本稿では,3.5 mol% C4-FN,10 mol% O2,86.5 mol% CO2の混合気に基づく,環境効率の高い420 kV遮断器(EconiQ)の形式試験について述べる。
本遮断器は,GISとDTBの両アプリケーションの420 kV/63 kA定格(50 Hzおよび60 Hz)に対応している。直列接続された二つの遮断部, 各相に一つの操作器,遮断部間の動きを伝達するためのリンク機構を採用している。各遮断部に対して並列に接続された二つの標準的な極間コンデンサが,二つの遮断部間で電圧を均等に分配する仕組みとなっている。
この設計は機械的安定性,開閉,絶縁性能に優れており,開発から一連の形式試験を通じて優れた性能を確認できた。
本稿では,端子故障,近距離線路故障,高電圧,容量性および誘電性開閉の試験を含む,IEC規格とIEEE規格に準じた一連の形式試験の結果について紹介する。
環境効率の高い遮断器の開発は,電力系統,電気設備,送電系統のCO2排出量削減に向けた非常に重要なステップである。日立エナジーは,CIGRE(International Council on Large Electric Systems:国際大電力システム会議)において,3.5 mol% C4-FN,10 mol% O2,86.5 mol% CO2混合気をベースとする世界初のSF6フリー420kV遮断器を発表した1)。本稿では,形式試験を通じて検証された同遮断器の性能について紹介する。
この遮断器は,パッファ式の原理を活用した高信頼で実績のあるガス遮断器技術に基づいて設計されており,混合気の使用に最適化されている。直列接続された二つの遮断部,一つの駆動装置(スプリング油圧機構),遮断部間で動きを伝達するための堅牢なリンク機構を採用している。また,遮断部に対して並列に接続された二つの標準的な極間コンデンサが両遮断部間で電圧を分配し,一つの遮断器で50 Hzと60 Hzの周波数に対応できるほか,GIS(Gas-Insulated Switchgear:ガス絶縁開閉装置)とDTB(Dead Tank Breaker:デッドタンク遮断器)の用途に適用可能である。同遮断器の主な定格を表1に示す。
同遮断器の開発においては,世界各国での導入・採用に向けて,一連の試験※1)では周波数50 Hzと60 Hzの双方に対応し,IEEE(420 kV,場合によっては362 kV2),※2))とIEC(420 kV)の規格を網羅する必要があった。多数の形式試験を行う必要があったため,一連の試験は同一の試験シフト内で可能な限り多くの定格を同時に網羅し,かつ必要な試験対象の数が最小限になるように考案された。
具体的には,以下の通りである。
このように,時間と労力を最小化し,効率的な形式試験を実施した。STL認定試験所におけるSLF90試験中の遮断器の外観を図1に示す。
SF6 絶縁設計の過程では,社内で開発され,検証されたガイドラインの制約を満たすために,さまざまな遮断器部品を最適化する必要があった。ここでは,各遮断器の異なる位置における電界を正しい許容値と比較する。新しいSF6フリー遮断器においても,C4-FN混合気への許容値を適切に設定することにより,同様のツールとプロセスが適用された。C4-FN混合気にも対応できるように設計手法を拡張できたのは,この混合気とその他の代替ガスについて,数年にわたる研究を通じて蓄積された知見があったためである,4),5)。
2D(Two Dimensions)と3D(Three Dimensions)によるシミュレーションと最適化を通じて,2ユニットコンセプトの電界設計と,アーク領域の絶縁設計と検証を実施した。
このプロセスに従って初期設計を行った結果,その時点でLI(Lightning Impulse:雷インパルス)試験とCW(Chopped Wave:裁断波)試験の要件はともに満たされていた。形式試験では,部分放電測定を含むすべてのインパルスおよびAC(Alternating Current)試験責務が確認されたが,部分放電測定では要求されるすべての電圧レベルにおいてノイズレベルを上回る部分放電信号は記録されなかった。
