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ハイライト

近年,自然災害や生態系への影響など,気候変動による問題が地球規模で深刻化している。このため,世界各国で脱炭素化に向けた取り組みが加速しており,その有力な手段として風力発電の導入量が急速に拡大している。

株式会社日立パワーソリューションズは1996年からドイツ・ENERCON社と共同で風力ビジネスを展開しており,国内の風力発電導入量では高いシェアを有している。日立パワーソリューションズの風力ビジネスの特徴は,長年にわたり培った技術とノウハウを駆使し,風力発電事業の初期段階から終了までワンストップでサービスを提供できる点にある。

本稿では,こうしたワンストップサービスの概要とともに,風力発電設備をベースとしたソリューションの導入事例について紹介する。

目次

執筆者紹介

田中 和英Tanaka Kazuhide

田中 和英

  • 株式会社日立パワーソリューションズ 風力事業開発部 所属
  • 現在,風力発電の風況解析および事業開発業務に従事
  • 博士(工学)
  • 電気学会会員

助川 隆一Sukegawa Ryuuichi

助川 隆一

  • 株式会社日立パワーソリューションズ 再エネソリューション本部 所属
  • 現在,風力発電に関する全般業務に従事

白濱 幸弘Shirahama Yukihiro

白濱 幸弘

  • 株式会社日立パワーソリューションズ 再エネソリューション本部 フィールドエンジニアリング部 所属
  • 現在,風力発電設備の保守事業および保守技術開発に従事

小村 昭義Komura Akiyoshi

小村 昭義

  • 株式会社日立パワーソリューションズ 経営戦略本部 所属
  • 現在,サービス・グリーン事業の研究開発統括に従事
  • 日本機械学会会員
  • 電気学会会員

1. はじめに

近年,自然災害や生態系への影響など,気候変動による問題が地球規模で深刻化している。このため,世界各国で脱炭素化に向けた取り組みが加速しており,その有力な手段として風力発電の導入量が急速に拡大している。国内でも継続的な風力発電設備の導入が期待されており,2021年発表の第6次エネルギー基本計画で陸上風力発電について,現状の導入量4.2 GWに対して2030年には15.9 GW(政策強化ケース)に増量する計画となっている1)

国内における日立グループ全体での風力発電設備の受注基数は2022年12月末時点で延べ876基であり,国内トップクラスのシェアを有する。その中でも,株式会社日立パワーソリューションズは1996年からドイツ・ENERCON GmbHと共同でビジネスを展開しており,国内の導入実績は2023年3月時点で延べ481基に上る。

日立パワーソリューションズの風力発電事業における最大の特徴は,風力発電の導入を計画している顧客に対して導入初期段階から建設,運用を経て解体に至るまでのすべてのプロセスで事業推進をサポートしていく点にある。具体的には,発電事業を推進するうえで必要となる(1)風力発電の適地を探索する候補地選定,(2)事業採算性を成立させるための風車配置提案,ファイナンス組成・ウインドファーム認証取得などに対応する事業化計画,(3)発電設備の輸送・建設,(4)運転開始後の稼働率を維持・向上する運用管理,(5)設備の信頼性を確保する保守,(6)解体・リプレースをワンストップサービスとして提供している。

2. 各プロセスの特徴

本章では,日立パワーソリューションズのワンストップサービスの各プロセスについてそれぞれ説明する。

2.1 候補地選定,事業化計画

図1|風況シミュレーション結果の一例図1|風況シミュレーション結果の一例風況シミュレーションにより,風速分布を色分けして示すことができる。この結果を基に,風車配置や基数を決定する。

陸上風力発電所に関する候補地選定と事業化計画では,立地調査から,風況調査,基本設計,詳細設計と技術的検討が進められる2)

立地調査から基本設計までを行う候補地選定の段階では,立地条件(周辺の地形条件,希少動植物の有無など)の調査,好風況地域の抽出と風況調査,社会条件の調査(住宅までの離隔距離や騒音,景観などの許認可,連系点,輸送経路)を実施する。

この中で好風況地域の抽出については,従来,一般に公開されている風況マップ3)などが使用されてきた。これに対し,日立パワーソリューションズは風況マップのさらなる高精度化のため,全国各地で測定してきた風況測定器の実測データと気象シミュレーションを融合したデータ同化手法を用いて独自風況マップを日立製作所と共同で開発し4),候補地選定に活用している。

