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ハイライト

グローバルに事業を展開する企業において,各地域で稼働している製品からIoTデータを収集して利活用し,新たなビジネス価値を創出する機運が高まっている。一方で,実際にグローバルなIoTビジネスを実現するためには,各地域でのIoT回線の調査・契約やデータ収集・蓄積システムの構築・運用,法令対応などが必要であり,そこには多大な工数とコストがかかっていた。日立は,顧客がコアコンピタンスの創出に専念できるように,グローバルIoTビジネスの展開に必要な機能をトータルサポートするグローバルIoTサービス「Hitachi Global Data Integration」を提供する。

本稿では,Hitachi Global Data Integrationの提供価値や,グローバルでのIoTサービスを実現するための各種技術,導入イメージ,今後の展望について説明する。

目次

執筆者紹介

板宮 高志Itamiya Takashi

板宮 高志 / Itamiya Takashi

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 社会・通信ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 所属
  • 現在,グローバルIoTサービスプラットフォームのマーケティング・販売に従事

石川 雄大Ishikawa Yudai

石川 雄大 / Ishikawa Yudai

  • 日立製作所 社会ビジネスユニット 社会システム事業部 社会・通信ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 所属
  • 現在,グローバルIoTサービスプラットフォームを活用したシステムインテグレーションに従事

木下 雅文Kinoshita Masafumi

木下 雅文 / Kinoshita Masafumi

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ コネクティビティ研究部 所属
  • 現在,グローバルIoTサービスプラットフォームの研究開発に従事
  • 博士(情報科学)
  • 電子情報通信学会会員
  • 情報処理学会会員

郡浦 宏明Konoura Hiroaki

郡浦 宏明 / Konoura Hiroaki

  • 日立製作所 研究開発グループ デジタルテクノロジーイノベーションセンタ コネクティビティ研究部 所属
  • 現在,グローバルIoTサービスプラットフォームの研究開発に従事
  • 博士(情報科学)
  • 電子情報通信学会会員

1. はじめに

近年,IoT(Internet of Things)の進展により,IoTデバイス数と蓄積データ量は加速度的に増加しており,それらのデータ利活用によるビジネス創出や社会課題解決の機運が高まっている1)。自動車や産業機械などの製品をグローバルに出荷する企業においては,各地域で稼働している製品から収集したIoTデータの利活用を通じ,運用保守業務の効率改善や新規サービス立案などのビジネス価値創出が期待されている2)

一方で,実際に各地域で稼働している製品からIoTデータを収集して利活用するためには,地域ごとのIoT回線※1)の調査・契約やデータ収集・蓄積システムの構築・運用,さらにはIoTデバイスの管理,IoTデータの管理などさまざまな準備が必要となる。また前述のとおり,IoTデバイス数および,そこから発生するデータ量は加速度的に伸びていくことが想定されており,IoTを活用するプラットフォームには必然的に,大容量かつスケーラブルといった要件が求められる。顧客自身がこれらすべてに対応することは容易でないため,グローバルなIoTデータ利活用を始める前の高いハードルとなっていた。

そこで日立は,グローバルIoTビジネスをトータルでサポートする,グローバルIoTサービス「Hitachi Global Data Integration」を提供する。以降では,サービスの概要と,サービスを実現している技術,導入イメージについて紹介する。

※1)
IoTデバイスからデータを収集するネットワーク回線。

2. Hitachi Global Data Integrationのサービス概要

図1|Hitachi Global Data Integrationのサービス概要 図1|Hitachi Global Data Integrationのサービス概要 Hitachi Global Data Integrationのサービス全体像を示す。各通信事業者が提供するIoTプラットフォームを集約し,IoTデータを収集・蓄積・利活用する仕組みをトータルで提供可能なため,IoTデータを活用した新サービスの早期実現に貢献できる。

Hitachi Global Data Integrationのサービス概要を図1に示す。このサービスは,IoT回線提供と管理機能を備える「回線接続サービス」と,IoT回線を介して収集したデータを蓄積する「データ収集・蓄積サービス」,収集・蓄積したデータに対する可視化機能を提供する「データ利活用ソリューション」で構成される。