図2|SF6技術とC4-FN技術のチョッピング回数の比較緑の点は420 kV SF6フリー遮断器(133回動作)を,黒の点は420 kV SF6パッファ式遮断器(78回動作)を示す。二つの遮断器のチョッピング回数は同程度で,SF6遮断器の方がSF6フリー遮断器よりも再発弧が発生しない期間がわずかに短く,再発弧が発生する動作の回数が多い。すべての結果は,60 Hzにおけるシャントリアクトル電流開閉試験によるものである。
高圧送電網の電力品質を向上させるために使用される開放送電線やケーブル,コンデンサバンクなどの容量性負荷の開閉は,高圧遮断器の重要な機能である。420 kVのSF6フリー遮断器は,直接接地されていないネットワークに対応する容量性電圧係数kc = 1.4において,60 Hzの線路充電およびケーブル充電開閉形式試験に合格した。これらの試験は自動的に直接接地されたネットワークと50 Hzの要件を網羅するとともに,IEC規格に準拠し,IEEE規格の要件も包含する。420 kV SF6フリー遮断器の高い容量性開閉性能は,混合気中のC4-FN分子が全体の絶縁強度に寄与することに起因する。過去の研究6)により,進み開閉で一般的に試験される電流よりもさらに高い電流に対しても,C4-FNが絶縁性能に重要であることが実証されている。
また,シャントリアクトル電流開閉に遮断器を適用する際に必要となる,誘導性負荷を高信頼に開閉する能力もSF6フリー遮断器で実証されており,要件7),8)を満たしている。アプリケーションによっては,きわめて頻繁な開閉動作が要求されるため※4),IECの標準責務(四つの試験責務において78回の動作7))にさらに55回の動作を加えた。本遮断器は60 Hzにおいて再発弧が発生しない期間がきわめて長く,既存の420 kV SF6遮断器よりもさらに長かった。60 Hzにおける試験結果と比較を図2に示す。SF6遮断器とSF6フリー遮断器のチョッピング回数は,ばらつきはあるものの同程度である。
420 kV SF6フリー遮断器は,再発弧が発生しない期間が長く,1回の電源周波数ゼロ電流クロス中に再発弧が複数回発生する可能性が非常に低いという点において,真空遮断器とは対照的である※5)。真空遮断器によるシャントリアクトル開閉では,通常,多くの開閉動作中に高周波数再発弧が何度も発生する6)。この多数の再発弧とそれに伴う過電圧(複数回の高周波数再発弧における電圧の大きな上昇3))により,シャントリアクトル開閉動作中にシャントリアクトルそのもの,あるいは電力系統のその他の部品が損傷するリスクが高まる9)。これに対し,420 kV SF6フリー遮断器は実証済みのガス遮断器技術に基づき,シャントリアクトル向けのシンプルで効果的,かつ信頼性の高いソリューションを提供する。この遮断器は,再発弧が発生しない期間が一般的な真空遮断器と比べてはるかに長い6)ため,制御スイッチングのアプリケーションにも最適である。
SF6フリー420 kV遮断器は,IEC規格とIEEE規格で規定された63 kAのすべての短絡故障試験(T10,T30,T60,T100s,T100a)に合格した。試験は,IEC規格とIEEE規格の双方の要件を満たすことができる方法で実施された。IEC規格では,開-閉-開(O-CO)操作の後3分以内に(試験所の制限によって妨げられない場合)閉-開(CO)操作を行うなど,より複雑な一連の試験操作を行うことが求められる。一方,IEEE規格では,T10およびT30の試験責務に対して,IEC規格よりも高いTRV(Transient Recovery Voltage:過渡回復電圧)ピーク値が要求される。IEC規格では規定より高い電圧での試験を有効とみなすため,IEEEのTRV試験はIEC規格の要求事項も満たすことになる。T60,T100s,T100a試験におけるTRVの要件は,IEC規格とIEEE規格の双方で同じである。
さまざまな短絡故障において,遮断器の最小アーク時間がSF6と同等かそれ以下であることが確認され,遮断器の性能が実証された。高速駆動によって提供される短い最小アーク時間と開極時間を考慮すると,遮断は2電源周波数サイクル内で達成できる。
