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ハイライト

従来,研究者の勘や経験と試行錯誤により行われてきた材料開発において,データとデジタル技術を用いることで,開発の高度化・期間短縮を実現するMaterials Informaticsが一般化している。このような中,日立は材料開発に関わるデータの蓄積・管理・活用を一気通貫で支援する材料開発ソリューションを提供し,多くの顧客に導入してきた。現在,材料開発ソリューションの次の大きな機能の一つとして,データ分析と実験の自動化技術を組み合わせ,計測・分析を自動化することで,材料開発のさらなる高度化と期間短縮を実現するLaboratory Automation Platformの開発を進めている。

本稿では,材料開発ソリューションおよびLaboratory Automation Platformの概要について述べる。

目次

執筆者紹介

照屋 絵理Teruya Eri

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 所属
    現在,データを用いたDXを実現するソリューション開発,デリバリーに従事
    理学博士

仙波 拓己Semba Takumi

  • 株式会社日立ハイテク サプライチェーンプラットフォーム統括本部 
    SCレジリエンス推進本部 マテリアルソリューション部 所属
    現在,材料開発ソリューションの営業まとめとして新規顧客開拓,デリバリーに従事

面林 康太Omobayashi Kota

  • Hitachi High-Tech (Thailand) Ltd. 所属
    現在,研究開発におけるDXソリューションのASEAN展開取りまとめ,デリバリーに従事

1. はじめに

従来,新規材料開発は研究者の勘と経験と試行錯誤により行われてきた。材料開発に必須となる実験は,1回の実施に数か月掛かる場合もあるなど,非常に時間と労力を要するものであった。このような中,近年,材料に関わるデータとデジタル技術により材料開発プロセスを根本的に変えながら,材料開発の高度化,開発期間の短縮を実現するMI(Materials Informatics)を用いた材料開発が一般化している。

日立は,MI活用促進・高度化に向け,2017年より材料開発に関わるデータの収集・蓄積・管理・活用を一気通貫で支援する材料開発ソリューションを提供している1)。本ソリューションはこれまで,有機・無機材料,鉄鋼・非鉄金属,医薬,生活・食品・消費財などの幅広い顧客に対して価値を提供してきた。さらに日立は,材料開発ソリューションの次の大きな機能として,データ分析と実験の自動化技術を組み合わせ,材料開発をCPS(Cyber Physical System)化する,LAP(Laboratory Automation Platform)の開発を進めている。本プラットフォームにより計測・分析を自動化することで,材料開発の高度化と期間短縮を実現する。本稿では,材料開発ソリューションおよびLAPの概要を述べる。

2. 材料開発ソリューションとLAP

2.1 材料開発ソリューション

材料開発ソリューションは,材料開発に関わるデータの収集・蓄積・管理・活用を一気通貫で支援するソリューションである。本ソリューションでは,Lumada成長モデル2)に基づいてビジネスを設計している。Lumada成長モデルとは,(1)デジタルエンジニアリング,(2)システムインテグレーション,(3)コネクテッドプロダクト,(4)マネージドサービスの4象限でビジネスを推進・繰り返していくことで,継続的に顧客に価値を提供し続ける「循環型」のビジネスモデルである。本ソリューションの概要をLumada成長モデルに基づいて紹介する(図1参照)。

(1)デジタルエンジニアリング

コンサルティングにより顧客課題の整理・理解・解決策とあるべき姿のビジョンの明確化を行う構想策定サービス,およびデータを活用した材料開発業務の有効性検証PoC(Proof of Concept)を行う分析支援サービスを提供する。構想策定サービスでは,コンサルティング専任の人員が顧客へのヒアリング・ディスカッション・ワークショップなどを通じて,顧客が抱える課題を整理・理解し,DX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けたあるべき姿を顧客に並走して明確化していく。さらに,日立社内外における数多くの経験を経て蓄積されたノウハウや日立グループ内外のソリューションを活用し,課題解決やあるべき姿の実現方法を提案する。

