日立評論

エネルギーソリューションと超高効率プロダクツで低炭素化を実現

ITによるスマート化がカギ

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日立評論

ハイライト

日立は「環境イノベーション2050」の中で,「低炭素社会」をめざすべき社会の筆頭とした。バリューチェーンを通してCO2排出量を2050年度までに80%削減(2010年度比)するという具体的な数値目標を表明し,達成に向けてグループをあげてのチャレンジが始まっている。

目標達成のカギとなるのは,日立が提供する製品やソリューションの使用段階でのCO2排出量削減だが,その取り組みはどのように進められていくのだろうか。

日立が低炭素社会をめざす背景と実現へのアプローチについて,CSR・環境戦略本部の高橋和範担当本部長に,事業を通じた具体的な取り組みについて電力・エネルギー業務統括本部の池田啓CSOと株式会社日立産機システムの相馬憲一CTOに聞く。

目次

低炭素化は日立の使命

日立は,環境長期目標「環境イノベーション2050」において,「低炭素社会の実現」に注力していくことを表明した。その理由をCSR・環境戦略本部の高橋和範担当本部長は次のように語る。

「日立は創業製品のモータに始まり,電気を使う製品を事業の柱としてきました。一方で電気を作る側の電力システムにも携わっており,日立の事業は電気エネルギーと密接に結びついていると言えます。したがって,事業を通じた気候変動問題解決への貢献を考えたとき,製品のCO2排出量を削減すること,つまり電気に代表されるエネルギーの低炭素化は必須の要素なのです。」

日立のバリューチェーン全体におけるCO2排出量を,2050年度までに2010年度比で80%削減するという極めて高い目標を掲げたのは,そうした自身の使命感を表していると言えるだろう。

バリューチェーンとは,原材料・部品の調達から,生産,輸送,使用,廃棄・リサイクルまで,日立が提供する製品・サービス・ソリューションに関わる一連の企業活動を指す。その全段階で排出されるCO2総量のうち,9割以上を占めるのが使用段階での排出量だ(図1参照)。

図1│日立におけるバリューチェーンを通じた温室効果ガス排出比率日立は,バリューチェーン全体を通じた温室効果ガスの排出量を算定し,効果的な削減に取り組んでいる。特に,全体に占める割合が90%を超える販売した製品の使用に伴う排出量については,製品のライフサイクル全体における環境配慮の基準を満たした環境適合製品の開発により,継続的な削減を推進してきている。

日立は,サプライヤ企業に環境負荷の軽減を求めたグリーン調達ガイドラインの発行,生産段階における削減も進めているが,目標達成には使用段階での削減が欠かせない。

そのために「環境イノベーション2050」では,4つの方策を挙げている。

高橋担当本部長は,この中でも当面の主力と位置づけられるのは,3番目の「超高効率プロダクツ,低炭素エネルギーの開発・普及」と,4番目の「広域,複合的なシステム間での連携・協調」であるという。

「事業構造の転換や,次世代技術をにらんだ革新的な材料の開発などは,長期的な視点で取り組むべき課題です。それに対して,産業機器や家電などの超高効率プロダクツを提供すること,原子力発電や再生可能エネルギーといった低炭素エネルギーの普及に貢献することは,現在の事業として推進できます。それによって環境問題に対する意識を醸成するとともに,超高効率プロダクツを連携・協調させて使用することで,産業や社会のシステム全体を高効率化することをめざしています。」

Lumadaを基盤に知見を活用

ポイントとなるのはIoT(Internet of Things)の活用だ。デジタライゼーションが浸透した今日の社会では,機器そのものの高効率化に加え,プロダクツをネットワークでつなぎ連携・協調させるといった,ITによる効率向上が大きな効果をもたらす。

「IoTを活用した“電力の見える化システム”によって,日立グループでは大きな節電効果を上げました。こうした知見をソリューションとして提供し,広くお客様にも利用していただくことが社会全体の低炭素化につながります。日立グループでは,『Lumada(ルマーダ)』と名付けたIoTプラットフォーム上で,AI(Artificial Intelligence),アナリティクスなど,最新の技術を活用してお客様とともに課題解決をめざすソリューションを協創しています。日立グループ内やお客様との具体的な取り組みもLumadaに蓄積して,知見を広く横展開することで低炭素化を加速していきます。」と高橋担当本部長は力を込める。