「回線接続サービス」は,国や地域の壁を越えた,グローバルなIoT回線・管理機能を提供する。Hitachi Global Data Integrationが顧客に代わって,世界の各通信事業者との回線接続・管理機能まで迅速に実現する。

「データ収集・蓄積サービス」は,グローバルに展開可能なクラウド型のIoTデータ収集・蓄積サービスである。IoTデータやIoTデバイス稼働情報の可視化,各種データに関するアラーム設定など,IoTデータを活用するうえで必要となる標準機能を「データ利活用ソリューション」として一括提供するため,グローバルで稼働しているIoTデバイスのデータを早期に収集・蓄積・可視化できる。また,「データ収集・蓄積サービス」は,外部連携API(Application Programming Interface)を提供し,さまざまな顧客のアプリケーションとの接続が可能である。

このようにHitachi Global Data Integrationは,IoT回線準備や管理,IoTデータやIoTデバイスの管理といった一連の機能をトータルで提供するため,顧客のIoTを活用したビジネス創出に大きく貢献することが可能となっている。

3. Hitachi Global Data Integrationの特徴

Hitachi Global Data Integrationは,回線接続サービスを実現するグローバル通信制御基盤と,データ収集・蓄積基盤で構成される。それぞれの特徴について紹介する。

3.1 グローバル通信制御基盤

図2|グローバル通信制御基盤の特徴 図2|グローバル通信制御基盤の特徴 各通信事業者はそれぞれIoTプラットフォームなどを用いて,IoTデバイスのSIM回線を統合的に管理している。これまで,ユーザー企業がSIM回線を利用する際には,それらのIoTプラットフォームと個別契約が必要だったが,グローバル通信制御基盤は各IoTプラットフォームの相互接続を実現し,ユーザー企業の国・地域の壁を越えたグローバルな通信管理を可能にする。

グローバル通信制御基盤は,図2に示すように,世界の通信事業者との接続インタフェース(API)を介して接続し,グローバルで一元的な回線の制御・管理機能を提供する。従来,世界各国でIoT回線を利用するには,国や地域ごとに通信事業者を調査・契約し,個々の通信事業者の備えるインタフェースに応じてシステムを構築することが必要であり,その作業と期間が課題であった。そこで,Hitachi Global Data Integrationは,各通信事業者向けのインタフェースを備え,差異を吸収して統合することにより,国や地域の壁を越えた一元的な回線の制御・管理を実現する。これにより,例えば,Hitachi Global Data Integrationから,グローバルに出荷されたIoT機器におけるSIM(Subscriber Identity Module)回線の開通・停止や通信状態の管理などを可能とする。また,SIM回線は通信事業者の閉域網であるため,外部からの悪意ある攻撃にさらされるインターネット回線と比較してセキュリティが高い3)

3.2 スケーラブルなデータ収集・蓄積基盤

図3|データ収集・蓄積基盤の構成 図3|データ収集・蓄積基盤の構成 データ収集・蓄積基盤は,IoTデータ受付後やAPI受付後の一連の処理を,複数マシンから成るクラスタ内で任意マシンに振り分けて分散実行する。オンラインでのマシン増減によるスケールアウト・スケールインにも対応する。

IoTにおけるデータの収集・蓄積には,機器やデータ量が増加しても,柔軟にシステムを拡張して確実に収集・蓄積できるスケーラビリティが求められる。以下に,Hitachi Global Data Integrationのスケーラビリティを実現する仕組みをシステム構成を用いて説明する(図3参照)。

Hitachi Global Data Integrationは,IoTデータを収集するIoTデータ受付処理と,ユーザー企業からIoTデータにアクセスするためのAPI受付処理を複数マシンで受け付けたのち,低負荷の任意マシンに振り分けて実行する。処理の振り分けには,分散アプリケーション開発/実行フレームワークHitachi Application Framework/Event Driven Computing(以下,「HAF/EDC」と記す。)を採用している。HAF/EDCは,受信したデータを複数マシンから成るクラスタ内で並列分散処理して結果を集約するようなアプリケーションを,容易に開発・実行できるフレームワークである。Hitachi Global Data IntegrationはHAF/EDC上で,並列処理数の少ないノードへの処理振り分けによる負荷分散や,ローリングアップデート※2)によるオンラインでの振り分け先マシンの増減(スケールアウト・スケールイン)を実現する。これにより,扱うデータの数が増減したときにも,処理スループットを線形に増減させて確実にデータを収集・蓄積する。