また,分析支援サービスでは,社内外に存在するデータやその分析結果の業務活用を評価・検討し,データとAI(Artificial Intelligence)やデジタル技術を活用したデータ駆動型材料開発の有効性を検証する。分析の例は,過去に実施した実験データの分析により,求める物性を実現する実験条件を予測する,画像処理を用いて材料の電子顕微鏡画像から性能を分析する,特許・論文・社内報などの文献から新規材料開発に関わる情報を抽出・解析するなど多岐にわたる。PoCでは,さまざまなデータ分析経験を持つデータサイエンティストが,顧客と対話しながら,データ駆動型材料開発の有効性と価値を検証し,顧客社内でのMI導入をサポートしていく。

(2)システムインテグレーション

(1)にて整理・検証・提案したデータの収集・蓄積・管理・活用に関わるソリューションをシステムインテグレーションにより構築する,DX支援サービスを提供する。この際,アクセラレータと呼ばれるソリューションを迅速かつ繰り返しデリバリーするための構築済み技術群を活用することにより,高速なシステム実装を可能としている。また,高度なMIに必須となるデータを収集・蓄積・管理する仕組みである実験データ収集サービスも提供している。これらのサービスはスモールスタートかつ段階的な拡張が可能である。このため,初めはある一部門に導入し,うまく機能したら全部門や全社横断で導入するなど,柔軟な導入が可能である。

(3)コネクテッドプロダクト

日立製作所が保有するデータ分析技術と株式会社日立ハイテクが保有する計測・分析装置を組み合わせることにより,計測・分析を自動化するLAPの開発・提供を行っている。詳細は2.2にて述べる。

(4)マネージドサービス

データ分析のためのプラットフォームを提供する,分析環境提供サービスを提供する。本プラットフォームには,これまでの多くのデータ分析などのPoC経験から得た知見を凝縮した,材料分野で汎用的に用いられる分析アルゴリズム群を搭載している。顧客はWebブラウザ経由で本プラットフォームにアクセスし,GUI(Graphical User Interface)から分析対象データをアップロードして,分析条件を設定するボタンをクリックしていくだけで,顧客自身で容易にさまざまな材料データ分析を行うことが可能となる。本プラットフォームは,SaaS(Software as a Service)形式で提供している。

本ソリューションは(1)〜(4)を通じて,顧客協創による新ソリューションの立ち上げ,機能拡張を重視している。その結果,顧客の真の課題を解決する革新的なソリューションを実現しており,複数の顧客と共同でニュースリリースを発行するなど3),社内外で広く展開している。また,本ソリューションのビジネスモデルが認められ,2022年には日立社内においてLumada Business Award最優秀賞を受賞した。

図1|Lumada 成長サイクルに基づいた材料開発ソリューションの概要図1|Lumada 成長サイクルに基づいた材料開発ソリューションの概要
注:
略語説明ほか
OT(Operational Technology),PoC(Proof of Concept),SI(System Integration),SaaS(Software as a Service),AI(Artificial Intelligence),MI(Materials Informatics)
※)
ソリューションを迅速かつ繰り返しデリバリーするための構築済み技術群。
4象限全体にわたり,データの収集・蓄積・管理・活用を一気通貫で支援するソリューションを提供する。各象限のビジネスを推進・繰り返していくことで,継続的に顧客に価値を提供する。

2.2 Laboratory Automation Platform

材料開発ソリューションの次の大きな機能として,CPS化により材料開発における計測・分析を自動化するLAPの開発を進めている(図2参照)。LAPの実現イメージは以下のとおりである。まず,ユーザーが求める材料物性をLAPシステムに入力すると,過去の実験データから次に行うべき実験条件をAIが算出・出力する。すると,その実験条件に基づき,装置が自動的に実験・計測・測定を行う。これにより出力された実験データは自動でクラウド上に吸い上げられる。さらに,得られた実験データを基に,再度AIが次の実験条件を出力し自動実験を行う。これを繰り返すことにより,最終的にユーザーが求める物性を持つ材料ができ上がる。これにより,効率的かつ短期間での材料開発が実現可能なプラットフォームである。

LAPの実現には材料開発業務に対する深い知見,材料データ分析能力,計測・分析装置のエンジニアリングなどのOT(Operational Technology)の知見,分析機能・装置・データ収集機能などのさまざまなシステムが有機的に連携した高度なシステムをデザイン・実装するエンジニアリング・インテグレーション能力が必須である。このため,LAP開発は材料メーカーに対する広いビジネスの経験・知見と材料データ分析技術,および安定したシステムインテグレーション能力を持つ日立製作所,材料向けの計測・分析装置の高度な開発能力と多くの顧客への導入実績を持つ日立ハイテク,高度なシステムデザイン能力とChip-to-Cloudのエンジニアリング能力を持つGlobalLogicが連携して行っている。LAPは2022年頃より本格検討を開始し,2024年3月にMVP(Minimum Viable Product)が完成している。今後も継続的に機能拡張を行う予定である。

