日立評論

AI-OCRを活用した帳票認識サービスによる業務効率化

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ハイライト

ITの発展に伴い,多くの産業分野ではデジタルソリューションによる業務効率化が推進されている。紙の取り扱い業務も同様であり,これまでは紙の帳票のシステム入力・確認に多くの労力を費やしてきた。日立の帳票認識サービスは,AIにより,多様な定型・非定型帳票の読み取りおよび読み取り結果の正しさの評価を実現するため,高精度の文字認識を行うAI-OCRエンジンを搭載可能なサービスプラットフォームであり,業務効率の向上を実現する。

本稿では,金融機関の為替業務を代行する為替データ入力作業の省力化と,今後の取り組みとして,ビジネス文書から潜在的な価値を抽出するダークデータ分析について述べる。

目次

執筆者紹介

山崎 敦央Yamazaki Atsuo

山崎 敦央 / Yamazaki Atsuo

  • 日立製作所 金融ビジネスユニット 金融システム営業統括本部 金融イノベーション推進センタ 所属
  • 現在,金融業界向けビッグデータ,AIに関わる企画業務に従事

稲田 学Inada Manabu

稲田 学 / Inada Manabu

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット アプリケーションクラウドサービス事業部 アプリケーションサービス第1本部 LSH事業推進センタ 所属
  • 現在,帳票認識サービスの企画・開発に従事

鈴木 尚宏Suzuki Naohiro

鈴木 尚宏 / Suzuki Naohiro

  • 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada CoE AIビジネス推進部 所属
  • 現在,AI関連のコンサルティング業務・ソリューション開発に従事

井本 直樹Imoto Naoki

井本 直樹 / Imoto Naoki

  • 日立製作所 金融ビジネスユニット 金融システム営業統括本部 金融イノベーション推進センタ 所属
  • 現在,金融業界向けビッグデータ,AIに関わる企画業務に従事

1. はじめに

AI(Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)などのデジタル技術の革新は,社会に大きな変革をもたらしている。日本のIT新戦略は,社会全体のデジタル化に向けた各種取り組みを加速させることで,国民の利便性向上と行政・民間業務の効率化につなげることをめざしている1)

一方,行政機関や民間企業などの事務処理を行う多くの現場では,情報の記録・伝達に請求書などの帳票を用いている。これらの情報は,システム上で管理するためにデータ入力されるが,入力作業に人手を要している場合,AI-OCR(AI-Optical Character Recognition)により業務を効率化することができる。

本稿では,従来のOCRとAIを適用したAI-OCRの概要と,AI-OCRを活用した日立の帳票認識サービスの適用により業務効率を向上した事例を紹介する。また,今後の取り組みとして,一般のビジネス文書から潜在的な価値を発掘するダークデータ(Dark Data)分析について述べる。

2. OCRからAI-OCRへの発展

2.1 OCRとAI-OCRの概要

OCRは,画像データから文字(漢字,数字など)を認識する技術である。一方でAI-OCRは,OCRにAIを適用した技術であり,画像データの文字認識結果を出力する点はOCRと同じであるが,処理方法にAIを適用したことでOCRの課題を解決している。

具体的には,複雑な手書き文字[乱筆文字,区切り線のないフリーフォーマットの手書き文字,罫(けい)線被り文字など],請求書などの企業ごとに様式が異なる非定型帳票,契約書などの任意様式の文書の文字認識が可能である。また,AIに学習させることで継続的に認識精度を高めることができる。さらに,RPA(Robotic Process Automation)との親和性が高く,RPAと併せることで,業務の自動化範囲を拡張したいというニーズへ対応できる。

2.2 社会全体のデジタル化に伴うAI-OCRの位置づけ

AI-OCRの市場は徐々に拡大しているが,社会全体のデジタル化に伴いペーパーレス化が推進される中で,発展の余地と今後の位置づけについて考察する。

AI-OCRの市場規模は7億円(2018年度見込値)から32億円(2030年度予測値)への成長が予測されている2)。その主な理由は以下の二つであると考えられる。

  1. 既存業務の紙帳票は活用しつつ,紙帳票のデータ入力作業のデジタル化により業務効率の向上を可能とするAI-OCRへの期待が高まっているため
    この背景には,既存業務をデジタル化(ペーパーレス化)する際の障壁として,ワークフロー全体や関連する基幹システムなどの根本的な見直しが必要であること,入力・保存情報の記録の真実性および可視性などの要件を紙帳票と同等に満たす必要があることなどがあると考える。
  2. 紙で蓄積した過去の文書のデジタル化が進み,データの利活用や分析のニーズが高まっているため