T100sとT100aの試験では,遮断器によって最大短絡電流を遮断しなければならないが,本遮断器は前述したとおり,50 Hzと60 Hzの両試験に合格している。T100sのパート(a)は投入試験からなり,本遮断器は195 kAに相当するピーク係数3.1で非対称な投入に成功した。50 Hzで実施した形式試験においてT100aのメジャーループ電流の遮断に成功した二つの例として,定格非対称(ピーク134 kA,75 msの直流時定数に対応)と中間非対称を図3に示す。
420 kV SF6フリー遮断器は,残留電流が約1 A未満と小さく,持続時間はわずか10〜20 μsである1)。これらの残留電流はL90試験責務,すなわちワーストケースで測定された。これは,電流ゼロ後のライン側電圧の急上昇により,T100sおよびT100a試験中よりもさらに大きい残留電流が発生するためである。近年,このような条件下で真空遮断器が問題を抱えていることが示された10)。T100sの電流遮断後でもさらに大きい残留電流(10 A程度)が測定されるため,直列接続された遮断室間の電圧分布に問題が生じるのである。真空遮断器では,絶縁耐圧は接触距離の増加に伴って直線的に増加するのではなく,非常に緩やかにしか増加しないことに留意する必要がある11)。そのため,真空遮断器においては,残留電流の大きさが示すような特有の課題により,より高い定格(145 kV超)のために複数の遮断室を採用することが必須となる。
図3|50 HzにおけるT100a試験ショットの例左側のグラフは第1相遮断,メジャーループ,中間非対称を,右側のグラフは第2相遮断,メジャーループ,定格非対称の結果を示す。また上段は,最終ゼロクロス前に注入された合成電流を含む,印加された短絡電流を示す。中段と下段は,遮断器両端のTRVを示す(回復電圧位相と拡大図)。
本遮断器は,IEEE規格およびIEC規格とITRV(Initial Transient Recovery Voltage:初期過渡回復電圧)の要件(時間遅延が100 ns未満)を満たす,63 kAにおけるSLF75およびSLF90の試験責務に合格した。全試験で合格となったため,形式試験からはSLF75とSLF90のどちらの試験のマージンが大きいかを述べることはできない。しかし,開発試験において,電流ゼロでの電流微分値(di/dt)を増加させ,追加の遮断動作を実行することでマージンを確認した結果,SLF75の方がSLF90よりもマージンが大きいという結論に至った。空気遮断器との比較により,CO2ベース遮断器におけるSLF75の試験責務はSLF90の試験責務よりも過酷であるものと予想されていたが6),パッファ式技術に基づくSF6フリー420 kV遮断器において,結果はSF6の場合と同様であり,420 kVのSF6フリー遮断器の設計が信頼性の高いパッファ式SF6技術と電流遮断の物理的特性に基づいていることが分かった。形式試験において,SLF75では,50 Hzと60 Hzの両周波数で,SLF90に比べてより短い最小アーク時間とより高い消弧ピークが得られた(図4参照)。このことからもSLF75の方が高性能であることが分かる。
すべての形式試験において,本遮断器は一貫して非常に短い最小アーク時間を示した。これは主に信頼性の高いパッファ技術が採用されていることによるものであり,遮断器の性能とクリアリング能力を示すものとして重要である。最小アーク時間が短いと,より少ないエネルギー入力,より少ないアブレーションで,より短い中および最大アーク時間が得られ,最終的に試験終了時の遮断器の摩耗が少なくなる。これにより,運転能力試験でも実証されているように,多くの短絡開閉動作が可能になる。
図4|類似動作中のアーク電圧50 HzにおけるSLF90とSLF75の類似動作中のアーク電圧である。消弧ピークはSLF75の方が大きい。
日立エナジーが開発した3.5 mol% C4-FN,10 mol% O2,86.5 mol% CO2混合気を用いた環境効率の高い420 kVガス遮断器は,形式試験を通じて優れた性能を確認した。本遮断器は50 Hzと60 Hzの両方の周波数に対応可能であり,IEEE規格とIEC規格のうち厳しい方の要件を満たすよう,両規格に準じて形式試験を行っている。また,パッファ式の原理を利用した信頼性の高いガス遮断器技術に基づいている。現在,これと同じ技術とツールを用いて次のより高い電圧定格の開発が行われており,2024年中に環境効率の高い550 kV遮断器の発売をめざしている。