図2|Laboratory Automation Platformのイメージ 図2|Laboratory Automation Platformのイメージ
※)
本ソリューションは開発中である。
データ分析技術などのITと,計測・分析装置などのOTのナレッジを組み合わせることで,材料開発における計測・分析の自動化をめざす。

2.3 One Hitachi /日立の精神を体現するソリューション

材料開発ソリューションおよびLAPは,2023年,日立グループ社内でIYGA(Inspiration of the Year Global Award)日本・韓国・オセアニア地域グランプリを受賞した。IYGAは,日立創業の精神である和・誠・開拓者精神を発揮して日立ブランドの価値向上に寄与した各社・各事業部のさまざまな活動を表彰し,日立グループ・アイデンティティの認知・実践の推進とOne Hitachiマインド醸成に取り組む制度である。One Hitachiでのソリューション開発と顧客との協創活動,世界初の完全自動LAP実現をめざす開拓者精神,今後のグローバル展開への期待が評価され,受賞に至った。以下に,本ソリューション開発において,どのように和・誠・開拓者精神を体現したかを記す。

(1)和

LAPは前述の通り,日立製作所,日立ハイテク,GlobalLogicのOne Hitachiでの連携により実現している。LAPは,それぞれの強みの融合により実現される,まさに和のシステムである。また,日立製作所内においても,プロダクトオーナーである公共システム事業部に加え,研究開発グループ,GlobalLogic Japanビジネス推進本部や,その他の開発部門・支援部門など非常に多岐にわたる部署のメンバーにより推進している。

プロジェクト開始当初は言語,ITとOT,ロールの違い,それぞれの思惑,開発文化の違いなどさまざまな壁があり,意思疎通の難しい場面も多々あった。特にITとOTでは,ソリューション開発に対する思想や進め方,言語,スピード感が大きく異なっていた。しかし,関係者が納得するまで対話を重ねる,ビジョンを共有するといった活動を愚直に繰り返し,相互理解を深め,壁を乗り越えることができた。

(2)誠

本プロジェクトは顧客との協創を通じて推進している。実際のユーザーとなり得る複数の顧客の意見を基にLAPのビジョンと機能を固めていった。当初はシステムのイメージが湧かない,このようなシステムは使えないといった厳しい意見も多く聞かれたが,日立が掲げるビジョンの共有,熱心なヒアリング・対話を誠実に繰り返すことにより,ネガティブな意見をポジティブな意見に変えることができた。こうした活動により,次第にLAPの価値が顧客にも認められ,現在では一部の顧客に対しMVPのリリースを予定している。

(3)開拓者精神

世界的に見ても,完全なLAPの仕組みはまだ実現していない。これは,計測・分析装置の自動化やシステム全体のオペレーションの仕組みなど,技術的に未確立の部分が多く,一足飛びですべての機能を実現することが難しいためである。こうした中,現時点で実現可能な機能と顧客価値に鑑み,全体のアーキテクチャ,現時点における開発機能,開発ステップを明確化していった。この作業は,まさに未知の分野を開拓していく作業であった。さらには,GlobalLogicが得意とするアジャイル開発とデザイン思考を最大限取り入れていくことで,システムとその開発の高度化を実現した。

3. おわりに

本稿では,One Hitachiで開発を推進し,日立の精神を体現する材料開発ソリューションとLAPについて紹介した。今後は,これまでに培った技術を応用し,材料分野にとどまらず,食品・消費財・バイオテクノロジー・その他製造業へ適用範囲を広げていく予定である。さらに,日立グループが世界で持つ広いタッチポイントを活用し,北米・欧州・ASEAN(Association of South East Asian Nations)地域などに対する海外展開を積極的に進めていく。材料はすべての製品を支えるものであり,材料を変えることは産業を変えることにもつながる。産業全体の活性化をめざし,今後も材料から世界を変革することを目標として,ソリューションの高度化を推進していく。