日立評論

デジタル時代のイノベーションを実現する顧客協創

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ハイライト

センサーやIoTの急速な普及・拡大は,地理的・時間的な制約を解消し,新たなサービスや事業モデルの創出を加速させている。

社会イノベーション協創センタは,顧客やさまざまなステークホルダーとの対話を通じて見いだした課題に対し,必要な技術を見極めて開発・活用し,解決方法を提案・実証することによるイノベーションをめざしている。最近では,あらゆる分野でデジタル化が進み,変革のスピードが速くなる中で,グローバルにその機会が拡大しており,デジタル時代にふさわしい社会イノベーション創生活動を強化している。

目次

執筆者紹介

船木 謙一Funaki Kenichi

  • 日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長
  • 博士(工学)
  • INFORMS(The Institute for Operations Research and the Management Sciences)会員
  • 日本経営工学会会員
  • 日本オペレーションズ・リサーチ学会会員

1. デジタル時代のイノベーション

センサーやIoT(Internet of Things)の普及・拡大により,収集したさまざまなデータからデジタルモデルが生成され,安価・高性能なネットワークでつながることで,地理的・時間的制約を越えたモデルの参照,複製,加工が可能となり,新しいサービスや事業モデルを生み出せるようになってきた。このようなデジタル時代にイノベーションを起こすアプローチを,ここでは「Pure digital」と「Plus digital」という視点で考える。

Pure digitalなイノベーションは,人々の生活や企業の業務,社会や自然に関するデータから生成したデジタルモデルにより,人の行動や業務プロセス,意思決定を飛躍的に刷新し,新しい商品・サービスによって大きな価値を生み出す。一方,Plus digitalは,家庭や会社,街などで使う設備や機器(アセット)にデジタル技術を付加することで,当該アセットの性能や効率を圧倒的に引き上げ,新しい機能やサービスで価値を創出するものである。

社会イノベーション協創センタ(Global Center for Social Innovation:以下,「CSI」と記す。)は,Pure digitalとPlus digitalの両面で日立の事業部門と連携し,顧客やパートナーとの協創を通じて,デジタル時代のイノベーションの実現に貢献していく。以下に,それぞれのアプローチで進めている取り組みを紹介する。

2. 協創によるイノベーションの取り組み

2.1 保険弱者の解消(Pure digital)

少子高齢化が進む一方で,社会保障費が膨らみ続ける日本では,いかに効率的・効果的なセーフティネットを用意するかが重要である。中でも,持病や病歴などを理由に生命保険に加入できない保険弱者の問題が大きくなりつつある。

この問題に対し,CSIは日立の金融ビジネスユニットとともに,生命保険会社との協創活動に取り組んでいる。その第一歩として,日立が持つ病態遷移研究の知見に基づくデジタルモデルと,保険会社が持つ医療保険のリスク評価モデルを融合し,今まで保険に加入できなかった持病や病歴を持つ加入希望者に対し,加入者負担と保証レベルを見て適切な保険商品の提示ができるようにした(図1参照)1)

また,将来の保険は,保証に加えて予防に貢献することをめざすというビジョンを見定め,食品産業やフィットネス産業などとデジタルに連携することで,疾病の早期発見や健康増進をサポートするプロアクティブ型サービスへの拡張を検討していく2)

図1|日立と顧客(保険会社)のデジタルモデルの融合による保険商品のイノベーションヘルスケア分野で培った日立の病態遷移研究の知見を保険分野に活用し,保険加入者の持病・病歴に応じた保険商品の提供を実現する。

2.2 アセットの価値向上(Plus digital)

工場設備のほか,鉱山や油井で使用される装置,鉄道車両,トラックなどの輸送機器は,企業の生産性を決める要である。これらのアセットにデジタル技術を加えることで,その状態や使われ方を監視・診断し,稼働率向上につなげる取り組みが広がりつつある。しかし,実際には使い方によって見るべきデータや判断方法が異なるため,実効果を上げるには,顧客との対話により,使用環境や周辺業務を理解する必要がある。

