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水・環境

インダストリー

1. 水環境ソリューションの概要とめざす方向

日立グループは顧客の「社会価値」,「環境価値」,「経済価値」を同時に高めることで,社会課題の解決と人々のQoL(Quality of Life)向上の両立をめざす,「社会イノベーション事業」を加速している。

その中で,生命に不可欠な水とその周辺環境においては,課題を総合的に解決する「水環境ソリューション」事業を推進している。具体的には計画・経営支援,維持管理支援,監視制御,水処理プロセスなどの技術やシステム,サービスを連携させることで課題の解決に貢献する。水インフラの運用・制御技術であるOT(Operational Technology)やプロダクト・システムだけでなく,LumadaをはじめとするITやデジタル技術の活用も積極的に進めており,水需要の予測,水質シミュレーション,設備や管路の管理支援,熟練職員の技術継承支援などの取り組みを加速していく。

水源保全や治水・利水,水道や工業用水,下水道や産業排水,造水や水再生など,幅広い分野で健全な水環境の実現に寄与するとともに,Society 5.0,さらにはSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成をめざす考えである。

[1]水環境ソリューションのめざす方向[1]水環境ソリューションのめざす方向

2. 茨城県企業局県中央水道事務所(水戸浄水場)中央監視制御設備

[2]県中央水道事務所(水戸浄水場)の中央監視制御設備[2]県中央水道事務所(水戸浄水場)の中央監視制御設備

茨城県企業局では県内を「県南」,「鹿行」,「県西」,「県中央」の4地域に分け,広域的に水道用水供給事業を行っている。その中で,県中央水道事務所(水戸浄水場)は県内を流れる那珂川の表流水を水源とし,県庁所在地である水戸市をはじめとする10市町村1企業団に給水している。

水戸浄水場の監視制御設備は,浄水場の場内設備のほか,1か所の取水場,3か所の増圧ポンプ場,17か所の配水場が対象である。今回,監視制御設備の老朽化に伴い,信頼性の向上,運転監視業務の効率化を目的に水戸浄水場および取水場の監視制御設備の一括更新を行った。

更新した監視制御設備の特長は,以下のとおりである。

  1. 水戸浄水場に,同じ県中央地区にある涸沼川浄水場との通信を行う装置を設置し,水戸浄水場が監視制御している配水場の情報を共有可能とした。これにより県中央地区の一体的な運用を可能とした。
  2. 取水場に他自治体との通信および取水設備を制御するコントローラを設置することで,他自治体との共同取水を可能とした。これにより個別に取水する場合と比べ,使用するポンプ台数を減らすことができ,効率的な運用を実現した。

(運用開始時期:2019年3月)

3. 函館市企業局 O&M支援デジタルソリューションの適用および実証

[3]函館市内の水道管理施設[3]函館市内の水道管理施設

国内の水道事業は,施設の老朽化や技術継承などさまざまな課題に直面している。これらの課題を背景に,日立グループは,官民連携強化とクラウドを活用した「O&M(Operation and Maintenance)支援デジタルソリューション」に取り組んでいる。

2018年度から,一部管理業務を受託している函館市赤川系浄水場および東部地区水道施設を対象に「O&M支援デジタルソリューション」の実証を開始した。本ソリューションは,監視制御システム,点検用タブレット端末,データセンターなどを連携させ,設備点検支援,機械学習を活用した水量管理,反応モデルによる残留塩素演算などを提供する。これらの提供により,以下の2点が可能となる。

  1. 広域にわたる複数の水道設備の効率的な保全管理
  2. 水処理方式が異なる赤川系浄水場の適切な水量・残留塩素管理

今後,2019年に一括受託した函館市水道設備更新および運転・保全管理業務(2021年4月開始)の中で,「O&M支援デジタルソリューション」を活用・拡大し,持続可能な事業運営に貢献していく。

4. 凝集沈殿処理プロセスの凝集剤注入率決定支援

国内水処理市場では,地方自治体の財政難・人口減少により,施設運営の民営化・広域化が進みつつあり,ICT(Information and Communication Technology)を活用した運転管理ノウハウの継承,教育ツールの拡充,業務のスキルフリー化が期待されている。

日立が維持管理業務を受託している浄水場では,これらの課題に対してAI(Artificial Intelligence)を活用した凝集剤使用量の適正化を提案し,取り組んでいる。従来の凝集剤注入量の決定は,過去の運転経験と現在の水質から相対的に注入量を調整する熟練作業となっている。一方,運転現場では,高齢化による熟練技術者不足が顕在化しつつある。

今回,浄水場における凝集剤注入量の適正化を目的に,運転履歴データの機械学習による凝集剤注入率の試算方法を開発した。この手法は,クラスタ分析により運転履歴データの運転実績の傾向を分類し,得られた各クラスタを浄水場の運転パターンと捉え,目標濁度での運転維持を図る凝集剤注入率を試算する。

今後,浄水場の運転履歴データを自動で取得するシステムを構築し,現場適用を重ねて浄水場の運用支援に活用していく。

(株式会社日立プラントサービス)