低炭素エネルギーの普及は世界的な潮流に

使用段階でのCO2排出量削減をめざす取り組みにおいて主力となるのが,原子力発電や再生可能エネルギーなど,低炭素エネルギーの普及だ。「パリ協定」が2016年11月に発効し,世界全体が温暖化対策に向けて舵を切ったことで,低炭素エネルギーの普及はいっそう世界的な潮流になると予想される。

電力・エネルギー業務統括本部の池田啓CSOは,そうした流れを受けた国内外の動向を次のように見ている。

「パリ協定以前からの動きとして,北米や欧州では再生可能エネルギーの導入比率が増え,赤道周辺地域では太陽光発電が増加,また新興国を中心に原子力発電も拡大基調にあります。今後は,再生可能エネルギーを電力系統と協調させるマイクログリッドや,きめ細かな需給バランスの調整を可能にするスマートグリッドも広がり,大規模電源と分散電源を組み合わせる方向へ向かうでしょう。」

では,日本国内ではどうだろうか。

「国内では,電力システム改革を通じてITの活用が進み,スマート化につながることが期待されています。日本はパリ協定で,2030年までにCO2排出量を2013年比で26%削減するという目標を表明しました。2015年の経済産業省の長期エネルギー需給見通しでは,2030年のエネルギーミックスにおいて,再生可能エネルギーが22〜24%,原子力発電が20?22%という数値が示されています。それらを考え合わせると,CO2排出量削減には再生可能エネルギーをさらに増やしていくとともに,原子力発電所の再稼働を進めていくことも欠かせないと言えます。」

電力系統安定化ソリューションで普及を後押し

日立は創業当初から変圧器,遮断器など電力にかかわる機器を手がけ,以来,長年にわたって電力システムを支えてきた。低炭素エネルギーの普及を支援する製品やソリューションも幅広く揃えている。

再生可能エネルギーの中で太陽光発電や風力発電は,発電量が天候に左右される不安定な電源だ。発電量の急激な変動は,需給バランスの乱れや周波数と電圧の変動を引き起こし,停電につながる可能性もある。再生可能エネルギーの発電網に占める割合が高まれば高まるほど,そうしたリスクも高まる。そのため,「大型蓄電池の導入や送電網の強化と広域運用などによって発電量の変動を吸収する対策が必要」と池田CSOは述べる(図2参照)。

「関連する技術は数多くありますが,例えば送電網の強化と広域運用では,高圧直流送電技術が注目されています。北海道,東北,九州など,自然条件が適した場所や洋上に風力発電プラントを作り,そこから東京,大阪などの大消費地へダイレクトに送電するなど,長距離の送電に有効な技術です。日立はこの分野で実績のあるスイスのABB社と合弁会社を設立し,国内向けの高圧直流送電システムを提供しています。これらの技術やシステムを組み合わせた電力系統安定化ソリューションの提供を通じ,再生可能エネルギーの利活用に貢献しています。」

電力系統を安定化させる技術には,このほかにも,マイクログリッド,電力供給側が需要側の電力消費をある程度制御するDSM(Demand Side Management),グリッド上の分散電源を1つの発電所のように機能させるVPP(Virtual Power Plant)など,さまざまなものがある。風力・太陽光発電システムのコンポーネントと,それらを安定的に活用する技術の両方を備え,ソリューションとして提供できることは日立の大きな強みだ。

図2│日立の電力・エネルギーソリューション発電から送配電,電力小売対応ITシステムまでトータルなソリューションを提供する。

協創のアプローチで低炭素社会へ

電力系統安定化においても,ビッグデータ分析,IoT,AIは必須要素となる。ビッグデータ分析とIoTの活用例としては,電力系統の実際のデータを基に,落雷など系統に影響を及ぼす事故が発生した際には事故点を瞬時に見つけ出し,系統を保護する対策をリアルタイムに算出するシステムを提供している。

