following Control:グリッドフォローイング制御)で動作し,系統の電圧と周波数に高速に同期してSTATCOMの出力を調整する。しかし,従来のGFLでは,特に系統が弱くなった状態において,系統電圧と周波数を能動的に調整して独立した制御を確立することに課題があり,より高度な制御戦略の開発への関心が高まった。
中でも有望な戦略の一つが,GFM(Grid-forming Control:グリッドフォーミング制御)である。これは,従来の無効電力の補償から,能動的な系統電圧の形成とIBRの導入率が高い脆弱な系統の安定化に焦点を移すものである。GFMを採用することで,GFLの技術的課題に対処するだけでなく,STATCOMの役割を向上させ,系統の安定性と信頼性に対する貢献度を大幅に高めることができる1-3)。能動的に電圧と周波数を制御するGFMの能力により,GFM型STATCOMは低周波共振などの不安定化作用を打ち消し,より堅牢かつ安全な電力系統を確保することができる。
GFM型STATCOM技術と電力貯蔵システムを組み合わせたEnhanced STATCOM(E-STATCOM)もまた,脆弱な系統の安定性を向上させるための汎用的なソリューションを創出する。E-STATCOMは,有効電力と無効電力の両方を供給することができ,系統周波数と電圧が急激に変化した場合の過渡応答を改善する。電力貯蔵の高速応答と,E-STATCOMの電圧および周波数制御能力の組み合わせにより,過渡現象の迅速かつ効果的な管理が可能となり,SSO(Sub Synchronous Oscillation:商用周波以下の電力または電圧の振動現象)を緩和し,動的条件下でも信頼性の高い電力供給を確保できる。
本稿の第2章では,脆弱な系統とSSOに関連する課題に対処する。また第3章では,GFM型STATCOMとE-STATCOM技術の進化について説明する。さらに第4章では,シミュレーションの調査結果を示し,提案したソリューションの有効性を実証する。最後の第5章では,結論を述べ,主な知見をまとめる。
2. 脆弱な系統とSSO
脆弱な系統には,SSOに起因する特有の課題が存在するため,STATCOMの設計に特別な配慮が必要となる。発電機軸ねじれ振動(SSTI: Sub-synchronous Torsional Interaction)や,補償回路によって増幅されるSSCI(Sub-synchronous Control Interaction: 商用周波以下の制御共振)は,減衰しない振動モードを引き起こし,破滅的事象に至る恐れがある4)。こうした課題を緩和するため,STATCOMが振動モードに寄与しないことを実証する広範な系統解析がしばしば実施されている。その複雑さに拍車をかけているのがインバータを介して連系する再生可能エネルギーである。これは,有効電力制御と交流電圧制御(AVC:AC Voltage Control)が振動モードに寄与する可能性があるためであり,特に,大きな静電容量を有する長距離ケーブル系統を通じて接続される場合に顕著となる。2019年に英国で発生した大停電はその一例であり,系統外乱時におけるIBRに対する系統維持の重要性が浮き彫りになった4)。したがって,脆弱な系統向けのE-STATCOMの設計では,安全で安定した運転を確保するために,これらの課題に対処する必要がある。
3. GFM型STATCOMとE-STATCOM
シャント補償の基本的な設計上の考慮事項は,外乱時に系統の状態に悪影響を与えることなく,コンバータの系統との接続状態を確実に維持することである。これは系統の健全性のためだけでなく,STATCOM機器の過負荷を防止し,最終的に強制解列(トリップ)を回避するためにも重要である。また,STATCOMは系統復旧時などSCRが極端に低い状況でも動作し,結果として系統をサポートすることが求められる。したがって,コンバータバルブ内に蓄えられたエネルギーに加えて,電力貯蔵機能を組み込むことが系統運用の維持に不可欠となる。
GFM型STATCOMの一般的な制御構成を図1に示す。これには電流制限制御,測定電圧(Um)およびAC電圧制御,低周波振動ダンピング制御,電力制御,IVS(Internal Voltage Source:内部電圧源),仮想インピーダンス(Zv)が含まれる。
Zv = jXv + Rv (1)
理想的には,Zvは系統から見たSTATCOMのインピーダンスと定義され,受動的な挙動を実現するR-L受動回路として構成される。仮想リアクタンスXvは同期機,およびその初期過渡リアクタンスと同様に,「系統強度」の維持,電圧の維持,および周波数の維持の各機能を左右する。抵抗成分Rvは,過渡現象の減衰に寄与し,系統事故時や地磁気嵐発生時に生じるDC成分の減衰にも極めて重要である。
図1|GFM(Grid-forming)制御の構造注:略語説明 IVS(Internal Voltage Source:内部電圧源)STATCOMの一般的な制御構造を示す。これには電流制限制御,測定電圧(Um)およびAC電圧制御,低周波ダンピング制御,電力制御,IVS,仮想インピーダンスが含まれる。
4. シミュレーションの結果
再生可能エネルギーなどのIBRの導入率が高い状況におけるGFM型STATCOMの有効性を評価するため,包括的なモデルでシミュレーションを実施した。長距離ケーブルを通じて脆弱な系統に接続されたIBRユニットで構成されるシステムの概要を図2に示す。シミュレーションでは定格300 MVArのSTATCOMを用い,Xv=20%で500 MWのIBRユニットを補償した。
図2|IBR導入率の高い包括的シミュレーションモデル注:略語説明 IBR(Inverter-based Resource:インバータを介して連系する再生可能エネルギーや蓄電池などの機器),PCC(Point of Common Coupling:系統連系点),GU(Generation Unit: 発電ユニット)長距離のACケーブルを通じて多くのIBRユニットが脆弱な系統に接続された試験システムの構造を示す。
4.1 発電ユニット1接続時