[4]凝集沈殿処理プロセスの凝集剤注入率決定支援[4]凝集沈殿処理プロセスの凝集剤注入率決定支援

5. 南アフリカにおける海水淡水化・下水再利用統合システムの実証事業

海水淡水化・下水再利用統合システム「RemixWater」は,海水淡水化プロセスと下水再利用プロセスを統合することで,従来プロセスに比べて大幅な省エネルギー化と海洋環境への負荷軽減を実現する特徴技術である。

この技術は,下水再利用プロセスから出る排水の再利用という多重再利用プロセスであることから,SDGsへの貢献も期待できるものであり,渇水地域のみならず,先進国や地球環境保全に意欲を示すアジア,アフリカ,島嶼(しょ)国などからも注目されている。

日立は2015年2月にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)より「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業」を受託し,本技術に強い関心を示した南アフリカ共和国のダーバン市とともに,同市において実証事業を開始した。2019年度中に造水量6250 m3/日の実証プラント建設を完了予定であり,その後約1年間の実証運転を予定している。

[5]RemixWaterのシステムフロー(左),建設中のRemixWaterプラント(右)[5]RemixWaterのシステムフロー(左),建設中のRemixWaterプラント(右)

6. 新規油分解微生物製剤を用いた高効率食品排水処理技術

食品排水中の油脂は,処理設備において浮上分離装置などにより除去されているが,油脂成分が多い場合,処理水質の維持や汚泥の廃棄処分費用の増大が顧客の課題となっている。

今回,動植物由来の油脂を対象に油を効率よく分解する新たな微生物製剤(製造元:日産化学株式会社)を使用し,排水中の油脂分解性能について基礎的な評価とフィールド実験を実施した。

本製剤には,油脂を分解する2種類の微生物が含まれている。一方の微生物(バークホルデリア)が酵素(リパーゼ)によって油脂をグリセリンと脂肪酸に分解する。次に他方の微生物(ヤロウィア)が脂肪酸を分解して資化する。排水処理設備に適用する際には,自動培養装置を現場に設置し,本製剤から微生物を培養して排水中に添加する。研究の結果,高濃度の油脂に対しても高い分解性能を示すことを確認し,油脂の効率的な処理と汚泥発生量の減少が期待できることが分かった。

今後は,主に食品工場を対象に本製剤をPRし,既存の排水処理設備への本製剤の導入提案を進める。

(株式会社日立プラントサービス)

[6]微生物製剤を用いた排水処理フロー[6]微生物製剤を用いた排水処理フロー

7. 医薬工場向けH2O2ガスによる除染エンジニアリング技術

医薬・無菌製剤工場では,ロット切り換え時などに生産ラインを覆っているブース内を除染(殺菌)することが一般的であり,除染剤としては,毒性が低く,残留性が少ない過酸化水素(H2O2)が多用されている。H2O2除染は,「除湿」→「濃度上昇」→「除染」→「エアレーション」という手順で進む。除染設備の設計,除染条件の決定にあたっては,各除染工程におけるH2O2濃度,湿度,処理時間の設定が重要であるが,中でもH2O2経時濃度変化予測が不可欠である。

そこで,近年需要が増加している閉鎖系アクセス制限バリアシステムを対象に,濃度上昇工程やエアレーション工程の濃度を解析する手法を構築した。解析除染対象物質表面からのH2O2分子の吸着・脱着をモデル化したことにより,H2O2濃度の上昇過程では実測値と解析値の差の平均が22 ppmで予測できた。構築した解析法により,H2O2ガス発生装置の選定・運転条件の設定といった除染エンジニリングが可能となった。

今後,さまざまな条件でのデータ蓄積とシミュレーションへの反映による精度向上,適用範囲の拡大(再生医療・チェンジオーバー時の部屋全体除染へ対象拡張)をめざす。

(株式会社日立プラントサービス)

[7]閉鎖系アクセス制限バリアシステム適用例[7]閉鎖系アクセス制限バリアシステム適用例

8. デジタル施工における自動墨出しロボットシステム活用

[8]自動墨出しロボットシステムの概要[8]自動墨出しロボットシステムの概要

建設現場での少子高齢化による熟練技術者不足や働き方改革の実現に対応するため,複数の熟練者を要した作業の自動化を可能にする,自動墨出しロボットシステムを開発した。

配管やダクト,天吊機器といった設備機器の据付け工事では,据付け位置を床面に描画する墨出し作業を行っているが,現場での図面確認や計測などの熟練技術が必要なため,効率化やスキルフリー化が求められていた。

このシステムの主な機能は以下のとおりである。

  1. CAD(Computer-aided Design)[BIM(Building Information Modeling)]図面から墨出し位置を抽出し,ロボットの動作データを自動で作成する「墨出しデータ作成アプリ」
  2. AIによって適切な墨出し順序を作成し,ロボットの自動走行を設定,指示,監視する「コントロールアプリ」
  3. 自動追尾型計測機との連携によって,高精度な自己位置認識が可能な「自動墨出しロボット」

社内現場適用(8件)の結果,墨出し精度±3 mm,墨出し速度3分/点を実現し,例えば,2工数(2人×1日)の作業を0.5工数(1人×半日)に省力化できた。現在,社外ユーザーへの提供を目的に,信頼性や品質を向上した量産機の設計を推進中である。

(株式会社日立プラントサービス)

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