日立評論

Hitachi Rail Innovation

デジタル技術を活用した鉄道サービスの未来像

ページの本文へ

Hitachi

日立評論

快適な「まち」の移動を実現するモビリティ

Hitachi Rail Innovation

デジタル技術を活用した鉄道サービスの未来像

ハイライト

国内の鉄道事業は,運輸収入の伸び悩みや技術継承の課題を抱える一方,インバウンド需要や価値観の多様化など,新たなニーズを取り込み発展する可能性も秘めている。日立は,一つの方向性を示唆すべく,フラットな視点で鉄道サービスの未来像を検討し,構想をまとめた。

目次

執筆者紹介

森本 寛之Morimoto Hiroyuki

  • 日立製作所 公共社会ビジネスユニット 社会システム事業部 企画部 所属
  • 現在,鉄道系情報システムの事業企画に従事

江口 俊宏Eguchi Toshihiro

  • 日立製作所 公共社会ビジネスユニット 社会システム事業部 企画部 所属
  • 現在,鉄道系情報システムの事業企画に従事

荒木 信吉Araki Shinkichi

  • 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 製品デザイン部 所属
  • 現在,鉄道・自動車関連のインタフェースデザインに従事

藏田 孝二Kurata Koji

  • 株式会社日立コンサルティング
  • イノベーションコンサルティング部 所属
  • 現在,製造業や社会インフラの将来構想策定や新規事業企画・推進に関わるコンサルティング業務に従事

平田 博之Hirata Hiroyuki

  • 日立製作所 公共社会ビジネスユニット 社会システム事業部 所属
  • 現在,事業主管として鉄道分野の経営戦略立案と推進に従事

1. はじめに

日本で鉄道が開業して約140年が経過した。その間,蒸気機関から気動車・電車への転換や,事故を教訓とした安全対策の強化,新幹線開業などの高速化,都市部の輸送力増強などが行われてきた。鉄道事業は日本の高度経済成長と人口増加に合わせて発展してきたが,現在の日本の社会は成熟期を迎え,鉄道事業を取り巻く環境が変化してきている。

近年の鉄道事業では,人口減少に伴う運輸収入の伸び悩みや労働力不足,トンネルや橋梁(りょう)などのインフラ老朽化,テロ対策や省エネルギーの推進といった新たな課題が顕在化している1),2)。しかし同時に,訪日外国人をはじめとした観光客の増加,ソーシャルメディアやシェアリングエコノミーの拡大,人々の価値観の多様化など,新たな需要を取り込むことで発展する可能性も秘めている3),4)

一方で,近年のIoT(Internet of Things)をはじめとするデジタル技術の発展は目覚ましく,金融・製造・医療などさまざまな分野で新たなサービスが生まれており,鉄道分野に関しても,先に述べた課題やニーズに対してデジタル技術で解決できる段階にきている。

そこで日立は,鉄道の総合ソリューションプロバイダとして,日本の鉄道事業者が抱える課題やニーズに対して,デジタル技術を活用した解決策を提示し協創することで,鉄道事業者の発展に寄与することができると考え,鉄道サービスの未来像を構想にまとめた。

2. デジタル技術を活用した鉄道サービスの未来像

成熟期を迎えた日本において,鉄道事業にはこれまでの積み重ねによる継続した発展に加え,社会の変化に合わせた新たな発展が求められる。日立はPEST分析※1)を行い,これからの鉄道サービスの発展の方向性として以下に述べる3つのコンセプトを策定した。