※2)
システム全体の動作を止めることなく,段階的にソフトウェア更新を行うアップデート。

4. 導入イメージ

図4|グローバルIoTサービスの導入とデータ利活用の例 図4|グローバルIoTサービスの導入とデータ利活用の例 Hitachi Global Data Integrationを導入することで,IoTデータを活用した監視サービスや新製品紹介・消耗品販売などの新サービスの実現が期待できる。

Hitachi Global Data Integrationを用いた工作機械へのIoTデータ利活用について,図4に示す。

工作機械製造を行うA社は,大型・小型・ポータブルな工作機械を製造し,世界100か国以上に代理店経由での販売やレンタル事業者への製品供給をしており,A社の製品はエンドユーザーサイトでグローバルに利用されている。

A社では,さらなる販売拡大・売上向上を図るために,IoTを活用した新たな事業構想実現に向けた取り組みを行っている。具体的には,工作機械から稼働情報を収集し,機器の消費電力量増加傾向に基づく経年劣化の判断や,機器の温度・振動・回転数などに基づく消耗品の劣化度合いの判断を行う仕組みを構築し,これらの情報をA社製品のEC(Electronic Commerce)サイトと連携させ,新製品のリコメンドや純正消耗品の販売促進に役立てるデータとして利用することで収益拡大を図る予定である。またIoTデータ可視化による稼働情報提供サービスや,故障アラーム検出通知サービス,機器盗難などを判断するための位置情報を利用したGeo Fenceサービスなど,各種監視サービスをエンドユーザーに提供予定である。

Hitachi Global Data Integrationは,A社の新たな事業構想において,IoT回線の供給,IoTデータの収集・加工・蓄積,ECサイトへデータ提供を行うためのAPI提供,監視サービスを実現するための設備情報管理機能,IoTデータのグラフ表示機能,メールでのアラーム通知機能,機器のマップ表示機能などをサービス提供している。

サービス開始当初は,北米・南米・オーストラリア・EU(European Union)を中心に各国・地域の法規制を順守したサービスをA社に提供し,中国やインドなどのアジア圏,サウジアラビアやオマーンなどの中近東など,複雑な法規制の存在するエリアに順次拡大予定である。また今後A社に代表される産業分野のみならず,社会インフラ事業への展開を進めていく予定である。

5. おわりに

本稿では,顧客のグローバルなIoTビジネスをトータルサポートするグローバルIoTサービスHitachi Global Data Integrationの概要と導入イメージについて紹介した。顧客は,本サービスを活用することで,IoT機器のデータを「Global」,「Quick」,「Easy」に収集・蓄積・可視化でき,結果としてデータ利活用によるコアコンピタンス創出に注力できるようになる。また,昨今の新型コロナウイルスの感染拡大により,人々の移動が制限されるなど社会活動が大きく変化している。日立はHitachi Global Data Integrationサービスを通じて,リモート環境による現場データの見える化を支援するなど社会変化に応じてさまざまな課題の解決をめざすとともに,顧客のグローバルIoTビジネスの立ち上げ,推進を後押しし,グローバルで持続的な産業の発展に貢献していく。

参考文献など

1)
K. Rose et al.: The internet of things: An overview, The Internet Society, p. 80(2015.10)
2)
D. Slama et al.: Enterprise IoT: Strategies and Best Practices for Connected Products and Services, O’Reilly Media, Inc.(2015.11)
3)
W. Zhang et al.: Security Architecture of the Internet of Things Oriented to Perceptual Layer, International Journal on Computer, Consumer and Control, vol. 2, no. 2, pp. 37-45(2013.6)
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