例えば,CSIでは鉱山会社の協力を得て,鉱山機械やフィールドのデータを用いた,故障予兆の検知や保守手順の最適化による稼働率向上の取り組みを進めている。さらなる価値創出に向けては,鉱山機械の周辺業務の理解も深め,顧客の業務全体としてのROA(Return on Asset)向上や事業拡大に貢献するソリューションを検討するというステップで進めている。

CSI北米を中心に,アナリティクス技術やデジタルモデルを蓄積し,鉱山機械のほか,油井などで用いられるフィールド機器,物流分野の輸送機器などさまざまな業界に適用するとともに,日立のIoTプラットフォーム「Lumada」でサービスを提供していく3)

3. デジタル時代の顧客協創の方向性

3.1 「NEXPERIENCE」によるデジタルベースのイノベーションデザイン

デジタル時代のイノベーション創出には,顧客との協創活動もデジタルにする必要がある。CSIでは,これまでの経験や蓄積したノウハウに基づき,イノベーションのアイデアやシナリオ,事業構想をデジタルモデル化し,シミュレーションによって効果や価値を検証し,マネーフローや投資回収などの事業性も評価可能な方法論「NEXPERIENCE」を構築してきた4)。前章で述べた事例も含め,製造,エネルギー,金融など多くの分野に活用中である(図2参照)。

図2|NEXPERIENCEのデジタルツール顧客の事業機会/顧客課題発見から,マーケティング/ソリューションの効果シミュレーション,ビジネスモデル設計まで,デジタルにつながる方法論を構築する。

3.2 システムの進化による価値の拡大

現在は,Pure digitalとPlus digitalのイノベーションが並行して起きているが,やがて相互につながるシステムとなり,大きな価値を生むサービスや事業モデル,社会システムとして進化していくものであると考えられる。これは,一つのシステムが他の複数のシステムとつながり共生することで,より大きな価値を生む,社会イノベーションがめざす姿である。

4. 地域を越えたイノベーションを促進するグローバルネットワーク体制

デジタル化により,新しいサービスや事業モデルが地理的制約を越えて瞬く間に広がる時代になると,技術シーズが生まれる場所と,技術を使ってイノベーションを起こす場所が必ずしも一致しないことがある。CSIは日本のほか,北米,欧州,中国,APAC(Asia-Pacific)に拠点を配し,世界各地域で技術動向とイノベーションのニーズの両面にアンテナを張り,相互に連携しながら適地での社会イノベーションを促進する体制を整えている。例えば,北米の「Financial Innovation Laboratory」で培った技術を,各地域のアプリケーションへ展開することや,先進国で培ったコネクテッドカーの技術を,人口増に伴う移動手段高度化のニーズがある新興国で先に実証することが考えられる。

また,デジタルソリューション事業のグローバル展開をIoTプラットフォームと顧客協創サービスで支えるHitachi Insight Groupと連携し,各地域のCSIが連携したネットワーク体制(Insights Laboratory)により,地域を越えたイノベーションを促進していく。

5. おわりに

本稿では,デジタル時代のイノベーションの実現に向けた取り組みを紹介した。デジタル化は地理的制約を越えたサービス拡大を加速する。

CSIは,今後も顧客やパートナーと一緒に,新しいサービスや事業モデルの創生に貢献していく。

参考文献など

1)
日立ニュースリリース,第一生命と日立が「医療ビッグデータ」活用の共同研究を開始(2016.9),http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2016/09/0906.html
2)
新家隆秀,外:IoTを活用した新たな保険サービス創出への取り組み,日立評論,98,9,571〜574(2016.9)
3)
C. Gupta,外:IoTプラットフォームを基盤とした顧客協創による予知保全ソリューション,日立評論,98,7-8,472〜477(2016.8)
4)
石川奉矛,外:顧客協創方法論「NEXPERIENCE」の体系化,日立評論,97,11,659〜664(2015.11)
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