「DSMやVPP,さらには発電設備の遠隔制御,故障の予兆診断,スマートメーターによる電力使用量の収集,スマートグリッドなど,電力システムを高度化していく技術にIoTは不可欠です。今後は,AIも活用していくことで,より高度なエネルギーマネジメントなど,新たなアプローチを見つけ出すことも可能になるでしょう。」と,池田CSOはITの活用に期待を寄せる。

ITを活用したエネルギーソリューションの事例では,米国ハワイ州でのNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業がある。

電気自動車の蓄電池としての活用を通し,再生可能エネルギーの効率的な利用や需給変動への対応を実現するスマートグリッド技術の検証を行った(図3参照)。

また,同じく,英国グレーターマンチェスターでは,家庭も含めた地域全体で電力需給調整を行うスマートコミュニティの実証事業に参加した。こうした取り組みで実証された技術やシステムも活用しながら,エネルギーソリューションを国内外に広く提供することをめざしている。

「低炭素エネルギーの普及に向けた取り組みは,電力供給に携わる企業にとっては事業そのものであり,消費者にとっては生活と密接に関わることです。取り組みに伴って生じる課題も,地域や企業によって異なるでしょう。そこで生きてくるのは,日立が進めている協創のアプローチです。お客様の課題を見つけ出し,Lumadaを基盤にお客様や日立が持つ電力システムのOT(Operational Technology)の知見とITをかけ合わせ,課題を解決する低炭素エネルギーソリューションを協創する。それがお客様の企業価値を高めるとともに,結果的に日立の製品・ソリューションを通じたCO2排出量削減につながるのです。」

2050年の目標達成までの道のりは平坦ではないかもしれないが,一つひとつの要素の着実な積み重ねが大きな実を結ぶのは間違いないだろう。

図3│米国ハワイ州マウイ島でのスマートグリッド実証実験

高効率化と小型・軽量化で相乗効果をねらう

製品の使用段階のCO2排出量削減において,もう1つの重要な要素となるのが超高効率プロダクツだ。日立グループには多種多様な製品があり,それぞれ高効率化をめざした取り組みを続けているが,中でも大きな効果が期待できるのが,モータ,変圧器,空気圧縮機,ポンプなどの産業用電機製品である(図4参照)。

製造業のプラントをはじめ,電力システムや水道システム,ビル設備から家電まで,産業や生活を支える基盤に広く利用されていることから,高効率化の効果は社会のあらゆる領域に及ぶ。

それらの製品を手がけるのが,日立製作所のインダストリアルプロダクツビジネスユニットと株式会社日立産機システムである。株式会社日立産機システムの相馬憲一CTOは,インダストリアルプロダクツビジネスユニットの開発本部長を兼務し,部品や材料などに関連するグループ会社や部署と連携しながら,技術開発の陣頭指揮にあたっている。

産業用電機製品の高効率化の効果について,相馬CTOは次のように語る。

「日立の創業製品であるモータは,材料の改良や設計技術の高度化によって,100年あまりの間に飛躍的な高効率化と小型・軽量化を成し遂げてきました。小型・軽量化は省資源につながるだけでなく,輸送の効率も高めます。しかも,モータの高効率化と小型・軽量化は,モータを搭載する機器の高効率化と小型・軽量化にもつながることから,CO2排出量削減の効果が相乗的に大きくなるのです。モータが消費する電力が消費量全体に占める割合は,日本国内で約6割,世界全体では約4割にのぼるという調査結果もあります。それだけ多く使われているからこそ,環境性能を向上させることの意味は大きいと言えるでしょう。」

図4│日立の省エネソリューション日立グループは,変圧器,モータ・インバータ,ポンプ,送風機,空気圧縮機など,超高効率な産業用プロダクツを通して使用段階でのCO2削減に貢献している。

アモルファス変圧器をはじめとする日立独自の高効率技術

日立は,モータをはじめとする産業機器に電力を供給するうえで欠かせない変圧器でも,高効率化を実現している。磁気を通す鉄心部分にアモルファス合金を用いることで,無負荷損失(待機電力)を大幅に削減したアモルファス変圧器だ。

