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ハイライト

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,欧州をはじめとした各地で法規制が整備されつつある中,製造業をはじめとした各企業は,製品GHG排出量の開示を求められている。そのため,企業単独ではなくサプライヤまで含めたサプライチェーン全体での効率的な製品GHG排出量把握が課題となっている。これに対し,日立はサプラチェーン全体を見据えた環境DXの取り組みを積極的に推進している。

本稿では,サプライチェーン全体における環境DXの取り組みとして,サプライチェーンPF/TWX-21と統合データ基盤/HIPFを活用したユースケースを紹介する。日立は,製品GHG排出量を効率的に把握する仕組みを提供することで,顧客の課題解決に貢献していく。

目次

執筆者紹介

尾林 正剛Obayashi Seigo

  • 日立製作所 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 デリバリ&データプラットフォーム部 所属
  • 現在,DX事業のシステムインテグレーションに従事

後守 裕介Atomori Yusuke

  • 日立製作所 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット マネージドサービス事業部 デジタルサービス本部 デジタルサービス第一部 所属
  • 現在,TWX-21事業のサービスデリバリーに従事

1. はじめに

企業を取り巻く外部環境が急速に変化し,ステークホルダーのサステナビリティ関連課題への関心が高まる中,サステナビリティ関連課題への対応は企業にとって重要な位置付けとなっている。

特に環境への取り組みが大きなウェイトを占めており,サステナブル経営における重要な要素の一つとなっている。国の脱炭素化宣言や関連制度改革などを受けて企業の脱炭素化に向けた取り組みが進展し,各規制などの開始時期に向けたGHG(Green House Gas:温室効果ガス)排出量の可視化や削減施策など,カーボンニュートラルの取り組みに対するニーズが高まりつつある。

こうした中,製品単位でのGHG排出量を算定するCFP(Carbon Footprint of Products:カーボン・フットプリント)報告義務を課す法規制への対応や,LCA(Life Cycle Assessment)におけるカーボンニュートラル実現に向けた動きが,欧州を中心として世界的に加速していくと予想される。

こうした国内外の動きに対し,CFP算定および算定結果に対するアクションも企業にとって重要となってくると考られる。そのため各企業においては,自社のみならずサプライチェーン全体での効率的な製品GHG排出量の把握が課題となっている。

2. 環境DXを通じた課題解決の取り組み

図1|環境DXのあるべき姿図1|環境DXのあるべき姿 注:略語説明 DX(デジタルトランスフォーメーション),AI(Artificial Intelligence)各業界のサステナビリティ課題を解決するためには,各種環境関連の多大なデータを集約し,デジタル技術により分析・知識化する必要があり,サイバー空間活用が成功の要諦と考えられる。

カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの構造として,環境DX(デジタルトランスフォーメーション)のあるべき姿を図1に示す。各業界のサステナビリティ関連課題を解決するためには,各種環境関連の膨大なデータを集約し,デジタル技術により分析・知識化する必要がある。また,DXを進めるうえでは,日立のデジタル技術や実績だけではなく,顧客の豊富なドメインナレッジ・知見が必要であり,協創を通じて作り上げていくことが重要となる。

次に,カーボンニュートラルに向けた取り組みでは,GHG排出量の現状把握,特に排出量の割合が多いCO2排出量の把握,削減計画の策定,削減施策の実行,効果測定といったPDCA(Plan, Do, Check, Act)サイクルを回す必要がある。

このサイクルを回すために重要なのが,環境に関する情報(データ)である。企業活動を通じて得られるデータをただ単に集めるだけでなく,いかにデータマネジメントを行い,効率的・効果的に利活用していくかがカギとなる。

日立は,こうした課題やニーズに対応するべく,OGN(大みかグリーンネットワーク)1)活動,および日立の環境情報ソリューションであるEcoAssist シリーズ2)との連携によるCO2排出量可視化実証や製品ごとのCO2排出量プロトタイプ構築など,サステナビリティ市場に求められる付加価値を追求し,サプライチェーン全体における環境DX向けデータ利活用ソリューション・基盤[TWX-21,HIPF(Hitachi Intelligent Platform)/環境DX]を開発した。

3. 環境DX ユースケースと実現する仕組み

サプライチェーン全体における環境DX向けデータ利活用ソリューション・基盤(TWX-21,HIPF/環境DX)を活用し,製品CO2排出量を効率的に把握する環境DXユースケースを図2に示す。また,環境DXユースケースを実現する仕組みを図3に示す。

環境DXは新しい業務であるため,DX化・自動化に向けた改善の余地が大きい。特に,各ユースケースを実現するためには,CO2排出量の算定・可視化に加えて,効率的なデータ収集,モデリングのほか,データを利活用する仕組みが必要である。日立は,サプライチェーン全体を網羅するデータ基盤とデータ利活用可能なトレーサビリティ機能を併せ持つTWX-21とHIPFを,算定・可視化ソリューションで実績のあるEcoAssistシリーズなどの環境商材と連携するシステムを構築することで,サプライチェーン全体のCO2排出量の効率的な把握を可能とした。