詳細設計と技術的検討を行う事業化計画では,発電所規模に応じた測量や土質調査を実施し,風力発電事業の採算性を評価する。その際,候補地で少なくとも1年以上の風況調査を実施したうえで詳細設計を進める。ここでは,風況調査結果や風況シミュレーションを基に風車を設置する地形や風車間の相互干渉などを考慮しながらより多くの発電量が得られるように配置や基数を決定する(図1参照)。

また,日本は国土の約7割が山岳地帯であり,これに起因した高乱流,季節風,台風などが風力発電設備に大きな影響を与える。このため,選定した風車本体の強度と候補地で想定される風況条件を用いた適合性評価を実施し,ウインドファーム認証の取得をサポートしている。

風力発電設備の導入にあたっては,地元の自治体や企業との協力体制を構築することが非常に重要となる。このため,地域の活性化につながる地域協創型事業として,地元の自治体や企業の積極的な事業参画を前提としたファイナンス組成から,EPC(Engineering,Procurement,Construction),O&M(Operation and Maintenance),事業運営に至るまでのサポートをさらに強力に推進していく予定である。

2.2 製品ラインアップ,輸送・建設

風車サイズは技術の進歩や発電効率の向上を実現するために,徐々に大型化してきた(図2参照)。日立パワーソリューションズでは,過去にはE-40(ローター直径40 m,定格出力600 kW)やE-70(ローター直径70 m,定格出力2,300 kW)ほかを納入してきた。その後,風力発電の適地が風況の良い平坦地や沿岸部から内陸部へ限られていく中で,長翼化や単機出力が高い風車の導入が進み,2009年頃から主流はE-82(ローター直径82 m,定格出力2,300 kW)に移行した。さらに,FIT(Feed-in Tariff)価格低下やFIP(Feed-in Premium)への移行に合わせて,発電効率がより高いE-115(ローター直径115 m,定格出力4,200 kW)を市場投入し,2023年4月に初号機が秋田県男鹿市で運転を開始した。現在,次世代機としてさらなる発電効率向上が可能なE-138(ローター直径138 m,定格出力4,200 kW)を開発中である。一方で,候補地の地形条件などによってE-82のような2,000 kW級の風車を提案できることも強みであり,今後リプレース時期を迎える顧客に対して最適な機種や基数を提案し,国内の風力発電導入量の維持・拡大に貢献していく。

また,風車の長翼化や大型化に伴い,風車部品の輸送が課題となっている。2022年7月に運用開始した株式会社ユーラス上勝神山風力のユーラス上勝神山ウインドファームは,標高1,000 mを超える山々が連なる地域に位置しており,急峻かつ狭小なエリアでの輸送が避けられなかった。この対策として,山間部の道路拡幅工事に加え,ブレードを傾斜して輸送する特殊な起立台車車両を用いることで,従来輸送が困難だったエリアでの建設を無事完了させた(図3参照)。今後の大型機の輸送でも得られた知見を適用していく。

図2|E-40,E-82,E-115のイメージ図2|E-40,E-82,E-115のイメージ左からローター径40 mのE-40,ローター径82 mのE-82,ローター径115 mのE-115のイメージ図を示す。ローター径が大きいほど発電効率は向上する。

図3|ブレード起立台車輸送作業の様子図3|ブレード起立台車輸送作業の様子ブレードを傾斜して輸送する特殊な起立台車車両を用いることで,輸送可能なエリアの拡大を実現した。

2.3 運用・保守

図4|ブレードトータルサービスの提供項目とその効果図4|ブレードトータルサービスの提供項目とその効果ブレードトータルサービスは,ブレードの点検から保守計画立案,補修までをワンストップで提供するサービスである。

日立パワーソリューションズは,これまでの豊富な導入実績に基づくノウハウとデジタル技術の融合により,顧客のさまざまなニーズに応え,風力発電設備の運用・保守に対応している。

2022年4月には,設備の安全性向上・安定稼働を実現する「ブレードトータルサービス」の提供を開始した5)。このサービスでは,ドローンとAI(Artificial Intelligence)を活用したブレードの点検と保守計画立案,損傷・劣化箇所の補修をワンストップで提供する(図4参照)。これにより点検に伴う設備停止時間を従来比で約3分の1に短縮することができる。停止時間を短縮できればその分売電できる時間が増え,収益性向上に貢献する。このサービスは,日立製作所のデジタルプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)ソリューション」として提供される。今後,ブレードの経年的な変化をデータとして蓄積し,AIを高度化することで,さらなる精度向上を図っていく。