アモルファス合金は,通常の金属のような結晶構造を持たない合金で,電気特性に優れている反面,加工が難しいという課題がある。

「加工に高度な技術を要することから,信頼性の高いアモルファス変圧器を作ることができるのは,世界でも実績が豊富な日立だけです。無負荷損失削減の効果は大きく,日立産機システムの中条事業所で,古い変圧器すべてをアモルファス変圧器に交換したところ,年間の電力使用量を3分の1にまで低減できました。」と,相馬CTOは強調する。

変圧器は20年,30年と長期間使われる製品だけに,CO2排出量の削減効果は非常に大きい。今後数年で多くの社会・産業インフラが更新時期を迎えることから,アモルファス変圧器を導入するメリットを積極的にアピールしていくという。

日立はこの技術をさらに応用展開し,フェライト磁石とアモルファス鉄心を組み合わせたアモルファスモータの開発を進めている。最新のタイプは,薄型でなおかつ効率96?97%と,産業用モータの国際高効率規格の中で最も高いレベルであるIE5を達成した。このモータを搭載することで大幅な小型化に成功した圧縮機をはじめ,薄型で高効率という特性を生かした製品を提供していく計画だ。

インバータの搭載でさらに効率改善

相馬CTOによれば,モータは使用法でさらに消費電力を抑えられるという。

「ポイントとなるのはインバータの活用です。モータで動かしているポンプやファンには,無駄が多くあります。というのは,モータの回転数は一定で,バルブの開け閉めによって水や空気の流量を制御しているからです。インバータを組み合わせてモータの回転数を変えられるようにすれば,8割の流量ですむときは回転数も8割に下げられます。モータの消費電力量は回転数の3乗に比例して増えるため,回転数を少し下げるだけでも,大きな省エネルギーになるのです。」

インバータという名称はよく耳にするため普及している印象だが,ファン,ポンプ,圧縮機への装着率は17%にすぎない(2014年度,日本電機工業会調べ)。モータの高効率化と併せてインバータ化を進めることで,消費電力を削減できる余地は大きい。日立は,インバータ単体だけでなく,インバータ一体型の各種機器を提供し,顧客の導入にかかる手間を低減することで,普及を後押ししている。

モータや変圧器はまだまだ進化する

機器の使い方による消費電力削減においても,IoTの活用を始めている。相馬CTOは次のように展望する。

「産業分野では,生産設備のオートメーション化を一歩進め,すべての機器,さらには人もネットワークでつながることで,よりスマートなものづくりを実現していく第4次産業革命が始まっています。IoTやAIによって,現場のさまざまなデータを見ながら空調を自動的に最適制御したり,生産ラインをエネルギー効率よく動かしたりするのはもちろん,今後は国内外にある複数の工場につながりを拡大し,CO2排出量や輸送・調達効率などの観点から,その時点で最適な工場を選んで生産することなども可能になると考えています。」(図5参照)

さらに,Lumada上で機器の生産過程や使用過程のデータを集めて解析することによって,設計や製造のプロセスの効率化や生産性の向上はもちろん,これまでになかったような高効率化のアイデアが生み出されるかもしれない。

「モータや変圧器は地味な製品なのですが,まだまだ進化の余地があり,CO2削減に向けて貢献できるはず」と相馬CTOが期待するように,基盤製品の進化は,社会全体のイノベーションへとつながる大きな可能性がある。

発電と送電というエネルギーの供給サイドと,それを利用して産業や社会を動かす需要サイドの両面で,徹底したCO2排出量削減を推し進めることで,社会全体の低炭素化に貢献していく日立の取り組みを紹介した。地球環境問題をイノベーションの原動力にし,持続可能な社会への先導役としての使命を携え,その先の社会課題の解決に向けて,日立グループは不断の努力を続けていく。

図5│日立のスマートなものづくり日立グループは,産業分野のIoT化の潮流に対応し,高性能な制御とシームレスなネットワークを同時に実現するスマートなものづくりを提案している。

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