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ハイライト

カーボンニュートラルの実現のため,最適な発電リソースやリザーブを国・地域を越えて共有することが重要になってきている。また,再生可能エネルギーもより大規模に,より需要地から遠距離になっていく傾向にある。広域でのリソース・リザーブの共有や,再生可能エネルギーの遠距離連系を実現するための高圧直流送電 (HVDC) は,今や脱炭素化に不可欠なキーテクノロジーの一つとなっている。

現在,世界中でHVDCの建設が急速に進んでおり,その傾向は加速している。日立エナジーは,HVDCのパイオニアかつリーディングカンパニーとして,この活発なHVDCの需要に応えるべく取り組みを進めている。本稿では,最新のHVDCの市場動向や技術動向について解説する。

目次

執筆者紹介

西岡 淳

西岡 淳

  • 日立HVDCテクノロジーズ株式会社 所属
  • 現在,国内のHVDCプロジェクトに従事
  • 電気学会会員
  • Cigre会員

Arman Hassanpoor

Arman Hassanpoor

  • 日立エナジー 所属
  • HVDCのR&D Managerなどを経て,現在NE AsiaのHVDC Salesに従事

ノルウェー・ドイツ間の約600 km を直流で結ぶ±525 kV/1,400 MWのHVDC「NordLink」ノルウェー・ドイツ間の約600 km を直流で結ぶ±525 kV/1,400 MWのHVDC「NordLink」

はじめに

図1│欧州(entso-eエリア)におけるHVDC建設の状況図1│欧州(entso-eエリア)におけるHVDC建設の状況

図2│世界の自励式HVDCの累計容量の推移と今後の予想図2│世界の自励式HVDCの累計容量の推移と今後の予想

欧州entso-e※1)のエリアでは既に93 GW(9,300万kW)の国・地域間連系線があるが,2022年4月に発表された同協会のネットワーク開発10年計画1)によると,今後2030年までの8年間にさらに64 GWの国・地域間連系線が建設される計画となっている(図1参照)。entso-eではこの地域間連系強化により,2030年には17 TWhの再生可能エネルギーの出力抑制回避,年間14 Mtonの二酸化炭素排出削減,年間50億ユーロの発電コスト低減が実現されると報告している。つまり,HVDC建設の費用に対して便益が上回り,経済的にも合理性があることがHVDCの建設を加速している。

こうした動向は北米やその他の地域も同様であり,世界的にHVDCの計画が急速に増加している。

日本国内でも,2050年のカーボンニュートラル実現に向け,どのように再生可能エネルギーを導入するか,種々の議論が行われている。2023年3月29日に公表された『広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)』2)では,今後10 GW (1,000万kW)以上のHVDCによる地域間連系線が必要となると見込まれている。

今後日本国内で導入されるマスタープラン案件や洋上風力連系用のHVDCは,多くの場合で自励式が採用されると考えられる。自励式HVDCは,初の商用機が1999年にスウェーデンのGotlandで運用を開始して以来,2022年までの23年間に世界で53件のプロジェクトが運用開始し,その累計容量は2022年12月時点で約44 GW(4,400万kW)に達している。2023年以降も多くのプロジェクトが計画されており,2028年までに累計容量が123 GW(1億2,300万kW)に達する予想となっている(図2参照)※2)

※1)
35か国,39の団体からなる欧州の送電システムオペレーター(TSO:Transmission System Operator)の協会。
※2)
2022年時点,日立HVDCテクノロジーズ株式会社調べ。

自励式HVDCの既存交流系統への貢献

近年,自励式HVDCの建設が急速に拡大している理由は長距離・低損失・ケーブル送電のニーズが主であるが,他の要因の一つとして,既存の交流系統の安定化への貢献がある。

交流系統には,電圧不安定,周波数不安定,電力動揺,過渡現象など,さまざまな不安定現象が潜在しており,それらが発生しないよう,また発生しても小さくかつ短時間に抑制されるように,電力系統においてはさまざまな対策が取られている。

大規模な再生可能エネルギーの適地などは,系統が弱い(短絡容量が小さい)場合が多く,そのために不安定現象が発生しやすい傾向があるため,再生可能エネルギーの連系増加により追加の系統安定化対策が必要となることが多い。

自励式HVDCは,連系により電力を低損失で送電するだけではなく,こうした既存の交流系統の安定化にも貢献することができるため,そうした自励式HVDCの機能を積極的に活用する事例が増えている。

(1)自励式HVDCによる電圧の安定化

図3│HVDC運転による系統電圧の安定化事例(英国スコットランド)図3│HVDC運転による系統電圧の安定化事例(英国スコットランド)

系統が弱く再生可能エネルギーの出力変動によって系統電圧に変動が生じやすい地域に自励式HVDCを設置すると,再生可能エネルギーの生産電力を需要地に効率的に送電できるとともに,地域系統の電圧の安定化にも寄与する。HVDC設置により連系系統の交電圧が安定化した実際の系統電圧波形を図3に示す。HVDCの無効電力制御により交流系統の電圧変動が抑制されていることが分かる。

(2)同期系統内のHVDC(DC links in AC grids)

図4│既存の交流系統と並行して自励式HVDCを設置するケース図4│既存の交流系統と並行して自励式HVDCを設置するケース

従来HVDCは異なる系統と系統(非同期系統)を連系することが多かったが,近年は同期系統の内部で既存の交流系統に並行してHVDCを建設するケースが増えている。これによって既存の交流系統も安定度が向上し,より有効に活用できるようになる場合がある。

例えば,図4のような系統において,既存の交流系統に電圧安定度による運用制約が掛かっていた場合などは,自励式HVDCが両端で無効電力を制御し電圧を安定化するため運用制約を緩和できる。また,HVDCは有効電力を正確かつ高速に制御できるため,既存の交流系統に長周期動揺や過渡的な電力動揺などが発生した場合でも,そうした現象を抑制するダンピング制御などが可能となる。