これらの理由から,AI-OCRは将来にわたり,デジタル化の役割の一端を担っていくと考えられる。

2.3 OCRからAI-OCRへの発展に伴う適用可能な領域の拡張

図1|OCRからAI-OCRへの発展に伴う,帳票の取り扱い業務への適用可能領域の拡張(概念図) 図1|OCRからAI-OCRへの発展に伴う,帳票の取り扱い業務への適用可能領域の拡張(概念図) OCRからAI-OCRとなり,技術面・サービス面ともに向上したため,さまざまな業務の特性に対応できるようになった。なお,AI-OCRの時代にも,既存業務の制約などからOCRによる定型帳票の読み取りに特化したニーズは引き続き存在すると考えられる。

OCRからAI-OCRへの発展に伴い,帳票の取り扱い業務への適用可能な領域が拡張した。その概念を図1に示す。AI-OCRは,ITの発展とも相まって技術面に加えてサービス面も向上した。繁忙期などの特定期間の業務や,取り扱い量が少量であり,かつ多様式な帳票を扱う業務にも,従来のOCRのように読み取り専用スキャナを準備することなく, AI-OCRは一つの提供形態で,クラウド上のサービスとして提供できる。現状ではAI-OCRの適用が困難な非構造データについては,4章で述べる。

3. AI-OCRを活用した帳票認識サービスによる業務効率化

3.1 日立のこれまでの取り組みと帳票認識サービスの概要

図2|AI-OCRを活用した帳票認識サービスの概要 図2|AI-OCRを活用した帳票認識サービスの概要 定型帳票に適する「定型帳票認識エンジン」と,フォーマットが決まっていない帳票(領収書など)に適する「非定型帳票認識エンジン」を具備する。最適な認識技術を適用し,高精度な認識結果と認識結果の確からしさ(確信度)を提供する。

日立は,OCRの業務適用の創成期から現在のAI-OCR,そして将来を念頭に置いて技術開発に取り組んでいる。1968年,国産初の汎用OCRである日立製H-8252形 光学文字読取機の発売3),4)から始まり,現在では深層学習(ディープラーニング)などを活用した多様なビジネス帳票をデータ化するクラウド型AI-OCRサービスを提供し,継続的に技術開発に取り組んでいる。長年蓄積したビジネス・技術ノウハウを活用することで,次の時代に向けて新しいサービスを創出し,顧客の業務上の課題解決をめざしている。

現在,日立は金融機関を中心としたペーパーレス化の取り組みとして,帳票認識サービスを提供している。帳票認識サービスは,AIを用いて高精度に文字認識を行うAI-OCRエンジンを複数搭載するサービスプラットフォームを構成し,定型帳票や非定型帳票,また活字や手書き文字,二次元コードなどに対応しており,幅広い業種のデータ入力業務に適用できる。また,日立独自のアルゴリズムにより認識の確からしさを「確信度」というスコアとして算出することで,誤認識の可能性があるデータを容易に仕分けることも可能である。これらの技術を活用して,業務アプリケーションとのスムーズな連携を可能にし,さまざまな帳票取り扱い業務の自動化を実現する。帳票認識サービスの概要を図2に示す。

3.2 業務効率化に向けた技術的・サービス的アプローチ

図3|帳票認識サービスによる業務効率化に向けた技術的アプローチ図3|帳票認識サービスによる業務効率化に向けた技術的アプローチ帳票認識サービスは,さまざまな帳票事務業務の効率化を実現するため,AI-OCRなどの技術により,高い文字認識率,定型・非定型を含むさまざまな帳票の読み取り,認識結果の確認作業の業務負荷を低減する確信度を提供する。