2.4 解体・リプレース

図5|転倒工法のイメージ図5|転倒工法のイメージブレードを撤去した風力発電設備のタワー根元を切断し,あらかじめ盛り土した場所に転倒させて解体する手法を示す。安全性が高く,さらに大型クレーンの回送や組立などで生じる費用を削減できる。

陸上風力発電は今後の拡大が期待される一方,2000年代初期に建設された発電所が耐用年数を迎え始めており,導入量を維持するためにもリプレースが望まれる。日立パワーソリューションズは,ベステラ株式会社が保有する「発電用風車設備解体に関する特許技術(転倒工法)」について実施許諾契約を締結した6)。これはブレードを撤去した風力発電設備のタワー根元を切断し,あらかじめ盛り土した場所に転倒させて解体する手法であり,転倒方向を確実に制御できるため安全性が高く,さらに大型クレーンの回送や組立などで生じる費用を削減できる(図5参照)。特に風車基数の少ない発電所の解体に有効であり,費用を半分程度に抑えられる。日立パワーソリューションズがこれまでに建設した480基超の風車の中には間もなく耐用年数を迎えるものもあるため,効率的な解体技術によって風車のリプレースを促していく。

3. 導入事例

日立パワーソリューションズは,風力発電設備の導入で培ってきた技術やノウハウを活用し,顧客のニーズに応えるさまざまなソリューションを提供している。以下にその代表的な事例を紹介する。

図6|太陽光発電協調型風力発電システムの概略と発電所外観図6|太陽光発電協調型風力発電システムの概略と発電所外観システムの概略(上)と稼働済み太陽光発電所の外観(左下),追設したENERCON社製風力発電設備の外観(右下)を示す。

  1. 太陽光発電協調型風力発電システム
    太陽光発電は夜間や天候などによって,系統連系枠の未活用分が発生する課題がある。そこで,既設の太陽光発電所に風力発電設備を新たに追設し,系統連系枠を超えないように風力発電を出力制御する「太陽光発電協調型風力発電システム」を開発し,株式会社電巧社,株式会社サイサン,森和エナジー株式会社の共同事業体が運営する「六ヶ所村ウィンド・ソーラー協調発電所」に納入し,2023年3月に運転を開始した7)図6参照)。これにより,系統連系枠の利用率は従来の太陽光発電のみの場合に比べて20%以上向上する見込みである。日射条件などから既設太陽光発電設備の最大発電出力を算出し,さらに風況条件と事業性の観点から風力発電設備の追設可能量をエンジニアリングする技術とノウハウを強みとして,今後も系統連系枠の未活用分を有する太陽光発電事業者に最適かつ独自の太陽光発電協調型風力発電システムを提案していく。
  2. 風車リプレース
    風車の耐用年数は約20年と言われており,2000年代初期に設置された風車はリプレースの時期を迎えている。日立パワーソリューションズは東北自然エネルギー株式会社の能代風力発電所において2001年から稼働していたE-40×24基のリプレースに対応し,2021年にE-82×7基を新たに新能代風力発電所として設置した8)。これにより風車基数は減少したものの,長翼機の採用により発電量は約20%向上する見込みである。リプレースの時期を迎える風車は中小型のものがほとんどであるため,長翼化や大型化による発電効率アップの利点をアピールし,耐用年数を迎える風力発電設備のリプレースを図り,風力発電導入量の維持・拡大に貢献していく。

4. おわりに

近年急激に進む気候変動対策のため,脱炭素化社会への着実な移行が求められている。この課題解決に貢献する有力な手段の一つが風力発電に代表される再生可能エネルギー活用である。本稿で述べてきたように,日立パワーソリューションズの特徴は,風力発電導入の初期段階から運用を経て解体に至るまで,すべてのプロセスをワンストップで顧客と一体となって推進していく点にある。今後もその理念を継承しながら,長年にわたり培った技術やノウハウを駆使して,顧客や社会の課題解決に貢献する風力発電ソリューションを提供し,脱炭素社会の実現に貢献していく。

謝辞

本稿で述べた,ドローンとAIを用いた風車ブレード点検技術に関しては,株式会社センシンロボティクスにご協力いただいた。また,風力発電設備の解体技術に関しては,ベステラ株式会社にご協力いただいた。深く感謝の意を表する次第である。

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