多くの企業は,製品CO2排出量開示要求などの社会課題・顧客課題に対し,従来,各数値を算出するために必要な情報を人手で集約し,規定に基づき算定を行っていた。これに対し,今回開発した環境DX向けデータ利活用ソリューション・基盤は,図3に示すシステム構成で構築することにより,関係データの収集・算定を含む分析,トレーサビリティを実現した。また,収集データをその他の用途にも活用することで,環境にとどまらず,顧客の経営課題を解決する仕組みも提供可能となった。

環境DX向けデータ利活用ソリューション・基盤の構成となるTWX-21およびHIPFの概要を以下に述べる。

図2|環境DXのユースケース図2|環境DXのユースケース 環境DXでは,自社のみならず他社を含めたサプライチェーン全体のCO2排出量を把握するため,環境データを統合した環境分野のデジタルツインを構築し,データの分析・知識化を行う。

図3|環境DX データ利活用プラットフォーム図3|環境DX データ利活用プラットフォーム注:略語説明 DB(Database),ETL(Extract, Transform, Load),IoT(Internet of Things),LCA(Life Cycle Assessment),ERP(Enterprise Resources Planning),TMS(Transport Management Systems),PLM(Product Lifecycle Management),MES(Manufacturing Execution System),WMS(Warehouse Management System)企業内の環境データを共通データ基盤へ集約し,カーボンニュートラルに向けたさまざまな業務に利活用するためのプラットフォームである。

3.1 サプライチェーンプラットフォームTWX-21

企業(バイヤ)がサプライチェーンにおけるScope3上流のCO2排出量を把握する場合,購入した品目(原材料や部品など)のCO2排出量をサプライヤから取得する必要がある。しかし,CO2排出量の算出に必要な技術や手間などの制約により,サプライヤ自身で品目別のCO2排出量を算出することは困難である。

この課題を解決するため,企業間取引を支援するSaaS(Software as a Service)「TWX-21」では,バイヤとサプライヤ間の調達・購買業務を支援するWeb-EDI(Electronic Data Interchange)サービスで蓄積したEDIデータを活用し,サプライヤの品目別CO2排出量(Scope3上流)を自動算定してバイヤへ連携する新サービスの提供をめざしている(図4参照)。

また,TWX-21で算定した品目別CO2排出量を自社または他社ソリューション(Scope1,2,3下流)に連携することで,サプライチェーン全体でのCO2排出量の把握と削減の実現に貢献できると考えられ,Green x Digitalコンソーシアムにおける実証実験3)といった実証活動も推進している。

図4|TWX-21における品目別CO2排出量の自動算定サービスイメージ図4|TWX-21における品目別CO<sub>2</sub>排出量の自動算定サービスイメージ注:略語説明 EDI(Electronic Data Interchange)サプライヤによる入力または外部サービスやシステムとの連携によって取得したサプライヤ別のCO2排出量と,EDIデータから取得したサプライヤ別の売上高を基に,品目別CO2排出量を算定する。これにより,サプライヤはバイヤへ納入したものに対するCO2排出量を算出する必要がなくなるだけでなく,サプライヤによるCO2排出量削減効果をバイヤへ伝達できる。

3.2 統合データ基盤HIPF

図5|Hitachi Intelligent Platformの概要図5|Hitachi Intelligent Platformの概要注:略語説明 OT(Operational Technology),SE(System Engineer)HIPF(Hitachi Intelligent Platform)は,マネージド型データ利活用サービスの新ブランドである。日立内外の成功ノウハウを活用し,コンサルティングから構築,運用までをワンストップで提供する。

多くの製造業では,サプライチェーンにおけるCO2排出量算定において,データ収集や算定に多大な人手と時間を要している状況である。特にScope3の算定や製品単位のCO2排出量算定においては,「システムごとにデータが分散し,算定に労力と時間を要する」という課題に直面している。

統合データ基盤であるHIPF4)は,マネージド型データ利活用サービスの新ブランドとして,日立内外の成功ノウハウを活用し,コンサルティングから構築,運用までをワンストップで提供している(図5参照)。

今回,環境DXにおける効率的なデータ収集とモデリングのほか,データを利活用する仕組みとして,実案件で得たデータ収集・蓄積・分析・活用の知見・ノウハウに基づき,データ利活用の構想策定から設計,開発,運用まで,顧客の業務価値向上に伴走可能なHIPFを活用し,前述の課題を解決する見通しを得た。

4. おわりに

環境市場における環境DX事業は,2050年のカーボンニュートラル実現に向け,EU(European Union)によるCBAM(Carbon Boarder Adjustment Mechanism:炭素国境調整措置)やESPR(Ecodesign for Sustainable Products Regulation:欧州エコデザイン規則)をきっかけとして規制が全世界に広がることが予想される。これに伴い,今後グローバルに必須となる製品GHG排出量開示を効率的に実現する環境DX事業は,サステナビリティ分野において2050年に向けた市場成長が見込まれる。

こういった市場成長が見込まれる中で,日立は,カーボンニュートラル推進に加え,サーキュラーエコノミー分野での資源循環ビジネス検討を推進し,GX(グリーントランスフォーメーション)事業の拡大をめざす。また,DX事業としてデータを収集するプラットフォームを一元化することで,各顧客においても,環境DX事業のみならず,製造・研究・調達分野などの各種DX事業展開を図ることが可能となり,各種ユースケース・課題に合わせたデータ利活用ビジネスの拡大にも大きく貢献すると考えられる。

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