図3|脆弱な系統にGU 1を接続したシミュレーションの結果注:略語説明 SSO(Sub-synchronous Oscillation: : 商用周波以下の電力または電圧の振動現象)(a)は補償ユニットなし,(b)はGFM型STATCOMを接続したシミュレーションの結果を示す。(a)では,系統事故後長距離ACケーブルと脆弱な系統条件により,減衰しないSSO(約20 Hz)が観測される。図(b)は事故除去後の動揺を減衰させ,脆弱な系統を安定化させるGFM型STATCOMの優れた性能を実証している。
まず,IBRはSCR=1.4 p.u.の遠方の母線に接続されており,この定格500 MVAの発電ユニット1[Generation Unit 1:GU 1]は,長距離ACケーブル(185 km)を通じてSCR=2.4 p.u.の極めて脆弱な系統に接続される。最初のケースでは,補償ユニットは接続されていない。時刻1秒において,PCC(Point of Common Coupling:系統連系点)で三相地絡事故が発生している。図3(a)に示すように,事故の間,GU 1の位相角が大きくなって,結果として長距離ACケーブルの存在と脆弱な系統条件により,事故除去後に減衰しないSSO(約20 Hz)が観測される。SSOは電力ネットワーク内のさまざまな事故や系統構成の変更によっても生じる可能性があるため,系統安定性に対する脅威となる。
次のステップでは,GFM型STATCOMを補償ユニットとして接続する。図3(b)は,事故除去後の動揺を減衰させ,脆弱な系統を安定化させるGFM型STATCOMの優れた性能を示している。本図からも分かるように,GFM型STATCOMは,系統内の電圧と位相角の変化に瞬時に反応し,系統のSSOを短時間に減衰させる。STATCOMがSSOの周波数(商用周波数以下)の振動に対して共振せず,正の減衰を与えることは主要な設計考慮事項の一つである。慣性定数やフライホイール効果による共振周波数が存在する同期調相機と比較して,GFM型STATCOMは系統のSSOに適切に反応することで系統を安定化させる。
4.2 GU 1およびGU 2接続時
図4|脆弱な系統にGU 1とGU 2を接続したシミュレーションの結果(a)はGFM型STATCOMを,(b)はE-STATCOMをそれぞれ補償ユニットとして接続したシミュレーションの結果を示す。(a)は,GFM型STATCOMが,GUによって引き起こされる位相シフトとSSOを補償するのに十分な有効電力による減衰を提供できないことを示している。(b)は,E-STATCOMがSSOを減衰させ,系統を安定化し,系統強度を向上させることができることを示している。
この試験では,極めて脆弱な系統(SCR=1.2 p.u.)に対し,長さ100 kmのACケーブルを通じて定格500 MVAの二つ目の発電ユニット(GU 2)を接続する。IBR(GU 2)はSCR =1.4 p.u.の遠方の母線に接続する。GU 2が通電されると,系統内で新たな動揺モード(約8 Hz)を伴う大きな位相シフトが発生する。ところが,GFM型STATCOMのサブモジュールコンデンサに蓄積されているエネルギーには限りがある。そのため,この極めて脆弱な系統条件においては,STATCOMによる慣性の支援や大きな位相変化への対応には物理的な限界がある。図4(a)に示すとおり,GFM型STATCOMはGUによって引き起こされる位相シフトとSSOを補償するのに十分な有効電力による減衰効果を提供できない。そこで次のステップでは,Enhanced STATCOM(E-STATCOM)を接続する。図4(b)は,三相事故時および事故後のE-STATCOMの性能を実証するものである。E-STATCOMは有効電力と無効電力の両方を提供でき,動揺を適切に減衰させている。図4(b)のシミュレーション結果は,E-STATCOMがSSOを減衰させ,系統を安定化し,系統強度を向上させることができることを示している。事故除去後にPCC電圧は安定しており,システム全体を通じて安定性が維持されている。
5. おわりに
現代の電力系統では,系統インピーダンスの制御と形成に能動的に関与できる機器が求められている。GFM制御は,機器にこの機能を提供し,系統安定性の維持において,より動的かつ自律的な役割を果たすことを可能にする。前述の解析結果によれば,GFM型STATCOMとE-STATCOMは,SSOの減衰,位相角および電圧の不安定性の緩和,有効電力と無効電力の迅速な供給において顕著な有効性を示している。これらのシミュレーションで注目すべき点の一つは,GFM型STATCOMが系統の電圧および位相角の変化に対して瞬時に応答し,正の減衰を提供してSSOを効果的に打ち消し,発電ユニット間の相互作用を緩和している点である。加えて,E-STATCOMは,広範囲なSSOの周波数帯において,有効電力と無効電力を瞬時に供給することにより,系統安定性の課題に対する包括的ソリューションを提供する。この機能は,脆弱な系統に再生可能エネルギーなどのIBRが大規模に接続され,大きな外乱が生じる場合に特に重要となる。
参考文献など
- 1)
- ENTSO-E, “Grid forming capabilities: Toward system level integration,” Technical Report, ENTSO-E Technical Group on High Penetration of Power Electronic Interfaced Power Sources(2021)
- 2)
- R. Heydari et al., “Grid-Forming Control for STATCOMs - a Robust Solution for Networks with a High Share of Converter-Based Resources,” CIGRE 2022, Paris(2022)
- 3)
- P. Mitra et al., “Simulation and field experience of Opladen STATCOM with grid forming behavior,” CIGRE, Vienna(2023)
- 4)
- National Grid ESO, “Technical report on the events of 9 August 2019,” National Grid ESO Warwick, UK(2019.8)