(1)さらなる信頼性の向上
安全・安定輸送は鉄道輸送の根幹であり,成熟した社会では,より重要視されると考える。労働力不足や設備の老朽化に対して新たなテクノロジーで対応しつつ,列車内や駅構内を含めた広い範囲で安全を確保しながら安定的な輸送を実現し続けることが重要である。
(2)社会との一体化・地域貢献
環境保全や省エネルギーの推進,交通弱者対応,地域活性化などは近年の社会課題であり,鉄道事業はそれらの課題と密接に関係している。鉄道事業者単体で解決できる課題もあるが,企業や業種の枠を越えて連携することで,多様かつ複雑な課題を解決できると考える。今後の鉄道事業には,より一層人と社会に寄り添い発展する姿が求められる。
(3)多様化する価値観への対応
人々の価値観や生活スタイルが多様化し,訪日外国人が増加する中で,それらに対応する新たなサービスが求められる。誰でも使いやすいチケットの実現,誰にでも分かる案内サービス,鉄道を活用した体験型のサービスなど,多様化するニーズに応えるサービスを実現することで,鉄道事業は需要を取り込み発展できる。
※1)
Politics(政治),Economy(経済),Society(社会),Technology(技術)の4つの頭文字を取った分析手法の名称。経営戦略や事業戦略の策定を行う際に,自社を取り巻く外部環境が,現在または将来にどのように影響するのか,把握・予測するためのもの。

3. 未来像を実現するソリューション群

鉄道サービスの未来像を3つのコンセプトに定め,それを実現するためのデジタル技術を活用したソリューションとして,5カテゴリー12ソリューションを導出した(表1参照)。

「Hitachi Rail Innovation〜デジタル技術を活用した鉄道サービスの未来像〜」の全体イメージとして図にまとめたものを冒頭に示した(図1参照)。

本章では,スマートトランスポート,スマートナビゲーション,チケッティングサービス,スマートメンテナンスの4カテゴリーのソリューションについて概要を述べる。

表1|鉄道サービスの未来像を実現するソリューション群3つのコンセプトと5カテゴリー12のソリューションの関係性を示す。

図1|「Hitachi Rail Innovation〜デジタル技術を活用した鉄道サービスの未来像〜」の全体イメージデジタル技術を活用した12のソリューションにより,人や社会の課題やニーズに応える鉄道サービスが実現される。

3.1 スマートトランスポート

現在のダイヤに沿った運行では急激な旅客需要の変化への対応が難しいケースがある。また,個々の事業者のダイヤの適正化は進んだが,事業者間連携によるスムーズな乗り換えや二次交通を含めた利便性には課題が残っている。

次世代では,需要に応じた柔軟な輸送力の確保や,出発地から目的地までのドアtoドアの移動をサポートする輸送サービスが実現される(図2参照)。需要に応じた輸送力を確保するために,ベースダイヤを設定し,リアルタイムな需要の変動に合わせて,列車本数や編成数の増減や列車の運行間隔を自動調整する。このサービスにより,鉄道利用者に快適性が提供されるだけでなく,鉄道事業者にとっては輸送コストを適正化する効果が期待できる。

ドアtoドアの輸送サービスを提供するため,都市全体の交通事業者の運行状況を中央で一元的に把握し,鉄道やバスなどをリアルタイムな旅客の需要予測に基づいて運行する。輸送障害が発生した場合は,代替ルートの増発を行うことで,総需要に応える輸送力を事業者横断で確保する。旅客に対しては運行状況や混雑状況に応じた適切な経路を案内することで,出発地から目的地までのスムーズな移動がサポートされる。

これらを実現する要素技術の一つとして自動運転が挙げられる。自動運転にはヒューマンエラー防止による安全性向上,人件費抑制などさまざまな利点があるが,乗務員の制約がない増減発への対応が可能となるのも利点の一つである。

日立では,駅に設置されたセンサーから駅の混雑度を可視化・分析し,乗客数の増減に応じて列車の運行本数を自動で最適化する技術を開発中であり,現在海外で実証実験を行っている5)