(3)自励式HVDCによる過渡現象に対する安定化

図5│カナダ・ニューファンドランド島におけるHVDCによる過渡安定度向上の例図5│カナダ・ニューファンドランド島におけるHVDCによる過渡安定度向上の例

自励式HVDCは過渡現象に対しても既存の交流系統の安定化に寄与できる。最新のHVDCは系統事故においてもほとんどの場合運転継続し,系統事故中も無効電流を供給し系統の電圧低下を抑制したり,事故除去後の周波数変動や電力動揺を抑制したりするなど,系統のニーズに対応してさまざまな過渡安定度向上のためのスキームを提供することができる。カナダ・ニューファンドランド島における過渡安定度向上の例を図5に示す。

(4)系統の慣性エネルギー不足へのサポート

図6│Kundur 2エリアモデルによるシミュレーション図6│Kundur 2エリアモデルによるシミュレーション

大量の再生可能エネルギーが系統に導入されると,電力系統内の慣性を持つ同期機が減ることにより,系統の周波数が変動しやすくなると考えられている。例えば,大きな電源の脱落が発生すると需給のバランスが崩れ周波数が低下するが,系統内の慣性が少なくなると周波数の変化スピード(RoCoF:Rate of Change of Frequency)が大きくなり,また周波数の低下量も大きくなり周波数低下のピーク値(Nadir)も悪化する。Nadirがある一定値以下になる(周波数低下がある一定値以上になる)と,他の発電機も安定して運転できなくなり,連鎖脱落が発生して大規模停電に至るリスクが高くなる3),4)

この慣性エネルギー(単位:Ws)低下の課題に対しては同期調相機の設置などさまざまな対策が検討されているが,HVDCの高速有効電力制御(Emergency Power Control)や周波数制御(Frequency Control)も系統をサポートする一つのソリューションとなる。HVDCそのものは慣性エネルギーを持たないが,電力が不足している系統に他系統からエネルギーを短時間に供給することで,供給が不足している系統の周波数低下を抑制することができる。

HVDCの高速有効電力制御によりNadirを改善したシミュレーションの例を図6に示す。

(5)Grid Forming制御による弱い系統のサポート

図7│さまざまな系統への対応図7│さまざまな系統への対応

自励式HVDCは,従来の他励式HVDCでは難しかった短絡容量の小さい(弱い)系統でも運転ができ,またそうした弱い系統の安定化にも寄与することができる。さまざまな系統に応じて適用する制御スキームを図7に示す。

系統が十分に強い場合,HVDCはベクトル電流制御を行って有効電力,無効電力を制御する。このため,電流制御の帯域の範囲内では電流源と見なすことができる。このような制御をGFL(Grid Following)制御という[図7(左)参照]。短絡容量が小さい系統(概ね短絡容量比1.5未満)では,変換器の出力電流による連系点電圧への影響が大きくなり,GFL制御ではHVDCの安定運転を損なうおそれがある。そうした系統ではGFM(Grid Forming) と呼ばれる制御方式が適用される[図7(右)参照]。

GFM制御では変換器を電圧源として動作させ,通常のベクトル電流制御は行わず,変換器の出力電圧の振幅と位相を直接制御し,連系点電圧を一定に維持する。変換器出力電圧位相は,周波数ドループにより制御し,同期電力(Synchronizing Power)を調整する。

このような制御によって,弱い系統においてもHVDCを安定的に運転できるので,再生可能エネルギー適地などでローカル系統が弱い場合のソリューションとしても既に多くの適用実績がある。

おわりに

自励式HVDCは,世界各地で再生可能エネルギーの導入拡大に重要な役割を果たしており,同時に既存交流系統の安定度向上にも大きく寄与している。

日本のカーボンニュートラル実現にあたっても,自励式HVDCは有効で経済的なソリューションの一つであり,再生可能エネルギーの需要地への送電だけでなく,さまざまな系統へのベネフィットが提供できると考える。

日立は,多くの自励式HVDCプロジェクト実績があり,国内で予想されている電圧・容量については標準設計の範囲内である。今後,世界各地で経験したさまざまなプロジェクトの知見を生かして国内のHVDCプロジェクト計画をサポートし,世界各地で運用されている Proven な技術の提供によって国内の送電網の強化に貢献していく。

関連情報

参考文献など

1)
entso-e,TYNDP 2022 Scenario Report - Version April 2022(2022)
2)
電力広域的運営推進機関,広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)の策定について
3)
安田 陽:再生可能エネルギー大量導入による慣性問題,エネルギーと動力,2022年春季号(2022)
4)
電力広域的運営推進機関,第57回調整力および需給バランス評価等に関する委員会 配布資料
5)
西岡 淳,外:世界で進む高圧直流送電(HVDC)の導入とその背景,日立評論,102,2,189〜193(2020.3)
6)
Peter Lundberg et al.: Maritime Link - Enabling High Availability with a VSC HVDC Transmission, CIGRÉWinnipeg 2017 Colloquium(2017.9)
7)
Peter Lundberg et al.: VSC HVDC Applications - Enabling High Reliability Transmissions, CIGRE-IEC 2019 Conference on EHV and UHV (AC&DC)(2019)
8)
Athanasios Krontiris et al.: Recent HVDC Projects - Interconnection of Countries, Off-shore Wind Connection and Back-to-Back systems, CIGRE-IEC 2019 Conference on EHV and UHV (AC&DC)(2019)
9)
M.Marz et al.: Mackinac HVDC Converter, 2014 CIGRÉ Canada Conference(2014)
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