帳票認識サービスによる業務効率化に向けたアプローチは,二つの観点に大別できる。

(1)技術的アプローチ

帳票認識サービスは,OCRの適用が技術的に困難な領域の課題を解決する。概要を図3に示す。

  1. さまざまな帳票の取り扱い業務への適用による業務負荷の低減
    データ入力作業者の負荷低減を実現するために,AI-OCRに求められることは,文字認識率の継続的な向上が可能であることと,多様な帳票の読み取りに適用可能なことである。特に,請求書などの金額の記載位置が各社で異なるような非定型帳票については,読み取り項目の事前の定義(位置指定)なしに適用できることもAI-OCRには求められる。
    AI-OCRは,個人の手書き文字の癖によらず高精度な認識精度を可能とするために,深層学習と高度言語処理を活用している。深層学習を用いて手書き文字の形状や文字間隔などのバリエーションを学習させることで,高精度な手書き文字認識AIを実現した。また,高度言語処理により単語レベルで文字の出現確率を推定し,文字認識AIの認識結果を評価することで,エラーの少ない認識の実現と,後述する確信度の算出を可能とした。
    帳票認識サービスは,日立の技術に加え,他社の認識技術も併用し,「定型」,「非定型」帳票に適する,最適なAI-OCRエンジンを選択することで文字認識精度を向上させている。また,認識モデルをアップデート可能な学習機構を有しており,継続的な認識率向上の実現も可能である。さらに,非定型帳票についても,業務において認識対象としたい項目を指定するだけで,事前の位置指定なしに帳票から目的とする認識項目を特定でき,帳票のフォーマットを問わず認識が可能となり,多様な帳票の読み取りに適用可能である。
  2. 認識結果の確からしさ「確信度」による業務負荷の低減
    100%の認識率を求めることは困難なため,認識結果は人の確認が必要となる。認識結果を確認する手間をどれだけ減らせるかという点には,RPAによる自動化が可能な運用(機械に任せられる処理)と人による確認が必要な運用の判別が重要となる。
    帳票認識サービスは,AI-OCRの認識結果の確からしさを日立独自のアルゴリズムにより確信度というスコアとして提供する。さらに,AI-OCR認識結果と確信度に対して,適用業務におけるチェックルール(桁数チェックや形式チェックなど)を適用し補正することで,AI-OCRの不読・誤読による誤ったデータ登録リスクを低減させている。これにより,AI-OCRの誤認識が発生したときに業務側で正確な対応が可能となる。
    例えば,認識結果が確信度「中」,「低」の場合は人が確認し,確信度「高」の場合は人は確認せずに自動登録するなど,誤登録リスクを回避しながら,帳票業務の自動化率を向上する。さらに,認識結果と別系列の業務データとの突合チェックを行い,突合チェック結果も確信度の補正に活用することで,誤ったデータ入力のビジネスリスクをさらに低減することができる。

図4|帳票認識サービスによる業務効率化に向けたサービス的アプローチ図4|帳票認識サービスによる業務効率化に向けたサービス的アプローチ帳票認識サービスは,取り扱う帳票の数量が少量かつ複数の帳票様式を扱う業務,特定期間に事務処理が集中する業務などの個別ニーズへ適応するため,スケーラブルに対応可能なクラウドサービスとして提供する。

(2)サービス的アプローチ

帳票認識サービスは,従来のOCRが適用可能な業務であるものの,費用対効果の面で導入が困難な領域の課題も解決する。概要を図4に示す。

  1. 少量・多様式の帳票の取り扱い業務への適用が可能
    OCRを適用可能な帳票を取り扱う業務であるものの,業務の性質上,取り扱う帳票の数量は少量であり,かつ様式が複数ある業務について,従来のOCRのように専用の読み取りスキャナが必要な場合など,費用対効果の面で導入が困難なケースがある。
    帳票認識サービスはクラウド上のサービスとして提供しており,読み取り専用スキャナは不要で企業にあるデバイスを活用できる。継続的な認識精度の向上と学習運用を実現し,従来のSI(System Integration)より低コストで導入・運用すること,また,業務ごとに異なる帳票種とデバイスを意識せず,多様なビジネスにフィッティングすることをめざしている。
  2. 特定の期間に集中する業務への適用が可能
    さまざまな業務で発生する帳票は,特定の期間に集中するケースが多く見られる。繁忙期には通常の時期より,数倍から数十倍という業務もある。
    帳票認識サービスは,サービスプラットフォームをクラウド上に構成しているため,特定の期間に集中する業務などに対しても,スケーラブルなサービス対応が可能となる。