このように,需要に応じた輸送力の確保と人々の出発地から目的地までのドアtoドアの輸送が実現されることで,鉄道の利便性と快適性を高めることができる。

図2|スマートトランスポートの実現イメージ交通事業者間が密に連携し,出発地から目的地までドアtoドアの輸送サービスが提供される。

3.2 スマートナビゲーション

外国人旅行者や高齢者など一人一人の必要とする情報が異なる中で,各個人への案内やサポートを必要とする声が高まっている。一方,輸送障害時の混雑や旅客への情報提供不足などに対する不満が生じているケースもある。次世代では,ロボットや高度なセンサー技術の活用により,平常時・異常時を問わず旅客一人一人に寄り添った案内サービスが提供される(図3参照)。

個人に対する案内は,移動型ロボットや対話型サイネージなどにより,駅係員が不在でも必要な場所とタイミングで最適な情報が提供できるようになる。ロボットはカメラやセンサーで人の表情や身体的特徴を検知し,多言語・対話型の案内を提供することで,個々人が必要とする案内サービスが提供される。

個人に対するサポートは,ロボットの他に駅構内や列車内に取り付けた各種センサーやカメラで情報をリアルタイム分析することで,車椅子使用者など困っていそうな人の検知を行う。分析結果を基に誰がどのような対策をすべきかAI(Artificial Intelligence)が判断し,必要に応じて係員やロボットを現地に急行させることで,旅客をサポートする。

豪雨などの災害による輸送障害時は,旅客それぞれのニーズに合った迂(う)回ルートや復旧予測などの情報が提供される。これまで人手で行っていた運行計画の変更は自動化され,影響範囲を最小限に抑えた復旧計画が速やかに策定され,各旅客の状況に沿って速やかに提供されることで,輸送障害時の混乱は低減される。

日立では,公共スペースや商業施設などにおいて,対話型ヒューマノイドロボット「EMIEW3」を用いた接客・案内サービスの実証実験を進めている。また,駅の混雑状況などを視覚的かつタイムリーに確認できるよう,駅構内カメラ映像をプライバシーに配慮した形に加工処理した画像を,スマートフォン向けアプリに配信するサービスが実用化されている6),7)

このように,個人に対する案内やサポート,異常時の混乱の低減を図ることにより,旅客一人一人のニーズを満たすサービスが実現される。

図3|スマートナビゲーションの実現イメージ旅客一人一人に寄り添った案内サービスが実現される。

3.3 チケッティングサービス

チケットの予約から乗車,決済までの利便性を高めるため,1枚のチケットで鉄道事業者はもとより,飛行機やバスなどすべての交通機関で利用できるシングルチケットが次世代では実現される(図4参照)。

予約の際は,すべてのチケットを国内外からワンストップで購入できるようになる。これにより複数の窓口やサイトにアクセスする必要がなくなる。また,需要と供給のバランスに応じてダイナミックに料金が変動するようになり,利用者・鉄道事業者双方にとってメリットがある柔軟な価格設定が実現される。

購入したチケット情報は上位のセンターで一元管理され,クレジットカードなどの個人情報とひも付けられる。これにより,従来のチケット媒体の発行は必要なくなり,指静脈などの生体情報をセンターに登録しておけば,旅客はチケット媒体を持たずに指静脈認証ゲートの入出場が可能となる。

通勤電車など予約の必要がない交通機関を利用する際は,ゲートで入出場記録を取り,上位のセンターで乗車区間と料金を自動計算し,後で口座から引き落とす。複数事業者をまたがる乗車の場合は,事業者間の精算も自動で行われる。

このように,チケット情報や個人情報を上位のセンターで一元管理することによって,生体認証などによりすべての交通機関が利用できるようになる。

図4|チケッティングサービスの実現イメージ事業者横断チケットのワンストップでの予約・購入と,一つのIDで事業者を横断した移動が実現される。

3.4 スマートメンテナンス

鉄道事業は車両・軌道などの保守にかかる費用の割合が大きい。国内鉄道各社の費用を分析したところ,営業費用の約3割が保守にかかる費用であった。加えて近年は,設備の老朽化や労働力不足により,メンテナンス業務の効率化が重要な課題となっている。そこで,点検業務の効率化やデータ利活用,技術継承を目的としたナレッジ獲得,ロボティクスなどによる現場支援により,メンテナンス効率化を実現する(図5参照)。

車両や設備に付けたセンサーを用いてリアルタイムに状態を監視することで,人手による点検コストの削減と点検の高頻度化が実現され,点検が効率化する。異常箇所は自動でアラームで知らせたり,収集した情報を直感的に理解しやすい形に可視化したりすることで,その後の保守作業へ活用しやすくする。

収集したデータを解析することで,車両や設備の故障予兆検知を行い,適切なタイミングで保守できるようにする。CBM※2)(Condition Based Maintenance)によるメンテナンスを行うことで,事故の未然防止や,大きな故障に至る前の初期の段階での修理が可能になる。ただし,すべての車両部品や設備がCBMに移行できるとは限らず,従来のTBM※3)(Time Based Maintenance)による保守と組み合わせながら効率化が図られる。

技術継承に関しては,ベテラン作業員の暗黙知情報を蓄積し可視化することでナレッジを獲得する。打音による異常検知や複数のデータを踏まえた総合的な故障判断など,ベテラン作業員の感覚に頼っていた作業を見える化し,経験が浅い作業員でも高度な作業が実施できるようになる。

現場支援では,省力化や作業員の安全確保を目的としたロボットの導入,タブレットやウェアラブル端末によるナレッジ活用など,労働人口の減少を見据えた省力化が実現される。

これらのソリューションにより,メンテナンス品質を向上しつつ,効率化によるコスト削減と省力化が実現される。

図5|スマートメンテナンスの実現イメージメンテナンス効率化に向け保守業務の改善サイクルが確立される。

※2)
「状態監視保全」とも呼ばれる。設備に対して,劣化状況や故障リスクを考慮してメンテナンス要否を判断し,故障や使用限度前にメンテナンスを実施する考え方。
※3)
「定期保全」とも呼ばれる。設備に対して,一定の時間間隔でメンテナンスを行う考え方。

4. おわりに

鉄道の未来像をいくつかの鉄道事業者に紹介したところ,鉄道業界の発展や人々の利便性向上といった観点からは,日立が示した未来像に対しておおむね共感できるという評価を受けた。一方で鉄道事業者間での連携が必要なサービスや,投資対効果が不明確なサービスもあるなどの指摘もあった。提案や紹介は継続して推進しており,いくつかの協創事例も生まれている。

鉄道の未来像は将来の鉄道サービスの方向性を示唆したものである。よって本稿で紹介した個々のソリューションは必ずしも完成形ではなく,技術の進歩や鉄道事業者との協創の過程で形を変えながら実現されるものである。

日立は,鉄道の総合ソリューションプロバイダとして,鉄道事業者のニーズを取り込みながら,この未来像の実現に向けて協創していく。

参考文献など

1)
国土交通省:鉄道統計年報[平成26年度](2014)
2)
国土交通省:交通政策白書 平成27年度交通施策(2015)
3)
観光庁:訪日外国人消費動向調査(2016)
4)
野村総合研究所:生活者1万人アンケートにみる日本人の価値観・消費行動の変化(2015)
5)
日立ニュースリリース,アンサルドSTS社が,コペンハーゲンメトロにおける日立の技術を活用した実証実験の覚書をMetroselskabet社と締結(2017.6)
6)
松隈信彦,外:公共交通における人流技術の活用,日立評論,98,10-11,630〜631(2016.11)
7)
日立ニュースリリース,東急電鉄が駅構内カメラ画像配信サービス“駅視-vision(エキシビジョン)”を正式に開始〜日立の画像データ加工技術を活用し,駅混雑状況の視覚的,かつタイムリーな把握を実現〜(2016.9)
Adobe Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe® Reader®が必要です。