3.3 事務集中センターにおけるデータ入力・確認業務への適用事例

図5|帳票認識サービスの業務への適用事例(事務集中センターにおける業務効率化) 図5|帳票認識サービスの業務への適用事例(事務集中センターにおける業務効率化) 事務集中センターでは,帳票のデータ入力作業を複数人で手作業により実施し,入力元の帳票と目視で照合している。帳票認識サービスの確信度の高さ(高・中・低)を活用し,データ入力作業の要否を仕分け可能となる。

金融機関の三大業務の一つである為替業務では,振込,送金,口座振替など,現金をやり取りすることなく口座間の資金移動により代金支払や金銭授受を行う。支店・本店は,顧客から振込伝票,口座振替依頼書などの帳票を受け取り,事務集中センターは,帳票のデータ入力作業,入力結果の確認作業を行う。同センターでは,多くの帳票を事務処理することから職員の業務負荷や要員確保などの課題がある。そのため,為替業務を代行する業務アウトソーシングサービスが利用されることもあるが,データ入力作業および確認作業自体はなくならない。

帳票認識サービスは,事務集中センターにおけるデータ入力・確認作業の事務処理の省力化を実現し,事務コストの削減や事務基盤の確保の検討を可能とする。課題および帳票認識サービスの導入効果を図5に示す。

帳票の取り扱い業務は,金融機関のほか官公庁では住民からの各種申請書,陸運業では日々作成する帳票類の事務処理など多くの業界に存在する。帳票認識サービスは多様な帳票を読み取り,読み取り結果の確からしさを評価することで,さまざまな業界における帳票の取り扱い業務を支援することをめざしている。

4. 今後の取り組み

AI-OCRで現状,取り扱いが困難な領域は,契約書や製品カタログなどのような任意様式のビジネス文書(非構造データ)を読み取り,分析することである。

AI-OCRが読み取り可能な非定型帳票における「非定型」の程度は,例えば請求書のように,「請求金額」の項目と値の記載位置が企業ごとに若干異なるが,記載位置にある程度の規則性があることが前提となっている。この意味で,「準」非定型と呼ばれることがある。

一般のビジネス文書のように,リレーショナルデータベースのような構造性を持たず,項目間の位置関係が不規則であり,同じ項目でも表記揺れがある文書を「非構造データ」という。例えば,ドキュメント,画像,動画,音声などは非構造データである。

関連するキーワードとして,ダークデータがある。ダークデータは,企業活動で生み出されるビジネス文書には潜在的な価値があるものの,一度生産した約80%のデータは二次利用されていない,という意味でそのように呼ばれている5),6)。ダークデータは,非構造データ,構造データを含む,広い意味で使用されている言葉であると考えられる。

ダークデータの解析事例として,複数社の有価証券報告書(以下,「有報」と記す。)から売上を抽出したい場合,同じ売上項目でも表記は企業ごとに「完成工事高」,「売上高」と異なり,単純な項目名での抽出は困難である。表記揺れがあっても,有報の表や列などの階層情報から,売上項目や時期の特徴量を作成することで抽出を可能とする。

このように新たな技術を活用することで,現状では読み取り,分析が困難な非構造データへの対応も検討している。

5. おわりに

本稿では,AI-OCRを活用した帳票認識サービスによる業務効率化について述べた。AI-OCRは,単純な文字の読み取りにとどまらず,RPAとの連携により業務効率のさらなる向上が見込まれる。今後もAI-OCRなどの技術を活用し,ビジネス現場に変革を与えられるような業務効率化を追求していく。

帳票認識サービスに興味を持たれた読者は,日立webサイト7)を参照いただければ幸甚である。

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